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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
超強化月間
111/148

彼女の決意と

 驚いた拍子に離れてしまった彼の頬へと再度手を伸ばし、自身の掌で優しく包み込む。最初に会った時よりも少し長くなっている、彼特有の黒髪にも手を触れながら、「意外にさらさらしてるのね」と心中でごちる。



 見ているとただの同級生の男の子にしか見えない彼は、この世界の人間ではない。彼女自身、最初に彼とその友達を見た時は、どうしたものかと内心で狼狽えていた。



 "異常な魔力を見かけたら、すぐに連絡をしなさい"。幼少の頃より、父と母からそう教わってきた。何も知らずに、どうしてかと聞き返していた時もあったが、今は違う。



 "人ならざるモノ"の可能性があるから、父と母はそう告げていたのだと、今では分かる。だからこそ、彼とその友達の事は勿論警戒した。そしてすぐに必要がないと分かった。



 なら彼らは一体何者なのか、そればかりが気になった。故に彼女の取った行動は、直接聞いてしまえばいいというものだった。



 直接聞いて、初めは戸惑った。しかし、彼らに嘘を付いている様子は見られなかった。何より、昔読んだ本が脳裏を過ぎった。



 なおの事、彼らの事が気になった。そうして初めは、"彼ら"と捉えていた感情モノが、いつしか"彼"のみに向いた好意モノへと変わって行った。



 そんな彼女の気持ちなど、微塵も理解していないであろう彼へと改めて目を向ける。



 暢気に眠りこける姿からは想像し難いが、彼は彼女の父親に打ち勝った。彼女の中では、いつも最強だったあの父に。



 しかし父は、次からは本気で行くと言っていた。訓練の為に力を抑えていたのは分かるが、仮に本気の状態の父に彼が勝った時、その後彼はどうするのだろう。父は、彼をどうするのだろう。



 ――私は彼を……どうするのだろう。



 そこまで考えたが、先を考える事は止めた。彼がどうなろうとも……どこへ行こうとも、自身がそこに追いつけば良い。そして、彼の隣で一緒に戦えればいい。それだけの事。



 ――だからこそ、



「私だって、負けてなんかいられない」



 静かに眠る彼の頬へと優しく手を当てながら、敢えて彼に届かせなかった決意を、再度口にするのだった。






 ◆  ◇  ◆






 国王様との訓練開始から二十二日目。



「"陽炎"」

「――ッ。"サンダーアロー"!」



 咄嗟に後方へと魔法を放つ。直ぐ近くで衝突音が鳴り響く。鳴り響く直前に前方へと飛び込む。飛び込みながら雷刀を能刀状態で具現化。



 前方の国王様の"偽者"には目もくれず、四肢に雷属性を付与。そのまま後ろを振り向き、雷刀を振るう。



「"紫電――一閃"ッ!」



 俺の振った雷刀は空を切る。おかしいと思えたのも束の間、俺の顔に陰が差す。



 両足の雷属性をさらに強化し、離脱を試みるが……僅かに遅い。



「"炎龍剣"」



 上から振り下ろされた炎の大剣を避けきれず、背中へ重圧と痛みが走る。



「――ァァアアアッ!!」



 痛みに堪えながらどうにか抜け出し、縦横無尽に走り回る。そうしながら背中に魔力を集中し、焼けた背中の治療を進める。



 前までは手を翳さないと行えなかった回復魔法だが、魔力操作の修行のお陰か、自分の治療なら、魔力を集中するだけで可能な状態になった。勿論、手を翳してた方が楽ではあるけど、戦闘中となるとそうも言ってられない。



 ある程度の治療を完了させ、国王様と向き合う。回復魔法を使ったとは言え、魔力は勿論、体力が回復するわけではない。



 俺が多少息を乱す中、国王様からはまだ疲労の色は伺えない。



 このままじゃあ、また負けそうが……そう簡単に行ってたまるかよ。



「"サンダー・ボルト"ッ!」



 使うのは雷属性上級魔法。名前の通り落雷サンダーボルトだ。上空から相手目掛けて雷が落ちる……というのが通常らしいが、



「まだまだ、いくぜッ!!」



 一回の魔法では終わらない。それを重ねる事で生み出す、俺の完全オリジナル魔法――



「"フォース・レイン"ッ!」



 自然現象では到底ありえないだろう、雷の雨。名前を何となく変えたかったのはご愛嬌って事で。



「これは……中々凄まじい魔法だな」



 雷が降り注ぐ中、大検を下段に構えた国王様。静かに呟いたはずの一言が、俺の耳まではっきりと聞こえてきた。



 言い表せないような悪寒が背中を走るが、この魔法を止める訳にはいかない。



「い――ッけオラァァァ!!」



 悪寒を拭い去るように叫びながら、国王様の元へと魔法を走らせる。勿論、逃げ道など与えない。細かく調節をしながら、全ての雷が国王様へと向かう。



「"炎龍――轟炎"!」



 国王様の足元から炎が噴出す。



 しかし……捕らえた――ッ!



 炸裂音が響き渡る中、俺の魔法が国王様を飲み込み、辺りに砂煙が舞う。足元に噴出した炎が何だったのかは分からないけど、その後の動きは特に見られなかった。



 だが……油断は出来ない。相手はあの国王様なんだから。



 砂煙が晴れ始めた時、中央から人影が映りだす。



「この魔法を……こんなにも早く使うことになるとはな」



 ……ほらな、全然余裕で出てきやがった。それになんか自分の身体に炎を纏わせて、如何にもパワーアップしてますよって雰囲気じゃねえか。かっちょいいなチクショウ。



「"炎龍鎧えんりゅうがい"。特訓中に使うことになるとは思っていたが……最初に使うのはトウマ君相手にだと思っていた」

「……そうですか、俺は随分過小評価をされてたみたいですね」



 少しでも状況を理解する為に、話を延ばすんだ。

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