部分強化
国王様との訓練二日目。
朝から訓練場へと集められた俺たちの手元には、昨日までとは違い、大剣を背負っている国王様から渡された、一枚の紙があった。
どうやら昨日の模擬戦によって浮き彫りになった、それぞれの長所や短所、これからの特訓方法や一人で特訓するときの効率的な方法、最終的にどこまで強くさせるかという目標まで記載されているようだ。
みんなの目標として書かれていた事は、学園のメンバーたちは"カゲツ=ルルフィルと肩を並べる"。ゼルとリンちゃんは"帝以上の力をつける"。俺と冬馬の目標として書いてあったのは"ナックを越える"という文。
ナックさんを越える……文章だけ見てもいまいちピンとこないところがあるけど、恐らくそう簡単にはいかないだろう。
「各々紙は見てくれただろうか。先ずは記載されてる早速本日の訓練に移ろう。何かあれば遠慮なく聞いてくれ。あと、キリュウ君とトウマ君は私の所へ来てくれ」
国王様の一声で各々分かれ、俺と冬馬は国王様の元へと移動する。
「昨日話した通りだが、二人は基本的に私との模擬戦をしてもらう。最初は一対一、その後少し休憩を挟んで二対一の試合をしよう」
「えっ? 俺たちは大丈夫ですけど、それだと国王様が――」
大変じゃないですか。という俺の言葉は、喉元に現れた大剣の刃の部分と、後ろから聞こえた国王様の声によって阻まれた。
「心配してくれた事には感謝をするが……まだ何か言葉が必要かな?」
「……余計なお節介、大変失礼いたしました」
「スゲ……今のは、俺でも防げんわぁ」
いつの間にか抜かれていた大剣を背中へ戻し、改めて俺達の前に立つ国王様。
「今のが見切れないとなると、まだ身体能力に頼りきりになっていると見られるな……二人とも、一度魔力を全身に集中させてみてくれ」
言われるがままに全身へ魔力を流す。イメージ的には、体中に薄い膜を張るような感覚だ。このぐらいなら問題なく出来る。
「よし。そのまま目に魔力を集中させてみるんだ。全身に張り巡らせた魔力は、一切揺らさないように意識しながらな」
またも言われるがままにやってみる。正直、体感的には何が変わったのかはよく分らない状態だ。
「二人とも上出来だ。その状態を保ったまま、私から視線を外さないようにしてくれ」
国王様の事をジッと見る。普段と特に変わらないダンディズムなおじ様だとか馬鹿な事を考えていたが、次の瞬間、その姿が一瞬ぶれる。
驚きも束の間。国王様は、またも俺の背後へと回っている状態だった。たださっきと一つだけ違う点があった。
「キリュウ君、一瞬目を瞑ってしまった事が、今のトウマ君の反応との差だよ」
その違いとは、冬馬は場所を移動しており、俺の対面に居るという事だった。
「先程二人の背後を取った時に比べて、私の移動速度は変わっていない。寧ろ少し速くしたくらいかな。それでもトウマ君は見事に反応し、キリュウ君も瞬きをする直前の動き出しは見えていた筈だ。これが身体強化の応用版、"部分強化"になる」
"部分強化"……確かレイトの奴もそんな事を言っていた気がする。
「これを自由自在に操る事で、移動速度や物理攻撃には勿論の事だが、防御性能も高められる。地帝はこれを呼吸をするように扱いこなしているから、トウマ君の攻撃が中々通らなかったのさ」
逆に言うと、途中から攻撃が通り始めたのは一体何故だ……? 単純に魔力量が多いからとかか?
「それもあるが一番の要因は、魔力の扱い方が変わったからだな。分散していた魔力が拳という一点に集中させていた事が大きいだろう。無意識かもしれんがね」
正面にいる冬馬が「えへへ」と言いながら照れている。やめろ気持ち悪い。あと国王様、何で後ろにいるのに、俺の心の声が分かるんですかね? ミーナにも同じ様な事やられたけど、王族はそんな力も持ってるのですかね?
という俺の思いは、嬉しいのか悲しいのか分からなくなってきたが届かず。その間に国王様が、俺の背後から俺と冬馬の間に立つように移動する。
「キリュウ君も目を瞑らなければ、私の動きを見切る事は出来た筈だ。初めての部分強化によって、慣れない光景に戸惑うという気持ちは分かるが、これが出来ないと後々厳しい事になる。先にトウマ君と模擬戦をするから、空いた時間に練習していてくれ」
そう言いながら冬馬と一緒に移動して行く国王様。……身体能力関係の事ならまだしも、魔法関係で冬馬に先を越されてしまったのが少し悔しいが、国王様と冬馬の戦いを見ながら練習するとしよう。