89ページ 模擬戦4
バート視点
やる気マンマンと言った感じで中央へ出てくるミューズさんと違って少し気だるげに出てくるフェリックス。
彼は普段から素行も良く皆から慕われており、自身もそうあるべしと努力を怠らないがその顔は浮かない。
「はぁ~・・・」
と言うよりも覇気が感じられない、一体何があったというのか。
「やってらんねぇ・・・」
その言葉にピクリとミューズさんが反応する。
対戦相手の自分を前にしてこの態度ならば仕方が無いだろう。
フェリックスもそれに気が付いたようで、
「ああ、すまない。アンタが女だからとか、戦いたかった奴と違うとかそういうのじゃねぇ。見てくれよ俺の獲物、安全の為とはいえ流石にこれはヘコムぜぇ・・」
大斧は重量がある為安全の為にと他の武器以上に緩衝材を巻いてある。
見た目は斧ではなく、細長の丸い槌の様になっていた。
「ちょっと待ってくれよ、気合入れ直すから。こんな状態じゃあ、勝てないのは分かり切ってるからな」
フェリックスはそう言って目を閉じ、頬を数度叩き深呼吸をする。
そしてゆっくりと開かれた眼は先ほどとはうって変わって戦士の目になっていた。
その目を見てミューズさんも大剣を構える。
両者ともに準備は整ったようだ。
「それでは試合、始め!」
瞬間、2人の丁度中間くらいで2人がぶつかる。
押し合いではなく、乱打戦である。
お互いの武器が壊れてしまうのではないかという程の勢いでぶつけ合っている。
「ハッ!当然の様に魔力付与か!」
「ソレはそっちも同じでしょう?」
お互いに少し距離を取り、再び接近しての乱打戦にもつれ込む。
緩衝材の所為でそれらしい音は全くしていないがトンデモないぶつかり合いだ。
「チッ、風属性魔法か」
「ええ。だから私でも振るえる」
ミューズさんは風魔法も使って足りない分の力を補っているようだ。
おかげでフェリックスの武器はぶつかる度に少しずつ緩衝材が破れていく。
「使ったのはソッチが先だ、ケガしても悪く思うなよ?」
フェリックスが斧を地面につける。
付けられた部分から土が付着していき斧の形を取った。
「やはりこの方がやる気がでる」
斧を軽く振り回し、再び構えを取るフェリックス。
「それなら、私も」
大剣を振るい風を纏わせるミューズさん。
そしてぶつかる両者。
飛び散る土塊と吹き荒ぶ風、完全に緩衝材が役目を果たしていない。
これでは両者・観戦者も危険である。
「バート様、このままお願いします」
クロさん?
彼女には何か考えがあるのだろうか、危険な状態であるにも関わらず止める気配が無い。
「やはり重量級武器同士の戦いは迫力があっていいですねぇ~、お2人共楽しそうで何よりです」
考えなんてものは無かった、ただの興味本位の様だ。
私は止めようと2人を見ると、確かに2人共楽しそうに武器をぶつけ合っていた。
代わりに広間の床は2人の戦いの余波でボロボロになっている。
「あの2人、仲良くなれそうじゃねえか」
「そうですね。実力も拮抗しているようですし、いい刺激になりますね」
「でもどうするんだ?単純な筋力だけならフェリックスの方が上だぜ?」
「技術ならミューズお嬢様の方が上、みたいですけど?」
陛下とクロさんの評価を聞きながら2人を見る。
2人の言う通り、フェリックスの攻撃をミューズさんは上手くいなして反撃をするも力が足らず受け止められている。
このままでは泥仕合になりそうだが、お互い機会を探しているのか未だに強い一手を出さない。
互いに距離を取ったその時、ミューズさんが先に動いた。
自信の前で十字を切る様に剣を振る、そして十字の振るった十字の中心を目掛けて全身を勢いよく発射し突き抜ける。
結果、剣先を中心に螺旋の風を纏い地面を抉りながらフェリックス目掛けて突撃する。
対するフェリックスも回転して斧を振るう、振るわれている間に土は更に集められ大きな剣の様になっている。
そのまま強引に前へ飛び出し振り下ろす。
ぶつかり合いはフェリックスの勝ちらしく、風は霧散しミューズさんは空中へ投げ出される。
「おお~、お互い思い切ったな~」
「どちらかと言えば、ミューズお嬢様にフェリックス様が合わせた、もとい張合ったような気もしますが」
「だが、結果は見ての通りフェリックスの勝ちだぞ?」
「それはどうでしょう、ミューズお嬢様がそんな無策な事をするとは思えませんが」
「つか何だよあの技!?何がどうなってああなるんだ?」
「知りませんよそんな事。そうイメージされたからでは?」
「お前、それ言っちゃう?それ言っちまうと世の中全てのモンそれで済んじまうぞ?」
「魔法なんてデタラメがあるこの世界では何が起ころうとそういうものと受け取る様にしています」
「ん?お前、魔法知らなかったのか?おお!振り下ろしできたか」
「私の居た世界で大人が『魔法使えないの?』って聞けば『頭大丈夫?』って返されて心配されます。防御の構え、カウンター狙いですか?」
「不便な所から来たんだな。おいおい、尋常じゃない威力だな」
「まあ、魔法はありませんが代わりに他の技術が発達していましたのでそこまで不便では無かったですよ。移動とか連絡とか・・・。私は武器を破損させなかったのが凄いと思います。ただ受けただけではいくら何でも折れてしまうでしょう」
横で2人が何やら放置できない会話をしているがしている最中にも戦いは進行している。
打ち上げられたミューズさんは打ち上げられた事をそのまま利用して空中からの振り下ろしに入る。
フェリックスは斧?剣?を頭上へ掲げ受け止める。
普通なら受け止めて終わりなのだが、今回は違う。
フェリックスの足が地面にめり込み、フェリックスも苦い顔をする。
恐らくだが、風を下に吹き付けることによって威力を増加させているのだろう。
お互いの力に耐えきれなくなったのか武器に纏っている属性魔法の方が先に霧散してしまった。
魔法が霧散してしまっても2人は動き続ける。
ミューズさんはフェリックスの死角へ、フェリックスは斧を器用に操りミューズさんの死角から首へ。
お互いに王手で止まっている状態、次の動きを予測し合いどちらも動けずにいると
「この私の負けです」
「まだできることはあるだろう?」
「あなたは振り下ろすだけに対して私は付き上げなくてはいけません。それならば、貴方の方が速い」
「お前は風で鎧も纏えるだろう?俺が崩したのは剣の分だけだ。実際ならまだ風の鎧は健在だ」
「ですが、今回は使っていません。そしてこの状態になったのだから、私の負けです」
「そうか、そういうことにしてやるよ」
お互いに勝手に納得してフェリックスの勝利という形でこの試合は終わった。
「お疲れ様です!お2人共!」
「うん」
「くはぁ~、手応えありすぎだぞ。練習用の武器で良かったぜ」
「それは、私も」
いやいや、2人共ほとんど練習用の武器は機能してなかっただろう!
内容は実戦と言って差し支えさい試合だった。
今の試合を見た他の訓練に来ている者も皆2人に拍手を送っている。
お互いに実力を出し合ったとてもいい試合だった。
「で、フェリックス。何故あんなことをしたんだ?」
「あんなこと?」
「練習用の武器を属性魔法で纏っただろう!アレでは意味が無い!万が一彼女に怪我でもさせていたらどうするつもりだったんだ?」
「いや、それは・・・」
「君もだ、ミューズさん。張合うように属性魔法を纏わせて。君があのまま普通に戦っていればここまで危険な試合にはならなかった!」
「それは・・・ごめんなさい」
「全く、しっかりしてくれよ?2人共どちらかが怪我でもすれば変なしこりが残ってこれからの両国の付き合いに影響が・・・」
「まあ、メンドウ臭い事は置いといて2人ともよくやった!お互いに同等の者と戦えて楽しかっただろう!もっと精進しろよガッハッハッハッハッハ」
「陛下!!」
「下手に心配しなくても危険なクロが止めただろうよ。止めなかったのなら何か意図があったんだろ」
クロさんは2人にお菓子?を渡して談笑をしている。
いや、この人確実に陛下と一緒に観客と化してしましたよね?
っとそんな文句も言えるはずもなく、私は試合を進めることにした。
ジラール国からはジャンニ・ベヒール。
私は彼の事はナイフを使うという事しか知らない。
彼はあまり訓練で本気を出している様に見えず、成績もギリギリの状態だ。
そしてコスカート国からはリーズ・エライン。
クロさんのマスターである。
彼女のマスター足りえるほどなのだから、実力はこのメンバーの中でも最高クラスなのだろうか?
彼女もやる気に満ちて中央へ向かっている。
そんな彼女を見てジャンニがにやりと笑ったのを見て私は不安を隠せなかった。
クロの「魔法なんてデタラメ~」のコスカート組の意見
「それでもクロよりは絶対マシだよね?」
「うん」
「クロは根本的にデタラメ」
「発想が魔王」
「メイドおねえちゃんはすごい!」
「やることも魔王」




