94ページ目 従兄妹会議
シャル視点
「さて、皆揃ったわね」
私はそう言って次期国王候補者を見渡す。
まだ幼いモニカと既に候補者から外されているアリフはいない。
訓練場では諍いの絶えない私達だが、私生活までギスギスしているかというとそうではない。
皆ジラールの事を大切に思っているし、良くしたいと思っている。
訓練場でギスギスしているのは単に負けて悔しいから。
訓練場以外では普通に話すし共同作業だって普通に効率よくこなすし、お互いの事は認め合っている。
でもやっぱり認めるのは悔しいから反発する。
その結果周りに迷惑になってしまうから、いつの間にか訓練場内だけはいがみ合っても問題無い場所という共通認識が出来た。
私達は結局似た者同士で仲良しなのだ。
遠征に行った後などには必ず集まって報告会を行って情報を共有し合う、今回私がコスカートに行き一時的にではあるが帰ってきたのでこうして報告会をすることになったの。
「私からの報告書は読んでもらったと思うけど、実際に会った皆の感想は?」
「「「やべぇ」」」
他に言いようは無かったのか?何が「やべぇ」なのか分からない。
「報告書以上に危険だな。アリフが相手にならなかった」
「そうですわね、あの戦闘バカが手も足も出ないとは驚きですわ」
それ、クロオンリーだよね?他のみんなは?
「ま、他の人たちも僕らと同等の実力だっていうのは分かったけど、あのメイドは規格外すぎるでしょ」
まあ、クロは基本規格外よね?
世の中のルールを守っている方が少ないかも・・・。
「それで、シャルが受けていた魔王の調査の報告をしてくれるか?」
バート兄が前置きはいいと言って来る。
コレは避けて通れない報告なので、さっさと行ってしまおう。
「楽しそうな会議してんじゃねえの、俺も混ぜろよ!」
現れたのはアリフだった。
部屋に置いてある椅子に勝手に座って混ざる気マンマンである。
「お前は除外されたはずだろう?何で来たんだよ?」
「いいじゃねえか、俺も一応王族なんだ。ああ、大丈夫だ会話に下手に口は出さねえよ。情報が欲しいだけだ」
「情報?」
「何の情報ですの?」
「決まってんじゃねえか!俺をボコってくれたあのメイドの情報だよ!」
「まさか!襲う気か!?」
「んなこたぁしねえよ!多分やられた俺が一番わかってる。ありゃ勝てねぇ」
「それじゃあ、何でクロの情報を欲しがるのよ?」
アリフが戦う以外に相手の事を教えろなんて言った事が無いから皆困惑している。
「あん?惚れたヤツの事を知りたいと思って何が悪い?」
惚れた?誰が?誰に?
「ア、アリフ。お前、正気か?」
「ああ。本気だぜバート。お前も気になってるみたいだけどな」
「あ、いや、コホン。お前のどこにクロさんに惚れる理由があるんだ」
「あんだけ器量が良くて俺より強いんだ、惚れない理由がない。お前等だって迫られたら一発OKだろ?」
男たちは少し気まずそうに「それは・・・」と言葉を濁す。
若干顔が嬉しそうな感じがするからその場面を想像しているのだろう。
ちなみに私とマリーはゴミを見る様な目で男共を見ている。
そして私もクロが誰かに告白するシーンを考えるが、まあ思い浮かばない。
告白を利用して相手を隷属させているような場面ならいくらでも出てくるのに、恋愛の場面は全く出てこない。
クロって好きな人いるのかしら?
「つー訳で何でもいいから情報が欲しいんだよ!シャル。何か知らないか?」
アリフの質問に耳を傾ける男共。
まあ、クロの事はどうしても報告しなければならないのだし私の知っていることで大丈夫そうな部分だけ伝えよう。
「まあ、向こうでも人気はあったわよ。あの器量であの性格だからね」
「付き合ってる奴とかいるのか?」
「いないんじゃない?私も全部知っているって訳でもないけど、基本あの娘はメイドをしているからプライベートなんて夕食の後から寝るまでくらいね。休みの日も寮で何かしていることが殆どだし」
コラ!男共、露骨に安心するな#
皆兄弟の様な感じなので恋愛感情とかそういうのは全くないが何かムカつく!
マリーも少し機嫌が悪そうだ。
丁度良い情報を思い出したので投下して男共を絶望させてやろう!
一瞬マリーと目が合い瞬間に悟る、マリーは話に乗って来ると。
「特定の相手はいないみたいだけど厳しいと思うわよ?」
「何か知っていらっしゃるの?」
「本人から聞いたんだけど、コスカート国のイヴァン陛下を振ったんだって」
「まあ!」
「は?」
「イヴァン陛下って、陛下だよな?」
「ええ、愛人にって誘われたんだけどバッサリだって。だから無理じゃない?」
フフフ、どうよこの事実。少し浮かれていた顔が面白いように沈んでいくわ。
気付けばマリーもサムズアップしている。
「もっと言えばいくらアリフが頑張っても周りに潰されるわ」
「俺はそんなヤワじゃねえよ」
見当違いな事を考えているわね、アリフ。
「国単位で潰しに来るって言ってるの、分かる?」
アリフはまだ分からないようだが、周りの皆は分かったみたいね。
「アリフ、現在クロさんはコスカートで生活しているが、国に仕えているという事は無い。しかし、国の重鎮の所に嫁に行くという事はその国に仕えるという事にもなる。今分かっているだけでも結構な数の国がクロさんの力を欲しがっている。そんな中で求婚しても周りに潰されると言っているんだ」
「んなもん、邪魔が入る前にしちまえば問題無いだろ?」
「国としても周りとの歩調を合わせなくてはならない、陛下からも待ったが掛かるだろう」
そうそう、だからクロとの結婚なんて無理なのよ。
「問題無く進められる方法としてはクロさんから求婚してもらうという方法ですわね?」
「それなら周りは文句を言えないだろうね、言っても意味なさそうだし」
確かにクロがこの人と結婚します!って言えば周りは止めることは出来ない。
「と、言うわけで諦めなさい」
「いや、だが俺は明日また来いって言われたぞ!」
「誰に」
「メイド・・・クロさんに!」
「「「!?」」」
これには全員が驚いた。
クロが男性を誘う事はほとんどない。
私が知っている中では同じ学生のサブリとコスカートの騎士のヤニツェクさんくらいだ。
「な、なんて言われたんだ!?」
バート兄が必死に聞いてる、何だかイメージが崩壊しだした。
「そのヤンチャな髪をちゃんと整えてから昼過ぎに訓練場に来い、【大事】な話があるって」
【大事】を強調してアリフが話す。
皆話の流れで告白かと騒いでいるが、あのクロが大勢の前で告白とかありえない。
【大事な話】、クロがそういうのだから大事な話なのだろう。
しかしアリフにとって良い話とは言っていない。一言も・・・。ギリギリワンチャンあるかも?
「で、どう思うよ、シャル?」
そんな純粋な子供の様な目で見ないでよ!言いにくいじゃない!
「まあ、クロが他の男子より興味を持っているのは確かなんじゃない?今まで個人を呼び出したとか聞いたことないし・・・」
こう答えるのが精一杯だった。
っと本題に入らなきゃ。
「まあ、明日アリフがどうなるかは別として極力クロには手を出さないでね!あとリーズにも!」
「出すかよ!」
「皆に言っているの!バート兄はもう知っているけれど、クロが新しく大陸魔王になった【冥土】・クロなの!」
固まる一同、意味を理解できないようだ。
私だって急に聞かされたらこうなる。
私は新しい方の討伐依頼書を見せる。うん、微笑んだクロが描かれている。
「本当か?」
「ええ、本当よテッド」
「でもクロさんはリーズさんの使い魔なのではなくて?」
「その通りよ。クロはイヴァン陛下の誕生祭に乱入した【鎧】・リッターを降したから大陸魔王になったの。報告行ってるでしょ?」
「うん、確かに書いてあったね」
ジャンニが思い出したかの様に返してくる。
「で、メイドに手出し厳禁は分かるとしてリーズ・・・さんには何でだ?」
「今日のアレを見て本気で言ってる?」
アレとはもちろんアリフへの躾だ。
もしあの時リーズが大ケガでもしていたらどうなっていただろう・・・・いや、考えるのは止そう。
「ちょ、ちょっとお待ちなさいよ!シャル、貴女どうしてクロさんを連れてきたのよ!?目的は調査だったハズでしょう?」
「それはクロがうちの大臣たちムカツクから一緒に行って仲の良いところ見せつけて土下座でもさせましょうってノリノリで・・・準備も根回しも驚くほど速かったわ!」
「いや、知られたらダメだろ・・・」
「クロをクロだと知らない時に助けてもらってね、それで学園長先生の所で留学の理由やら何やらを話ているの全部聞かれちゃって・・・。本人もこの時期に編入なんてそうとしか考えられないって言ってたし」
「ある意味、隠すことなく堂々と調査できたわけだ」
うん。普通に考えたら大失敗の内容よね?
開始前に失敗って失敗なのかしら?
「幸いにもシャルの報告と彼女の態度から友誼は十分に図られていると見て取れるな」
それはもうバッチリ仲良しよ!
「で、皆にお願いしたいことがあるの」
「俺たちにか?」
「おじ様たちを止めて!主にリーズへのちょっかいをだけど」
「親父たちは一般貴族とか嫌いだし叩くだろうな」
アリフの意見に皆同意する。
「クロ本人にならまだいいのよ、まだ。事故処理できるから。でもリーズの場合だと1発アウトよ!」
各自今日の惨状を再び思いだす、私はアレよりも酷くなると予想している。
最悪、何人か消える。
「どうして紹介しなかったんだ!」
「おじ様たちが話を聞いてくれなくてね。」
全く迷惑千万なおじたちである、
「後、最近ジラールにも質の良いポーション類や調味料が入ってきていると思うのだけど」
「ああ、既製品よりも随分と効果の良いポーションが入りだした。調味料の方は、よく分からんが城の料理人たちが何やら喜んでいるのは知っている。他国も似たようなものだという情報も入っている。販売元は、アイテムギルドだな」
「ここまでの流れで分かると思うけど、これらの生産元はクロよ。今はお城の生産職に基礎レシピ渡して量産させているらしいけど、アイテムギルドが売っている効果の高いものは全てクロの手作りね。お城で創られた物はワングレードは落ちるわね」
「そんなもん教えていいのかよ!?ならジラールにだって教えて欲しいくらいだ!」
「アイテムギルドにレシピは渡してあるって言っていたから量産品は自分たちで作れるようになるけど、特製品は無理じゃないかしら?」
「その理由は?」
「素材が貴重で中々手に入らないの」
「ならクロさんはどうやって手に入れているんだ?貴重なんだろう?」
「それは・・・聞きたい?」
「ああ、もしかすれば俺たちでもできるかもしれないしな!」
確かに、出来るかもしれない。奇跡が何重も重なれば・・・。
「クロは、素材の元になる魔物を魔王の特権で購入してその魔物を使って素材を集めているわ。テイマーを国単位で酷使すればいけるかもしれないわね?」
はぐらかしたけれど、最上級の物は大精霊様謹製の果物や水をふんだんに使っている為、仮に大陸魔王を隷属できても作ることは出来ない。
「経済はクロが牛耳っていると考えて良いわ」
「各国もそのポーションは我先にと買い漁っているし、コスカートに何人も人を送っているね」
「ん?確か国や国家間の事には手を出さないんじゃ・・・」
「ええ、でもクロが納品を止めれば薬、調味料、その他諸々が出回らなくなるから経済は大打撃よ。本人の意思の有る無しじゃなくて止めればそれだけで影響が出るのよ。」
「大げさじゃありませんの?」
「ポーションの話したでしょう?アレ、凄い価格で取引されてるのよ。ある程度なら希釈しても量産型より効果が高いから」
「・・・」
「ちなみにアリフに使ったのは個人で使ってる奴ね、当然だけど」
主な用途は訓練と躾用。
傷も治るし魔力も回復する、当然状態異常も完治=いくらでも訓練OKという訓練環境も完成している。
体の一部欠損?軽いケガです。体半分くらい無くなってから大けがと言ってください。
「えーっと、後は・・・」
私は注意事項や禁止事項をすべて話した。
この会議で最もしっかり話した事はおじ達をどうやってクロたちと接触させないか。
それに尽きた。なお、おじ達がクロに刃を向ける場合は私たちは全員クロの味方になる事は議論するまでもなく、事前に陛下にも許可をもらっているので後顧の憂いも無くなった。
「そういえばクロさん少し声が暗かったけど、何かあったのか?」
「アリフ!何かあったのか!?」
「いや、話出す声が少し暗い感じだったけだ。直ぐに観戦中の感じに戻ったぞ?」
ああ。バート兄もクロにすっかりお熱のようだ、そしてアリフもしっかり躾けられてしまったようだ。
この後クロが私たちに話すことがあるって言っていたからその時に確認しよう。
私は不安を覚えながら会議室を後にした。
なお、アイテムギルドに納品分はスキルに因り大量生産しています。
なのでクロから見れば最上級の物以外は全て量産品扱いになります。
シャル「クロ、政治に影響が出る様な事はしないんじゃなかったの?」
クロ「?私は活動資金とお小遣いを稼いでいるだけですよ」ニコリ




