71ページ目 国王誕生祭7
ある国の国王視点
俺は夢でも見ているのだろうか。
最強の大陸魔王と言われる【鎧】リッターが倒されたのだ、しかもただ一人のメイドによって・・・。
俺の国も【鎧】が支配する大陸人あるので、常に被害を受けてきた。
各国と共に何度も討伐隊を編成し、討伐に向かわせた兵は終ぞ戻ることは無かった。
今日、この場に【鎧】が現れたのは予想外だった。
狙いはコスカートの王だったらしく、襲い掛かろうとするのもまるで予想していたように兵を展開させ、防衛させた。
近衛兵たちが負けてしまった後も一人の貴族の娘が善戦し、最後には現れたメイドによって倒されたのだ!
彼女は英雄だ。
長い間倒すことは出来ないと言われていた【鎧】を倒すことが出来るのだから!
これは各国の王の特権を使って勇者と認めても問題はあるまい!
で、その彼女だが現在はカティアナ殿に衣装室へと連れ込まれてしまっている。
さすがに王族相手には無茶は出来ないのか、せいぜい軽く暴れている程度である。
顔は悲壮な顔をしているがな!
周りの者は誰も助けようとしない、【鎧】を全く動くことが出来無くするほど威圧を放つカティアナ殿に誰が敵うというのだ。
数分後、衣裳部屋から聞こえていた悲鳴と騒音が静かになり、扉が開かれた。
出てきたのは大変満足した顔のカティアナ殿とメイドたち。
問題のメイドはグッタリとして引きずられており、どう見ても儀式に相応しい恰好とは言えない。
「それじゃあ、クロちゃん。ココに立って」
そう言って進められたのは王の玉座。
間違ってもふざけて使わせる場所では無いのは誰の目にも明らかだ。
イヴァン殿も止めるかと思いきや、カティアナ殿とは反対側に立ちメイドを待っている。
正気を疑ってしまうが納得できる面もある。
何せ大陸魔王を一人で倒したのである。
その魔王を従わせる儀式を行うというのならば、これ以上の場所はあるまい。
惜しむべきはメイドがグッタリと死んだようになっていることくらいだ。
周りの者たちも左右に分かれ、儀式を見守っている。
イヴァン殿が再度儀式の手順を教えているが、アレは聞こえているのだろうか?
「では始めよう」
厳かな声に【鎧】が中央に歩み出て、そのまま玉座の前まで行き跪く。
己の剣を抜き、メイドに捧げようとするのだが・・・
【鎧】が剣を捧げた瞬間、世界が止まった。
いや、止まったように感じただけか。
しかし、それも仕方が無いだろう。今までグッタリとしていたメイドが戦っていた時の様な引き締まった状態へ戻ったのだ。
それは当たり前なのだが、その雰囲気は凛とした強さと全てを包み込む優しさを内包した聖女の様に見えた。
彼女の着ている服も一役買っているだろう。
白色を基調としたドレスにライトアーマー。
特にこれといった装飾があるわけでもないのに、その存在感は圧倒的だ。
一国の姫と言っても通じてしまうだろう。
俺を含めてその場に参列している者は皆息を飲み、後方で静かに演奏している音楽隊ですらもその姿に演奏を止めてしまっている。
女は化けると言うが、始まる前と今では完全に別人だった。
「我が剣は貴女と共に」
そう言って恭しく剣を差し出す【鎧】。
差し出された剣を受け取り、返すメイド。
「これから沢山無茶なお願いをすることになりますが、貴方の働きに期待しています」
他に言いようがあったであろうが、メイドならそんなものか。
「これにて、誓いの儀式を終了します」
そう、カティアナ殿が言われた瞬間に歓声が起きた。
不満を言っていた者たちも納得したようである。
割れんばかりの拍手はしばらく間続いた。
あらかたの拍手が鳴りやんでまだ一つだけ拍手が続いている。
音のする方を見るとそこにはウサギの獣人が立っていた。
魔族という事は直ぐに分かったが、その立ち振る舞いには隙が無く貴賓すら感じる、相当な実力だろう。
「どうも初めまして。私はエスター。他の魔王たちからは【館長】と呼ばれています。以後、お見知りおきを・・・」
そう言って礼を取るが【館長】だと!?
あの、魔物たちを管理しているという謎の大陸魔王か!
皆固まって動けずにいる。
当然だ、まさか2体目の大陸魔王がやってくるなど露にも思わなかっただろう。
「今回、【鎧】・リッター様を倒された貴女様を新しく大陸魔王に迎え入れたく、参上いたしました」
!?
大広間がざわめく。人間で大陸魔王にだと?そんな事、聞いたことが無いぞ。
誰も唖然としている中、メイドの声が聞こえる。
「私は人間で、貴方達魔族を倒そうとしているのですが、問題無いのですか?」
「構いませんよ?我々は共闘・対立その他すべてが自由です。魔王の条件は人に多大な影響を与える力がある者という一点のみです」
「私はそんなつもりはありませんけど?」
「貴女様の場合は特例ですよ、【鎧】・リッター様を単独で倒せてしまうほどですから、他の魔王も文句を言えないでしょう」
俺たちの動揺を他所にドンドン会話が進む。
本来ならば【館長】を攻撃するべきだろうが、この雰囲気ではとても出来ない。
「どうです?引き受けていただけませんか?」
「・・・引き受けるとして、私はどうなりますか?」
「別に、どうもなりません。変わるとすれば、貴女様に刺客が来るくらいでございます。人・魔族問わずね。後は、魔王の特権が使えるようになりますね。どうです?今なら少しの間は私がサポートいたしますよ???」
メイドを引き込もうとする【館長】。
しかし無駄な事だ!
貴様は魔族で、メイドは人間なのだから!
貴様に靡くはずが無い!!!
「確認なのですが、私が大陸魔王になるとして、人間の味方をしても、他の魔物を倒して回っても何の問題も無いのですね?」
「ええ。暗黙のルールの様な物も一応ありますが、何をなされようと自由です」
「分かりました。お受けしましょう」
何!?
コイツ笑顔でなんてことを言いやがる!
イヴァン殿やカティアナ殿も驚いた顔をしている。
当然だ、まさか魔王になろうなど誰もそんな事思わないのだから。
「クロ!どういうつもりだ!?魔王になどと・・・」
「そうしなければこの場で殴殺劇が起こるだけですけれど、よろしかったですか?」
「大変よく分かっておられますね。クロ様」
チッそういうことか、この場の人間の事を考えれば受けなければ仕方がなかったということか・・・
何と狡猾な!
「それでは早速、魔王の契約の儀式も行いましょうか?」
「あ、すみません。私の方も要望があるのですが・・・」
「構いませんよ?大体の事は認めましょう」
「ありがとうございます。ですが、しっかりと考えたいので7日・・・いえ、3日待っていただけますか?その間にまとめますので・・・」
そうか、その作った時間で自分に有利になる要望を考えるのだな。
「・・・分かりました。それでは3日後にまたお会いしましょう。その間によくよく要望をお考え下さい。それでは・・・」
ニヤリと笑い、【館長】は消えてしまった。
その場に残された我々に重く沈黙がのしかかる。
彼女の事を責めたそうにしている者もいるが、我々の命を守る為とあっては強く出られない、何とか少しでも有利な条件で契約して欲しいものだ・・・。
「では、私は残りの仕事がありありますので・・・」
そそくさと退室しようとするメイドに
「その仕事は王族の特権で上書きよ、クロちゃん。後はミラノに任せればいいわ。貴女の次の仕事はリーズちゃんと一緒に私たちの隣にいることよ。なにせ、英雄だしね?」
1人になったところへ勧誘に行こうとしていた者たちから次々にチッと舌打ちが聞こえる。
かくいう俺もその一人だ、あれほどの戦力はぜひ欲しい。
先手を取ってきたか・・・。
それならば・・・・・
誕生祭はこの後はつつがなく終わり、メイドの契約を見たいと思うも国を何日も開けるわけにもいかないので帰国せざるを得なかった。
後日、【館長】の方からワザワザ新大陸魔王誕生の宣伝にきやがった。
話しぶりからするに世界中の各国に連絡して回っているようだ。
既に討伐用紙に二つ名まで用意されていた。
討伐書
名前:【メイド】クロ
支配大陸:ゼルパノス大陸
拠点:コスカート王城
懸賞金:時価
そこには本人の肖像と簡単な情報・討伐金がかかれていた。
討伐金は現れて直ぐなので時価となっている。
まあ、クロは魔物と敵対すると言っていたから懸賞金が決まっていないのも頷ける。
なお、魔王・魔人共の情報は逐一【館長】の手の者が持ってくる。
この機会に聞くと魔王の情報を世界に発信するのが趣味だとか、弱い魔王・魔人はさっさと処分して欲しいとか抜かしていた。
まあ、そんなことはどうでもいいのだが問題は新米魔王の肖像画である。
その肖像は着替えを見られて慌てている状態で描かれていた。
後日、全身がボロボロの状態で再び討伐手配書を【館長】が持ってきた。
今回の肖像は、まあ、普通だった。
にこやかに王座に座っていることを除けば・・・
国の状態は何も間違ってはいないだろうが、コレは間違っているだろう。
そして、前回の討伐依頼書は回収して燃やしてほしいとの事だった。
えらく嘆願されたのが記憶に残っている。
???視点
おもしろい、非常に面白い。
ここ数百年は停滞していたであろう世界が動いた瞬間だ。
最強の魔王の失墜と新たな魔王の台頭。
これでこの凝り固まった世界も動き出す。
さあ、私を楽しませておくれ。
それにしてもこの討伐依頼書は傑作だ!
最後に腹を抱えて笑ったのは何時だったろう?
コンコン・・・
おや?だれか来たようだ・・・。
訪れたのは【館長】だ。
どうやら【メイド】の新しい討伐依頼書を持ってきたようだ。
姿もボロボロだ、どうやらバラ撒いた依頼書を見られてしまい、変更を余儀なくされたらしい。
それと以前の依頼書を燃やすように?
ハッ!何を言っているコレは出会うまで取って置くともさ!!
新しい依頼書を見るとそこには王座に座りにこやかに微笑む【メイド】の姿が・・・・・・。
何故だか分からないがその微笑みからはっきりと圧力を感じたよ。
前の依頼書を燃やせと・・・。
国王様の誕生祭、無事終了?




