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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
超強化月間
121/148

定評のある演技

 俺の目が覚めている事に気が付いていないのか、悪玉三人衆は最後の善良な民であるレドの説得を続ける。



「大丈夫だぁレド。仮にお前も参戦したとしてもよぉ、矛先は全部俺かノエルに行くから、お前さんに被害が出ることは何もねえ。被害は全部ノエル行きだぁ」

「待て待て待て。何でオレとお前に矛先が向いたのに、オレだけ被害被ってんだ? あとリュウの奴も道連れだろ?」

「クスッ。私が自分の証拠を残すとでも?」

「今の発言の通り、リュウは自分がやったって証拠を残さないだろうから無罪。俺は大護から復讐が来たとしても、今の状態の大護なら負けるこたぁねえから実質被害なし。よって頭も実力も足りないノエルだけさいなら~」

「お、オレだって、今のダイゴになら負けねえ!」

「無理だね」

「無理だなぁ」

「無理でしょう」

「何だよその謎の三段活用! そして三人揃って無理とか言うな! やってみないとわからねえだろ!?」

「「「……」」」

「急な沈黙はもっとやめてええええっ!!」



 顔が動かせないから状況はよくわからないが、取り合えずみんな無事に特訓を終えたという事にしておこう。



「んむぅ……」



 急に聞こえてきたのは可愛らしい寝息。かと思いきや、右の視界の端にピンクの頭がぴょこっと登場した。右手の温もりの犯人が割れた瞬間だった。



「ふあぁ~……。あれ? みんなどうしてここに……?」

「起こしちゃって悪かったなアリアちゃん。そろそろ大護起きっかなぁと思ってよ。なんだかんだ三日も寝てやがるからなぁ」



 「うん、そうだね……」と深刻な顔をしながら俺の方を見るアリア。咄嗟に目を瞑る俺。何でそんな事したのかはわからない。

 つーか、え? 俺三日も意識なかったの? そりゃみんな心配にもなるだろうし、冬馬は悪戯をしようとも考えるタイミングだよ。



「重症に見えたトウマがすぐに起きたから、ダイゴもそうだと思ってたんだけどなー」

「魔力枯渇による疲労は凄まじいもの、という事なんでしょう。国王様も三~四日程度で復帰すると仰られてましたし、明日までには必ずといったところでしょう。起きた時の第一声が楽しみですねぇ」



 リュウの声でそう聞こえた後、誰かが俺の顔を覗き込んでいるような雰囲気を感じる。察するに恐らくリュウだろう。

 ……気のせいかな。リュウの奴、俺が起きてる事に気がついてそうな気がしなくもないんだ。



「ご明察(俺にしか聞こえないであろう超小声)」



 やっぱりかテメエ。何企んでやがる。



「特に何も。ただ、その方が楽しそうだと思っただけですよ(俺にしか聞こえないであろう超小声)」



 何が楽しそうだよ、こんな状況で何か起きるわけ……っておいこら、離れんな。まだ話は終わってねえ。



「リュウくん? ダイゴくんの顔に何か付いてた?」

「ええ、ちょっと大きめの埃でした。私たちは国王様と話があるので、アリアさんは引き続き彼の様子を見守ってあげていてください。是非、その手も離さぬように」

「手? ……あ、いやっこれはぁ~そのぉ~……ううぅ」



 大袈裟な身振り手振りで反応するアリアに釣られて、俺の右手もあっちゃこっちゃに引っ張らっる。ちょっと痛い。



 やがてピシャリと扉が閉まる音が室内に響き、保健室内には俺とアリアの二人きりとなった。なんか、初めてアリアと模擬戦をした時の事を思い出すな。立場逆だけど。

 それより、特訓を終えただけで三日も寝てる俺とか……大丈夫かよ。本当にこんなんで完遂って言ってよかったんですか? 国王様。



「……ダイゴくん……」



 心中ごちる中で、アリアが小さく俺の名前を囁く。そうして、右手を掴む力が少し強くなる。

 なんだか申し訳ない思いを抱きながら、そろそろ目覚めようとした瞬間、今し方閉じられた扉からノックが鳴る。



「あっ、どうぞ」



 短く返事をした後に開かれる扉。



「アリア……キリュウ君の容体はどうかしら?」

「うん。初日よりも顔色も良いし、体の傷は問題なさそうだよ。魔力はどうかな? ミーナちゃん」



 やってきたのはミーナだったようだ。



「……そうね。魔力枯渇も今は見る影もない状態かしら。目が覚めるのも時間の問題だと思うわ」

「そっか……良かったぁ」



 小さな声で呟かれたその言葉からは、心から俺の事を心配してくれているという事が感じられた。

 そして、俺はますます申し訳ない思いを膨らませた。



 ……もう、今目覚めましたと言わんばかりの反応で起きよう。そうしよう。



「うぅ……っ」



 どうにか意識を取り戻した俺(演技)はようやっと目を開ける。さっき確認した通り、首から下がまだ動かない状態ではあるが、どうにかアリアとミーナへと視線を向ける。二人とも俺が急に目覚めた事に驚きを隠せない様子だ。



「二人とも……心配掛けて、ごめん」



 首元にアリアの腕が回り、そのままアリアと一緒に枕へダイブ。ちょっと首の骨がやばかった事は黙っておく。



「よかっ……よかったあぁ~。もう起きてくれないんじゃないかって、心配してたんだからぁ~」

「アリア……本当にごめんな」



 本当に、心底心配を掛けてしまったようだ。最初から目覚めていれば良かったのに、馬鹿だな俺は。



「アリア、そのぐらいにしておきなさい。キリュウ君が動けないわ」



 未だ涙を流すアリアの身体を俺から離し、そのまま泣き崩れそうになるアリアを支えるミーナ。二人にかける言葉を探していたところで、部屋の扉が勢いよく開く。



「遅くなっちゃったー! ダイゴの様子は……ってダイゴ!? 気が付いたんだねー!」

「レイアか。ごめんな心配かけて。意識は戻ったんだけど、体が言うことを聞かなくて、これ以上首が動かせないんだ」



 ベッド周辺は辛うじて見えるが、扉の方まで行くとギリギリで見えないのだ。もう少し首が長ければいけたかもしれない。



「無理しないでいいよー、ウチはみんなに知らせてくるから、楽にして休んでなよ!」



 そう言い残し、俺の返事も待たずに飛び出した様子のレイア。ぱたぱたと響く音が、彼女がどれだけ颯爽と駆け抜けているのかを教えてくれた。



「さてと、キリュウ君。体の具合はどうかしら?」



 アリアをソファに座らせたミーナが、俺の頭付近に近付いてきてそう問いかけてくる。



「レイアに言った通り、体が動かないくらいだな。痛みとかもないし」

「そう、良かったわ。……でも」



 ずいっと俺の顔に自身の顔を近付け……って近い近い近い!



「何で目が覚めてたのに、寝てるフリなんてしてたのかしら?」

「……それは本当にごめんなさい」



 小さくため息をつくその姿は口に出されなくとも「やっぱり……」と言っているように伝わった。でも何でバレた? 言うのはあれだけど、俺の演技には定評が……



「起きて一言目で真っすぐこっちを見てから"二人とも"とか言い始める人、いると思う?」

「ボクがバカでした」

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