96ページ目 大事な話
シャル視点
昼過ぎ、昨日クロが指定した時間。
何人かは来ない人がいるかもとか思ったけれど、バッチリ集まった。
むしろ増えている。
気ではなく確実に増えている。
それでもクロは淡々と説明を始めていく。
「それでは、昨日最後にお願いしたスキルの習得は出来ましたかー?出来ていない方は後日今日マスターされた方にお聞きしてくださいねー」
クロは暗に昨日いなかった者には新しく教えない、今日準備が出来ていない者にも教えないと言っている。
それを分からない数名は文句を言って来る。
「おい!俺たちは昨日いなかったんだ!初めから教えてくれよ!」
「残念ながら今日は魔力領域をお教えするとお約束しています。魔力付与は昨日参加された方にお聞きください」
スマイルで堂々と言い放つクロ。
当然そんなことをすれば
「ふざけんな!メイド!!ぶっ殺すぞ!?」
文句を言った本人は怒るわけで、当然教えるのがメンドウなクロはその文句に乗るわけ。
「まあ!何と恐ろしい!私は死にたくないのでお暇させていただきますね?」
「はぁ?ふざけんじゃ」
「「「お前がふざけんじゃねぇよ!!」」」
文句を言った人はそのまま訓練場から追い出され、訓練が開始された・・・。
他の今日が初めてとなる参加者は黙ってクロのやり方を聞く方針にまとまった。
「と言いましても、別段難しい事は致しませんよ?昨日覚えていただいた魔力付与。コレがマスターできれば直ぐに習得できます」
皆本当なのかと首を傾げ、近くの人と話をしている中、クロの説明が実技と共に始まった。
「まずは両手を広げてもぶつからないくらいの広さに広がってください」
言われた通りに両手を広げながら皆距離を取っていく、何だか幼等部のお遊戯の練習みたいだ。
「では、自分を中心に両手を広げた範囲一杯くらいに魔力付与でボールを作ってください」
昨日の参加者はあっさりとボールを作る。
今日から参加の人は魔力付与の展開の速さに驚いている。
「その状態で昨日お願いしたスキルを発動させてください。そしてそのまま維持してくださいねー」
「何も変わらないよー?」
昨日クロに質問していた少年が問う。
「では、私が今から皆さんの後ろに作る氷塊の形を当ててくださいね?大丈夫、1発で分かりますよ」
パチンとクロが手を鳴らすと、氷塊が各人の後ろに現れる。
「あ、分かった!星だ!」
「こっちは三角だ」
「丸かな‥‥?」
「では、後ろを向いて確認してください」
各々後ろを向いて口々に「当たっている」と呟いている。
「では、最後に2人1組なって簡単な訓練をします。ルールは簡単です!片方が目隠しをしてもう片方が後ろから近寄って相手に触ってください。これを納得するまで繰り返していただければ魔力領域は使えるようになりますよ。ああでも、初めてなのであまり早く触りにいかないでくださいね!スピードを上げるのは慣れてきてからにしてくださいね!」
クロが今させているのは振り向き鬼。
自分の領域内に入った相手を認識する訓練で、私たちも何度も練習した。
「なあ、この領域を広げることは出来ないのか???」
「あ、すみません!そのことを忘れていました。広げる方法は簡単です。領域、つまりはボールの範囲を広げるとそのまま領域は広がります。しかし注意してくださいね?広げた分精度が落ちてしまいますし、必要な魔力も増えます。私は自分が武器を自然に持って軽く手を伸ばして円を描く範囲くらいが最適と思っています。もちろん、それ以上でも以下でもご自身で使いやすい距離を掴んでいただければ結構ですよ!」
クロのスマイル付きの説明で今日の訓練?はお開きになった。
昨日に比べ、とても時間が短かったので当然の様に魔力付与の訓練をもう一度やってくれという声が起きたが、
「それは既に習得した方にお聞きください、習得出来た方も言いたくないというのは分からなくもないですが、教えることにより自分がまだ不十分な部分が分かったり更に理解したりできますよ。何より私はこの後、大事な話があるので」
「大事な話!?」
皆がクロの一言に食いつく。
アリフに「大事な話があるの」とクロが行ったことはこの場に居る全員が知っていた。
むしろその内容が気になってきた人も何人かいるみたい。
ちなみに情報源は警邏兵。
昨日の晩の会議が外に漏れていたみたい。
アリフの好きな相手クロ!
昨日アリフがボコられたことはもう周知の事実であり、その上でクロに惚れたという事も広まっている。
「クロさん、もういいかい?」
「アリフ様、お待ちしておりました」
アリフが進み出て、クロもそれに応じる。
そのままクロはアリフの周りを1周くるりと回り、
「うんうん。やはり、ちゃんとした格好をされると格好いいですね。似合いますよ」
確かに今のアリフは正式な場に立つかのような正装であり、髪もそれに合わせてしっかりと整えられている。
数名の女性兵士はホウと見惚れてしまってさえいる。
アリフはと言えば褒められたことに顔を綻ばせていた。
「では、そんなアリフ様に質問です。貴方、執事になってみる気はございませんか?」
「執事?クロさんのですか?」
「いいえ、この国の次期国王様。時期陛下の、です」
時期陛下の執事。
初めは意味が分からなかった皆も段々と意味を理解していき何処からともなくクスクスと笑いがこぼれだす。
アリフも意味を理解して言い放つ。
「何故俺がお茶くみなんて!貴女の執事ならともかく何故この国の次期国王なんだ!?貴女ではダメなのか?」
「お茶くみ・・・。そうですね、今のあなた方のモノの見方では笑われてしまう職なのでしょうね」
今までの明るい声ではなく、少し沈み真剣味のある声が訓練場を支配する。
「執事とは、大変なお仕事ですよ?由緒ある執事の一族は長男、又は最も優れた者1人にしか継がせられないくらいには・・・」
「そんな勿体ぶるような職じゃないだろう!?」
「執事とは王の最後の盾にして最後の刃であり、最も王を理解していなければ務まらない厳しい職業です!決して執事の名前を聞いて笑えるような方が就ける生易しい職ではありません!」
クロの一括で訓練場内は更に静かになり、クロはアリフと正面から向き合って話し出した。
「いいですか?執事という職業は王と同等かそれ以上に厳しい職業なのです。国王と共に他国へ赴けば執事の素行は全て国の素行となって他の王や参加者の目に移ってしまいます。ミス一つでこの国は程度の低い国というレッテルを貼られ、王の顔に泥を塗ることになってしまうのですよ?執事はその主な仕事の役割上、王と共に非常に長い時間を過ごすでしょう。その内に王が弱音を吐いてしまったり重圧に押しつぶされそうになる事もあるでしょう。道を間違えてしまいそうになる事だってあるはずです。それを支え、正しい道へと戻してあげるのもまた執事の大切な仕事の一つです。」
「それなら、俺じゃなくてもいいだろう!!」
「私は先ほど述べました、執事は王の最後の盾であり刃であると」
「執事が刃だと?」
「そうです!近衛兵もいらっしゃるでしょうが彼らは兵士どうしても王と一緒に行動出来ない場所もあるでしょう。敵が攻め込んでくればその実を盾にしなければならないこともあるでしょう。そんな中、一番最後まで王のすぐ傍にいることが出来るのが執事なのです!誰に怪しまれずに、どんな状況、どんな場所でも堂々と王を守ることが許される職業なのです。そして王と一緒にいる以上国の重要な秘密を多く知る立場となってしまいます。その情報を得る為に他国の刺客が来ることもあるでしょう、色恋を使った手を使われることもあるでしょう。本当の執事とは死と隣り合わせと言っても過言では無い職業なのです。ですから私は次期国王候補の中でも武力が高く、強い意志を持つ貴方なら大丈夫だと思ってこの話をしました。まあ、メイドも同じようなモノですかね。」
「俺の事は考えなかったのか?」
「はい、私はリーズお嬢様の物ですから。」
「はん、あほらし。ガラにも無く期待しちまったよ。じゃあな」
そのまま反転して訓練場を後にしようとするアリフにクロは
「そうですか、残念です」
それだけしか言わなかった。あれだけ語ったのだからもっと引き留めると思ったのだけれど・・・。
「クロ、良かったの?」
「はい、ちなみに私の見立てでは他の方は落選です。候補者の方も含めて、ですよ」
クロは私に笑いかけながら周りに聞こえるようにそう言った。
訓練を終えて私達は皆でお茶をしているとまたアリフがやってきた。
「おや?どうされましたアリフ様。私にナデナデして欲しいのですか?」
「ナデナデって何だよ!」
ああ、アリフはクロの中では弄りキャラが確定してしまったようね。
「良かったわね、アリフ」
「あん?」
「クロと仲良くおしゃべりできるじゃない?第一関門突破かもね」
「あ、ああ・・・。」
少し嬉しそうにするアリフに対し他の男共は若干悔しそう。
「それで、どうされたのですか」
「訓練場で俺に言ったことは本当なのか?」
「本当とは?」
「俺以外に執事が務まらないって言っていただろう!」
「可能性の話ですよ。あの中では私の思い描く執事に貴方が一番近かっただけです」
「だが、可能性はあるんだな?」
「ええ。貴方がクソ面倒と感じそうな数々の教養を身に着けることが絶対条件ですけれど」
それを聞いてアリフは少し思案する。
ってアンタ本当に執事を始める気なの?きっとクロが適当に言った戯言よ?
「分かった。どうすればいい?」
その言葉にみんながざわめく。
強さにこだわり、人支配しようとしてばかりだった男が進んで人の下へ行こうとするのだから当然よね。
「どういった心境の変化ですか?何か悪いものでも食べましたか?」
クロ、真剣な場面なんだからそういう茶々を入れるのはやめなさいよ!
「ずっと後ろ指を指されたり笑われ続けたりしますよ?ご家族にも、周りにも・・・。」
「俺は、誰かに必要とされたかった。軍で、国で上へ行けば頼られると思った。でも違った。コイツ等からも、周りからも怖がられるようになった、俺は誰かに必要として欲しかったんだ・・・。だから!俺に色々教えてくれ!」
アリフの絞り出すような独白にシンと静かになる。
あれだけ横暴だったアリフの中にまさかこんな感情があったなんて・・・。
「「「アリフ・・・」」」
今まで横暴だとか粗暴だとか思っててゴメン!
貴方も貴方なりに考えていたのね。
「凄い人だよね、自分から進んで今の立場を捨てて人の為に動けるのって」
「ええ、こんな人中々いませんよ」
「アリフ!俺たちはお前を誤解していたみたいだ、もし俺たちにできることがあったら何でも言ってくれ!」
皆の中のアリフの株が急上昇!私たちは見る目が無かっただけという事ね。
「・・・そうですか」
一拍置いてクロも余程真剣に聞いていたのか閉じていた目を開いてニコリと微笑みながらアリフの方へ歩いて行く。
「アリフさん・・・」
クロがアリフの顔に手を伸ばし、自分の顔の前までゆっくりと降ろさせる。
え!?まさか!?するの?しちゃうの!!!???
「で?本心は?それだけですか?」
へ?
「あ、ああ!モチロンだ」
「本当ですか?」
ヤバイ、クロの笑顔攻めだ!
あの笑顔でずっと顔を見られ続けると耐え切れなくなって本音を言ってしまう。
私達も何度か言い逃れをしようとしてあの笑顔に捕まった。
周りから見ればとても良い雰囲気なのだろうけれど、本人は気が気ではないでしょうね。
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・執事になれば、クロさんとも色々お話しできたり、仲良くなれたりするんじゃないかなっと思いました」
ゲロった!
アリフがついに耐え切れなくなってゲロった!
「素直でよろしい」
ナデナデ。
クロがアリフの頭を優しくナデナデしている。
「「あ・・・」」
アリフは何が起こったか分からない感じでボウっとしている、私達もだ。
クロの意外な行動に皆ついていけなかった。
「ですが、気を抜きすぎですよ?」
「へ?」
ベシ!
クロのデコピン!が決まった。
私達も怒られた後よくされる、「もうダメですよ」なんて言っておでこにペチン。
しかしアリフがくらったのは魔力付与をした一撃、指先のみ強化してあるので非常に分かりづらい。
アリフは無抵抗に廊下の壁にぶち当たった。
大丈夫かしら?
何やら変な感じがしたので振りむくとリーズとイローナが物凄い剣幕でアリフを睨んでいる。
ブツブツ何か言っている。
もしかしてナデナデがそんなに羨ましかったの?特にリーズ、アンタいくつよ。
「本気でやろうという気持ちは受け取りましたので、早速明日から一緒に訓練しましょうか?と言っても皆さんと一緒ですが」
「ああ、よろしく、頼む」
ガクガクとしながらしながらお願いするアリフ。
窓の方へ歩いて行き、コチラに向き直りまぶしい笑顔でクロはこう言った。
「|ようこそ、地獄<の特訓へ!」
し、しまった~!!
他の皆も理解したみたい。
バート兄たちは理解できてないみたいだけどまさかクロ、貴女・・・
「「「謀ったわね!!」」」
「何をですか?皆さんで楽しく訓練をするだけですよ?心配事もまだ少しありますし後2・3手ですかねー?」
何!?後何するつもりよー!!!!
じー・・・
「何ですか?イローナ姫様、リーズお嬢様」
じー・・・
「あ、あのー・・・」
じー・・・
ナデナデ。
ニッコリ。
「犬かしら?」
「可愛いじゃない、私もしてもらおうかなー?」
「リ、リーズ。クロが迷惑だからもうやめなさい」
「イローナ様。そういうことをしてはいけません・・・」
「皆さん何故私の前に頭を出しながら注意されているのですか?」
「「「///////」」」




