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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
語られる過去と今
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"剣"

 ローナが答えた直後、地面が強く揺れる。そして湖から一仕事を終えたシュートが浮上してくる。水中というデメリットを物ともせず、己の肉体だけで土壁を叩き崩してきたのだ。



「正解みたいよん。ただかなり強い障壁になってるわん。身体強化をした状態でも弾かれちゃったけど、生身でなら入れる事を確認してきたわよん」



 何故か湖から上がらず、湖の縁に両手を付いて、その手の上に顎を乗せ惚ける、というポージングを披露するシュート。その場にいた全員がどことなく視線を外して会話していたのは言うまでもないだろう。



「そうか。中の様子は探れたか?」

「ふぅ、それはダメね。多分中に入れば変わると思うけど、外から見る限りじゃ真ぁっ暗なだけ」



 ナックの問いかけに対し、軽い溜息をつきながら首を横に振って答えるシュート。ただの洞窟であれば、中が暗闇に覆われているのは当然だろう。しかし今回は、湖の土壁の中に隠された洞窟であり、更に魔力障壁によって囲まれるという、言わば厳重に隠されているような洞窟だ。

 そのような場所がただの洞窟で終わる筈はないだろう。そうするとそれ以外の不安が浮上する。



「じゃあ人の気配があったかもわからねえか」

「そうね。右手は突っ込んでみたけど、反応は無かったし、空気が動いてる様子もなかったから、少なくとも入り口付近に誰かいるような事は無いと思うけどねん。確証は得られないってところかしら」

「そうか……」



 少なくとも、この入り口に関しては手付かずになっていたのは間違いないだろうが、別の入り口がある可能性も捨て切れない。

 そして、そちらから別の人間が入っている可能性もある。



 そうだった場合、洞窟という狭くなるであろう場所では、待ち伏せされていたとなった際に非常に不利になる。たった一撃の攻撃で全滅する事もあり得るだろう。

 様々なパターンを考えるナックだったが、何れにしても全て可能性の話。行ってみない事には進展が得られない。

 自身の頭を乱暴に?いた彼は、意思を固めて、三人の帝へと話す。



「うだうだ考えてても仕方ねえな。――行くぞ」



 彼の言葉に帝たちも表情を引き締め、四人は魔力障壁の奥へと侵入した。






  ◆  ◇  ◆






 ――あっけない。



 洞窟内は、外からみた景色同様に暗闇に包まれていた。

 入ってからは魔力が使える状態ではあったが、万が一敵が先に侵入していた場合を考えて、明かりは使わず、目への部分強化のみで洞窟を進む。洞窟に入って数十分が経過していたと思われたが、敵どころか、脇道すら見当たらない。



 多少下り坂があったり、緩く曲がるような事はあったが、基本的には道なりに進むだけになっていた。それが体感的にも数十分ほど。だからこそ、あっけない。

 いつまで続くのか、先に炎帝へ連絡をした方が良かったのではないか、そんな考えがナックの脳裏を過った時、ついに終点へと辿り着く。



 相変わらずの暗闇状態ではあるが、先ほどのような細い道ではなく、かなり広めの場所へと出てきたのだ。

 流石に明かりを。そう考えた矢先、突如洞窟内に光が灯り、辺りの景色が明確になる。

 ただの広い、大護たちとの戦いで利用した"精霊の涙"の訓練場よりも広い空間がそこにあり、その中央には一振りの剣が存在していた。



「マスター」

「あぁ。アレが女神の力を宿した剣で、間違いねえだろう」



 何せ感じられる魔力が、明らかに一般人のそれとは異なっており、王宮にある例の本と似た魔力が感じられた。この場にバドルがいたのであれば、その目を以て判断できたであろう。



「……よし、俺が行ってくるから、お前らは周囲の警戒を頼む」



 剣の周りには罠の類は見受けられない。そして勿論、人間が隠れているような気配もない。しかし油断はしない。ゆっくり、確実に剣との距離を縮める。

 すぐに剣との距離は埋まる。剣との距離が腕一本分まで迫り、ゆっくりと腕を伸ばし始めた瞬間、またも地面が揺れる。――否、正確には洞窟全体が揺れていた。



「ななな何スかーこの揺れはぁー!?」

「落ち着け嵐帝。アタシたちが取り乱し、警戒を怠っては意味がないだろう。第一、この程度の揺れで何を騒いでいる」



 そう。揺れ自体は大きいものではなかった。何なら湖に入る前、土壁破壊の為にシュートが起こした揺れの方が大きいと言えただろう。

 慌てるウィード以外はその事にも気が付いていた。だから焦る必要はなく、時期に収まるのを待てば良いと。

 しかし、待てども待てども揺れが収まる事は無く、寧ろ強くなる一方であった。



「ちょっとばかし雲行きが怪しくなってきたわねん……マスター、早く剣を回収してここを出ましょう。生き埋めにでもなったら洒落にならないわん」



 ナックへとそう投げ掛けたシュートは、直ぐに転移魔法の用意をする。行先は勿論ナックの部屋だ。



「その方が良さそうだな。……おらッ!」



 剣の柄を掴み一気に引き抜く。剣は容易く抜け、ナックの手にその重量が伝わる。見た目には何の変哲もない剣ではあるが、王宮の本同様に、微量の魔力が感じられる。



「っと、んなこと後でいいか……転移の準備はできたか?」



 剣への感想はそこそこにシュートへ問いかける。すでにシュートの周りにはローナとウィードが集まっており、後はナックが来たら発動するだけの状態だった。ナックも直ぐ移動し、シュートの腕に触れる。



「行くわよん。"転――」



 魔法を唱えかけた瞬間、突如として天井が崩れる。



「逃がさないよーん」



 その音と共に突如聞こえた、場違いな程に陽気な声に反応してしまったシュート。転移発動が一瞬遅れる。その一瞬の遅れが、彼らの運命を大きく変えるとも知らずに。

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