パパPOWER
――てな訳で、パパさんとの模擬戦をやる事になったんだが……言いたかねえが、ちょぉっと不安になってきたってのが本音だ。
勿論、負ける云々とかそういうんじゃねぇ。俺自身の実力が、どこまで通じんのかが不安なんだわ。
言っちまうと、パパさんは地帝のおっさんより強え。絶対に。それも僅差でとかじゃなく、圧倒的に……だろうなぁ。
たった今パパさんに部分強化を教わったとは言え、使いこなすってのは到底無理な話だろうし、とりあえず全力でぶつかるっきゃねえかぁ。
「私との戦いが、そんなに不安かねトウマ君?」
「……ビックリさせないでくれパパさん。大護と違って、俺は表情を読まれる事に慣れてねえんです」
「悪かったよ。見た事がない程に神妙な面持ちだったからさ、つい言ってやりたくなってしまった」
「そんなんじゃミーナちゃんにも愛想付かされちまうぜ?」
「仮にそうなったとしても、私自身の愛があるから大丈夫さ」
確かにそんな気はするけどよ、パパさんのその自信はどこから来てるんだろうなぁ。聞くと長くなりそうだから聞かねえけど。
自分の気を引き締める為にも、両手で自分の頬を二、三回引っ叩く。顔面がひりひりするが、不安な表情は掻き消えただろうよ。
「不安なんざしてても無駄って事で……最初から全力で行くぜ! パパさん!」
身体強化の第三段階を身に纏い、パパさんに対峙する。
「勿論だとも……来いッ!」
返事を聞き終わるかどうかのタイミングでパパさんへと突っ込む。
「オォォォッラアァァ!」
様子見なんて事は考えねえし、考えられねえ。全ての攻撃をぶち当てにいくつもりで叩きこんでやんよォッ!
◆ ◇ ◆
おぉ。部分強化ってこんなに変わるのか、確かにこれが実際の戦いの時に常時出来てるのと出来ないのとじゃ大違いだな。
目が良くなるっていう表現よりも、動体視力が良くなるって考えの方が合ってるかな。かなりの速さで動いている冬馬と国王様の動きを追い続けられる、みたいな感じだし。
でもこれを続けながら、全身に身体強化を施し、更には攻撃やら防御の為に各所に部分強化を施すとも考えて……もう身体強化の上から身体強化重ねた方が早くね? とか思っちゃうけどできるもんなのかな。
ちなみに二人の模擬戦が始まってそろそろ十分程度が経とうとしているが、ここまで見た感想は、まさに大人対子供の状態……って感じだ。
冬馬が様々な角度・体勢から蹴りや拳、たまに頭突きといった変化球も折り混ぜた、攻撃の連打を繰り出す中、国王様はその全ての攻撃を避けずに、受け止めている。
一見すると逃げる余裕が無く、辛うじて止めているように思えるが、冬馬の呼吸が乱れ始め、汗が飛び散り始めても、国王様は汗一つ掻いていない。それどころか、始まった場所から一歩たりとも動いてすらいなかった。
冬馬の物理攻撃の強さは良く知っているが、あれを受け止め続けて汗一つ掻かず、勢いに負けずに後退もしないというのは考えられない。
地帝よりどれだけ強いんだよ、国王様は……。
その光景はそこから更に十分ほど続いたが、疲労に負けた冬馬が膝から崩れ落ち、降参を告げたところで終了となり、休みを入れる事なく続けて俺との模擬戦へと移る。
改めて国王様の様子を見てみる。流石に少しだけ汗が滲み出ている様子はあったものの、変化はそれだけだった。先の模擬戦を見てない状態で、準備運動をしていたと言われたら間に受けるぐらいの変化だ。
「そんな事はない。トウマ君の相手は中々骨が折れたさ。年甲斐もなく熱くなってしまった」
「鏡でご自身の様子をしっかり確認してから言ってください。あと心の深いところまで読みきるのはやめてください」
「無理な相談かもしれないな。何だか楽しくなってきてしまったのだよ」
「年甲斐もなく何を言ってるんですか!?」
ダンディズムなおじ様だった印象が一気に、老けた同級生へと変わりそうだ。何か別の事を考えてみるか。えーっと、ミーナを俺にください。なんちゃって。
「どうやら本気で行くべき時が来たようだな少年」
「国王様ジョークッ! イッツァジョォォォクッ!! その龍に抗う術すべは今の俺には無いから!! プリーズヘルプミィィィィ!!」
俺の必死すぎる命乞いに「…………冗談だよ」と言いながら隣に出現させた炎の龍を消した国王様。ただ分かってる。絶対に冗談なんかじゃなかった。だって急に"少年"とか呼ばれたし、冗談の一言の前にスゲェ間があったし。
国王様の前でミーナを使った冗談はやめておこうと心に誓っていた時、正気に戻った(筈の)国王様から「フッ」というような笑い声が聞こえた。
「私の炎龍に対して、"今は"抗える術が無い……か。この先が楽しみだよ、キリュウ君」
どうやら咄嗟の一言の一部に引っかかりがあったらしいが、マジで死ぬかもしれないと思ってた俺にそんな事を考える余裕がなかったのはここだけの話だ。
「今のは敢えて触れない事にするよ」
「やっちまった」