日常の一コマ
魔法学園に通い始めて早一週間が過ぎた。地球にいた頃には考えられないことが多いから、本当に濃すぎる一週間だったよ。回復薬の調合方法なんて地球で使うこと一生ないもんな。つーかあるわけない。
……魔法学校に通い始めて早一週間。とゆうことは、ミーナに真実を話して(問い詰められて)一週間となっている。あのあと、ミーナに避けられるとかそういうのは特にない。強いて言うなれば、逆にミーナから話題を振ってくることが多くなったくらいだな。
他のやつにも話すことに関しては、やはりもう少し先にしようと思ってる。
別に深い理由とかはなくって……正直なところやっぱり話すのは怖い。普通に考えれば、唐突に"異世界から来たんです"なんて言っても、そうですか、いい病院紹介しますね。とかで終わって信じる方が可笑しいんだろうけど……
「……ぃご……だい……っ……ば。……大護!」
「んぁ!? ……何だよ冬馬? いきなり大きな声だして」
「やあっと反応したか、つーかいきなりじゃねぇ、ずっと呼んでたんだよ。ほら、次の授業戦闘学だし、訓練所に向かおうぜ?」
……俺が思考をめぐらせ始めたのが朝のHRの時で、戦闘学ってことは……もう三時限目じゃねぇか。
とりあえず急いで準備して、冬馬と一緒に訓練所に向かう。
「悪いな冬馬。手間かけさせちまって」
「なぁに、いいってことよ。大護があの状態になるのは珍しいことじゃないしな、何考えてたのかまでは流石にわからねぇけど
「……考えてたのは、俺たちの事だよ。ミーナに話した一週間前の話題の」
「あれ、か。誰にいつ話すかとか、もう決めたのか?」
「いや、流石に決めらんねぇよ。それにまだ学園に通って一週間だ。これから十分に時間はあるだろ?」
「はっ、違いねぇ」
冬馬と話しながら向かったけど、授業に遅れることはなく、戦闘学が開始される。戦闘学はその名前の通り、戦闘について学ぶ、まぁ基本的には体を動かす授業で、体育みたいなもんだ。
「よぉし! 今日は組手を行うぞォ! 二人一組でペアを作って戦うがいい! 魔法は身体強化のみ、武器は学校が用意した物を使うように! 以上!」
戦闘学の筋肉達磨先生がそう言うと、みんな各々ペアを組んで広がっていく。……俺の組手は、まぁ無難に冬馬でいっか。そう思って冬馬のところへ。
「わりぃ大護。レイアに組手の相手を頼まれちまってな。今日は組めねぇんだ」
まさかの事態発生。じゃあノエルかレドとやるかと思ったのに、二人とももう始めちゃってるし。ミーナはミーナで、他の子と開始してる。……あれ? 余り者?
「あ、あの……」
そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられる。振り向いて確認してみると、俺の胸辺りまでの身長の小柄な女の子がいた。
見た感じ……145センチメートルくらいかな? 髪はピンク色でウェーブが掛かっていて、自分の胸辺りまで伸ばしている。パッチリした目を持っているが、今は鬼のごとく泳ぎまくっていて、かなり緊張しているのがわかる。
「え、えぇっと、その……キ、キリュウさん……ですよね?」
「あ、あぁそうだよ。……えっと……エクリアルさん……だっけ?」
かなり自信はないけど。
「あ、覚えててくれたんです? よかったぁ。アリア=エクリアルです。遅くなってしまいましたが、よろしくお願いしますね、キリュウさん」
そういいながらエクリアルさんはキレイにお辞儀をする。可愛らしい子だことほんとに。
「こちらこそ、ダイゴ=キリュウです、気軽にダイゴって呼んでもらって大丈夫だよ」
「……っ! はいっ。ありがとうございます……ダイゴ……くん。 あ、あの……私のことは呼び捨てで結構ですよ?」
アリアは顔を赤らめながらそう言ってくる。なんか恥ずかしかったのか?
「あ、それでなんですけど、よければ私と組手をしていただけませんか?」
「勿論だよ、俺も相手がいなくて困ってたところだしさ」
組手をするために筋肉先生の元にある、学校指定の武器(木刀とか木で出来た武器)を取りに行く。
武器なんて使ったことないから何にしようか迷ったけど、無難に木刀をチョイス。アリアを見てみると小振りな両刃剣を両手に持っていた。まぁ所謂双剣ってやつだな。……意外すぎる。
「へぇ、双剣使いなんだ。なんか意外だな」
「へへっ、そうですね。よく言われます。でもちゃんと戦えますし、安心してください」
そう言いながらアリアは双剣を構える。それにつられるように俺も剣先を左下に落として下段から切り込むような形で構える。形に理由はない、ただやりたかっただけだ。
「では……いきます!」
そう言ってアリアは俺に向かって一直線に走り込んでくる。そして一つ気付いたことがある。
……俺チートだったの忘れてた。
普段の生活とかでは別に支障ないから気にしてなかったけど、戦うとなると、結構顕著に表れるなぁ。どげんかせんといかんなコレは。
とりあえずゆっくり走ってくるアリアを避けて、立ち位置が変わった状態で再び向き直る。一先ず今日は仕方ないな。今度冬馬の創造の能力で、力を抑える指輪とか作ってもらおう。
向き直ったあともアリアは俺に向かって来て、連撃を放ってくるが、俺は一つ一つを確実に避ける。
避けてばかりなのも組手にならないだろうと思い、攻撃の一つを選んでカウンターになるように木刀を構える。
「うぐっ」
それを食らったアリアは、苦しそうな声を一つあげてそのまま地面に倒れ込みそうになるが、なんとか踏みとどまった。
……と思ったが踏ん張りがきかずに、倒れてしまいそうになったところを俺がキャッチ。
「っと、大丈夫か――って気絶させちまった……」
マジか。まぁ組手だし気絶くらいよくあることだとは思うんだけど……女の子相手だしなぁ。
「達磨さーん、エクリアルさんが気絶してしまったので保健室に連れていきますねー」
「誰がダルマだァ! 誰が!しかしわかった、行ってこい!」
話のわかる達磨さんでよかった。しかし女の子を気絶させちまうなんて……なんか物凄く申し訳ないんだけど。とか思いながらアリアをおぶって保健室に向かうことに。
「大護のやつ、やりやがったな全く。女の子相手に何してんだか」
「そう言うトーマはウチ相手に手を抜きすぎじゃない? さっきから避けてしかいないじゃん」
「ハッ。俺に一撃でも当ててみてからもの申すんだなぁ、レイアよ」
「カッチーン、絶対に負かしてやんだから!」
アイツ等は楽しそうで何よりだ。
今思えば保健室の場所なんて知ってるはずもなかったのだけれど、廊下ですれ違った先生に教えてもらい、どうにか無事に到着できた。
「失礼しまー……って誰もいないのかよ……」
ノックして入ったもののそこには誰もおらず、無人の保健室になっていた。とりあえずベッドにアリアを寝かせて、先生が帰ってくるまで待機することに。
寝かせる際にアリアの顔を見てみたけれど、苦しさ等は見せず、気持ち良さそうに寝ていたのでダメージの心配はいらないだろう。
「ん……」
保健室にあった椅子に座っていると、アリアの方から声が聞こえる。声が聞こえたかと思ったら次に聞こえたのは、ちょっと高い所から何かが落ちたような音。
そっと様子を見に行ってみると、案の定アリアがベッドから落っこちて尚、熟睡している。
寝相の悪さに呆れ、それでも起きないことにちょっとした関心をもちながらもう一度ベッドに寝かせて、椅子に戻ろうとしたら、アリアに制服の一部を摘ままれた。
「……っと、起きたか? アリア」
そう声を掛けてみたが返事がない。ただのしかば……違う違う。
どうやら寝ぼけて俺の制服を摘まんでいるらしい。子供みたいだと思いながら、アリアの指を外そうと、アリアの手に触れた瞬間、アリアが起きた。
「んっ、ん~」
「今度こそ起きたかアリア。痛みとかないか?」
「ん? 大丈夫だよぉ……ってえぇ!? な、なんでキリュウ君が私の部屋に……ってあれ?」
やっぱり寝ぼけていたアリアさんでした。
その後、何故保健室で寝ていたのか曖昧だったアリアに軽く説明をして、俺は保健室から出ることに。何だかんだでずっと触れあっていた手を赤面しながら払われたときは、ちょっとだけ罪悪感。
「ホゥ、戦闘学の授業をサボってアリアちゃんとそんなハッピー展開を繰り広げていたとは……主は何だね? こっちの世界のおにゃのこでも漁るつもりかね!?」
「誰だよお前」
今は昼休み。女神様に貰った力を抑えるための道具を創らせようと、冬馬に頼みに行ったところでこうなった。てかあんまデカイ声で"こっちの世界"とか言うな。
「んまぁ冗談はさておいて……確かに大護の言う通り、力は押さえた方が良さそうだわなぁ。正直、全く戦いにならん、楽しめん」
「楽しむとかの問題じゃねぇだろ」
「わあってるよ、どぉせ大護のことだし、ギリギリの勝負になれてないと、いざって時にホントに死んじまう。とか言うんだろ?」
「なんだ、お前にも考えることは出来たんだ」
「うっそ、そこから?」
いや、ホントに結構驚いた。人間って成長するんだねやっぱり。
「まぁなんだ、力の抑制道具は指輪あたりにしておくとして、抑える内容はどうすんだ? 俺と大護で全く同じでもあれだろ?」
「そう、だな……俺のは、身体能力を一割に、魔力を三割にできるようにしてくれ。三割でも周りより大分多いが、大丈夫だろ」
第一、魔法の世界に来たのに魔法使えなくなったら意味なくなるし!
「おーけー、んじゃ俺は大護と逆の効力でいいや。力で押しきれなくなっちまったら嫌だし」
そう言った冬馬は手を机の下に持っていって目を閉じる。大体三十秒位経ったところで、下に置いていた手を俺の胸の高さまで持ってくる。その意味を察した俺は冬馬の手の下に、自分の手を出す。
「一丁あがりだ」
俺の手には金色の指輪が乗っていた。早速つけてみたところ、急に体がだるくなった感じがする。なるほど、成功したって訳だな。
「サンキューな冬馬……てどうしたんだ? 頭なんか抱えて」
「うあぁ……今の、だけで……頭が、割れそうに痛ぇ」
やはり能力はかなり体に影響を及ぼすな。使わないことに越したことはないけど……訓練はしないとな。
創造の能力を使った反動が抜けきらない冬馬は、そのあとの午後の授業はずっと机に突っ伏して悶えていた。まぁ途中から唸り声がイビキに変わってたし、大丈夫だろう。
午後の授業が終わり、さて帰ろうと冬馬を起こすが全く起きない。体を揺すっても、耳元で叫んでも、後頭部を叩いても、脇腹に蹴りを入れても起きない。
……うん、置いてこ。
そう思って教室を出――
「あ。キリュ……。ダイゴ君!」
――ようとしたところで不意に声をかけられる。後ろを確認してみると、通学鞄を自分の前で持って笑顔をこちらに向けてくれているアリアがいた。
「えっと、トウマ君置いてっちゃっていいの? あのままだとずっと眠ってそうだけど……」
「いいんだよアイツはあれで。あぁなったらあと三時間くらいは寝てるし」
「あ、あはは……それはすごいね……」
スゴいと言いながらアリアのその顔は呆れているようにも見えた。人のこと言えないぞとは言えなかった。言える筈なかった。
「っと、そんなことより。俺に何か用事があったんじゃないのか?」
「……ふぇっ!? え、えええっと……その……せ、折角友達になれたんだし、一緒に帰れたらなぁって……」
何この可愛い生き物。ヤバイ、持って帰りたい。……ダメだって、絶対にダメだって。
「も、勿論いいとも」
自分の返答に、どこの笑っていいやつだよと心中でツッコミをいれる俺だった。
余談だが、冬馬のやつは俺とアリアが他愛もない会話をしながら帰ってるときに、委員会を終えたミーナが一声掛けたら飛び起きたらしい。よし殴る。