64ページ目 それぞれの夏休み
「ひさしぶりー、リーズ」
「うん、久しぶりー、休みはどうだった?」
私達は今、夏休みを終えてセルグリンド学園の寮に帰って来ています。
そして、私達より早く寮へ帰って?来ているお嬢様方を挨拶をしているところです。
ティファ様とイローナ様が毎日エライン家に来られるようになってからは特筆することはありませんでした。
訓練をして、お勉強をして、適度に遊ぶ。
ダンジョンに潜って伝説の武器を見つけたり、ティファ様が攫われて国レベルの陰謀に巻き込まれたりなんて超展開はなく、穏やかに過ぎていきました。
そして、そろそろお休みも切り上げという事で戻ってきたのです。
「クロのおかげで大変だったよ」
「あ、私も私も」
何人かのお嬢様は私の所為で大変だったと話しています。
へ?私何かしましたっけ???
不安の中、話を聞いていると、あるお嬢様は父親がお城で働いている兵の中で上級の役職に居られるそうです。
そして、国王様は一定以上の役職のお家へ直接向かい、色々お話され、労われるのだとか・・・。
仕事を口実にしたサボリですか?
カティ様の許可も出ているから何も問題ない!と豪語していたようですが、ティファ様から「最近お父様がゾンビみたいになっている」と聞かされてはそれも怪しいものです。
国王様が家にやってくるという事は普通に考えて物凄い事です。
国の一番偉い方が来られるのですから、それは、もう、家を、一族をあげて歓待します。
国王様が来られ、歓待をして、労い等のお話をしてお帰りになるわけです。
その途中、自分を見つけた国王様が足を止め、自分に話しかけてこられたそうなのです。
おもいきりフレンドリーに。
寮に来ている時と同じ感覚で。
ここは治外法権な寮ではなく、自宅で、周りに居るのもいつもの仲間ではなく家族と護衛の兵士です。
そんな中でいつも通りにできるはずも無く、言葉を選んでいると国王様は知ってか知らずかいつもはもっと話してくれるのにどうしたんだ?と心配される始末。
周りの視線が険しくなる中、一緒にいたヤニツェク様が国王様に耳打ちしてようやく場所の違いを思い出して、この件でお嬢様を責めないようにとフォローを入れて次へ向かわれたようです。
まあ、国王様が庇われる時点で問題間違いなしなのですが・・・。
その後は家族一族から質問攻めにあい、解放されるのにずいぶんと時間がかかったそうです。
家族の方たちも労ってもらえたお父さんよりも、ずっと親しげに話しかけられていたお嬢様に目がいってしまい、申し訳なかったと言っておられます。
別のお嬢様は、お父さんがアイテムギルドの役員で神殿にアイテムの納品に行かれるのに同行されたそうです。
その時にたまたま大司祭様とお会いになったそうで、その時に大司祭様に親しげに話しかけられてギルドの方たちから質問攻めにあったそうです。
特にお父さんからの質問は家に帰った後も続いたらしく、本当にまいったそうです。
「しかし、これは私の所為でしょうか???」
「どこからどう見ても、貴方の所為よ」
「カグヤお嬢様。お帰りなさい」
「ええ。ただいま」
「ソレはさておき、皆さん有意義なお休みを過ごせたようですね」
「逃げたわね。それなら、貴方はどうだったの?」
「私ですか?私はリーズお嬢様とミューズお嬢様、ティファ様のお尻を散々叩いていまいたけど?」
「・・・・」
「どうかされましたか?」
「変態」
「訓練でですよ!訓練!」
そんなあからさまに距離を取らないでくださいよ!
やはり、この寮へ帰ってくると騒がしいですね・・・ん?
なぜここにミューズお嬢様がおられるのでしょう?
リーズお嬢様に何か渡すものでもあるのでしょうか。
「あの、ミューズお嬢様・・・」
「ああ、クロこれからよろしくね?」
「はい?」
「私、今日からこの寮に住むことにしたから」
「へ?・・・ええええええええ!!!?」
私が叫んでしまったので、他の皆さんもミューズお嬢様を認識されます。
「ミューズは今日からこの寮の寮生やで」
「どういう事なんですか、寮長」
「ん?夏休み期間中に申請があってな?ウチは別に構わんからOKしたんよ」
「姉様、いつの間に・・・」
「でも、いくら申請しても許可なんて下りるんですか?」
「そふぉはもんふぁいふぁい」
現れたのは、私が作ったお菓子を貪り食べている学園長でした。
「ふぁのひょふぁひひふぉふぉいかふぇふぇ・・・」
「食べ終わってから話してください学園長。お行儀が悪いです」
「んぐんぐ、ゴクリ。彼女は君を追いかけてこの寮に入りたいと言ってきたのだ、そんな彼女の思いを無下にすることは出来ないさ」
ニヤリと笑いながら私を見る学園長。
何か面白そうなものを見るような顔が癇に障ります。
「すまないが、おかわりをくれないか?私はこのところまともに食事を摂れていなかったのでね」
「食事を摂れていないってどうしてです?」
学園長の様な方が十分に食事が摂れない事態となると・・・!強力な魔物の討伐!?
もしくはこの学園の行く末を決める重大な会議があったのでしょうか。
「いやぁ、お小遣いが尽きてしまってねぇ。このところマトモな食べ物を食べれなかったんだ」
ゴン。
何ですか、そのくだらない理由は・・・
「おい君。くだらないなんて思わないでくれよ?すべては君の所為なのだからね」
見透かされた!?いや、でも何で私の所為になるのでしょうか???
「君の味を知ってしまっては他の人のでは満足できないんだ!私をこんな体にした責任はしっかり取ってもらわないと困る!」
「何を意味の分からない若干誤解されそうな事を言っているんですか!?ねえ、皆さん」
同意を求めて皆さんの方を向くと、フイっと顔を逸らされてしまいます。
あれ?リーズお嬢様?
フイ。
ミューズお嬢様?
フイ。
カグヤお嬢様?
フイ。
「諦め、もうみんなクロの虜やから」
その言い方はどうなんですか・・・。
私がいけない人の様な気がするのですが。
「と、ソレはソレとして。ミューズお嬢様の件は問題無いのですか?」
「ああ、無いよ。元々休み明けのこの時期によくパーティを組むようになった者同士で寮を変えることはよくあるからね。同じ場所に住む方が連絡・訓練・その他諸々に便利だ」
「問題無いのは分かりました。で・す・が!お小遣いが無くなったとはどういうことですか???」
私は怒気をはらんだ声で学園長にそう尋ねます。
ミューズお嬢様の事は学園長が問題無いというのならそれでいいです。それよりも結構な額のお小遣いをこの休みの間に使いきったという学園長の方が問題です!
「いやぁ、ほら。言っただろう。君の料理を食べた後では他の人の料理では満足できないと・・・」
「それで?」
「そ、それで、ほら、アレだよ。満足のいく料理を求めて様々な飲食店を回っていたら」
「お小遣いが尽きたと?」
「そ、そうなんだよ。だから、そんなに怒らないでくれないかなぁ・・・」
あははははと乾いた笑いをしながら言い訳をされる学園長に対して、私は横の席へスッと座ります。
そして、学園長を抱き寄せます、逃がさない為に!
私の行動に周りのお嬢様たちが色めき立ちます。が、そんなことは無視です。
「ク、クロ!君のき、気持ちは嬉しいが私は学園長という立場で君とそういう関係には・・・」
抱き寄せた流れで膝の上に腹這いに寝かせてしまいます。
「?」
パン!
「いたぁ!?」
パン!
「くっ、何をするんだクロ!?」
「何ってお仕置きですよ?そんなお金の管理も出来ていないのですから当然ではないですか?」
「わ、私は、が、学園長だぞ!?」
「関係ありません。むしろ、学園長というお立場で生徒の使い魔にお小遣いをもらうのはどうにかしてください!」
パァン!
「私は・・・」
パァン!
「・・・・」
パン!パン!パァン!
はたから見れば完全に親に怒られる子供です。
何か言っていますが、反省の色が無いので叩き続けます。
虐待?いいえ、相手は大人で私はまだ未成年です。それに今は形態もロリから大きくなって同い年くらいになっているので見た目も虐待ではありません。
暴力?いいえ、見た目と音だけです。学園長のHPもMPも何も減ってはいません。減っても1か2で次の瞬間には全快です。
モラハラ?一学生の使い魔である私が何故か毎月学園の管理者に十分な額のお小遣い(学園経由でアイテムギルドに納品しているアイテムなどの売り上げの一部)を渡しています。
結論。
この不定形学園長が全部悪い。
それに、とてもいい音がでていますが言うほど痛くは無いのです。
「ぐす、私のかわいいお尻が腫れ上がったらどうしてくれるんだ!?」
「それなら塩をよく塗り込んでから回復魔法を掛けて差し上げますよ?」
「!?お、おい。誰かこの悪魔から私を助けてくれ!」
そう懇願する学園長に対して誰も助けを出すことはない。
皆さんスッと目を、顔を逸らされるだけです。
誰もワザワザ怒っている悪魔にケンカを売りにはいきません。
学園長の背格好が変わっていることもスルーします。
何か条件があるのでしょうか?
「痛たたた・・・」
適当にお尻ペンペンの刑を切り上げて学園長を開放します、学園長は涙目です。
「ひどい目にあった。私はもう怒ったぞ!クロ、フォローしてあげようと思ったがもうやめだ!」
そう言ってビシ!っとコチラを指さして決めポーズをとられています。
どうでもいいですけど、指ささないでください。
「国王の誕生祭が終わったら、娘のティファニール君とその妹のイローナ君がこの寮に入寮するんだが、君が責任を持って対応するんだぞ!いいな!!!」
「はぁ、構いませんが他には?」
「あれれ?反応が薄くないか?王女様姉妹だぞ!?大変だろ?」
「普段から国王様から無茶振り来ますよね?」
「・・・」
「最近はエライン家のお屋敷でお2人も一緒に訓練やお勉強もしていたのですが何か変わることはあるのでしょうか???」
「・・・」
固まりながらダラダラと冷や汗をかかれている学園長。
私が泣きつくと思っておられたようです。
はっきり言って今更なのです。
お城でというなら大変ですがココでなら法も権力も関係無いのです。
「学園長。お小遣い、減」
「すいませんでしたー。お願い!減らさないで~」
はぁ、何故私がこの方の財政管理までしなくてはいけないのでしょうか・・・。
学園長の補佐とかいないのでしょうか・・・。
「あ、あの学園長!ティファニール様とイローナ様がこの寮に入って来られると聞こえたのですが、本当ですか!?」
「ああ、本当だよ。これもいい勉強になるだろうと私も思っている。クロにはそんな心配は必要ないと思うが彼女たちに気後れする必要はない。普通の友人に接する感じで付き合えばいいよ」
「あのお2人が・・・」
「なに、国王もよくココに来ているのだからそんなに気にすることでもないだろう?まあそのうち赤紙で依頼が来るよ」
こういう時はしっかり学園長をされるのに、なぜあんなポンコツ化をしてしまうのか不思議でなりません。
言わないといけないことは全て言われたのか学園長は帰って行かれました。
お尻を痛そうにさすりながら・・・。
さて、新しく寮生を迎え、この後さらにお2人をお迎えしてさらに騒がしくなりそうですね。
あっと。ミューズお嬢様には一先ずこの寮のルールを覚えていもらわないといけませんね。
そんな事を考えながら新学期生活の準備を始めるのでした。
さて、夏休みももう終わり!
新学期のスタートです!




