同郷同士
国王様との訓練開始から二十八日目。
――残り、三日。
その数字が俺たちに焦りと緊張を齎す。絶対に突破してみろというモノではないが、やるなら絶対にやり遂げたい。という建前を掲げ、国王様が"炎龍鎧"纏い始めてからマジで勝てなくて悔しすぎるし、そろそろ一泡吹かせたいという本音をなるべく隠す。
ちなみに今日も既に二回負けている。そんな今の時間はお昼を過ぎて、夕方前くらい。
普段はミーナたちとの模擬戦が始まってる時間なんだが、今日はいつもとちょっと違う。
「……とうま、本気で」
「勿論だぁ、ノエルとは一味も二味も違えだろうしなぁ」
訓練場の中央にいるのは冬馬とリンちゃんの二人。それを見守るような位置でミーナたちが見ている。……あ、ノエルが冬馬に突っかかろうとしてレドに止められた。
そんでもって俺の方には……
「……あァ? 何だァその『何でコイツ俺のところに居るんだ、一緒に戦わねえのか』って面は?」
「全部言い当てんな……んで、リンちゃんと一緒に特訓してたんじゃないのか?」
「してたに決まってんだろォが。今回の模擬戦は一人で戦いたいって事だから、そうさせてるだけだ」
「……何か、妹の我侭聞いてるみたいで大変だな、太朗」
「黙ってろ」
俺に冷たい一言を吐き捨てて中央にいる二人の方へと歩く太郎……またの名をゼル。何か前より冷たくなった気がする。
二人の間に着いた太朗。お互いに視線を向けて準備が出来ているかと確認する。勿論二人とも問題ない。
「そンじゃ……好きにやり合え!」
開始の合図とは思えない掛け声で始まった冬馬とリンちゃんの模擬戦。二人とも接近戦を得意とする事もあり、始まりと共にお互いの距離がほぼ埋まり、超接近戦での殴打の応酬が始まる。
一見すると力のある冬馬が有利に見えるが、そうとも言い切れないのが超接近戦。
冬馬もかなりの速度で拳や蹴りを繰り出すが、リンちゃんはその内側に入り込むようにして弾幕を避けながら、細かい攻撃を的確に冬馬に当てていく。
ただ当ててるだけで威力が無いようにも見えるが、完全に冬馬の攻撃の勢いに合わせているから、見た目以上に効いている筈だ。
そのままの距離では分が悪いと感じたのか、冬馬が一度離れようとする。しかし、逃がさぬと言わんばかりの追走で、リンちゃんは冬馬との距離を決して開かせない。
そんな拮抗が続くこと五分弱。
「んだあああああもう!! しつっこいなぁリン!!」
「……えへへ。逃がさないん、だから」
「普段だったら嬉しいかもしれんが今の状況では恐怖と鬱陶しさしか感じねえええええ!!」
何だか効いているのかよく分からない状態だった。ドヤ顔で心中解説してたの恥ずかしいから皆には黙っておこ――
「俺様が横に居るの忘れてンのか?」
「チクショウ! 神は俺に優しくない!! 女神は優しかったのにッ!!」
顔を歪めて、横でケケケと笑い出す太朗。どんだけ似合ってんだコイツ。
「まァ、気ィ落とすなよ。言っちまえば、俺様も同じ事を考えてたからよ」
似合わない慰めかと言ってやろうと思ったが、表情から察するに本当に思っているのだろう。白衣のポケットから飴を取り出し、そのまま口に放り込んだゼルは言葉を続ける。
「今回の特訓が始まってから、リンのやつは間違いなく強くなった。国王が決めた目標にもかなり近付いてるだろうしなァ。……大袈裟に言っちまえば、近距離戦では負ける筈がねェとも思ってたくれェだ」
「……ん? いや、まだ終わってないから、負けるとは――」
俺とゼルの間に、勢いよく何かが割って入ってくる。
「よっと」
勢いそのまま、壁まで到達するかと思われたが、ゼルが"はためかせた事で伸びた"白衣の裾によって止められ、俺たちの間に落下する。
飛んできたのは、今の今まで冬馬と戦っていたリンちゃんだった。
動かないリンちゃんの様子を見かねたのか、冬馬もこちらへやってくる。
「やり過ぎたか? リンちゃーん、大丈夫かぁー?」
「気絶してるだけだから安心しろ。テメエの勝ちだ、赤星冬馬。リンはこっちで休ませておくから、テメエも次の特訓に備えて休んでな」
「そっか……悪ぃなゼル。頼んだわ」
軽く手を挙げて答えたゼルの様子を見た冬馬。「大護も悪ぃけど、頼むわ」と俺にも残してその場を離れる。
リンちゃんは確かに気絶してるだけのようで、見た感じ呼吸も安定している。顔に外傷が無いところを見ると、身体の方に衝撃をもらったのか。