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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
語られる過去と今
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乗り越えて

 母さんがレイトに殺されていた。聞かされた事実に驚いたし、怒りも沸いたのは間違いない。けれど、激情に駆られるような激しいものではなかった。



 元々父さんから、母さんは死んだと言われていて、写真でしかその姿を見たことがない俺からすると、正直実感がないのだ。凄く悪い言い方をすると、歴史上の偉人が亡くなった年が、実は教科書に書いてある年より三年遅かった。みたいな感じがしっくりくるかもしれない。



「どうして、レイトは母さんを殺したんだ?」

「簡単に言うとしたら、アイツはアナヴィオスの計画に賛同しやがった。強い奴と本気で戦えるって理由だけでなァ。それを止めようとしてまもりさんは殺された」



 ガリッと。ゼルが怒りを露にしながら、飴を噛み砕いた音が室内に響く。不謹慎な感想かもしれないけど……そんなゼルの思いが、凄く嬉しかったし……羨ましかった。



 噛み砕いた飴を飲み込んだゼルは窓際に移動する。



「あの人と最初に会った時、その強さは半端じゃァなかった。今のテメエより強かったかもなァ。でもその強さは徐々に衰えていった……理由は、僅かに残された女神の力を使って、俺様とリン……そしてレイトの野郎に能力を授け、残りの力を使って地球にいるテメエの姿を見守ってたからだ」

「母さんが……俺の事を、見守っていた? 何で、どうして……」

「テメエはまもりさんの息子なんだ。息子の事を心配するのに理由なんてねェだろォよ。……家族でもなんでもねェ俺様たちの事も、本気で護ってくれた人だしな」



 「あんな母親がいて、テメエが羨ましい」と静かに呟いたゼルは、窓に向けていた顔をこちらに戻す。



「あの人は、いつも赤ん坊の頃のテメェの写真を持って、その写真をよく見てた。俺様もよく写真を見せられては息子自慢を受けていたもんだァ。"今の姿を楽しめるのは、私の特権だからね"とか変な理由で、中学生活を送るテメエの姿は見せられた事はなかったけどなァ。その分話は色々聞いたもんだぜ。赤星冬馬の事も含めてな」



 そんな人だったのかと、ちょっと顔が綻ぶし、第三者からの言葉だとしても少し照れる。息子である俺の事……その、好き過ぎるだろ。何だこれ、自分で思っただけで恥ずかしさ極まりないぞ!



「"大護の事を、よろしくね"」

「――えっ?」



 突如変わったゼルの口調に驚きが隠せなくなる。自分で発した言葉を噛みしめてるような、そんな表情で俺の顔を見つめてくる。



「まもりさんの最期の言葉だ。恐らくあの人は、自身の影響を強く受けたテメェが、ミリアルに来る事を予測してたんだろうよォ。もう一人来るのは想定外だったかもしれねェけどなァ」



 母さんの言葉……それに俺が来る事を予測してたってんなら……。



「もしかすると、こっちで母さんと会えたのかもしれないんだな」



 今更こんな事言ってもどうしようもないことはわかってるけど、やっぱり自分の母親だし、会ってみたかった気持ちは強いさ。

 それより、ぜルの発言で気になったのは後半の方だ。



「もう一人って、冬馬のことだよな? 冬馬が来るのは予想外だったかもしれないって……」

「そのままの意味――つっても、ただ俺様たちに話してなかっただけで、まもりさん自身は知ってたのかもしれねェけどなァ」



 レイトの話をしながら噛み砕いた飴の代わりに、また別の飴を白衣のポケットから出し、口へと放り込む。そのままもう一度ポケットへと手を入れ、取り出した飴を俺に向けて投げる。

 キャッチした飴を見る。ハッカだった。コイツ、ハッカの飴嫌い過ぎん? 俺は好きだから文句は言わないけど。



「テメェは、これからどうすンだ?」



 ハッカの飴を口に放り込んだ俺に、かなりざっくりとした質問を投げ掛けるゼル。その問いかけが、俺だけに言っているようには聞こえない気もしたが、敢えて触れずに答える。



「レイトの奴に借りを返して、アナヴィオスの連中を止める。俺たちがミリアルに来たのは、そもそもミリアルに迫る脅威……邪神の事だろうけど、それを止めるために女神様に呼ばれたからな。その目的は変わらねえさ」

「……そうか」



 お前はどうする? そんな言葉を欲していると思って見たゼルは、覚悟を決めた表情をしていた。……今の顔をしているなら、俺からも聞く必要はないか。



「なんだァ? 俺様の顔見てニヤニヤしやがって」

「何でもねえ……ってか初めて戦闘以外で、俺の心が読まれなかった!? うわぁマジか急成長!」

「……まもりさん、アンタの息子は元気に育ったみてェだよ、よかったなァ。……さァて話は終いだ。帰ンぞォリン」



 未だパンク中の冬馬にちょっかいを出しているリンちゃんを担ぎ、そのまま部屋の扉へと近付くゼル。って冬馬はいつまであの状態なんだよ。



「――テメェ等は、死ぬんじゃねェぞ」

「――当たり前だ」

「ハッ……邪魔したな」

「……ふたりとも、ばい」



 そうしてリンちゃんを連れたゼルが部屋の外へと出て、そのままぱたりと扉が閉まる。

 しかし……まさか地球でも会ったことのない母さんの話を、ミリアルに来てから聞けるとは思いもしてなかった。聞き終わってもあんまり実感が湧かないのが何とも言い難いところだけど。



 ゼルに貰った飴をそのまま飲み込む。ちょっとまだ大きかったせいか喉を通る時の違和感が凄まじかったけど、そこはまあ良しとしましょ。



「さてと……冬馬ー、話は終わったぞー起っきろー」

「大護が女神で女神が俺で母ちゃんがいてそんで――」

「ショック療法てーい」

「でぃあごおおおおおおお!?」



 雷属性を指先に集めて冬馬さんの首元にぴとり。そのままばちばちって流れた雷は、こっちでは弱めの中級魔法。地球では強めのスタンガンくらいの威力になって、冬馬さんの体を駆け巡った……と思う。



「目が覚めた……ってあれ? まだショートしてんのか? 頭から煙が出てんな」

「そりゃあね、実際に雷くらったらショートもするよね。物理的に」

「じゃあもう一発行った方が――」

「やあやあ落ち着けマイフレンドオオオオオっぶねえなおい!! 今のは悪ふざけしてやめるパターンのやつだろうよ!?」

「あ、おはよー」

「えっうそ。今の件まるまる無かった事になってる?」



 何を今更。俺たちのやり取りなんて毎回こんな感じだっただろうて。最近は色々込み合いすぎて忘れてただけさ。



 ……と。一先ずお遊びはこのくらいにして、冬馬にもさっきのゼルの話を伝えないとな。今度こそ、しっかり任務を遂行せねばならん。

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