72ページ目 祭りの後の
イヴァン視点
誕生祭も無事に終了し、皆帰り俺たちも祭りの後片付けを行っている。
そして、今日。ある意味俺の誕生祭よりも重要なことが行われる。
そう、クロの大陸魔王としての契約である。
人の身で人間も魔族も敵に回す、ある意味世界を敵に回すに等しいその行為はトンデモない重圧だろう。
「クロ、本当にいいのか?」
「大丈夫ですよ、【館長】さんもサポートしてくれると仰っていましたし」
俺たちは今、大広間で【館長】がやって来るのを待っていた。
クロには何か思惑があるようだが、本当ならやめさせたかった。
コイツはこの先に何を見ているのだろうか・・・。
「クロ、俺たちにできることがあれば何でも言ってくれ。可能な限り叶えてやる!」
「本当ですか!?では、その時になりまりたら是非!」
珍しく素直に喜んでいるが、つまりは俺たちに何か頼まなければならない様な事があるようだ。
あれ?もしかして早まったか???
「心配されなくても大丈夫ですよ。今の生活にも国の運営にも多分問題ありませんから」
その多分が一番怖いんだよ。
「それに、使い魔も増えるかもですし」
ボソッと何かとんでもない言葉が聞こえたが、多分アレだな。契約後、何か魔物を部下として迎え入れるという事だな。うん。
しばらくして何もない空間が歪み、中から【館長】が現れた。
「おや?お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ。そんなに待っていませんよ」
「それでは早速契約をいたしましょう」
そう言って直ぐに【館長】は契約の為の魔法陣を展開する。
「エレーア様、魔法陣は問題無いですか?」
「ええ。普通の契約に用いる魔法陣です。細工も感じられません」
「確認もしていただいたところで始めましょうか」
クロと【館長】が向かい合って魔法陣の中心へ進みでる。
「では、このナイフで指先を少しだけ切って魔法陣へ血を垂らしてください。それで契約完了です」
「こちらのお願いは確認しなくてもいいのですか?」
「おっとそうでしたね。では要望をまとめた物をお出しください」
「コチラになります」
ズッシリ
持った時にそう感じてもおかしくないほどの羊皮紙の束、一体どれだけ書き込んだのか・・・。
クロと淡々と会話できている【館長】もさすがに引いている。
パラパラと少し捲りさらに顔を歪ませる。
「こんなに、あるのですか?」
「はい、出来るだけ穴を無くして書いていたらいつの間にか・・・」
・・・・・・・
広間に何とも気まずい雰囲気が流れる。
契約書など、普通は1枚で事足りる。多くても数枚までだ、しかしクロの渡した紙は数百枚はくだらなかった。
「・・・・いいでしょう。では契約を再開しましょう」
見るのが嫌になったのか、スルーして契約を続けるように促し始めた。
まずはクロが血を魔法陣へ落とし、続いて【館長】も魔法陣へ血を落とす。
魔法陣は強い輝きを放ちながら回転しだした。
「今、この時から汝を【館長】・エスターの名において大陸魔王に任命する」
眼を開けていられないほどの光が広間を包み込み、やがて静かに光は収まっていった。
ソコに居るのは何も変わっていないクロだが、新しい大陸魔王が誕生した瞬間だった。
「な!?何ですかコレは!?」
驚きの声を出したのは【館長】だった。
どうしたのかと見てみると、【館長】の首には隷属を示すことに使われる首輪に似たような物が付けられていた。
おい・・・
「ど、どういうことですか?クロ様!?」
焦った声で問い詰める【館長】。
まさか・・・
「?どうかしましたか?」
完全にとぼけるクロ。
急いで娘たちの顔を見ると、皆、苦笑いをしている。
初めてみる女性は三角座りをして顔を伏せている。そう言えば誰だ?コイツ。
「どうしたかではありません!何故、私にこの様な首輪が付くのですか!?これではまるで隷属ではないですか!!」
そう、見目は完全に奴隷か隷属させられている者の状態だ。
「いえ、私はしっかりとこの条件で問題無いですかと尋ねましたよ?【館長】さんが中身も確認せずに契約を行ってしまったのではないですか。えっと・・・ああ、あったあった。この文章ですね」
”私は本契約の契約者を主人とし、主人の為に自分の全てを賭けて尽し続けることを誓います”
要約するとこんな感じだった。
文章自体も長ったらしくお互いの呼び方も”甲”や”乙”と分かりにくい表現になっており、更にその一文も全体の5分の4くらいの所に一行だけでチョロッと書いてある。
「ダメですよー、契約書はしっかりと読まないと・・・。悪い人に騙されてしまいますよ?コレが私で良かったですねー?」
この世界の悪人はそもそも契約なんぞせず、暴力で解決しようとする。
こんなことは初めてだろう。
「こ、こんなことをして許されると・・・」
「ですから、私は初めから全て文章で確認してくださいとお渡ししたではないですか」
クロはこう言っているのだ、確認しないお前が悪いと・・・・。
「おい、クロ?お前、紙にまとめると言ったのは・・・」
「この為ですよ?」
悪びれることなく言いやがった!
「戦力も増強出来て、魔族のルールにも詳しい。しかも魔王・魔人の管理者とも言われている。つまり!情報は抜き放題、対策立て放題。ほかにもまだ色々あるでしょうから一粒で何度美味しいのでしょうか?」
・・・最低だ。
魔族に対してだが、やったことは最低だった。
いや、最低という響きですらぬるく感じた。
普通、こんな手口は考えない。
契約とは神聖なものだ。決して破らないと互いに誓い合う儀式だ!それを・・・
「それではこれからよろしくお願いしますね?エスターさん」
「グ・・・。は・・・い・・・」
すると今までふさぎ込んでいた女性が立ち上がり、【館長】の所まで歩いて行くと肩に手を当て
「いらっしゃい。エスター歓迎しますよ」
「この魔力!貴方、リッター様ですか!?」
「はい」
「どうしてこのような姿に・・・」
は?リッターだと!?城の者は皆驚いている。
リッターと言えば全身が鎧の魔王のはず、それが彼女はどう見ても人間で同一人物だとは思えない。
確かに鎧は来ているが以前のような鎧では無く、女性用の鎧である。
「それには聞くも涙、語るも涙の出来事があったのですよ・・・」
クロがハンカチを持って泣きまねをしながら語りだした・・・。
クロの話を要約するとこうだ。
あの日、クロはリッターを連れて寮へ帰ったそうだ。
当然、他の寮生に驚かれたがソコはもう異界の様な寮なのでそこまで問題は無かった。
問題があったのはその後だった。
このままでは目立ってしょうがないので対策をしようという話になったそうだ。
つまり、【鎧】・リッターの見た目をどうするかということである。
それは泥沼の争いとなり、一晩中続いたという。
最終的にクロが魔力を使えば何度でも容姿を変えることが出来ると分った為この姿になったという。
現在のリッターは長身でスタイルも整った姿になっている。
エルフにも劣らない美貌であり、日の光を反射して輝く金髪は後ろで一つにまとめている。
誰もが振り向くであろう女性となっていた。
が、リッターの表情は暗く、体全体から陰鬱としたオーラがにじみ出ている。
そしてリッターは言っているのだ。
貴方もこうなるのだと・・・。
【館長】青い顔をするが当然そこに逃げ場はない。
「あの・・・クロ様。私は一体何をさせられるのでしょうか?」
「エスターさんは、基本、今まで通りでお願いします。お願いするのは主にルールに関することとか手続きとかですね」
「それならば配下に付けようと思っていた魔物でも十分なのでは?」
「どうせなら権力者の方がいいではないですか?色々と」
含みのある答えに答えることが出来ない【館長】。
「今まで通りという事は、私の変装はな」
「していただきますね?私もリッターさんもしているのにエスターさんだけ仲間外れになどとてもとても・・・」
「ですが、私が人の恰好をしていれば怪しまれますよ?」
「私たちの前に居る時だけで結構ですから」
にっこりと退路を断たれ、崩れる墜ちる【館長】だった。
クロ視点
ふう。これでエスターさんの契約は完了ですね!
まずは魔王のルールや基本システムになれなければ!
「エスターさん。まずは横の魔族の方の紹介をお願いします。」
「・・・はい。彼女はローラ。サキュバスです、貴女のサポートをさせる為に連れてきました。彼女とも契約をされますか?」
「はい、もちろん。」
情報の漏洩は怖いですからね。
「ではこの首輪をはめて下さい、それで契約は完了します。」
首輪を確認してローラさんに付ける。
扱いは私の従魔になるらしい。私には違いは分かりませんでしたが、魔族的には色々あるそうなのでそのまま従います。
契約の内容は問題ありませんでしたしね。
「それで、私はまず何をすればいいのですか?」
「そうですね、領地と本拠地を決めていただければ後は自由です。他の魔王・魔人と被っている場合は戦って勝ち取ることになります」
「それでは領地はコスカートのフェリアで、本拠地はココでお願いします」
「クロ、ちょっと待て!それはどういうことだ!?」
「どうもこうもそのままですけど?王城なら元々防衛の事も考えて作ってあるはずなので作業が減りますね」
「な!?」
「別に明け渡せと言っているのではなくて、間借りさせてほしいだけです。普段はリーズお嬢様と一緒に寮にいますのでお気遣いなく」
「そういう問題じゃない!国民にどう説明するつもりだ?」
「説明、要りますかね?」
「当たり前だ!少なくとも魔王になったのだから討伐の依頼書は出回るぞ、そうすればその情報からこの城に勇者や冒険者がやって来るんだよ」
「先ほど、出来ることは何でもやってやると仰ったではないですか!?と、いうことでよろしくお願いします!」
「よろしくじゃねえよ!限度があるだろう!どうなっても知らんぞ」
そんなに怒ったように言わなくてもいいじゃないですか。
しかしこの世界の討伐依頼書はご丁寧に居場所まで明記されるのですか・・・。
「私は魔王・魔人になられた方の討伐依頼書を作るのが趣味でして・・・」
何とも迷惑な趣味です。居場所がバレるってそれだけでも随分と不利ですよ!
「私は政治にも国同士の荒事にも基本、関わるつもりはありませんので、その辺を国民の皆様方に説明してください」
「納得すると思うのか?」
「できずに向かって来るというのであれば、返り討ちです!あ、命は取りませんよ?」
干渉されないのであれば、私からは何かしようとは基本思いませんしね。
ただ、襲ってくるのであれば容赦なく撃退しなくては!
私は痛いのはゴメンなのです。
まあ、場所がバレてしまっているのはソレはソレでくふふふ・・・
「クロ、とっても悪い顔で笑ってるわよ。何を考えてるの?」
おっと顔に出ていましたか、いけないいけない。
「場所がバレていて向こうからコチラを襲って来るのであれば自分から集金に行かなくても善意の募金でお金が稼げて楽だなぁと思っただけですよ、リーズお嬢様」
「善意の募金?」
「はい。他の魔族の方や勇者・冒険者の方を倒してお金を稼げるのですからコレはもう募金かと」
皆さん、固まっています。どうされたのでしょうね?
「ゴメン、意味が、分からないわ」
「ですから、魔族の方の場合は倒せば通常通りにお金がもらえる・魔王としても何か報酬?があるはず。勇者や冒険者の方を撃退した場合は装備と持ち物一式をいただいてオークションに流せばお金になります。普通なら自分で探しに行かなければならないのに自分から金品を持って来ていただける!コレはもう募金ではないですか!!!」
皆さんの硬直は解けません、納得された様子も見られません。
説明不足でしょうか?
「もちろん、防衛には基本リッターさんについていただきますので私の命の心配は極めて低いというこの上ない状態だと思うのですが、どうでしょう?」
「どうでしょう?じゃ、ねーよ!テメー一体何考えてんだよ!?テメーにとって他人は金かアイテムかよ!」
「では、ご自分の命を狙ってきた暗殺者はどうされますか?笑って許して返しますか?国王様はそうされるかもしれませんが、私はそこまで優しくないのでしっかりと代償はいただきます。人に関しては命は取らないように心がけますので、問題無いですね?本来なら、死んでしまうのですから」
そういうと皆さん黙ってしまわれました。
この、私が圧倒的におかしいみたいな雰囲気、どうにかならないでしょうか?
「エスターさん、問題ありますか?」
「仰っていることは問題しかないように聞こえますが、実行される分には自己責任となりますので問題ありません」
微妙な回答ですが、魔族的には問題ないようですね!
では、次は防衛に関して考えていきますか。
ラノベみたいなダンジョン。作ってみたいですねー。
寮の生徒の皆さんは前日までに計画を聞いています。
【館長】さんは残念ながら罠に嵌まってしまい、脱出は不可能です。
この場に居た寮生の皆さんは心の中でこう思っています。
ようこそ!パラダイスへ
さて、ココからクロさんはダンジョン作りにとりかかる模様。
ボス前にラスボス配置という鬼畜仕様のダンジョンに更に色々追加されていきます。
エスター「あ、クロ様。討伐依頼書に載せる肖像を描きますので、後でご協力お願いしますね?」
クロ「どうすればいいのですか?」
エスター「普段通りで結構です。私共で勝手に作りますで、気にせず普段通りにお過ごしください」




