皆の意思
「君たちの強さには恐れ入った、だが同時に愕然とした。それだけの魔力・身体能力を持っているのに、何故扱いきれていないのかと。答えは簡単だ。使った事が無い強大な力なんて扱える筈がないと」
……今はもう少し使える様になってる筈だ……と思いたい。
国王様は首を振る。
「いいやキリュウ君、まだまだだ。割合で言うなれば三割程度と言ったところだろう。氷帝には勝ったが、アイツ本来の戦い方はしていない状態での勝利だ。そんな勝利で、君は満足できるのかい?」
……段々と腹が立ってきた。いや、めちゃめちゃ正論言われてるんだけどね、そこまで言わなくても良いじゃん? って思ってね。
「トウマ君は、地帝本来の姿を引き出せはしたが負けた。一つ問おう。君は何故あの時に負けたのだと思う?」
「何故って……俺の力が足りねぇからだろぉ?」
「確かにそうだ。確かにそうだが、あまりにも曖昧すぎる。明確な理由が一つ……いや、今回は二つか。ある事に気が付いていない。それを見つけられなければ、君は今後、地帝には勝てない」
冬馬のこめかみに青筋が立つ。熱が出てきた国王様の隣でミーナが頭を抱えている。「またか……」と言わんばかりの表情を浮かべて。
「だが……もう一つ愕然とした事がある」
少しだけ熱が下がり、冷静な声で話を続ける国王様。それでもちょっと八つ当たりしたくなってる俺がいる。
「ここまで自分の力を扱えていない少年たちが、私の用心棒であるルルフィルを事実上負かし、大切な娘を守ってくれて、最強と謳われる帝に対し善戦をしてみせた。……そんな男たちが、自らの力を自在に操るようになったら一体どうなるのか……とな」
声だけでなく、その表情までも落ち着いたものへと変化していく。その変わり様に、俺も冬馬も、呆れた表情を浮かべていたミーナでさえも、完全にポカンといった状態だ。鳩が豆鉄砲を喰らった、というのを見事に体現しているだろう。
そんな俺たちの表情を気にする事なく、国王様は更に続ける。
「恐らく君たち二人は、私はおろかナックの力すら超えられる。……少々話が逸れてしまっていたが、結論を話そう。――私の訓練を受け、共に最前線で戦ってくれないだろうか? 他の皆は最前線とは勿論言わない。この国を……この世界を守る為に、一緒に戦ってくれないか?」
国王様が話し終え、部屋には一度静寂が訪れる。何か返答を……そう思った瞬間、急に冬馬が俺の肩に腕を回した。
「大歓迎だぜパパさん! それに、俺たちがこっちに来る事になったのも、ミリアルを救ってくれって頼まれての事だからよぉ、こっちからお願いしたいくれぇだ!」
そう言ってから「そうだろ? 大護」と言わんばかりの表情を浮かべて、俺にウィンクをかます。
……本当にコイツは、こういう時に無類の安心感をお届けしてくれる。
「冬馬の言う通り、俺たちは勿論協力します。ただ他の皆がどうかは分かりませんけ――」
そう言いながら皆へと視線を向けたらメッチャ睨まれ……って怖っ!?
「キリュウ君……アナタ、まだそんな事言ってるの?」
国王様の隣にいたミーナが、いつの間にか俺のすぐ近くへと移動してきてそう言った。
「アナタたちがあの男に負けた時、私言ったじゃない。"みんなで強くなりましょう"って。アナタたちばかりに負担を掛けるほど、私たちは弱くないわ。……それに――」
「……それに?」
「アナタに守ってばかりいられる女じゃ……いられないもの。そうよね、アリア?」
急に話を振られた事で「ふえぇ!?」となるアリアだったが、少し考える素振りを見せた後に、力強く頷いた。
「オレたちだってやってやるぜ!」
「そうそう! それにダイゴとトーマだけ特訓するなんてズルイしさー!」
「ボクもレイアさんの気持ちには同意だけど、今はその私情は言わなくても良かったんじゃないかなぁ」
「良いんじゃないですか? らしさが出ていて」
アリアの反応を切っ掛けに、他のみんなも騒ぎ始める。これでいいのか? かなり大事なことなのに、そんな感じで決めちゃって……。
もう少し真剣に――という言葉が出かかったが、威力を抑え目にして、腰元に飛びついてきたリンちゃんによって阻まれる。
「……だいじょーぶ、りんたちも、いる」
「リンの言う通りだ桐生大護。俺様たちじゃァ前線にゃ恐らく行けねェが、その分コイツ等と一緒に動けるからよ。だからンな面見せてんじゃねェよ。また色々言われんぞ?」
リンちゃんと一緒に移動してきたゼルにそう諭される。自分の表情を見ていないから分からないけど、どんな顔してたんだよ俺は。
……でもそうだな、みんな自分で大丈夫って言ってるんだ。俺がとやかく言う事でもないか。
「ありがとう、ゼル。それにリンちゃんも」
二人にお礼を告げた後、国王様の方へ顔を向ける。
「とまあ、思ってたのと大分違う風景が流れているかもしれませんが、俺たちの意思はこんな感じです。改めて宜しくお願いします。国王様」
「本当に……君たちには驚かされてばかりだ」
国王様の表情が、先程までの険しい表情から、王宮の時に見せていたような優しい表情へと戻る。
「だから言ったでしょうお父様。こういう人たちなのよ、私の友人は」
国王様の隣へ戻りながらそう話すミーナ。俺の部屋に来る前に何か話をしていたんだろう。二人の会話だし、あまり俺から深く掘り下げる事はしないけどな。
ミーナへと軽く微笑んだ国王様は、またも表情を引き締め、俺たちに言葉を投げ掛ける。