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子柴のさんぽ   作者: chima
人生の終わり
2/26

柚月、事故にあう

 

 後れ馳せながら柴田 柚月(しばた ゆずき)と申します。19歳の大学生。幼い頃、いくら頼んでも犬を飼うことを許してもらえなかった。状況が変わるのは、我が家に空き巣が入ったことからだった。頑なに首を横に振るばかりの両親祖父母が揃って番犬を飼うことに賛成と頷いたのだった。


「チワワ! ポメ! どっちかがいいよ」


『可愛いけど番犬にならないからね』


 当時は、超小型犬が大人気。特にチワワが人気で私もその一人だった。できれば超小型がかわいいと思っていた。


 しかし、愛玩動物を求めているのでは無かったのでブリーダーさんに相談したところ親犬がチャンピオン犬という二ヶ月前に産まれた柴犬五兄弟がいるとの事。


『家族にもドライだったりクールな部分も多いですが、服従心や忠実さも持ちながら保守的で防衛心も強く、番犬には最適だと思いますよ』


 自立心もあり考えて番もできる。長寿種で大きすぎることもない小型犬。お値段も手頃にしてもらえるとのことで、リーダー的存在の雄柴を家族へ迎えた。11歳夏の事。


 彼は柴と名付けられ、伸び伸びのびのびとぷくぷく育った。忠犬という印象は薄いがツンデレな彼にやられた。気づけば柴犬の事ばかり考える、柴犬グッズを集める、柴犬を探して歩く、柴犬を検索する。柴づくし。


『喋らなければ可愛いのにね。残念だよね、犬バカ柚月って。』


『だよね。華の女子大生なのに恋愛興味なしってね』


「犬バカじゃないし、柴が好きなだけで恋愛だっていい人がいないだけ」


『はいはい。いつか出会えますね~』


 お分かりだろう。私の人生においての主人公は柴犬。周囲に魅力的な異性はいなかったからなのか、初恋は柴と出会う前にあるものの以降は恋愛から遠のいていた。それでも構わなかった。いつか、出会うと思っていた。そのうち現れるだろうと。それは、叶うことなかった。


 それは、桜の蕾が柔らかくそろそろ咲くだろう3月の出来事。学校帰りの午後のこと、ぽかぽかと気持ちのよい空気にさぞ犬達は走り回っているだろうと公園に併設されるドッグランへ寄って行くことにする。


「おうおう、居ますなあ」


フェンス越しのよくみえる位置にあるベンチへと腰掛け、マグの緑茶片手に公園を見渡す。この公園は都内では大きい方で端のほうにドッグランは位置している。すぐそばは、駐車場があり面する道路はさほど交通量は無いため猫が日向ぼっこしている。道路は危険だが、ドッグランの環境としては都内なら合格ラインかなと思う。(何様だよ!)


公園の反対側には断然利用者が多い駐車場があり、そばには夏になると子どもが水遊びをする施設があり、そこで犬を洗ってから帰る人もいるようである。もちろん、個人的な意見としてはよろしくないと思う。都内なので戸建てよりもアパートやマンション暮らしの人も多く、自宅よりもここの方が洗いやすいのはわかる。温度も冷たすぎないらしく最適なのだろう。


結果、あちらの駐車場は人気でこちらは静かな訳である。まあ、それでも道路には車が少なくても走るので子どもから目を離す親はいない。飼い主もドッグランでは気を付けている人の方が多い。


「あー、あのお尻と脚の筋肉たまらんなあ」

「わちゃわちゃして、あ~、癒しだわ」

「お茶美味いな。」


ひとり暮しあるある。気づかないままひとり言を呟いてしまう。そう、大学生になると同時に都内でひとり暮しをはじめた。とはいえ、柴と離れたくないので週末は実家で過ごす。ペット不可のアパート暮らしは、ひどく寂しくアイドルポスターならぬ犬カレンダーを部屋中に配備してある。


「お、あれよく見るよな」


フェンスで遮られてるのを理解して猫が犬を挑発する。犬は苛立っているようだが、猫は構わず届かない場所で毛繕い。


さて、そろそろ帰るかと腰をあげ歩きだす。すっとその時に何かが横を走ったような気がして顔を向けると、一匹の柴犬が走る姿。


は?っと一瞬考え後ろをみるとドッグランの扉が開いており、飼い主は気づいているようだが呼び掛けるのみで急ぐ素振りもない。余計のお世話かもしれないが、小走りで犬を刺激しない程度に追いかける。


「……あぁ、よかった。ハァハァ……運動不足だわ……」

おそらく飼い主の車であろうワンボックスカーの側で座ったので一安心。


『バウッ!バウッ!バウッ!』


低く吠える声に顔をあげると道路には猫がいて、猫は警戒しているが犬は今にも飛びかかっていきそうだ。これは危ないと思ったと同時に犬が道路へ走り出す。


「…?! まじかーーー!」


思わず叫びながら追いかけるが犬は一直線に猫へと向かう。はやく逃げてよー。飼い主なにしてんのよー。頭のなかは苛立ちと焦りがぐるぐるまわる。


「まってまってまってー、待て! Wait! Stop it! Stop!!」


『?!』


車道一歩手前で声に気づいた柴犬が立ち止まり、ビックリして逃げようとする直前にリードを掴む。こんな強引なことして噛まれても文句言えないが構わない。意地でも離さないぞと、なるべく穏やかに手の匂いを嗅いでもらう。


柴犬は困り顔のような眉を下げた表情をした後、首をかしげる。戸惑ってはいるようだが、攻撃はうけないようで安心。


「ごめんね、飼い主さん待とうね」


飼い主さんも走り出して驚いたようで、さっきよりははや歩きでこちらに向かってきている。


(普通、走らないかな?)


そういえば、と辺りを見回すと自販機の影に猫が隠れている。そのまま動くなよーっと念を送っとく。


『すみませーん、ありがとうございますー』


「いえいえ、気をつけてくだ……ぇっ"キキーーー、プァーーキュルルル……ドンッ」


何が起こったのか、よくわからないが強い衝撃に一瞬だけ息がつまった。不思議なことに痛みのような感覚も衝撃もすでにない。まるで重力がないかのようなふわふわしている気分。


いつの間にか、私の意識は薄れ眠りに落ちていた


夢を見た。


「何で泣いてるの?お母さん、お父さん」


話しかけても気づいていないのか。まるで喪服のような服。


『ゆずちゃん……バカな子……バカゆず!』

『……ゆず……柴が寂しがるぞ……』


沢山の花の奥にある、更にその奥の箱はどうみても棺にしかみえない。何となく窓を覗くのを躊躇う。


「はやく覚めないかな、でも自分が死ぬ夢って開運の御告なんだっけ」


『わんっ!わんっ!わんっ! 』


はっ!っと目をむけると…… 柴!!!

私の方を向きながら『ねえ、ねえ』と呼ぶように吠える。静かにしなさいとお母さんに言われてるけど、柴の視線はこちらにあり不思議そうに首をかしげる。尻尾はブンブン振って…… かわいいやつめ。


「しばー!」


『わふっ、はふっ』ムシャムシャ


そうかそうか、声は届いているのか。そしておやつが大事か。分かってたさ。ダメ柴だったな君は…… そんな所も好きさ……


ふぅ。そろそろ飽きてきたな。こんな夢の時は棺の自分を除くと遺体の自分の目が開いてキャー!って目が覚めるんだよね。


「……よし! せーの!」


…………ん? これって私だよね? ガーゼが痛々しくて酷いな、それにこんな顔だっけ? 何でこんな傷だらけなのよ。相変わらず喪服の人達がいるし、しぶとい夢。壁に頭打ち付けて……幽霊設定だから意味ないか……。


『わんっ!わんっ!わんっ!』


怒られるぞ柴よ。鬼が来るぞー。どうせ見るなら柴犬にもふもふできる夢が良かった。柴犬になら踏まれても構わない。柴と戯れたい。


『おーい、そろそろ良いか?』


「ん? 柴が喋ったのかい?」


『んなわけあるか!!』


「いや、冗談だし」


誰だよと振り返っても誰もいない。気配が上にあるので見上げると……

なんと神々しい男性か。ブロンドの長い髪に物腰柔らかそうなゴールデンレトリバーを思わせる風格。たまらんばい。じゅるっ


『こほんっ、柴田 柚月。ソナタは天寿を全うした』


「(イケメンやなあ、柴の次にね)」


『そなた…… 聞いておるか?』


「(変な話し方)」


『……おい!! お前聞こえてねーの?』ドーンッ


「わっ!!びっくりした」


目の前の人が手を叩いたら雷が落ちたかのような音が何処からか鳴り響き、この人が普通の人ではないと気がついた。


「失礼しました!」


『チッ、まあいい。お前は死んだ、夢じゃない、いいな?』


「よくないです!」


訳もわからず死んだなんて頷く人いたら見てみたい。なんてこと言うんだこの神様は、悪魔の間違いか?


『心の声は口に出したら意味ないぞー』


「……たびたび失礼しました……」


『ふぅー、どこまで理解してる? 死んだの分からなかったのか?』


「死んだ覚えはありません」


なんだその哀れみの表情。死んだとか言われても現実味ないし。でも、このお葬式は夢じゃないってこと?


すとんと今まで馬鹿にしていた事実が胸に落ちてきた。そっか、私は死んだんだね。そっか、そっか。


『お前は認識に緩急ありすぎだな。いきなり全て受け入れたか、落ち着けよ。魂分裂したくないだろ』


なんだか、とんでもなく恐ろしい発言が聞こえた気がした。もう少しネガティブに入っていきたかったのに、哀しむ見せ場のはずなのに、駄目だわぶっ飛んだわ。


てかさ! 神様って口悪いの? イメージ違うんだけど! 神社で奉られてる神様もこうなのかな、少しショックだな。いや、違うよね。きっと、他の神様は違うよね!


『おいこらクソガキ』


「なにか」


せっかくのイケメンが台無しだな。残念だ。あー残念。


『チッ、あー!! お前みたいなやつ初めて会ったわ。俺が神って認識できたんなら罰受けるとか思わねーの?』


「私にとっては柴犬との憩の時間終了のお知らせなのです。つまり、これからの人生を考えると犬がいない、それだけで最大の罰なので。へっ、あーあ、何でもいわ。てかね、全て理解しきれてないのにどんな反応してほしいのよ。普通って何なのよ。あんた、いきなり死んだって伝えられて理解はできましたよ。はい!その後どんな反応する訳よ。ぶっちゃけ! そんな短時間で全て滞りなく居られるかっての!! 滅茶苦茶なのが普通であって、そもそも神様なら死ぬ前に助けやがれ! ってのが本音だけど言わないであげるだけいいと思いなさいよ。いい加減どうして死んだか教えろっての! もたもたもたもたねちねちねちねち、あーやだやだや…………」


『…………』


「な……なぁんて、へ……へへ」

やっちまったぁぁ!!

申し訳ありません。不手際により別にこのページを書いてしまったので引っ越してきました。

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