早速訓練開始
「皆の決断に心から感謝する。……早速だが、本日から訓練を開始し、学園の長期休暇であるこの一月は訓練に集中してもらいたい。先ずは皆の現状を確認させてもらうために、準備を整えて訓練場に来てくれ」
国王様の一声の後、みんな俺の部屋から出て行く。俺は自室だし、特に準備する物も無かったから、そのまま国王様と一緒に一足先に訓練場へ向かう事にした。
長期休暇の影響と、時間も夕方近くと中途半端な時間だったからか、訓練場に俺と国王様以外に人の姿はなく、貸しきりの状態となっていた。
他のみんなが来るまで身体でも解しておこうかと考えていたが、到着するや否や国王様が話し始めた。
「キリュウ君。一つ確認なのだが、氷帝との戦いで使っていた混合魔法……あれは以前から使用していたのかい?」
「いえ、知識としては知っていましたが、実践で使ったのは初めてでした。消費魔力の関係で、ゼルには慣れるまでは実践では使うなって言われましたが」
「やはりか……あの魔法を使った時だけ異常に魔力が漏れていたから、まさかとは思っていたが……あの魔法を極める為の練習方法は知っているかい?」
「具体的な方法という訳ではないですけど、ゼルから聞いた話では、魔法と魔法の繋ぎ目を担っている魔力の使い方を考えろって言われました」
俺の返答に軽く頷いた国王様。
「なるほど。そこまで話が進んでいるのであれば、いい手段が有る。私の右手を見ていてくれ」
掌を上向きにした状態で俺の方へと右手を伸ばした国王様は、テニスボール程の大きさを持った火の玉を生み出す。恐らくサイズを小さくした"ファイアボール"だろうが、そのサイズからは考えられない程の強い熱量を感じる。
そして"ファイアボール"の隣に小さな風を呼び発生させ、その風を使って"ファイアボール"を自由自在に動かしていく。
右手という小さな舞台で起こっている出来事だったが、その動きと繊細な魔力の扱い方に俺の目は釘付けになった。
「私は火属性以外はからっきしだから、こんな物しか見せる事ができないのが申し訳ないが……混合魔法を扱いきるには、とても繊細な魔力操作が必要不可欠だ。この程度の大きさの魔法であれば、手足のように自然に……あわよくば無意識にでも扱えるようになれるといい」
ぼふんっとでもいうように、国王様が操っていた魔法が消える。俺も見よう見真似で挑戦してみるが、多少操れはするものの、やはり動きが少しぎこちない。
"ウィンド"の魔力を強めて……そう考えた時にはすでに"ファイアボール"が消えてしまっていた。自分で言うのもなんだけど、最上級魔法を使っての混合魔法は、一応上手くできたのに、どうしてだか、こちらの方が難しく感じる。
「その疑問は尤もな事だが、至極簡単な事だ。大きな力を使おうとすると、その分だけ意識を集中させると思うが、自分の力量より遥か下だと思っている事をするのに、わざわざ意識を集中させたりしないだろう? だからこそ"思っていたよりも出来ない"という現象が起こる」
なるほどそういう事か。逆に無意識でも繊細な動きが出来るまでになれば、緻密な魔力操作にも自然と磨きが掛かる。
……何だか初めて魔法を使った時くらい燃えてきた!
「凄く理に適った方法ですね! これなら部屋でも気軽に出来そうだし! よっしゃあ、やったるでーい!」
「その意気だ。有る程度形になったら、次の段階についても説明しよう。そしてそれ以外の時間は、主に私との戦闘に時間を充てる事にしよう。大丈夫だと思うが……氷帝に勝ったからと言って、慢心などするんじゃないぞ?」
静かにそう言う国王様――【炎帝】からは、今まで感じた事のない重圧があった。
「――っ! 勿論です、宜しくお願いします! ……それと国王様、折り入って相談があるのですがいいですか?」
「大丈夫だが、どうしたんだい急に?」
「俺のこの心の読まれ易さを払拭する為の訓練とかってないですかね?」
「……個性は大事にする事だね」
「俺はこれを個性だとは思ってないんですけど!?」
つい先程感じた重圧は一瞬で身を潜め、そこにいたのはお茶目な国王様だった。
その後、全員が訓練場に集ってからは、一人ずつ国王様と模擬戦をするという事だけだった。時間も約五分程度とかなり短めだ。
その模擬戦が終わったら、国王様は直ぐに王宮へと戻り、残りの時間は各々訓練に当たるようにと……つまりは自主練習のような時間となった。
短い模擬戦でも、各々助言は貰っていたみたいで、ノエルとレドなんか、その後はリンちゃんを捕まえてずっと戦ってたな。
俺はその戦いを見ながら、国王様に教わった魔力操作の練習を徹底的に実施。お陰で大分自由に動かせるようになってきた。
明日からは、本格的に国王様との模擬戦も行われていくだろうから、この練習は部屋とか休憩時間とかでやっていかないと。そう感じた訓練一日目だった。