88ページ目 模擬戦3
バート視点
さて、次の試合はティファニール姫とマリー・マロウンの試合となった。
フム、軽く見るにお互いやる気は十分。
特にマリーからは並々ならぬやる気を感じる。
彼女は同じ属性の使い手を極端に敵視する癖があるので、その点が心配だな・・・。
2人が位置について向かい合う。
「それでは試合、始め!」
私が開始を宣言した瞬間、無数の氷槍がティファニール姫を襲う。
「な!?」
私を含め数人が驚いて声をあげる。
明らかに無詠唱で撃ち出せる魔法の量ではないのだ。
考えられるのはあらかじめ準備をしていた、しかもこの展開量からするとかなり前から準備をしていたに違いない。
明確にルールを設けているわけではないが、明らかにルール違反である。
「マリー、ルール違反だぞ!」
「何を仰いますバート様。戦いとは戦いが始まる前に勝てるだけの手札を揃えるものでございます」
確かにその意見は間違っていない。
相手を調べ、戦う地形を調べ、起こるであろう局面を想定し如何様にも対応できるように策をめぐらし、準備するものだ。
しかし今は交流戦であり、本当の戦いでは無い。
明らかに火力過多であり、相手に大怪我を負わせる可能性が非常に高い攻撃だ。
私は直ぐに魔法を展開し、少しでもティファニール姫を援護しようとするがソレはクロさんによって静止された。
「クロさん、よろしいのですか?ティファニール姫が危険な状態なんですよ!?」
「そうですね、ですが相手の魔法の準備に気が付けていなかったというのなら、ソレはティファ様の責任です。もう少し様子を見ましょう」
「ですが、それではティファニール姫が危険です!」
その間にも氷槍は次々とティファニール姫に向かって撃ち出されている。
普通の学生なら避けることも敵わず大惨事になるのだが、ティファニール姫はこの事を予想していたように素早く後方へ飛び退き、氷壁を展開する。
ただし、展開したのは自分の前にではなくマリーの目の前にである。
「くっ」
目の前に障害物が出来たことによって狙いが付けられなくなったマリーは魔法を維持したまま壁から飛び出すが、そこをティファニール姫の氷槍に襲われ維持していた魔法が霧散してしまう。
「どうやって察知したのかしら?」
「後衛なら、前衛の私が距離を詰められないように細工をするのは当然だからね。1対1なら特にね」
返事を返しながら距離を詰めるティファニール姫。
マリーは牽制に氷槍を撃つもジャンプで軽々と躱されてしまう。
「甘いよ!」
「そうでございます、か!」
空中のティファニール姫に対してマリーの杖が振るわれる。
ただ、その杖の先には大きな氷塊が生成されており槌の様になっている。
逃げ場のない空中で横から大質量の攻撃によって吹き飛ばされるティファニール姫だが攻撃を受けたその手には氷の盾が装備されている。
氷の盾でダメージを緩和し、吹き飛ばされた着地も足元に氷をすり鉢の様に作り出しマリーから受けた攻撃の勢いをそのまま自分の移動のスピードに変えてマリーに迫る。
自信の攻撃をそのまま利用されてしまったマリーは杖で何とか防ぐもその威力に吹き飛ばされてしまった。
「全く、デタラメな動きですわね!」
そう、ティファニール姫の動きはデタラメだった。
土属性の魔法で足場を作って・・・・という事をする者は確かに一定数いる。
しかし氷で足場を作り相手の攻撃をそのまま移動と攻撃に利用した者を見るのは初めてだ。
ただ足場を作るだけではなく、移動のルートまで考えて即興で作り出すのは容易なことではない。
現状を見るとマリーが不利、一体どうでる?
「なら、これはどうです?」
氷槍が数本、これを何度か繰り返す。
当然、ティファニール姫に当たる事も無く避けられるか途中で迎撃されている。
しかしティファニール姫は少しずつ不利になっていく。
何故ならば、撃ち出される氷槍とは別に数本の氷槍も一緒に作り出され、発射されずに待機している状態でドンドンと増えているのである。
マリーも攻撃を当てることよりも動きを牽制して待機させている氷槍を増やすことに重きを置いている。
時折、待機中の氷槍を迎撃や牽制に撃ち出しながらも十分と言える量の氷槍を準備した。
コレがパーティー戦であれば前衛の力を借りもっと早くもっと多くの氷槍が展開されている事だろう。
「これで、チェックメイトですわ!」
この展開量では氷壁の目隠しなど意味が無い。
的など狙わなくてもただ打ち出すだけで当たるであろう量だ。
対してティファニール姫は構え、迎撃の姿勢を取る。
マリーの合図により次々と発射されていく氷槍。
初めの数発は当然の様に撃ち落された、しかし後になるほど飛んでくる量も増え、疲労により動きも鈍る。
その筈であるのにティファニール姫は防ぎ続けている。
所々切り傷は見て取れるが、致命傷は1発として当たっていない。
あれだけの量をどうすれば認識して迎撃できるというのか、一度喰らってしまっては後は濁流に巻き込まれるが如く抗いようは無いが飲まれる瀬戸際で全て防ぎきっている。
魔法を放ったマリーも唖然とその様子を見ている。
そのまま少しの間、この異様な迎撃劇は続きティファニール姫はついにすべての氷槍を迎撃した。
「降参ですわ。まさかあれだけの量を準備して防がれるとは思ってもみませんでしたし、この結果ならいっそ清々しく負けを認められますわ」
マリーの意見も当然だろう。
普通ならあの展開量を見れば後の事を考えて直ぐに降参する。
戦争の途中であるならば撤退する。
しかしティファニール姫は数十人は一気に殲滅できる規模の攻撃のその全てを防ぎ切り立っているのだ。
コレは相手を称賛してしかるべきだろう。
私は決着の宣言をするべくティファニール姫の方を見ると、ティファニール姫は既にクロさんに背負われて端へ移動する最中だった。
「あ、勝手にすみません。ですがティファ様はもう限界の様ですので。そちらのマリー様の勝ちですね」
その言葉に何を言われたか分からない様子のマリー。
数舜して、ようやく状態が飲み込めたのか今まで見た事のない本当に嬉しそうな顔で大きくガッツポーズを取っていた。
「ん・・・、クロ。ごめんなさい。負けちゃった」
「そうですね、負けちゃいましたね。課題は見つかりましたか?」
「うん・・・」
「それは良かったです。はい、コレをどうぞ」
「ありがと」
決着の後ティファニール姫が目を覚まさまなかったので訓練を一時中断してクロさんに治療をお願いしていたのですが、どうやら問題は無いようですね。
「ふう、良かったぜ。姫さんに何かあったらどう言い訳しようかと思った」
「流石に練習試合で1国の姫が意識不明の重体はシャレになりませんからねぇ」
ああ、本当に良かった。
練習試合がきっかけで他国との仲が険悪になるなど考えたくもないかなら。
「しかしまあ、姫さんの迎撃もずごかったがマリー。お前の魔法も凄かったぞ」
「マリーおねえちゃん。すごい!こんど、わたしにもやってー」
物騒なことをお願いするイローナ姫に平謝りして何とか無効にしていたマリーだった。
これならば、軍に入っても直ぐに優秀な働きに期待できるだろう。
「さて、次は私が出ようと思っているのだけれど、どちらが相手してくれるの?」
「え?姉様が出るの?私も出たかったのに」
「ごめんなさい。でも私も今の自分がどのくらい戦えるのか早く確かめたくなったの」
「ぶー」
さて、姉妹でどちらが先に戦うかの口論は終わったようだし、続けるとするか。
さて、我がジラールからはどっちが出る?
「俺が行く」
そう言って進み出たのは大斧を振るうフェリックス・バージュだった。




