クラスメイトな皇女様
「とまぁこんな流れかな? 信じられないかもしれないけど、全部本当の話だ」
俺は地球のこと、どうやってこっちに来たのか等のことをミーナに説明した。まぁこっちに来てから殆ど時間が経ってないから、ものの十分程度しか経ってないけど。
ミーナは何かを考えるようなそぶりを見せたと思ったら、ふと顔を上げて俺たち二人と順に目を合わせる。ちょっとドキッとしたのは男の子だから。
「なるほどね。大丈夫、信じるわ」
「そうか、信じてもらえてよかった」
それじゃあ、と話を一旦区切り、俺もミーナに質問を投げ掛ける。
「ミーナも一体何者なんだ? 普通だったらミリアル以外の場所から来たなんて思いもしない筈なのに」
「……メリト王国王家の者は、生まれたときから特別な力を宿す。その力とは他の人間の魔力量を見極める力……つまり魔力が見えるのよ。それで貴方たちの魔力を見たら、全く見たことのない量と色をしていた。だから聞いてみたのよ」
「はぁ~成る程な。……ん? 待て待て。てことはミーナちゃんって……」
マジかよ。ホントに通ってるとは――
「私はメリト王国第十五代目皇女、ミーナ=メリト=フィアンマ。以後お見知りおきを」
――メリト王国の皇女様ってやつが。
だからか、学園で"様"で呼ばれていたのも、上級生から一目置かれていたのも、そして"ミーナ"と名前で呼んだときのあの反応も全て納得がいった。……逆に俺大丈夫かな? 知らなかったとはいえ皇女様を呼び捨てなんて……。
「すげぇな! ホントに皇女様なんていたんだ! よかったな大護! 見事なまでにフラグを回収しぶぼらぁぁ!」
「だァまれお前は! 俺だって驚いてんだよ! ちょっとは考えさせろ!」
一旦冬馬のことを黙らせて、今後のことを考えることに。そ、そうだ。呼び捨てはやめた方がいいのか?
「な、なぁミーナさ「言っとくけど今更様なんていらないから。あと、私への接し方も変えないで」
撃沈。
「わかったよミーナ。でもいいのか? 今まで呼び捨てにしてた俺が言うのも変だけど、一般人がこんな感じで……」
「いいのよ。元々自分が上なんて思ってもないし……本当なら、同級生に敬語なんて使ってほしくもない」
「確かに俺がミーナちゃんの立場だったとしてもそりゃイヤだわな。もっとフレンドリーに来いってんだ!」
「……まぁそれでも、敬語もなしに話し掛けられたかと思ったら、いきなり名前を呼び捨てにされるなんて、驚いたけどね」
そう言いながらも怒ってはないようで、ミーナは柔らかく微笑んだ。その向けられた笑顔がなんとも言えなくてちょっとドキッとした。
「……かぁ~! ミーナちゃんその笑顔最ッ高! 俺の心臓も高鳴りまくってるよ全くもう! 一日に三十回は見せてもらいたいね!」
「笑顔なんてそんなに見せるものでも無いでしょ」
「いやいや! その笑顔があればどれだけの人が幸せになれるか! 大護もそう思うだろぉ?」
「……あ、あぁ。そうだな……うん」
何とも返事の難しい事を聞いてくる。そりゃあ可愛かったよ? でも仮にも皇女様だし、んなこと簡単に言えるかっての。
「……まぁいいわ。私からの話はこれで終わりだけど、お二人は他に何かあるかしら?」
ミーナにそう言われて時間を確認してみると十八時を回っていた。時間だけ見るとそんなに遅い時間でもないけど、そろそろ自室に戻るとするか。
「いや、俺たちの方も大丈夫だ。だからこれで失礼するよ。また明日な」
「ええ、二人ともまた明日学校でね」
「じゃあなぁ、ミーナちゃん」
部屋を出て戻りながらふと考える。どうして王家の者にはあんな力が備わっているのか。魔力量が分かるだけならまだしも、人間かどうかを色で判別できるなんて……まるで……
「おーい! 大護ってば!」
「ん? あ、あぁ悪い、ちょっと考え事をしててな。どうしたんだ?」
「だぁから! 俺がミーナちゃんにするはずだった『スリーサイズは上からどのくらい?』って質問をしてないって言ってるんだよ! ……はぁ、俺としたことが……」
俺としたことが……じゃねぇよ! そんな質問編入初日でしようとしてんじゃねえよ! 流石に不安になってきたよ。お前を友達として受け入れたのは間違いだったんじゃないかって!
「……聞いたら俺にも教えろよ」
「流石だ我が同胞よ」
そんな同胞とも別れて今は夜。飯は寮に食堂があったからそこで済ませた。あとは明日に備えて寝るだけなんだけど、俺はまた考え事をしていた。
俺たちがミリアルの人間じゃないことを、他の人にも言うべきかどうかを。
流石に今すぐに、とは思わない。話さなきゃならないことでもないかもしれないけど、何となく話しておきたい気持ちになってる。まぁ全部いつかの話なんだけど。
なんでこんな考えになったのか。ミーナに問い詰められたことも勿論あるけど、それよりも前に考えていたことがある。
俺たちは女神様の力によって地球からミリアルに飛ばされた……つまり、女神様ならミリアルから地球に飛ばすことだって出来る筈だと。
もしそうなってくるならもしかすると、俺たちはいつかミリアルを離れる日が来るんじゃないかと思っている。根拠も何もないけど、ただ、何となく。
「なぁんて、何考えてんだよ俺は。まだこっちに馴染みもしてないくせに」
自重気味に独り言を漏らして、考え事を終了させる。……明日も学校、寧ろ明日から本格的に始まっていくんだ。そう言えば召喚獣とかっていないのか? いるなら俺と冬馬の召喚獣は大変なことになりそうなのに。
部屋の電気を消して、ベッドに潜り込みながらそんなことを考える。それだけで止まらなくなるワクワク感。本当に俺は厨二病かもしれないと思いながら、深い眠りに着いた。