90ページ目 模擬戦5
バート視点
リーズさんは意気揚々と進み出る。
それに対してニヤニヤと笑いながら中央で待つジャンニ。
既に武器であるナイフを前にだし軽く構えている。
彼の強さはこの訓練場に参加できる者の中ではほぼ最下位、なのにあの余裕の笑みは何だ?
「それでは。試合、始め!」
瞬間にリーズさんの姿が掻き消える。
私に捉えられないほどのスピードがあるのかと思ったが違った。
リーズさんは吹き飛ばされていたのだ、その場から一歩として動いていないジャンニによって・・・。
吹き飛ばされたリーズさんは起き上がりジャンニを見つめている。
呆けてはいないようだが、コレは厳しいだろう。
私でも知覚できない速度で攻撃されて吹き飛ばされたのだ、反撃も何もあったものではない。
それでもリーズさんは中央まで戻り再び構えた。
「へぇ、アレに耐えられるんだ?」
「まあ、あのくらいわね。ねえ、一つお願いがあるんだけど?」
「何だい?今の攻撃はもうしないでくださいだったら却下だよ?」
「私も使い魔に手伝ってもらっていいかしら?」
使い魔に手伝ってもらう?何を言っているんだリーズさんは、確かに使い魔を利用することは反則でも何でもないが、ジャンニは1人で戦っている。
それを2人がかりというのはあまりにも・・・。
「あんた、何で?」
「ずっと見てるからね、すぐに解ったわ。もっとも出来る人がいるとは想像してなかったけど」
私には何の話をしているのかさっぱりだったが、どうやら2人の間では通じでいるらしく外野を放って話は進んでいる、クロさんも説明はしてくれない。
「ハッキリと言ったらどうだい?」
「それは貴方の今後に響くでしょう?」
「そこまで分かるのかい?」
「ええ。ずっと見てるからね」
そう謎の言葉を賭けられた瞬間に、ジャンニはハッっとしてコチラを見る。
まるで信じられない物を見るかのように、だ。
「なるほど、ずっと見てたか・・・。こりゃあダメだな。降参するよ」
そしてジャンニの降参宣言。
外野である私達には分からないことだらけだった。
陛下は何故かウンウンと頷いている。
「あの、陛下。どういうことなのでしょうか?私には降参する理由が分からないのですが・・・」
「まあ、そういうことだ」
陛下も訳の分からない返答をされる。
そういう事とはどういうことなのか・・・。
しかし、そういった傍から陛下はジャンニに向けて命令を下した。
「ジャンニ、戦え!方法はお前に任せる!」
こんな親善試合で下す意味もないであろう戦えという命令、一体ジャンニと陛下はどうしたというのか。
「了解しました。陛下!」
言うや否やバックステップで距離を空けるジャンニ。
「陛下のご命令だ。悪く思うな」
「あら?変にニヤニヤはもうしないのかしら?」
「ああ。あんたは少し手間取りそうだ。笑うのは勝った後で良い。たったの1発で全部見切った褒美だ、さっきのは無しでやってやる」
「そう。なら、試合続行ね」
試合は動かない、お互いほとんど動くことなくジリジリと前進し、構えが少し変わる程度だ。
「ほう、リーズはそれなりにできる様だな?」
「いえいえ、迂闊に飛び込めないだけですよ。ずっと苛めてますから」
「それでも大したものだろう?武器のリーチの差を考えれば有利だろうに」
「私と重ねられているのかもしれませんね。訓練の初めの頃はひたすら突撃してくるリーズお嬢様をボッコボコしましたから。苦手意識を付けてしまったでしょうか?」
「まあ、相手の実力が不明な状態なら合格じゃないか?」
確かにジャンニの実力を知らない現状なら見というのも悪くないが、コレは・・・。
ジャンニもジャンニで自分から攻めようとしない。
半歩前に出たかと思えばすぐに数歩下がる。
「ハァ」
ジャンニがため息を吐く、心底疲れたと云わんばかりのため息だ。
「本当によく知っているんだな、初見でここまで対策されたのは初めてだぞ?」
「そう。私は今、絶賛練習中だからとてもいい練習になっているわよ?」
「マジかよ、ソレかなり難しいだろうに」
「叩き込まれてるからね。それより提案なんだけど、合図からの1発勝負で行かない?」
「何だよ急に」
「私はソレを防ぐ手段をまだ持ってないからね。何時かはと思ったけど今が実戦なら負け確定だし」
「コレも知ってるのかよ、そうとうだな」
「ソレも口酸っぱく言われてるもの」
「なら俺は実戦でなくて感謝だな。これだけ手の内を知っている相手とは正直やりたくない、実戦ならあんたの使い魔も参戦だろ。勝てる気がしないな」
「それで、どうするの?」
「のった」
「クロ。適当な物でトスお願い」
リーズさんの言葉にクロさんはいそいそと手のひらに収まる珠を取り出し
「それではいきますよ~」
と地面へ叩きつけた。
2人は数秒意味が分からないようにクロさんを見ていたが、意味を理解し慌てて切り結んだ。
「捻くれてるな」
「お褒め」
「褒めてねえよ。で、何であんなことした?」
「不測の事態にどう対応されるか見たくてですね」
「はぁ、苦労してるんだな」
「そうなんですよ。どんな状態になっても一定の実力を発揮できるようにですね」
「お前じゃなくてリーズの嬢ちゃんがだよ!」
陛下の怒鳴り声が響く。
その間にも2人の試合は続いている。
合図に反応できず、お互いに変なタイミングで切り結んだ為に決着がつかなかったのだ。
初めて見るジャンニの戦闘スタイルに私は驚いた。
常に体を動かし1撃を放ち直ぐに後退、所謂ヒット&アウェイ。
攻撃が当たりこそしていないが常に攻め側に立ちリーズさんを攻め続けている。
リーズさんもいなして直ぐに反撃せずに距離を取っているので終わる気配はまだない。
「まいったな。ホント、俺の負けにしてくれない?」
「試合なんだからしっかり決着付けるわよ!」
「そうかい!」
距離を取ったジャンニがナイフを肩の位置まで上げるように構え、走る。
その速さは今までの早さよりも1段階速く、反応を狂わせる!
しかしリーズさんは正確に反応した。
しゃがみ込む様に前進することで攻撃を避け、独楽の様に回転しながらジャンニの横腹に1撃を決めた!
今の動きを見た我々の反応はほぼ一致で驚いていた。
まずジャンニは普段からは見せない様な素早い動きと攻撃、特に最後の一撃はそれまでのスピードに慣れてしまっている分対応が難しい。
そしてリーズさん、所々分からない部分があるがジャンニから主導権を奪い続けていた。
最後のスピード変化の攻撃にもしっかりと対応して見せた。
これでコスカートの皆さんの実力ははっきりと示され、無礼な態度を取る者もいなくなるだろう。
「まいった。俺の負けだな」
「ええ、一応礼を言っておくわ。ありがと」
2人共何処か余裕を感じさせる感じでスタスタと戻って来る。
クロさんが今まで通り2人にアイテムを渡している。
「あの、リーズさん。試合中にジャンニと話していたことはどういう事でしょうか?」
「んー、それは彼から聞いて。私の事じゃないから私からは何も言えないわ」
ジャンニの方を見ると
「俺の戦術アレコレの話だよ。今後俺が不利になるからって言わないでくれたんだ」
なるほど、私を含め次期国王候補者たちは王座を奪い合う為に戦うことになる。
その時にジャンニの戦術がバレていれば彼が不利になる、だから訳の分からない言い方をした。
だが、他の皆は堂々と戦術を見せている。
それなのにジャンニだけ秘密にしたいというのは少し納得のいかないものがある。
と、思ったが揉みくちゃにされているジャンニを見て今回は不問でいいかと思い直す。
恐らく、陛下はジャンニの戦い方を知っている。
それでも私に何も仰らないという事でそれなりに推測は出来た。
「それではシャル。前に出ろ、最後は私達だ!」
私はそう言って意識を切り替えながら前へ進み出た。
シャルも意外そうな顔をしていたが直ぐに切り替えてやってくる。
さて、この短期間、訓練をサボっていなかったか確認するとしよう。
アレとかコレとかソレの表記ばかりすみません。
しかし、ソレはジャンニ君の為なのです。
彼は秘密にしておかなければいけなかったのです。
ネタが思い浮かばなかったという事では無いのです。ええ。
さて、次回はシャルとバートの戦いです。
上を目指す少女は何処まで登ることが出来たのか?




