高い壁
さてと、お戯れはここまでにして……。
雷属性を全身に付与した上で、目への部分強化も忘れない。先ずはこの状態で戦って、どれだけ持つのかを確認しないとな。
「発動自体は問題なくなったな――」
国王様の姿がぼやけるが、今度はしっかり見えている。その動きに合わせて自分の位置を変え、動く前と同様の距離感を確保する。
「今の動きが出来るなら問題ないだろう」
「免許皆伝ありがとうございます。それじゃあ……行きますっ!」
牽制の意味と自分の力を試す為に、掌に雷属性の魔力を溜めながら、雷属性の速度で国王様へと近付き懐へと入り込む。そのまま国王様の腹部へ手を当て、集約した魔力を解き放つ。
イメージしたのは某戦闘民族の超有名必殺技だ。子供の頃に真似した少年は多いんじゃないだろうか。本物は実際に雷を纏ってる訳じゃないから、形が似てるだけで全くの別物にはなるけど、また一つ夢が叶った。
撃ち終わった後は直ぐに離れてから様子を伺う。砂煙でよく見えない状態だが、俺の魔法は間違いなく当たったと思う。でもあの一撃だけで終わるなんて事は無いだろうし――ッ!?
咄嗟にその場から飛び退く。見ると、先ほど国王様の隣に現れた炎の龍が、俺がいた場所に漂っている。
「中々危険な攻撃をしてくるじゃないか。最初の攻撃で私が怪我でもしていたら、訓練自体がなくなってしまうところだったぞ?」
そんな悪態をつきつつ、砂煙の中からゆっくりと姿を現す国王様。
「そんな事言うなら、少しは苦しそうな様子を見せて貰えませんか?」
予想はしていたが、完全に無傷の状態だ。砂煙から出てきた姿が、俺にはラスボスにしか見えなかった。服に汚れすらついてないとはどういうこっちゃ。
「魔法主体の遠距離攻撃での戦いになると思っていたが……なるほど。氷帝との戦いの時の姿が本来ではないのだな」
「今のも本来かと言われると難しいですけど……良く言えば状況を見て最善を尽くしているつもりです」
「悪く言えば?」
「好き勝手やってます」
「成程」
とは言え、今回の動きは最善を尽くせたんじゃないだろうか。
どうやら国王様は氷帝との戦い方から、距離を保って魔法を撃ち込むのが俺の戦い方だと思っていたらしい。そのイメージを覆した今の動きは、国王様の虚を突く事が出来たんだろう。この調子で行けば、いい勝負に持っていく事は出来そうだな。
「むっ……戦闘中となると表情が読めなくなるのか……ますます面白いな君は」
「そんな形で国王様の虚を突くつもりはなかったでごわす」
軽口を交えながら次の手の為に動き出す。雷属性の身体強化を強め、身体に密着させるように大型の弓を生成。怒りに身を任せて唐突に作った魔法だけど、威力・速度共に申し分なしだろう。この魔法なら、国王様も知らないと思うし。
「"バリスタ"ッ!」
その名を叫び、雷の矢を国王様へ撃つ。迎撃態勢を取っていた国王様だったが、想定外の速度だったのか、驚きを顔に張り付けた状態でなんとか身を捻って回避する。
回避した勢いを活かし、そのまま俺の方へと駆け出してくる。再度迎撃しようと試みるが、国王様の方が早かった。
「"炎龍――龍波"ッ!」
再び具現化された炎の龍の口から放たれる、火属性のレーザー砲。"バリスタ"にて相殺を狙いに行くも押し負け、国王様の攻撃が俺へと迫る。
バリスタとぶつかった事もあり、多少速度が落ちた魔法をどうにか避けようとするが、間に合わない。
「ぐぅっ!」
右足に多少火傷を負ったが、何とか動きには支障は出なさそうだ。隙を見て回復に手を回したいところではあるけど、今は無理だろう。
俺の体制が崩れたところを見逃してくれない国王様は、そのまま俺に向かって突っ込んでくる。先ほど現れた炎の龍の姿はなく、国王様の右腕に炎が纏わりついている。
「"炎龍拳"ッ!」
俺に向かって突き出された拳から再び姿を現す炎の龍。拳の勢いも乗っているからか、これまでよりも速い速度で俺に接近する。
咄嗟に魔力障壁を前方に展開。魔力操作の賜物か、以前よりもずっと強度が上がった障壁は、どうにか炎の龍の進軍を止める事に成功した。
すぐに国王様の方へと目を向けるが、すでに姿はない。
「チェックメイトかな」
「……参りました」
後ろから聞こえてきた声に、そう返答するしかなかったのは言うまでもないだろう。
◆ ◇ ◆
「さて……早速、二人の相手をしてみて感じた事を話すとしよう」
俺との模擬戦を終えてから凡そ十分ほど。ハンカチで拭き取れるくらいの汗しか掻かなかった国王様と違って、俺は大分消耗していた。
冬馬に聞いてみたところ、俺と国王様の模擬戦は大体五分前後しか経っていなかったらしい。その五分でここまで消耗させられた事と、俺に比べて国王様に感じられる体力の余裕さたるや否や。
「先ずはトウマ君。体力と身体能力の高さは、私よりも遥かに良いものを持っているだろう。ただ、それを補うための魔力操作が御座なりだ。本当に何となくで扱っているように感じられてしまう」
国王様の評価に対して「うっ……」と言いながら目を逸らす冬馬。いたずらが見つかった時の子供かよ。
「逆に言うなれば、体力だけでよく二十分以上あの動きが出来たものだ……。君は魔力操作さえモノにできれば、接近戦最強の男になれる。間違いなくだ」
下げて上げる。国王様の巧みな話術により、バツが悪そうな表情は速攻で姿を消し、目を輝かせる少年Tがその場に生まれた。お前はちょろインかよ。
「そしてキリュウ君。君は魔力量、扱い方……そして発想力と、魔法を扱う上で重要になってくる部分は問題ないだろう」
おぉ。良い評価なんじゃないか? でもまあそりゃあね、地球にいた時から魔法にあこがれを持ってた男だしさ、このくらいの事は出来てても良いじゃな――
「しかし、それを支える為の身体能力が心許ないな。そしてトウマ君と同様に魔力操作がまだ甘い」
……まだまだ成長できるという事で、プラスに考えよう。というかなんで俺の時は上げて落とすんですかね?
「二人ともに言えることだが、魔力操作は極めれば極めるほどに、その分の恩恵が返ってくる。キリュウ君の場合、今の凡そ半分の魔力で同威力の魔法が撃てるようになるだろうし、トウマ君は技の威力も上がるし、動いていられる時間もかなり向上する筈だ」
一瞬嘘かと疑いたくなる内容だったが、国王様の真剣な表情を見る限り、本当の事なんだろう。
「君たち二人なら、本当にナックを越えられるだろうと思っている。私をもっと驚かせてくれる存在へと進化してくれ」
恥ずかしげもなくそう言い切った国王様は、そのまま一対二の訓練をするための準備を始めた。
修行の日々は、まだ始まったばかりだ。