57ページ目 帰省2
ヘディ視点
ふう、ようやく今日の分の仕事も片付いた。
国王様の誕生祭が近い事もあって、私たちの仕事の量も一気に増えている。
今年は国王様の節目の年でもあるので例年よりも大々的に行う予定になっており、その為に皆走り回っている。
めでたい事ではあるのだが、疲れるものはしょうがない。
そうして、一日の仕事が終わって同僚と話をしている時だった。
「ヘディ~」
私を呼ぶ声がするので振り開けると、ティファニール様がコチラに走って来られていた。
「よかった、ココにいた!」
「どうかされましたか?ティファニール様」
珍しい。普段、私達とはあまりお話をされないティファニール様から話しかけてこられるとは・・・。
まさか!!
最近手紙でリーズたちはティファニール様と共にクエストに出たりしているとあった。
そこで何かしでかしたのか?
これはどうする。
庇ってやりたいが、相手は王族。
どんなことを言われてもその通りにするしか・・・
「あのね、ヘディ。今度リーズたちと遊びたいからお家に行ってもいいかしら?」
「へ?ええ。どうぞ、喜んで。・・・って、ええ~~~!?」
柄にもなく大声を上げてしまった。
話を一緒に聞いていた同僚も驚いている。
当然だ、王族が一貴族の家に遊びにとはいえ訪れようというのだから。
「す、すみません。お返事を少々お待ちいただいてもよろしいですか?従者とも相談しておきませんと。
ティファニール様にご無礼あってはいけません!」
「ええ。クロも先にあなたに話を通さないとリーズの家の人が困るって言っていたわ」
おお、クロ。
我が家の事まで気を使ってくれているのか、ありがたい。
「リーズたちの夏休みが終わる前に行きたいのだけれど、大丈夫かしら?」
「はい。それまでには調整いたします」
「やったぁ!!!」
花のような笑顔をして去って行かれるティファニール様。
今まで、あまり他者との交流をされてこなかったのを知っているだけに、私もつい顔が綻んでしまう。
不敬とは分かっているが、幼少の頃より知っているだけに、親のような気になってしまう事もたまにある。
そのティファニール様があんなに嬉しそうにされているのだから、これ程嬉しい事は無い。
私の家でさえなければ・・・・。
この件は帰ってすぐに従者たちと相談せねば・・・。
多少のハプニングはあったが、ほぼいつも通りに帰宅できた。
馬車の中では、先のティファニール様の件と国王様の誕生祭の件を考える。
ティファニール様の件は申し訳ないが、従者たちに丸投げしてしまおう。
その日、私がいるかどうかは分からないが、実際に動いてくれるのは従者たちだ。
彼らに案を出してもらい、不備が無いか確認するくらいでいいだろう。
大丈夫。彼らは皆、優秀だからな。
玄関をくぐり、いつも通りに従者に迎えてもらう。
コレはいつも通りなのだが、いつもと違う事があった。メイドが一人だけ礼のタイミングが遅れたのだ。
別段、そのことでそのメイドも、メイド統括のカリナも叱る気など全くないが気になったのでそのメイドを確認する。
もし、具合が悪いようであれば、すぐに休ませて明日からの仕事に備えてもらわなければならない。
従者たちがいつも忙しく働いてくれているのは理解しているから体調不良なら早く良くなって欲しいと思う。
そう思い、顔を上げたメイドを確認して、思考が停止した。
コイツは誰だ?
いや、知っている。
前にリーズと共に城に連行され、ソコで王家の信頼を勝ち取ったメイドだ。
それ以降も城で何度も会っているし、会話もしている。
では何故、今この場で従者に交じって礼をしていた?
リーズたちから今日帰るという手紙はもらっている。
帰って来ていても問題のない時間だ。むしろ、居ない方が問題の時間だ。
そして国王様からはこのメイドの機嫌は損ねないように強く注意されている。
理由も個別で国王様と女王様から聞かされている。
そんな相手に従者の真似事をさせている・・・。
ヤバイ!!!!
「ブフォ!?」
思考がソコに落ち着き、瞬間に事の重大さに気が付いた。
ゴホッ、ゴホッ。
咳が止まらない、早くこの状況を理解するためにメイドの話を聞かなくてはいけないのに・・・。
その間にもメイドの表情は険しくなる。
その表情が更に私を焦らせる・・・。
結局数分間むせ続けてしまった。
「大丈夫ですか、旦那様」
「ああ、大事ない。少し驚いただけだ」
「お見苦しいもの見せてしまい、申し訳ございません。直ぐに摘まみだしますので・・・」
おい、待て!ヤメロ!!
そんなことをすればクロの機嫌を損ねるのは明らかだ。
「いや、構わん。それよりもクロさん。どうして貴女がココに?」
「はい。これから夏休みの間、お世話になりますので、是非ご挨拶をと・・・」
うん。その気遣いはすごくうれしい。嬉しいけど不意打ちはやめてくれ。対処できん!
と、そう言えばティファニール様の件のお礼を言わなければ・・・
「ああ、それとティファニール様の事はありがとうございます。おかげさまで、十分に準備することが出来そうです」
「そうですか。それは良かったです」
そう言って微笑むクロ。
確かに、国王様が妾に欲しいと言われるのも納得できる。
美しいというよりは可愛らしい。
周りの者たちは私がクロに敬語を使っていることに驚いている。
いや、ティファニール様が来宅されることにか?両方か・・・。
「旦那様、そのメイドとはどういったご関係で?」
いち早く立ち直ったハムザが聞いてくる。
「私とは特にないよ。ただ、クロさんは国王様より直接依頼をされる方だ。国王様も気をかけておられる。皆、くれぐれもクロさんに無礼のないように」
それを聞いた従者は皆固まっている。
そうだろう。それが普通の反応だ。
誰がこのメイドが王族の愚痴を聞き、国が傾くような会合を無事にこなし、国王様に借りを作らせるような人物に見えるというのか。
「それに、王女様がエライン家へお越しくださると聞こえたけど、ほんと?」
「ああ、本当だ。カリナ。最近、ティファニール様はリーズたちと友誼的でな。今日、帰る前に尋ねられた。忙しい所悪いが、お前たちに任せる形になる」
「がってん!明日中には予定をまとめます」
カリナは言葉使いはアレだが優秀だ。
それに愛嬌があるので言葉使いも気にならん。
全く、良い方に育ってくれた。
「ヘディ様、ヘディ様」
クロが話しかけてきた。
しまった、クロと話していた途中なのに流れで放置してしまった。
一体、何を言ってくるのだろうか。
「私の事はクロとお呼びください。リーズお嬢様のお父様なのですし」
何でもないお願いだが、無茶な願いだ。
国王様にバレようものなら首が飛ぶ・・・。
「あ、あのですね・・・。そのようなことが国王様のお耳に入るとですね・・・」
ああ、何とか巧い言い訳はないものか。
「あ、す、すみません。分かりました」
あっさりと納得してくれたか。よかった。
「「お父様、お帰りなさい」」
「ただいま。ミューズ、リーズ」
ああ、愛しい娘たち。
手紙で無事なのは分かってはいるがこうして会わないと心配でたまらないな。
「夕食はもう食べたのかい?」
「いいえ、お父様と一緒に食べようと思いまして」
嬉しい事を言ってくれる。
食事の前に一仕事終わらせてからゆっくり食事にしよう。
なに、簡単な確認作業だ。
しかし、今この状況では最も重要な確認作業だ。
これを疎かにすると目も当てられない状態になるかもしれない。
「分かった。悪いが夕食の準備を頼めるかい?私はクロさんと少し話さなければならないことがあるんだ」
「食事の場ではだめなのですか?」
「ごめんよ、ミューズ。とっても大事なことだからね」
私はそう言ってクロと一緒に書斎へ入る。
ふう。
一息ついて、本題を切り出す。
「今も、君の周りには大精霊様はおられるのかい?」
「はい。皆さん、他所のお屋敷が珍しいのか、探検中ですがこのお屋敷の敷地内にはおられます」
はぁぁぁぁぁぁ。
頭を抱えたくなった。
国王様からはクロの他に大精霊様の機嫌も損なわないように言われている。
それを聞いた時、大精霊様は何処か他の場所へ行かれていますようにと祈ったがどうやら無駄だったようだ。
そもそも、見る事も感じることもできない私には機嫌の機微など分からないし、暴れられれば一瞬で我が家くらい消し飛ぶ。
注意のしようもない。
「大精霊様にはできるだけ、大人しくしていただけるようお願いしておきましたので、大丈夫だと思いますよ?」
「重ね重ね、すまない」
本当に、この娘がリーズの使い魔で良かった。
この気配り、本当に助かる。
「あと一つ。国王様から依頼がある」
その瞬間、あからさまにクロの顔が難色を示す。
だが、言わないわけにもいかない。
返事を待たずに言ってしまう。
「近々、国王様の誕生祭が催されるのだが、その時に起こるかもしれない問題点を一緒に考えて欲しいのだ。君ならそう言ったことにも何か良いアイディアを出してくれるのではないかとカティ様がね」
そう言って依頼書を渡すと直ぐに確認をして、ため息と共に了解の意を帰してくれる。
良かった、これで私の負担も少し減る。
というより、この2件の確認が出来たのでかなり楽になった。
これで落ち着いて夕食を食べれるだろう・・・。
無理な命令を下す国王。
大量の爆薬を抱えて帰ってきたリーズ。
更にティファニールの襲撃予告がヘディの胃を容赦なく襲う。
ヘディはこの夏を乗り切ることは出来るのか!?
イベント満載の夏休みは始まったばかり!!




