訓練は順調に?
国王様との訓練開始から七日目。
「部分強化がまだ甘いッ! 地帝との戦いの感覚を思い出せ!」
「く――そがァッ!!」
今は冬馬が国王様に扱かれている。ちなみに俺は高みの見物をしている訳ではなく、すでにノックアウトされた状態だ。魔力の余裕はまだあるけど、体力的限界を迎えた。
身体能力の問題を指摘された俺に対して国王様がとった訓練方法は、近距離戦闘をしながらも、魔法を使わせる場面の多い戦いだった。
部分強化を使わないと避けきれないような攻撃を繰り出してきたかと思えば、一瞬でデカイ魔法を構築しないといけないような威力の魔法をぶっ放してきたりと、中々スパルタな内容になっている。
現時点で俺も冬馬も、三十分も戦う事が出来ていない。それぞれ体力と魔力の限界を迎えるからだ。
ちなみに冬馬を相手にする際の国王様の動きとしては、徹底したヒットアンドアウェイ。
冬馬が言われたのは、近付かれた一瞬の内に、渾身の一撃を叩き込む事。無理な場合には、相手の攻撃を見切って避けるか、部分強化で防ぐ事。離れてる時には牽制程度で構わないから魔法を利用する事。この二つらしい。
併せて「多少の怪我ならキリュウ君が治してくれるから、ちょっと強めに行くよ」とも言われたらしい。ただ、国王様のちょっとは全然ちょっとなんかじゃなかったという事実が隠されていたが。
現に、特訓三日目。今の内容の正式に始まった時は、攻撃を防げなかった冬馬が国王様に一撃で沈められた。その光景を見せつけられた後に「次、行こうか」なんて微笑まれてみろ。冷や汗すら引っ込んだわ。
まあそんな状態から始まったのに、そこから四日で数十分戦えるようになったと考えると、大きな進歩と言えるだろう。異論は認めない。
と、そんな事を考えていた俺の横を冬馬が通り過ぎる。自らの足でではなく、吹き飛ばされたのであろう勢いで。
その勢いのまま俺より少し後方へ滑っていく。俺も冬馬が飛んでった方向へ向かい、そのまま回復魔法を使う。
冬馬がこうなっている理由は、国王様の攻撃を避けられず、部分強化で受けきることもできなかったからだ。でもまあ時間的にもそろそろ二十分くらいだったし、いつもと同じ感じだな。
……なんだか見慣れた風景みたいな感じが出てすごーく嫌。
「ふぅ……一度休憩をしようか。その後はまたキリュウ君との戦いから始めるとしよう」
「分かりました」
「……ういっすぅ」
俺たちに一声掛けた国王様は、流れる汗を拭きながら一度訓練場から席を外す。
初日と比べてるといくつか変わったことが三つある。一つが日に二回、一対一の訓練を行う事。もう一つが、国王様が流れ落ちるくらいの量の汗を掻くようになった事だ。
国王様への負担が大きくなってきた証拠でもるけど、自分たちが成長してきたという事でもあるから、何だか複雑な気分だ。
「だったら……少しでも早くパパさんの口から、『私が教えられる事はもうない』的な事を言わせるように努力しねえとなぁ」
「あぁ、そうだな。……ってもう大分回復したみたいだし、回復魔法もいらないか」
「あ、待って。まだ足はプルプルしてるから。復活したの口だけだから。だからもう少し回復を」
「だが断るっと」
離れる俺を止める為に立ち上がった冬馬だったが、足にきているのは本当だったらしく、見た事もないくらい膝が笑ってた。そして「あぁぁあぁ」とか言いながら崩れ落ちてた。
結局、膝の爆笑が治まるくらいには回復魔法を掛けてから、休憩時間恒例の魔力操作の練習に入る。
まだ流石に、手足のようにとはいかないが、大分スムーズに動かせるようにはなってきた。そして、多少なら意識を逸らしても継続できるくらいにはなってきた。
火属性魔法を掌から人差し指の先へ移動。そのまま指の側面を這わせるように移動させていき、最初の地点まで戻す。これを様々な速度で行った後は、可能な限りの速さで縦横無尽に遊ばせる。
途中でわざと意識を逸らしてみたりもしながら大体三分前後はこのまま最高速度をキープする。それが終わったら今度は緩急をつけてみる。この緩急が結構難しい。
速いだけだと何となく勢いだけで出来たりするんだけど、そこにあえて遅くするという操作が加わると、勢いだけではとてもじゃないが続けられない。これを意識せずに出来る様になれば、相当魔力操作に磨きが掛った事にもなるだろう。……多分。
今日は結構調子が良いな。良し良し……このままのペースを保って行ければ――
「ほう、大分上手く操作出来るようになったね」
「わほうっ!?」
急に話し掛けられた事で気が緩んでしまい、操作していた魔法が消失する。
隣で見ていたのであろう冬馬の口から「あぁー」と言葉が漏れる。誰も悪くないし、強いて言うなら話し掛けられたくらいで気を緩めた俺が悪いのは一目瞭然なんだけど……なんだけど――っ。
今出来る精一杯の八つ当たり熱視線を、話しかけてきた張本人である国王様へと向ける。くらえっ。
「わ、悪かったよキリュウ君。しかし良い意味で想定外だな。もうそこまで出来る様になっていたとは……これなら、次の段階に進んでも良さそうだ」
そ、そんな事言われたって、この視線はやめないし、少年Tと違って私はそんなにちょろくなんかないんだからっ。
「大護。すでに視線に喜びが入ってっから。それもうジト目じゃないから。あと誰が少年Tだ」
……俺もちょろイン系男子だった事実はさておいてと。
「国王様。次の段階というのは一体?」
「簡単さ。操作する火属性魔法を二つにするんだ。そしてその二つが決してぶつからない様にしながら、今迄やってきた事を繰り返す。それだけだ」
「成る程、言うのは簡単ってヤツですね分かりたくありませんでした」
「魔力操作は、一朝一夕の訓練でどうにかなる様な代物ではないからね。基本を愚直に繰り返すことが最も近道であり、確実なのさ」
俺の戯れ発言は完全スルーし、喋りながら俺達から離れていく国王様。ある程度の距離だ出来たところでこちらに振り返り、背中の大剣を振りぬく。
「さて、次は二対一の訓練だ。二人とも準備をしたまえ」
そう言えば初日と変わった事の内、最後の一つがまだ残っていた。この二対一の訓練にのみ適用されるものだ。
国王様の言葉を聞いた俺と冬馬は、制服のポケットから指輪を取り出す。勿論、力を抑える指輪だ。そしてその指輪を身に着ける。
最後の一つというのが、満身創痍の状態で、圧倒的なまでの格上と対峙した時、二人で生き延びる事を目標とした特訓だ。
訓練では十五分間どちらも倒れずに終える事が目標になっているが……正直言ってこの訓練が最も辛く厳しい。