隠された道
大護たちが特訓に勤しむ中、ナックと三人の帝たちはダゴル平原へと到着し、ゼルが見つけ出した剣を探していた。
ゼルが特定できたのは、平原に入ってから南西に凡そ五キロといった、正確とはとても言えない情報だけだったが、情報が全くと言っていい程なかった時に比べると、探しやすくなっている事は間違いないだろう。
しかし勿論、それでも容易く行かないのがこの世の常。
「もぉぜーんぜん見つかんないじゃぁ~ん! ナっつん疲れたーおんぶしてえぇぇ」
そしてそれに耐えられなくなる者がいる事も世の常。
「うるせーぞチンチクリン。あと、常に気を張れとは言わんが、流石に気を抜き過ぎだ。いつ敵と遭遇してもおかしくない状況だって事、忘れてんじゃねえだろうな?」
「そうは言ってもさぁ、ここに来てからもう二週間以上経過してるんだよ? その間に会ったって言ったら、D級程度の魔物と旅の商人くらいじゃんかぁ。そりゃあ気も抜けちゃうってのよさぁ」
四人で来ていたナックと帝たちは、基本的に二手に分かれて探索をしていた。四人が別々に探すことも提案に挙がっていたが、敵対した時、確実に仕留められるようにと、二人ずつのペアとなった。
しかし現在、目的の剣は疎か敵にすら出くわさない状況。元々子供染みた【氷帝】――ローナには、さぞ辛い作業であろう。
「マスタ~、氷帝さ~ん。調子はどうッスか~?」
そんな二人に声を掛けながら、風に乗って近付くのは【嵐帝】ことウィードと、何故かどデカい岩を二つ肩に担いだ【地帝】ことシュートの二人だった。
「嵐帝か。そっちは……ダメだったみたいだな」
二人に気が付いたナックが声を掛けた瞬間に首を横に振るウィード。彼らの方にも目ぼしい物が見当たらなかったのだろう。
「もーう見つからなさすぎて筋トレ始めちゃうくらいだったわあん。あ、あと四百二回残ってるから待っててねん」
「誰が待つんスか、この筋肉バカ」
「んもうっ嵐帝ちゃんったらっ、そんな事言っちゃうと――」
ガシリ、とウィードの頭が捕まれる。そうしてそのまま、
「投げちゃうわよん」
「投げてから言うなあああああああぁぁぁぁぁ――――」
ウィードの叫びに対し小さな声で「あらー」とだけ呟くローナ。二言目には「自分で風に乗るより速いじゃん」である。哀れなり。
「何やってんだ全く……」
「心配しないでマスター。ちゃあんと怪我はしないよう、向こうの湖に向けて投げたからん」
そう言って後方に指を示すシュート。その方向を見ると確かに湖はあった。ぱっと見でもかなりの大きさがある事が分かる。現在地からかなり距離が離れているのが唯一の問題だった。
「あー、確かにあるけどあんまり意味がねえかもしれねえなぁ。まぁでも、アイツなら大丈夫だ――」
遠くの方から着水音が聞こえた。
「……あらん?」
「ナっつん、大丈夫じゃなかったね」
「俺のせいじゃねえだろ。……地帝、取り合えず様子を見に行ってこい」
「アチシが投げちゃったわけだし当然ね、リョーカイよん。……それにしても、なんであの子飛ばなかったのかしら?」
担いでいた岩を地面に置き、湖に向けて走り出す。その姿はあっという間に小さくなり、その場にはナックとローナ、そして二つの岩だけが残された。
置かれた岩の近くへ移動したナックは、軽く地面を蹴り、そのまま岩の上へと座り込む。ローナも同様にもう一つの岩へと座る。
弱めの風が吹き、二人が羽織るローブをはためかせる。今の状況だけを見ると、恋人たちの休日といったような絵にでもなろうか。それほどに平和な空気が流れていた。
心地よい風を堪能していた二人だったが、そんな時間も束の間。戻ってきた地帝からの報告により、平和な空気が一変する。
◆ ◇ ◆
「嵐帝」
「二人も来たッスね。あそこを見てほしいッス」
風を操って濡れたローブを乾かすウィードが示すのは、目の前に広がる湖。湖中が満遍なく見える程淀みなく透き通った水の先には、おそらく彼が衝突したのであろう、少し陥没したような箇所が見える。
一見するとただの土の壁でしかない場所ではあるが……
「――成程な。嵐帝、頼む」
「流石ッスよマスター。――"ウィンドランス"」
突如湖中に向けて魔法を放つウィード。放たれた魔法は、何の弊害も受けずに、湖中の土壁へと衝突するが、壊れる事は愚か、周りの土にも影響が出ていなかった。
「あらやだっ、これってつまり……」
「あぁ、この中に"剣"がある可能性が高い。ただ、魔法での攻撃は無効化されるみたいだな……地帝」
「はぁ~い」
徐にローブを脱ぎ、下着姿となったシュートは、そのまま湖へと飛び込む。何故彼が女性用下着を付けているのかは、誰も触れてはいけない。
「それにしてもスゴイッスね~昔の人ってのは。こんなに手の込んだ事をやるなんて」
男三人で話を進めているが、その後ろでローナの目は点になっている。心情を表すのなら「なんのこっちゃ」というところだろう。
そんなローナの様子を察したナックが、彼女に状況を説明する。
「原理は不明だが、この湖の土壁の中には魔力障壁……いや、どっちかっつうと、空上都市ナスの隠蔽魔法に似たモンが埋まってんだ。性能で言えば、あれよりも強力だけどな」
「……つまり?」
「なんでそんなモンを、こんな湖の中に使ってんのかって考えろ」
「……その中に、なんか大事な物があるから?」