前振り
4月上旬、所謂春。
太陽の日差しが木漏れ日となって降り注ぐ中、使い古した鞄を持って歩く。周りではまだ幼さの残る新入生であろう生徒が型崩れのないキレイな制服を着て歩いている。
「ふっ……あぁ」
そんな中で俺はあくびを1つ。そしてグッと背伸びをしつつ、歩を進める。
今日から新学期。俺こと桐生大護は高校3年になり、受験やらなにやらで忙しくなる年だ。でもまぁ、成績は学年でも上の中程度だし、問題ないだろう。
木漏れ日の道を抜けて、そのまま直進。少ししたら左に曲がって5分程歩いたところに俺の通う学校がある。
長くなってきた黒髪を気にしながら校門を潜り、そのまま3階の俺のクラスに向かう。教室に入り、クラスメイトと軽く挨拶をして席に着く。
「よっ!随分とのんびり登校してきたな。生徒会長さん」
「よっ……って、普通に名前で呼べって言ってるだろ、冬馬」
呼ばれた方を見ると、茶色い髪の毛が目に入った。その髪の下には人懐っこそうな笑顔を浮かべた、俺より頭半分ほど背の高い男子生徒、赤星冬馬がいる。こいつは俺の親友で、小学校からずっと一緒に過ごしてきた。
「とゆうか、またお前と同じクラスかよ。ホントにやめてほしいよな」
「待ってくれ大護。普通にその一言は傷付く」
冬馬を弄ってるところでチャイムが鳴る。いつも通りの日課を終えた俺達は、始業式の行われる体育館に向かった。
「───以上で終わります。生徒会長、桐生 大護」
拍手を受けながら自分の席に戻った俺は
「……ふぃ」
小さくため息をこぼす。人前に立つのはやっぱり緊張する。現に今もまだ若干心拍数が早い。早く家に帰って趣味に没頭したいところだよ。
「それではこれにて始業式を終了します。各クラス順番に退出してください」
そうこう考えているうちにいつの間にか全てのプログラムが終わっていたから、俺達のクラスも戻ることになった。
「お疲れさーん生徒会長。素晴らしい挨拶でしたねぇ」
「始めから寝てた奴がなに言ってんだ」
まぁ確かに暖かくなって眠気が強くなるのはよくわかるが、そんなに速攻で寝れるか普通。
「ちゃんと聞いてたって。いやぁ、あれはよかったよ、みんなで魔方陣を書いて魔法にチャすみませんでした!もう言わないからその指はギャアアアアアッ!」
「このやろう。今度学校で言ったら目潰しだからな」
「もう既に実行済みだよねこれ!?」
俺としたことが、体が反応してしまっていたなんてな。……まぁでも、こいつがからかってくるのも仕方がないか。
18にもなって魔法とか異世界が大好きなことなんて。でもカッコいいだろ!?手から火とか出るんだぞ!光とか雷なんかも操れてさ!人間誰でも1回は憧れを持っていたときもあるだろうって絶対!
とまぁこんな感じで冬馬に熱弁してしまったのがきっかけでアイツだけにはばれてしまっている。
自分でも痛い奴だとはわかってるし、そんなことなんて絶対にあり得ないこともわかってはいるけどさ
もしも
もしも本当に
異世界があるとするなら
魔法が使えるなら
行ってみたいよなぁ。