68ページ目 国王誕生祭4
イヴァン視点
誕生祭は概ねコチラの予定通りに進んでいる。
予定外だったのは料理が始まってから半刻も経たずに食いつくされたことくらいだ。
元々追加する予定でいたので何の問題も無いが、お前らガッツキ過ぎだろ。
学園の生徒の顔を見てみろよ?皆驚いて面白い顔になっているぞ?
全く、普段贅沢の極みを過ごしている王族共がこの状態とは・・・。
まあ、仕方ないと言えば仕方ない。
何せ、俺も初めて見る料理ばかりだからな。
俺もこの料理に齧り付きたいが、今日はもてなす側だからな。後日クロに頼んで何品か作ってもらおう。
予定通りに料理を追加して、満足げに料理を食べている来賓を見ながら挨拶をして回る。
挨拶回りをしていると見知った顔が声をかけてきた。神殿の大司祭殿だ。
「これはこれは大司祭様。どうです?楽しんでいただけていますか???」
「ええ、とても美味しい料理の数々、堪能させていただいております。作られたのは彼女ですか?」
「ええ、まあ。また一つ大きな貸しが出来てしまいましたよ」
「彼女は優しいですからね。なんだかんだで取り立てはしないでしょう」
「だと良いのですが・・・」
確かに、今まで貸した分を返せと言ってきたことは無いが、なんだかんだで貸しは結構な数になっている。
クロはたまにとんでもない事を言い出すから、貸しがある今の状態は俺の胃には大変よろしくない。
大司祭殿と談笑をしていると、珍しい者から話しかけられた。エルフの女王と王女であるエレーアとソニアス殿だ。
ソニアス殿は王族の衣装をキチンと着こなし、何処から見ても文句無しの王族に見えるが母親のエレーアは様々な料理を皿に盛り、口にも何か含んだままだ。
エルフは肉やその類が苦手と聞いていたが、コイツには関係が無い様だ・・・。
「おっふ、イファン。ひふぁひふひ」
「エレーア、お前は黙って料理でも食ってろ、エルフ全体の品位と信用が落ちるぞ」
「わはっは。ふぉうふふ」
とりあえず、俺の言葉に返事をしてまた料理を貪り始めた。
見た目が子供なので微笑ましく見えるが、コレがこの大陸のエルフの現女王なのだからどうしたものか・・・。
「ソニアス殿、貴女も苦労しますな・・・」
「言わないでください・・・」
ソニアス殿の悲痛な返事に俺も大司祭殿も何も言えない状態だった。
他の来賓の所を見に行こうとして、クロの姿が目に入った。
あいつ、今日は厨房のはずなのに何だってこんな所に・・・?
「おい、クロ。何をしている?」
「あ、国王様。お疲れ様です、もちろん料理の反応を見ています」
「そんなもの、この追加のタイミングで大体わかるだろうに」
「いえいえ、やっぱりこういうのは自分も見ておかないと。大司祭様、ソニアス様、エレーア様いらっしゃいませ」
「おっふ。ムグムグ」
「お久しぶりです、クロ様。お元気そうで何よりです、たまには里にも来てくださいね?」
「お久しぶりですクロさん。お料理、堪能させていただいております」
ふむ、なるほど。知り合いへの挨拶も兼ねているのか、メイドが王族や大司祭と普通に会話するなど何も知らないものが見ればトンデモない行為だが誰も気が付いていないようだし、問題無いか。それに、立ち位置もよく見ると俺の斜め後ろにいて見方によっては俺の従者に見えなくもない。
さらに言えば、国王・大司祭・エルフ族の王女の組み合わせに誰も近づいてこない。これなら、自然な光景の一部分に見える。会話の主導権を握っているのはクロだがな。
クロたちが情報交換をしていると1人の男が声をかけてきた。
「イヴァン殿、この度は素晴らしい宴にご招待いただき、誠に感謝いたします」
この男は確か、美食の国の国王だったな・・・。
「おお!貴方は美食の国の・・・どうです?今日の料理は?」
「どれも素晴らしい!是非、我が国に来て欲しいものです」
「そうですか、機会があればですな」
冗談ではない、食に力を入れている国に行かせて料理をさせようものなら即、拘束されて王仕えの料理人にされてしまう。
俺もまだまだクロの料理は食べたいし、娘を悲しませるわけにはいかない。
そう思いながらクロに目配せをしようと見ると、ソコにクロはいなかった。
話しかけられる瞬間まで話していたのだから、何処かに行ったという事は無いだろう。つまり、認識阻害をして俺たちからは見えなくなっているのだ、それは良いが、練度が高すぎだろ!?
今まさに話していた大司祭殿とソニアス殿も驚いているぞ?
美食の国の王が二人に挨拶をし、話の流れでクロの話になった。
「イヴァン殿。その料理人、是非余にも紹介していただきたい。これほどの料理を作ってもらったのだ、直接余の口から礼を言いたい!」
この男の意見も分かる。自分は美食の国の王と豪語しているのに、今日の料理に驚かされてばかりだったのだろう。
合わせてやってもいいが、他の者も聞き耳を立てている。そして、クロが今どこにいるのか本気で分からない。
「申し訳ない、さっきまでいたんだがな。次の料理を作りに引っ込んだよ」
大丈夫だ、嘘は言っていない。きっと料理を作りに向かったはずだ、そのはずだ。
他の者も確認を取っているが誰一人見た者はいないだろう。
出来たヤツがいるのなら、俺が教わりたいくらいだ。
「申し訳ございません、国王様」
とか思っていたら、突然に声をかけられた。突然湧いた様な登場にも誰も違和感を感じていない・・・。
「む、どうした?」
「そろそろデザートを運び込もうと思うのですが、よろしいですか?」
「フム、頃合いだな。分かった、用意してくれ」
「はい。それでは失礼します」
なるほど、いなかったのは認識阻害ではなく、広間の料理を見に行っていたからか。
もちろん、頃合いかどうかなど分かるはずも無く俺はクロの報告をさも自分の意見のように言うだけだ。
今度は普通に人ごみに紛れて行くクロを見送ってから、一言。
「アイツが今回の料理を作ったヤツだ」
相手は怒っていたが仕方あるまい、デザートが届かなくなってしまうからな。
機会があればまた会えるさ。
デザートも無事に行きわたり、来賓たちの胃袋も十分に膨れだしたのでパーティーは談笑の場へ変わっていく。
俺も挨拶を続けていると、クロの言っていた通り服が汚れたと抗議しているご婦人や女性を別の部屋へ連れ込もうとする貴族やら勇者の姿がある。
今回は他所の女性が相手だったので放っておいたが、我が国の者の場合、俺直々に広間から追い出してやるところだ。
そういった問題の対策もうまくいっており、ほぼほぼ騒ぎは起きていない。
給仕の手伝いの学生たちもよく動いてくれている、このパーティーが終わったら何か褒美を出してもいいだろう。
腹ごなしにダンスでも催そうかと広間の中心を開けた時だった、大きな破壊音と共にソレが落ちてきたのは
ソコにいたのは一体の黒い鎧だった。
俺の認識が間違っていなければ、あの鎧は大陸魔王、【鎧】リッター。
別の大陸で魔物の頂点に立っている奴がどうしてここに?
アイツ等は自分の領土から出ないはずじゃなかったのか!?
ったく、これもクロのいうとおりかよ!
あいつ、まさか呼んだんじゃねえだろうな!?
そんなわけも分からないことを考えながら対策通り、来賓を遠ざけて兵たちで【鎧】を囲む。
【鎧】悠々と立ち上がり、
「この度はお誕生日おめでとうございます、コスカートの王よ。私からのささやかなプレゼントとして、一時の闘争を差し上げましょう」
女の様な声でハッキリと殺し合いをすると宣言してきやがった!
メンドウだな、来賓を逃がすまで何とか時間を稼がなければ・・・。
「【鎧】の、何で今日が俺の誕生日だと知ってやがる?」
「私の支配する大陸でもそれなりに話題になっていれば、当然」
「だが、ここはお前の支配大陸ではないだろう?」
「ああ。だが、他の同胞のモノでもない。ずいぶんと前には【魔女】が居たらしいがその話も聞かなくなって長い。よって、この地は空白である」
チッ、奴らの考え方ではそれが通るのか。しかし、別大陸からどうやってここまで?
いや、そんなことはどうでもいい、なんとか追い出さなくては。
「なに、案ずるな。貴様との闘争を楽しめばそのまま帰る。他の者には手を出さん」
強ければ人も魔物も関係無しに襲い掛かる最強の狂戦士であり、自分より弱い者・手を出さない者には一切攻撃をしない騎士の様な魔王という噂は本当の様だ。
「ふざけるな!貴様に用がなくとも我々には貴様を討つ理由は十分にある!」
そう言って前に出たのは【鎧】の支配する大陸の騎士だろう。
あの大陸の者たちからすれば仇敵が現れたのだ、黙っていられるはずが無い。
それに、倒せば未来永劫に語られ、残りの人生を思いのままに過ごせるようにさえなるのだ。
魔王を倒すべく集められた勇者や騎士たち、貴族に雇われて護衛でパーティーに参加している腕自慢の冒険者たちも前に出て、即席の大陸魔王討伐パーティが出来上がる。
即席のパーティーだが、ソコは熟練の猛者たちだ。
前衛が攻撃で足止めし、その隙に後衛が詠唱。
魔法攻撃の後に勇者クラスの強者が止め目の一撃をくれてやるのだが、
「くそ!嘘だろう!?」
前衛の攻撃を全ていなし、魔法の攻撃も剣で全て切り伏せ、勇者たちの攻撃もそのほとんどをはじき返した。
かろうじで片腕の肘から下の部分を切り落とせただけであった。
戦っている者の困惑も当然だろう。
「私のミスリルの体の前に幼稚な攻撃など、無意味!」
威圧を込めた剣風で勇者クラス以外の者は皆吹き飛ばされてしまった。
やはりあの体が厄介だな。
コチラの渾身の一撃もほとんどが無力化されてしまう。
しかも、魔力を込めただけで切り落とした部分が再生するとかお前何で出来てんだよ!?
ミスリルってそんなものじゃないはずだぞ!?
数では勝っているが勇者たちが押され気味だ、オメガを使うことが出来ればまだ逆転の目もあるが、ここは他国の城の中。
自分の切り札を切ってまで【鎧】と戦うことは無いし、これだけ人が密集していれば否が応でも巻き込んでしまう。
つまり、使うことにメリットが無いのだ。
「どうした?この程度か?」
【鎧】に立ち向かった者は実力差を知って怖気づく者、メリットも無いので戦いを断念するものばかりになってしまった。
仕方がない、俺が出るしかないか・・・。
カティアナの方を見ると俺の意を組んでくれたらしく、臨戦態勢に入っている。
正直、俺も勝てる見込みはほとんどないが、ココは俺の国だ。
王たる俺が引くわけにはいかない!!!
クロの意見により、装備の準備などとうに出来ている。
「カティすまないが付き合ってもらえるか?」
「ええ」
「ティファ。イローナを任せたぞ?」
「お父様!?」
まだ子供の娘たち2人を置いて行くのは忍びないが、こうでもしなければ【鎧】を撃退できないだろう。
装備を整え敵を見据える。
俺たちの覚悟に皆道を開ける。
目の前に立つのは最強の敵。
覚悟を決める。
「俺たちと戦えば、貴様は帰るのだな?」
「ええ。私が満足できれば、ですが」
奴は自分で言ったことは守ると言われている。
それ故に魔王でありながら騎士とさえ称されているのだ。
城をだいぶ破壊してしまうが致し方ない。
オメガを使って一気に・・・
力を溜め、切り込むタイミングを計る。
後詰めにはカティがいる、何の問題も無い。
俺たちと【鎧】がお互いのみに集中し、切り込もうとした瞬間、
「リーズ!?だめぇ!!!!」
あれは誰の声だったか?ティファか?それとも姉のミューズという娘か?それとも他の者か?
【鎧】の真後ろからリーズ・エラインが切りかかっていた。




