76ページ目 リリーのお願い
「どうですか?寮の生活には慣れましたか?シャル様」
「ええ、常識の埒外の事の方が多かったけど、楽しくやらせてもらっているわ」
私は今、別大陸のジラール国から留学されてきたシャンタル・ルーウ・ジラール様。シャル様と街へ食材を買いに来ています。
本来はシャンタル様とお呼びしないといけないのですが、シャル様が対等というのなら愛称以外認めないと言い張られるのでこの呼び方になっています。
私生活を見ていても寮での生活が楽しそうなので良かったです。
「シャンタ・・・シャル様が来られたことでリーズお嬢様たちにもいい刺激になっているようで私も嬉しいです」
「私のおかげで?どういうこと?」
「今まで寮には拳闘の方はおられなかったので個別練習が新鮮だっておっしゃっていました」
「そう、私の国でも拳闘はほとんどいないわ、リスクが高い割にあまり決定打を撃てないから・・・。命を懸けた戦いで拳闘なんて誰もしないわ」
「そうなのですか・・・」
それでも戦い方はあると思うのですが本職の方がそう言っているのでそうなのでしょう。
「それでも、今度私ともお手合わせお願いしますね?」
「・・・いやよ・・・」
「何でですか!?」
「自分が何者か考えてから言いなさいよ」
そんな雑談をしながら大通りを進んで行きます。
「ねえ、この街ってこんなにドワーフ多かったっけ?」
そう言われれば、たくさん見ますね、普段は個人の工房に行かないと会いませんが・・・。
「おかみ、来たぞ」
「これは、魔王クロ様。本日は私どもの店にまでわざわざ足を運んでいただきありがとうございます。どうぞご自由にお持ちください」
「うむ・・・」
「ちょっとクロ!貴女、民衆には手を出さないんじゃなかったの!?」
急に雰囲気を変えておかみさんと話す私を慌ててシャル様が咎めますが、私の一睨みで怯んでしまわれます。
「おかみさん、いつまでコレやるんですか?」
「なんだい、ちょっとは大陸魔王らしくした方がいいと思って提案したのに、不興かい?ウチは魔王様御用達のお店を宣伝出来てありがたいんだけどねぇ・・・」
「え?え?」
急にフレンドリーに話しかけてくるおかみさんに困惑されるシャル様。
ただの演技です。はい。
「おかみさんのオススメだからやってみましたが、どうもしっくりきませんね」
「そうかい、残念だねぇ・・・。」
ゲシ!!
シャル様、痛いです。足を思い切り踏むのはヤメテ下さい。
先ほど手合わせは勘弁と言っていましたのにこういうことはされるのですね・・・。
顔を見ると物凄く睨まれていました。
「あいよ、お会計」
「ありがとうございます。それと、今日はドワーフの方が多いようですが・・・」
このおかみさん、実はかなりの情報通。
街で聞きたいことがあればほとんどココで情報を仕入れることが出来ます。
「ああ、クロちゃんは来たばかりだから知らないんだっけ?もうすぐ創剣祭があるんだよ」
「創剣祭ですか?」
「ああ、毎年この時期に鍛冶師たちが自慢の一品を王に奉納するお祭りさ。そんで、国王様が最も優れた一本を選ばれるってだけのお祭りなんだけどね。選ばれた鍛冶師は最高の栄誉だし、宣伝になるね!」
「この間、誕生祭を行ったばかりですよ?」
どれだけお祭り好きなんですか、この国。
「この間のは節目年だから例外だよ。いつもはお城の中だけでやってるよ。ま、創剣祭は参加者限定のお祭りだけどもその参加者を狙って客引きをしているって訳だよ」
「じゃあ、この創剣祭はいつも通りなのね?」
「ああ。でも、今年の創剣祭は荒れるかもしれないねぇ・・・」
もう少し詳しく聞きたかったのですが、おかみさんに「買い終わったなら行った行った」と追い出されてしまいました・・・。
フラグは要らないです・・・。
お買い物を終えて寮へ戻ってきましたが、何やら騒がしいですね。
「ただいま戻りました」
「あ、クロさん!待ってました!」
私がサロン入ると直ぐにリリー様が飛びついてきました。
「わ!?どうされたのですか?リリー様」
「実はクロさんにお願いしたいことがあるんです!」
リーズお嬢様に視線で確認しますと
「クロじゃなきゃ話しても意味がないの一点張りよ・・・」
私でなければいけないことですか・・・コレと言って思いつきませんね。
お料理の事でしょうか?
「父さんを手伝ってください!」
「えと、詳しく聞かせて下さい」
「実は・・・」
纏めるとこんな感じでした。
「『創剣祭の素材が無いから融通して><』と?」
「それじゃあ私たちが全くダメみたいじゃないですか!!間違っていないけど間違ってます」
「すみません、ライバルの鍛冶屋が材料を買い占めて剣が創れないと言うことでしたね?」
「はい。ですので、卑怯な方法を取ったあの鍛冶屋に負けたくないんです!」
・・・卑怯ですか・・・。確かに、やり方は卑怯ですが・・・。
「リリー様、ソレは本当に卑怯なのでしょうか?」
「え?」
リリー様の顔が陰っていきますが続けさせていただきましょう。
「その鍛冶屋さんは今までの自分の売り上げで材料を買い占めて剣を造る作業をされているのですよね?でしたら私は卑怯ではありますが、否定は出来ません。」
「どうして・・・」
「査定する方が居て優劣を付けるという点では勝負事とも取れます。そして、自分の力で稼いだお金で独占した。というのなら私はソレはその方の戦略だと思います。材料が欲しいなら他の街へ買い付けにも行けますし、もっと前から材料を集めることもできます。創剣祭は毎年行われているのですから今回の事を回避しようと思えばいくらでも方法はあったはずです。なので今の状況はその方の努力の結果だと思います。ってリリー様?」
言い終わってリリー様の方を見ると俯いてプルプルと震えていらっしゃいます。
「何ですか!?クロさんもあの鍛冶屋の味方なんですか!もういいです!!失礼しましたぁ!!!」
そう言って立ち去ろうとされるリリー様を慌てて引き留めます。
確かにその鍛冶屋さんを肯定しましたが、肯定=リリー様を手伝わないではありません。
「落ち着いてください、リリー様。今のはあくまで私個人の感想であってお手伝いしないとは言っていません」
「へ?」
キョトンとされるリリー様。
もうお少し落ち着いて欲しいですね。いえ、それだけ彼女は追いつめられていたのでしょう。
「その鍛冶屋さんの行為を肯定するという事はリリー様の行為も肯定するという事ですよ。リリー様は頑張ったつもりは無いと思いますが私と知り合ってから今日までで私の信頼を勝ち取っているのです。つまり、その鍛冶屋さんがお金の力で材料を揃えたというのならば、リリー様は信頼の力で材料を集めたというだけのお話です」
う~ん、うまく伝わったか不安ですが、他にどう言えばいいのか良い言葉が出てきませんし・・・。
「私は、クロさんの信頼を得られているの?じゃあ、協力してくれるの!?」
あ、良かった。どうやら伝わっているみたいですね。
普段からお世話になっているリリー様のお願いです、無下には出来ません!
ここは一つ最高の武器が出来る材料をお渡ししようではありませんか!
ゴトン。
「何ですか、コレ?とってもキレイですが」
「オリハリコンです」
「いい加減な事を言わないで・・・・あ、本当にオリハルコンだ・・・。なんで、ココに・・・。じゃなくて!理由は聞きませんが、こんな高価な物、受け取れません!」
呆然としたり怒ったりと今日も元気が良い方ですね。
しかしダメですか、喜ばれると思ったのですが・・・。
ではコレで・・・
ゴトン。
「コレは?」
「ミスリルです」
「何で平然と希少なインゴットを渡してくるんですか!?」
「ミスリルは最近安定して手に入る様になりましたので・・・」
リッターさんの体を毎日訓練で切り飛ばしていますので・・・。
もらっているのはちゃんと自力で切り飛ばした分だけですよ?
ズルはしていませんよ?
「すいません、普通の鉄のインゴットを下さい・・・」
崩れ落ちながらそうおっしゃるリリー様。
何だか悪い事をしてしまいました。
皆さん、何でそんな目で私を見るのですか?
武器の作製なのですからいい素材の方がいいではないですか!
あひ、すみません。常識を考えろってことですようね?
私的には渡してしまっても良いのですけどね。
ゴトン。
「はい。どうぞ」
「うう、コレでもウチで仕入れているのより良いやつです・・・」
渋々鉄のインゴットで納得していただきました。
しかし、リリー様でコレですとリリー様のお父様は・・・。
「リリー様。私も一緒に親方さんに会いに行っていいですか?」
「いいけど、どうして?」
「思う所がありまして」
生粋の職人である親方、リリー様のお父様が納得するかどうか不安になってしまったのです。
「あ、じゃあ私たちも一緒に良い?丁度暇してるし」
と言ってリーズお嬢様たちもご一緒にリリー様のお家へ向かうことになりました。
「父さん、ただいま」
「おう、お帰り・・・」
やはり親方も元気がないですね。
「父さん、コレ!」
「おま、こんなインゴット何処で・・・」
「クロさんに譲ってもらっ」
「バカヤロウ!!!!」
「「「キャ!?」」」
親方のいきなりの怒鳴り声にお嬢様達は怯んでしまいます。
いきなりこのボリュームの声は私もさすがに・・・。
「なんでこんな事しやがった!?」
「何でって、あの鍛冶屋の所為で父さん困っていたから、だから・・・」
「今のこの状況はアイツが今年の創剣祭にそれだけ真剣だったってことの表れだ!この街の鍛冶屋連中はソレを分かっていて何もしなかった!コレは自業自得なんだよ!!それなのに、他人様からインゴットを譲ってもらっただぁ?テメェには職人としてのプライドが無いの・・・か・・・」
どうやら親方は私と同じ考えの様ですね。
件の鍛冶屋がどれだけ真剣だったか知っているが故にリリー様が許せなかったと。
しかし、最後までは続きませんでした。リリー様が大粒の涙を流して泣いておられたので・・・。
「わだしは・・・どうさんの、助けになればとおぼっで・・・ぐす・・・」
気まずい沈黙が流れます、かといってこの場はおちゃらけていい場面ではないですね。
シリアスは苦手なのですが・・・
「親方さん」
「何だ、クロ」
コチラを見る眼が厳しいです。
睨んでいると言ってもいいですね。
私が突っぱねていれば起こらなかった問題なのですから、ですがリリー様の気持ちも分かりますので・・・。
「親方さん、リリー様はその鍛冶屋さん同様ご自分の可能な手段の中で考え最も確実で効率的な手段を取られたのです、そんなに怒らなくとも」
「しかし、譲ってもらってくるなど許せん!」
「お譲りしたつもりはありませんよ?後でお題はいただきます」
本当は差し上げるつもりでしたが、こう言っておけば変に角も立たないでしょう。
「オレァ、金の話を言ってるんじゃねえよ。本来俺たちが商品を提供する側なのにされる側に提供されてどうすんだって言ってるんだよ。まあ、娘の気持ちも十分にありがてぇがコレはプライドの問題だ!」
要するに、冒険者や騎士たちが持っていたから使っていいよと渡された物で作るのが嫌だと・・・。
これが職人・・・あのでしょうねぇ・・・。
あ!良い事思いつきました。
「でしたら、依頼されてはどうです?材料」
「この辺に鉱山はねぇし、あってもかなり潜らなければ取れない。それに今は創剣祭のおかげで依頼料金もバカ高い。そんなモン出している余裕はねぇよ」
「忘れていらっしゃいますね?私たちも冒険者・騎士の見習ですよ?学生への依頼ということで報酬も抑えられて私たちも単位になって一石二鳥です!」
「しかし、オラァ・・・」
「リリー様もご一緒に行かれますので、娘からのプレゼントなら問題ないでしょう?」
「わぁったよ、俺の負けだ。しかし、アテはあるのか?鉱山に行って掘るのは危険だぞ?」
「我に秘策アリ!ですよ。皆さん、手伝っていただけますか?」
「「もちろん!!」」
「皆・・・ありがとう・・・」
さて、それでは武器の材料を採りに行くとしますか。
シャル「・・・ねえ、どうしてクロはオリハルコン持ってるのよ?」
リーズ「なんかこの間、作れるようになったって言ってた」
シャル「誰かアイツに常識教えなさいよ」
カグヤ「教えてもどうせすぐにゴミ箱に直行ね」
親方「オレァ、金の話を言ってるんじゃ(以下略
(俺が作ったのより良質のインゴットなんて悔しくて使えん!!!)
前略)プライドの問題だ!」




