63ページ目 お泊り会
ヘディ視点
「私も、今日、ここに泊めてもらうことにしたからよろしくね?」
カティ様がおっしゃられている意味が分からなかった。
今朝、ティファニール様とご一緒に屋敷に来られた時も驚いたが、何とか理解できた。
しかし、今の発言は理解できない。
確かに、イローナ様がお疲れになって屋敷でお休みになられるのは理解できる。
しかし、それでどうしてカティ様までお泊りになる理由になってしまうのだろうか?
多少遅くなろうとも城までなら我々がお送りするというのに・・・
「は、・・・はい。わかりました・・・」
楽しそうに笑っておられるカティ様を見ていてフト思った。
「あの、お泊りになるという事は・・・」
「お夕食もお願いね?」
なあああああぁぁぁぁぁぁ!?
ティファニール様のお夕食でさえ、料理人たちにかなり無茶を言って作ってもらうというのに、ソコにカティ様とイローナ様もだと!?
しかし、用意できないと言えるはずがない!
とにかく!料理人たちに頼み込まなければ!!!
「申し訳ございません、ヘディ様!我々もソレは無理です!!!」
「頼む、この一食だけでいいんだ」
「無理です!女王様と王女様お2人に夕食を供するなど・・・」
「ティファニール様の時は了承してくれたではないか?」
「あの時はヘディ様があまりにも必死に頼まれるので、我々も何とかして期待に応えようと思ったのですが、王族の方が3人もとなると・・・」
分かっている。
普段、作り慣れている者に変更を伝えるのと訳が違うというのは十分に理解している。
だが、そうなると他に料理を作れる者が・・・
いや、居る!しかし、私の頼みを聞いてくれるかどうか・・・
ええい!悩んでいても仕方がない!遅くなればそれだけ夕食の時間も遅くなってしまう。
部屋の扉を開け、迷うことなくそのクロの前へ行き頭を下げて頼む。
「すまない、クロ!今夜の夕食を頼めないか?」
「いいですよ。料理は私にお任せでいいですか?」
は?
私が断られた時の事を考える間も無く了承される。
いつも国王様が頼まれるときは色々と思惑をぶつけ合い、その果てに了承していたというのに今日はいとも簡単に了承された。
「クロ、頼んでおいてアレだが、本当にいいのか?いつもは・・・」
「いいですよ。カティ様も明らかに狙って言ってましたし」
「そうか、助かる」
「と、いう事でよろしいですか?」
「ええ。お願いね、クロちゃん」
そう言ってクロは夕食を作る為に部屋を出ようとする。
私も料理人たちに説明するためについて行かねば。
「ねえ、クロちゃん。何を作ってくれるのかしら?」
そう尋ねられるカティ様に、
「どんぶり、ライス料理です。では、もうしばらくお待ちくださいねー」
そう言って部屋から出ていくが、私を含め部屋の中の者は皆動けなかった。
ライス料理。
つまり、家畜に与える物をお出しすると言って部屋を出て行ったのだ。
「え~~~~!!!!」
そう叫んだのは誰だったか、私も、呆けから抜け出しクロの後を追う。
「クロ!待ってくれ!!何を考えているんだ!?」
「何って、美味しい夕食ですよ?」
「美味しい?家畜のエサを使った料理がか?」
「はい、~♪♬♫」
そう言ってクロは鼻歌を歌いながら厨房へ向かって歩いて行く。
厨房でクロの事を説明し、ライス料理の事を伝えると料理人たちからも案の定、否定の言葉が出た。
手伝うのも無理だが、ライスで料理を作る等もってのほかだと。
王族に・・・いや人に出す料理ではないと・・・
料理人がそういう間にもクロは道具を次々準備し、
「夕食が遅くなってしまうので出て行ってください」
と追い出されてしまった。
彼らにも手伝わせてクロの負担を軽くしようと思ったのだが、どうやら無理の様だ。
クロに謝ると屋敷の人全員分作るのと、寮で全員分作るのとそう量は変わらないので問題無いと。ただ、少し時間が遅くなるから謝っておいてくれとだけ言われた。
厨房を半ば強制的に追い出されてからふと思った。
私達もライス料理を食べさせられるのだと・・・。
「あ、父様。お帰りなさい」
「どんな料理だったのですか?」
娘とティファニール様はライスと聞いていたのに興味津々に料理の全貌を聞いてくる。
「いや、私も直ぐに追い出されてしまってね、どんな料理かは分からないんだ」
「「「残ねーん・・・」」」
「あの、カティアナ様。本当によろしいのですか?貴方様にはライスなど・・・」
バトラーであるハムザがカティ様に本当にいいのかと再確認をしており、カリナはイローナ様と何か話していた。
待つこと半刻程。
「料理が出来ましたので、食堂へ来てください」
クロが呼びに来たので、屋敷の者全員で食堂へ向かう。
さすがに全員で一緒に食べることは出来ないと伝えたら
イローナ様がカリナと一緒に食べたいと言い出し、カティ様もそれならと強制的にハムザを同席させた。
モチロン、私も同席だ。
出来れば従者用の部屋で食べたっかった・・・。
食堂の机にはナイフとフォーク、ナプキン、空のコップが既に用意してあった。
「では、お料理を配膳させていただきますね」
皆が席に着いたことを確認するとクロが配膳を始める──のはいいが、クロは何も持っていない、完全に手ぶらである。
「クロ、料理は何処にあるんだ?まさか、食べるのに何か条件があるとかではないな?」
「大丈夫ですよ。アイテムボックスにしまってありますから。他の方の分も作ったので、数が多くなってしまってカートで運べないのですよ」
確かに屋敷の人間全員分となると多すぎる、だからってアイテムボックスに入れるか普通?いや?中にあればどれだけ動いても型崩れはしないのだ。
クロの様に大容量ならばそちらの方が良いのか?
そう考えている間にもクロは一人一人の前に陶器で出来た丸っぽい物を置いていく。
さすがにこれはどう見ても食べ物ではないので、これが皿なのだろう。
球形の物体の上下に出っ張りが付いている。
更に上部は一回り小さく下部の半球に入っている。
「では、どうぞ」
そう言ってクロはイローナ様の前の物の上部の出っ張りを掴んで引っ張る。
なるほど、アレは取っ手になるのか。
蓋を開けるとまず、香ばしく、甘い香りが鼻を襲ってきた。
何時もよりも食事の時間が遅く、お腹が空いているから余計に美味そうに感じる。
怪訝そうに蓋を開けた従者たちも目を見開いている。
匂いと共に目に飛び込んできたのは茶色い何かと卵の黄色と白。
が、クロの言っていたライスが見当たらない。
やはり無理だと悟ってメニューを変えたのか?
「クロ、ライスは何処にあるのですか?」
私が、いや、私たちが思っている疑問をティファニール様が質問される。
「このカツの下にありますよ。上の具だけで食べていただいてもいいのですが、下のライスと一緒に食べていただけると嬉しいですね」
そう言われるので、フォークでカツ?をよけてみるとそこには白い何かがあった。
む?何だコレは?確か今、このカツの下にライスがあると言っていたがまさか、もっと下にあるのか?
「クロ、この白いのがライス?」
「はい、そうですよリーズお嬢様」
コレがライスだと!?
私が知っているのはもっと茶色くて硬くてゴワゴワしたものだぞ!?
従者たちも同じらしく、戸惑いを隠せない。
「おいし~」
クロの料理=美味しい物のイローナ様は躊躇せずにカツとライスを一緒に掬い食べている。
見ると、イローナ様のカツは他の者よりも細かくされ、掬いやすくされていた。
イローナ様に続き、リーズ・ミューズ・ティファニール様も食べ出す。
いずれもその旨さに驚いている。
カティ様に関してはいつの間にかモクモクと食べ出している。
私も意を決して食べてみる。
まずは肉だけ食べると簡単に噛み切れ、肉汁があふれ出す。
少し味が濃いがこれだけも十分に美味い。
次はクロの要望通りにライスと一緒に食べてみる。
!?
少し濃かった肉の味がライスと一緒に食べたせいか丁度いい味になっている。
「うまい!!」
思わずそう言ってしまった。
一緒に食べるライスの量を変えることにより味も調節することが出来るし、この肉がたまらなく美味い!
そう思いながら食べ続けていると、「ゴクリ」と後ろに立っている従者や料理人から唾を飲む音が聞こえてくる。
「クロ、皆にも振舞ってやってもらえないか?」
「分かりました。それでは、コチラへ」
クロがコチラの部屋へ戻って来るなり
「クロ、おかわり!」
リーズが無茶なことを言い出した。
急遽夕食作りを任されたのだ、しかも屋敷の者全員分をおかわりなど・・・
「分かりました、他の皆様も食べられますよね?」
むしろ、料理はおかわり前提で作られていた。
イローナ姫もおかわりをし、更にカティ様から少し分けてもらっていた。
「クロ!もう一杯」
「リーズお嬢様、明日の朝ご飯の分が無くなりますのでダメです!明日の朝はこのカツと野菜をパンに挟んでカツサンドにしますからガマンして下さい」
何!?これをパンに挟むだと!?
その言葉に皆、期待を膨らませて夕食を終了した。
別室で夕食を取っていた従者にも大好評で、おかわりは一杯のみとされ明日の朝食に期待を膨らませている。
料理人がライスと肉の調理法を聞きにいったがどうやら教えてもらえなかったようだ。
私達は美味しい夕食に満足し、明日も朝から訓練するとの事なのでの部屋で休むことにしたが、クロが川遊びメンバーにマッサージをして回った為、隣の部屋から喘ぎ声が途切れ途切れに聞こえてきて眠りようがなかった・・・。
翌朝。
若干の寝不足を感じながらも早朝に訓練をすると聞いていたので庭に出ると、そこには白く少しドロッとした液体まみれの娘たちがいた・・・・。
ティファニール様にこの様な事をしてどうするつもりだ!
っと思ったがすぐソコでカティ様がニコニコしながら訓練を見ておられたので、何も言わずに娘たちが更にドロドロにされるのを私は黙って眺めていた。
僅かながら怒りも覚えながら・・・。
早朝の訓練も終わり、皆でクロの作った朝食をとっている時だった。
「ティファ、あなた、訓練の方はどうだった?」
「はい、自分にはまだまだ足りない点が多いと思いました。お母様」
「そう、ミューズちゃんと同じね」
嬉しそうにニコニコとされているカティ様。
「では、明日からもリーズちゃんたちと一緒に訓練頑張りなさい」
「はい!」
「「「・・・え?」」」
皆の声が被る。
「こういう訓練は1回だけしても意味が無いですからね、夏休み中、クロちゃんにしごいてもらいなさい!」
「え・・・あ、はい!」
へ?
「わたしもくれんする~」
朝食少し前に起きてこられたイローナ様も訓練がしたいとおっしゃったので、クロが何か教えていたが・・・
「そう、じゃあ、イローナはティファと一緒に行きなさい。お姉ちゃんのいう事をしっかり聞くのよ?」
「は~い!」
今・・・何と・・・
ティファニール様と・・・一緒に・・・
「「「夏・・・休み・・・中・・・」」」
私達は掠れた声で何とかその言葉を絞り出した。
「クロちゃん、クロちゃんの基準でいいからしっかり鍛えてあげてね!」
そう言って帰って私と共に城へ帰られるカティ様。
クロが国王様が面倒事を持ってきそうなのでと言ってカツサンドを渡してほしいと頼んできた。
確かに、確実に夕食・朝食の事は話題に上がるだろう。
その時に新しい料理を食べたとなると国王様の脱走は必至である。
先手を打ってくれたクロに感謝しながら城へ向かう。
「ありがとうね、ヘディ。おかげでゆっくりできたわ」
「それは何よりです」
カティ様からも紺者の言葉をいただけたのだ、今回も予想外の事は多かったが、無事に成功と言っていいだろう。
「ティファの休み中にもう一度くらい行きたいわね」
そう言われて、私はまた頭が真っ白になった。
残念ながら、ヘディさんの胃は夏休み終了まで継続して大ダメージを与え続けられるようです。
リーズたちは訓練で強くなれて嬉しい。
クロはリーズたちのアレな姿が見れゲフンゲフン。一対多の訓練が出来て嬉しい。
エライン家も王族の方の信頼度が上がって嬉しい。
お城の人たちも王様が逃げ出す口実が無くなって嬉しい。
WinWinの関係というやつですね。




