訓練三十日目
国王様との訓練開始から――三十日目。
二日前から取り掛かった混合魔法の練習だったが、流石に一日そこいらでは完成に持っていく事が出来なかった。正直、魔力操作も大分出来るようになってきていたし、案外すぐに行けちゃうんじゃないかなぁ、とか考えてたのがあほ過ぎた。
三属性の中級魔法同士までは、一対一の実践中でも何とかなるくらいまでは使えるようになったが、四属性の中級魔法、三属性の上級魔法の混合は、難易度が違いすぎた。魔法の発動は難なく出来るが、混合させるという事が難しい。とてもじゃないが、一対一の実践の最中ではどうにもならないという事を、昨日の訓練で痛感させられた。
だからこそ国王様に直談判した事がある。
「二人ともよくここまで成長してくれた。本日で最後の訓練日となるが……まさかキリュウ君の方から、二人で戦わせてほしいという懇願が来るとは思わなかった」
それが、俺と冬馬二人で戦うこと。特訓を無事に終わらせる為ではなく、国王様に勝つ為に選んだ方法だ。
「正直俺も冬馬も、一対一で勝ちたかったというところはありますが……国王様に勝つ為に選びました。失望させてしまっていたとしたらすみません」
「失望なんてしないさ。強者に立ち向かう為に、その時の最善の手を打つ。至極真っ当な事じゃないか」
「それに……」と続けた国王様は、傍らに炎龍を出現させながら、挑発的に笑う。
「二人係だったとしても、私をどうにかする事ができるとは思えんからね」
「へっ。ナメてると痛い目見るぜぇ、パパさん!」
指輪を外し身体強化をした状態でそう言う冬馬。雰囲気から察するに第四段階のやつだろう。俺も指輪を外し、身体強化、そして雷属性を付与させておく。
「最初に比べて、身体強化の練度も大きく向上した……あの状態からここまで来るのに、本来なら数年、下手すると十数年は要していただろうが、それをたったの一月で終わらせたのは、流石と賛辞を送るべきだろう。しかし――」
国王様が背中の大剣を構えると同時に、炎龍が吼える。
「君たちが驕らぬよう抑えるのも私の役目。悪いが、負けるわけにはいかんな」
その一言を合図に、最後の特訓が開始された。
開始と同時に俺は、冬馬の後方支援のために下がる。雷の弓を作り出し、いつでも矢を放てるように準備。冬馬はそのまま国王様の元へ、一直線に駆け抜ける。
鎧はまだ纏わない国王様。時間制限の事もあるだろうし、今は温存している状態なのだろう。冬馬の攻撃に備える為か、足を止めて正面に冬馬の姿を捉える。
「ダラァッ!!」
距離が詰まり、あとニ・三歩程度まで来たところで、冬馬が右拳の魔力を飛ばす。しかしその攻撃は読まれていたのか、大剣で軽く受け流される。
国王様が魔力を受け流した直後に、今度は左拳の魔力が国王様へと迫る。大剣では手数には対応出来ないのか、次は身を捻って避ける。
「"炎龍――炎弾"」
その避け様に懐への侵入を試みる冬馬だったが、そう簡単には許さんと言わんばかりに、炎の龍から火の玉が放出される。見た目だけだと火属性初級魔法に近いが、距離を取ってる状態でも、凄まじい熱量を感じる。
「んぬらッ!」
それを蹴り上げる事で相殺した冬馬が俺と国王様との直線上から外れた今――
「"バリスタ"ッ!」
雷矢を撃ち放つ。冬馬の頭上を掠め、国王様へと迫る雷矢。炎龍への指示は間に合わないタイミングで撃ったこの矢は、間違いなく当たる。
思惑通り、雷矢は国王様へと当たった……いや、掴まれていた。矢の先端を素手で握り締め、あろう事か力技で止められていた。阻止される覚悟はしていたが、なんつー方法で止めてくれてるんだよ。
そんな状況でも、俺たちは攻撃の手を緩めない。冬馬は崩れていた体勢を戻し、地を蹴って再び国王様へと迫る。
流石に今度は、冬馬の接近を許す国王様。少し苦い顔をしたのが見て取れたところから、やはり冬馬と超接近戦をやるには少し抵抗があるようだ。
「オラオラオラオラァァァ!!」
国王様と冬馬の蹴りと拳の応酬が始まる。お互い被弾しながらの戦いだったが、徐々に冬馬が押し始め、国王様の膝が落ちる。
「冬馬ァッ!!」
「りょーかいよ!!」
膝が落ちた勢いを活かして、国王様を背中に担ぎ上げ、一本背負いの要領で俺の方へと投げ飛ばす冬馬。待つ俺が構えるのは雷矢ではあるが、先よりも一回りデカイ。そしてその数、三本。
「"バリスタ――雷煌"」
放たれた矢は国王様の元へ直ぐに到達し、その身に突き刺さった。
雷矢が貫通している状態の国王様だったが、その姿が揺らめき始める。かと思えば、そのまま上空で炎が上がり、その炎が地面へと落ちる。そして、見渡せど見渡せど、国王様の炎龍の姿が見えない。
……やっぱりそう簡単にはやらせてくれないか。
立ち上がった炎が消失。その中から姿を現した国王様の身体には傷一つなく、あの鎧の存在感が溢れだしていた。
「鮮やかな連携攻撃、見事だった。本当はもう少し君たちの体力を削った上で使いたかったが……そうも言ってられん状況になってしまったな」
全身から炎が迸る。この特訓の最中、幾度となく敗北を喫したが……今回ばかりは勝たせてもらう。
「思ったより早く出てきたなぁ。どうすんだ、大護?」
反対側にいた冬馬が、国王様の様子を見て俺の元へと寄ってくる。一度深く深呼吸した俺は、冬馬に目を合わせる。
「予定通りに行く。頼りにしてるぜ? 相棒」
「へっ、だよなァ。――任せとけい! 相棒!」