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ファミリアエッセンス  作者: 玄亀
75/211

75ページ目 メイド=冥土

シャンタル視点


「あっはっは。ソレは大変な思いをしたねぇ」

私達の前でさも楽しそうに笑うのはこの学園のトップ、カリン・ビアード・セルグリンその人だ。

しかし仮にもこれから自分の学び舎で暮らすことになるであろう生徒に対してこの態度はどうなのだろう?

あまりにも酷すぎるのではないだろうか?

お付きのコーラルも今にも爆発しそうだ。


「それで?君はその間何をしていたんだい?」

!?

目を細め、私たちを射抜くような視線を向けられる学園長先生を前に私たちは何も言うことが出来なかった。

私達は事が済むまでただ立っていることしかできなかったのだから・・・。


「だんまりか・・・。まあいい。本題に入ろう」

良かった、ようやく学園長の威圧が解けた。

「シャンタル君。君の・・・貴国の学園生活での要望は全て通したが、コチラにも条件がある」

「条件、ですか・・・」

「ああ、大きく分けて2つだ。1つ、君たちがクロについて調べた事を報告するときは私の監査を通すこと。1つ、寮のルールに従うこと。この2つだ」

「2つ目はともかく、1つ目は何故ですか!」

一々学園長を通していたら私たちの行動が筒抜けになってしまう。


「私たちにだって隠し事の1つや2つあるからねぇ・・・」

「・・・分かりました、全て貴女の監査を通すようにします」

「ありがとう。さて、話は以上だ。君の住む寮まで案内するよ」

学園長自らが寮まで案内してくれるなんて案外生徒思いの所もあるのね・・・。

私達は学園長の心使いに感謝しながら後をついて行こうとする。


「寮に来られても美味しい食事などは用意されていませんよ?学園長」

メイドの一声にビクリと固まってしまう学園長。

「な、何を言っているんだい?こ、この私が生徒のディナーをたかるような真似をするはずがないだろう?」

動揺しまくってるんですけどーーー!?

え?何?本当にたかるつもりだったの???

「彼女にしっかりと寮の位置を案内しないといけないだろう?」

「その寮に私たちは住んでいますので、案内は要りませんよね?」

「「・・・・」」


学園長はメイドに向き直り、崩れ落ちる様な自然な流れで跪いて

「暖かい手料理が食べたいです。お願いします」

恥も外聞の無く懇願し始めた。

アレ?学園長先生、先までの凄いイメージと全然違いますよ?

何か、ソコのメイドの方が断然偉そうですよ???

メイドが呆れたように応じると抱き着いて感謝の言葉を言っていました。


「コホン、それでは行こうか」

凛々しく歩くその姿もさっきの光景の影響で全然様になっていない。

多少の注目の中、私たちは寮に向かって歩いて行く。

途中にあった施設はティファニールが説明してくれたわ。



「さて、この先にあるのがこれから君が住む寮だ」

「結構遠いのね」

「一番古い寮だからねー。あ、でも中は新しいよ」

ティファニールの説明を聞きながら寮を眺める。

今日からここで過ごすんだ、パパもママもいない。何の制約も無いこの寮で!


「まずはこの寮の基本ルールからだ。メイサ頼んだよ」

「そこまで言わはったら自分で言うたらええのに・・・」

寮のダイニングルームで数人の生徒と一緒にこの寮の事を確認する。


「まず、ウチはメイサライネ・デスプリスや。メイサでええよ。寮長もやっとる。んで、ココの基本ルールやけど、皆同等に呼び合う事。つまり、タメ語で話会うっちゅう訳や」

「姫様を相手にタメ語など!」

沸点に達しそうなコーラルを手で諫めて了承する。

元々お城での私に対する接し方が嫌で出てきたところもあるので問題は無かった。

「そうかー。助かるわー。ほら、そういう事気にする人っておるやろー?そんなことに気ぃ使っとたらリラックスもできひんしなぁ」

「私もお城での恭しく接する態度が嫌だったからちょうどいいわ」

「そかそか。ほな、もう一個大切なルールや」


体をズイと乗り出して私たちに話しかけてくる。

「この寮ではクロには逆らわんことや」

「クロ?ってあのメイド?」

確か【冥土】もクロって魔王だったような・・・。

「まあ、多少ルール違反したり文句言ったりしても問題ないんやけど、本気で怒らせたら・・・ヤバイで」

あのメイドがどうヤバいのだろう?

私にはポワポワした優しそうなメイドにしか見えないのだけど・・・。

「学園長先生、情報云々に関しては?」

「ああ、それならもう向こうで話したよ」

「ほな!ようこそ、我らが寮へ!!歓迎するで」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


こんな気さくな人たちと暮らすのなら、私は充実した日々を過ごせるだろう。

「遅くなりましたー、お茶請けです」

「おお!待っとったで~」

出てきたのは丸い中央に穴の開いた木の年輪の様なパン?

甘い香りがするけれど、コレは何という食べ物かしら?

「コレは、バームクーヘンというケーキです」

「ケーキ!?コレがケーキなの???」

パパがこの国で食べたケーキという料理は今までに食べたことが無いくらい甘くて美味しい物だと言っていた。

だが、そのケーキは白く柔らかい物がふんだんに付けてあり、様々な果物が入っていたと聞いた。

さすがに国王の誕生祭と同じものが食べられるとは思っていなかったけれど、聞いていたケーキとの落差に私はがっかりした。


「姫様、いくら差分なくと言われていてもそこまで態度に出ると失礼です」

「あ、ごめんなさい!えっと・・・クロ?」

しまった。態度に出ていた!?私としたか事が。

パパがいけないのよ!とめも美味しそうに話すから・・・。

「えと、シャンタル様の思っておられるケーキは白いクリームが周りに塗ってあって、果物が入っている物ですか?」

「!?そ、そうよ!もしかして、食べられるの?」

「あ、いえ。今は材料を切らしておりまして、また後日お作りしますね?」

「そう・・・ええ!?食べられるの???」

「はい。食べられます」

「国王様の誕生祭に出された様な料理なのに!?」

「私が作らせていただいた料理なので、大丈夫です」

よっっっしゃ~~~~~!

思わずガッツポーズをしてしまった、恥ずかしい///

初めて食べるバームクーヘンは私が今まで食べたどんなお菓子よりも甘くて美味しかった。



コーラル視点


私は、どうすればいいのだろう?

私達はこの学園の学園長に連れられて私たちが過ごすことになる寮へやってきた。

そこで姫様はこの寮の寮長たるメイサ様から簡単な話を受けている。

この寮では皆平等と聞いた時は王族でも適用されるそのルールに驚いてしまったが、考えてみれば姫様は傅かれるのが嫌でこの学園に来られたのだ。友人としての付き合いというなら問題はあるまい。


話が終わる丁度のタイミングでメイドが食べ物を持ってきた。

メイド、クロさんによるとバームクーヘンというケーキらしい。

ケーキなる菓子は国王様よりお聞きしていたソレとは全く違う。

姫様も気を落としておられるが、ココでその態度はいけません!

「姫様・・・」

どうやら姫様もご自分の失態に気が付かれたようです。

対等な分、礼儀は必要不可欠になって来るのです。

しかし困りました、机の上にはバームクーヘンが1,2,3,4つ。

そう。つまり、姫様・学園長・メイサ様・私。

私の分まであるのです。

私が困っているとメイサ様がジェスチャーで私も座って食べるように勧めて下さいました。

姫様はクロさんとの会話に夢中です。

え!?誕生祭の時のケーキが食べられるんですか!?

私の胸も期待に膨らみます。


少し話をした後、私と姫様はメイサ様に連れられてこれから暮らす部屋と寮の中の案内をしていただきました。

私はメイドとしてこの寮に来ているので、実際に仕事をするときの事を考えながら寮の中を確認していく中で、気になる事がありました。

「メイサ様。クロさん以外のメイドはどこに居られるのでしょうか?」

この寮ではクロさん以外の方は学生であり、メイドの姿が見当たらないのです。

「すまんなぁ。この寮、メイドおらへんねん。ちょっと前の異動で皆辞めてしもて・・・」

「ですが、寮はとてもきれいな状態ですよ?」

「クロが一人で管理してくれてるねん。流石に1人はキツイやろう思うとる時に来てくれたから助かるわ~」

なるほど、1人でこの寮を管理できるのですか、かなり有能なメイドなのですね、彼女は。

「この寮を1人でとは驚きです」

「せやなぁ、リーズのクエストについて行ったりしてるのにようやるわ」

「ちょっと待って!あの娘、メイドじゃないの!?なんでクエストにまでついて行ってるの???」

「んー?何でてクロはリーズの使い魔(ファミリア)。メイドの作業はほぼついでや」

・・・はい?

意味が分かりません。

この寮の管理をついででやってしまうなんて、掃除にしても食事にしても1人で行う量ではない。


あらかた案内が終わった頃にはちょうど夕食の時間になったようです。

「ほな、メシ行こか?あ、その時に皆に簡単に紹介するわ」

食堂へ行くと他の方はもう席についていました。

私は遠慮しようとしたのですが、初日という事で強引に座らされてしまいました。


「んー、大体そろたな。後は・・・」

『ただいま~。今日のご飯何~?』

壁や天井から複数の女性が現れました。

「「・・・・」」

私も姫様も唖然としてしまいます。

普通に考えれば壁から出てくるなんて出来ませんし、常時空中に浮いているのもトンデモなく大変なはずです。

「おう、おかえりー。今日はシチューや言うてたで」

『・・・シチュー・・・』

バタン!

「ハァ、ハァ・・・間に合いましたか???」

「おう、丁度や。はよ座り」

扉を勢いよく開けて、三人の女性が飛び込んできました。

かなり焦っている様子です。

彼女たちはメイサ様に促されて席についていきます。


「ほい、ちゅうもーく。この2人は今日からこの寮に住むことになった」

「シャンタル・ルーウ・ジラールです」

「コーラル・ジェシカです」

「仲良うしたってや」

パチパチと拍手が響きます。

お城では感じることの出来なかった暖かさに胸がじんわりと熱くなります。

「んで、さっき壁とかから入ってきたんが大精霊様達で、駆け込んできたんが【鎧】リッターと【館長】エスター。後、お付きのローラな。ウチの寮のトップシークレットやからバラさんといてや?」

へ?大精霊様??【鎧】【館長】???

そんなついでで言う事ですか???

思考が追い付かずに固まってしまっていると、私より先に考えがまとまった姫様が叫びました。


「どうしてココに私たちの宿敵(【鎧】)がいるの!!!」

机を思い切り叩き、怒りを露にしておられます。

当然です、【鎧】は私たちの国の兵を何人も殺し、とても長い間大陸で猛威を振るっていたのですから・・。

「何や?オトンから聞いてへんの?【鎧】が負けた話」

「いえ、確かに聞かされたけど・・・」

確かに国王様より【鎧】は敗れ【冥土】降り、枷を付けられたと聞きましたがこんなに堂々と生活されていては納得がいきません。

しかも美人さんです、鎧などほとんど見当たりません。


「私が気に食わないというのならば、向かってくればいい。返り討ちにしてやろう」

「何ですって?」

ソレは自身の強さからあらわれる余裕。

私達ではどんな方法を使っても敵わないことが分かっているからこそです。

「ただし!今はダメだ。食事中にそんなこと(戦い)をすれば主殿からどんなお叱りを受けるか・・・」

「いつか必ず皆の仇を取ってやる・・・」

若干震えながらそう話す【鎧】に姫様も矛を収めました。


「あの、ソチラの方々は大精霊様とお伺いしましたが・・・」

『ええ。そうよ。よろしくね?。うふふ。』

信じたくない!信じたくないけれど、本能で理解してしまう。

この方たちは理の外に居るのだと・・・。

「まあ、基本好き勝手にどっか行ってるから気にしんでええよ?ウチらも最初はビビったけどもう慣れたし」

慣れたくありませんよ!こんな状況!!


「なぁ?報告したく無くなるだろう?こんな事(事実)を報告しても誰も信じてくれなくて気が振れたと思われるぞ?」

全くその通りだ。こんな事報告しても絶対に誰も信じない、むしろ信じる方が危ない。

この寮のことはなるべく報告せずに【冥土】のことだけ報告しよう。そうしよう。

しかし、私たちがここに来る理由(原因)となった【冥土】を見ていない。

【鎧】を降すほどの者なら見ればすぐに解るはず・・・。

そんな事を考えているとクロさんが夕食を運んできました。


メニューはスープとサラダとパン。

配膳は当番制らしく、何人かの生徒が手伝っている。


「ほんじゃ、いただきます!」

「『「いただきます!」』」


パンは普通のパン、こんがりと焼き目が付いていて美味しそうですね。

フム、柔らかい。お城で出されているパンにも負けませんね。

味もほんの少し甘く・・・!?

何ですか?味が、変わった!?

中を見ると乳白色の塊がありました、コレのおかげで味が変わるのでしょうか?

サラダは葉野菜に卵、後は白い塊。 塊?所々に赤い物も見えます・・・。

この塊は塩と何かの味がして美味しいですね。

お腹に溜まる感じがするので腹持ちもよさそうです。

さて、スープは・・・赤い・・・ですね。

肉に芋、他の野菜もたくさん・・・。

かなり贅沢なスープ、私たちの為に気を使ってくれたのでしょうか。

横目で姫様を見ると手を震えさせながら食べておられます。

一体どうされたのか・・・、まずは一口・・・。

美味しい!姫様の震えの理由はコレですか!


こんなに美味しいスープはお城でも出てきません。

私も早く口に入れたい衝動にかられますが他の方がゆっくりと食べている中、それはあまりにも不作法です。

それに、急いで食べてしまっては直ぐに無くなってしまいます。ゆっくり味わわないと・・・。

「メイドおねぇちゃん、おかわり!」

【おかわり!】その言葉を私は聞き逃しませんでした。

横目で見るとティファニール様の妹君のイローナ様がスープのおかわりをよそってもらっている途中でした。

そのまま見ていると、他の方々も自分でよそい、食べています。

「あ、すみませんお2人共。おかわりは全部自由ですからドンドン食べて下さいね」

そうにこやかに言うクロさん。

私達は余程変な顔をしていたのでしょうか?

私も姫様も迷わずおかわりに向かい、食事を再開します。



夕食も終え、食後に出されたお茶を飲みながらゆっくりとしている時です。

「ところで、学園長」

「何だい?シャンタル君」

「私たちはまだ【冥土】に会っていないのですけれど、会わせていただいていいですか?」

姫様の言葉に皆固くなります。

当然でしょう、最強の大陸魔王を倒した新たな魔王に自分から会いたいなどというのですから。

学園長はニヤリと笑って「分かった」と一言だけ言いました。

「おーい、クロー。姫様がお呼びだぞー?」

「はーい」

パタパタとやってきたのはクロさん。

私達は【冥土】と会いたいといったのですが、何故クロさん?確かに名前は同じですが・・・。

「どうされたんですか?」

「何、姫様達が【メイド】に会いたいそうだからな」

「ああ、そうですか。クエストの目的ですもんね。遅くなりましたが、私が今回新しく大陸魔王に任命?されました【メイド】・クロです。よろしくお願いしますね?」


ないナイあり得無い。

どう見ても彼女は一般人です。

確かにリーズ様の使い魔かもしれませんが、世界中が恐怖する大陸魔王には見えません。

昼間の時だって何も出来ずに捕まっていたのです・・・か・・・ら・・・。

この時になって学園長の言葉がよみがえります。

もしあの言葉をクロさんに言っていたのだとしたら・・・。

いえいえいえ、悪漢と【鎧】とでは違いすぎます。

どう考えても彼女には無理です!


「何や、信じられへんのか。ホレ、討伐依頼書」

渡された依頼書をのぞき込む私と姫様。

そこには着替え中に除かれて焦っているクロさんの姿がありました。

「「・・・」」

「どや?ええやろ?ウチの秘蔵の一枚やで」

ニヤニヤと笑っているメイサ様の後ろから

「・・・メイサお嬢様、私、全て焼却してくださいってお願いしましたよね???」

物凄い笑顔のクロさんが立っていました。

「い、いやぁ・・・あまりにもええ出来やったんでつい・・・」

いうや否や走って部屋を飛び出していくメイサ様。

「ついじゃないですよー!!隠している分全部出してくださーい!!!」

それを追いかけて行くクロさん。

・・・

私達は呆気に取られていました。

この依頼書、肖像はともかく本物です。

つまり、彼女は本物の【冥土】という事です。

そして私たちは思い至りました、誰かが勝手に【メイド】を【冥土】と呼んだのだと・・・。

そんなしようもないことに気を張ってこの学園に来たのだと・・・。

なんだ、普通の女の子じゃないですか、ッホ。


「貴女達はクロ様を【冥土】と呼んでいらっしゃるのですよね?」

「ええ。そうですが」

【館長】エスター。魔族を管理するものとさえ言われている大陸魔王、一体何を考えているのです。

「その二つ名いただきますね。いやー、あの方に【メイド】なんて似つかわしくないと思っていたのですがコレは素晴らしい!是非今後そう呼ぶようにいたしましょう。あ、私早速通達に行ってきますね」

そういうと直ぐに何処かへ行ってしまった。

彼女が行った後に1枚の依頼書が落ちていました。

そこに描いてあった肖像は笑顔のクロさんでしたがその笑顔からは物凄く威圧感が感じられ、私たちの言っていた【冥土】もあながち間違いではないと【館長】の歓喜の理由が何となく解った瞬間でした。

メイサ寮を案内中のクロ


リーズ視点


「皆さん、お食事中にあのお2人が【メイド】の事を聞かれてもはぐらかしてくださいね?」

「どうしてだい?今更恥ずかしいなんて思っているわけではないだろう?」

そうよね、街でも普通に【メイド】で通っているもんね。何を気にしているのかしら???

「もしシチューを噴き出された日にはお姫様の幻想(イメージ)ぶち壊しですよ?」


あー、うん。そうね。イメージは大事よね・・・。

ティファのおかげでずいぶん崩れたけど。

「それに」

「それに?」

「シチューで汚れたテーブルクロス、汚れを落とすの大変なんですからね!」

そう、ビシッ!と私たちに言うクロ。

良かった、いつも通りのクロだわ。

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