50ページ目 夏の魔物
「ねえ、クロ。お願い・・・」
「・・・」
「少しだけでいいから・・・」
「・・・ダメですよ・・・」
「ずっとお願いしているじゃない・・・」
「ダメですって・・・」
「今日はカグヤもクエストに行って2人きりだからバレないわ・・・」
今、私とリーズお嬢様は部屋で2人きりです。
いつもはカグヤお嬢様がおられるのですが、今日は他の方とクエストに行っておられません。
なので、リーズお嬢様は甘い声でお願いしてこられるのです。
使い魔である私にとってこれは耐え難い誘惑です・・・。
「ねえ、クロ。私ずっと我慢してて、もう、限界なの・・・」
私の後ろへ回り、肩から手をまわして耳元で甘くささやかれます。
「ね?少しだけ・・・少しだけでいいから・・・」
その甘いお願いに私は・・・
「ダメです。というかこの問題のこの間も教えましたよね!?もう大丈夫って言ってましたよね!?」
「ぶ~、何でよー?いいでしょ、分からないんだから!」
「ならせめて教科書を見直してからにしてください!」
リーズお嬢様が甘い声で迫ってこられた理由、それはズバリ宿題の期限がヤバイので教えて、もとい代わりにやってというものでした。
少し前、リーズお嬢様が聞いてこられて自分でもどの程度理解できているかと試す感じで解いてカグヤお嬢様にこっぴどく怒られました。
それ以来、教科書のページを開いてあげたり、公式を教えてあげたりはしているのですが、今回は間に合わないようです。
「このページの公式を使えばできるはずですから」
何故、私の方がリーズお嬢様より魔法関係の知識があるのでしょうか・・・?
「えー・・・」
「えー、ではありません。今夜は寝かせませんよ」
リーズ視点
何とか・・・終わった・・・。
昨日はクロが付きっきりで私の勉強を見てくれたので、無事に提出できた。
分からないって言った所は教えてくれるんだから、代わりにやってくれてもいいのに・・・・。
そう思いながら隣を歩くクロを見る。
「どうかされました?」
「ううん、クロは宿題とかなくていいなぁ~って」
「では、私が宿題をする代わりに寮のお仕事を全て変わっていただけますか?」
「それは無理!」
うん、無理。それは無理。
どう考えても1人でする作業量じゃないもの。
そんな他愛もない会話をしながら教室へ向かう。
「今日も”登校日”なのですか?」
「んー、今日から宿題が提示されるのよ」
「宿題?今朝提出したばかりですよね?」
「ええ。これから確認に行くのはズバリ!”夏休みの宿題”よ!!!」
もうすぐ夏休みを控えて、学園では宿題が提示され始めている。
「宿題の確認は個人でしないといけないから、自分の分の宿題を確認に行くのよ・・・」
「夏休みはいつからなのですか?」
「決まっていないわよ。休むも休まないも本人の自由!でも宿題の提出は必須!!」
「自営業の様なものですしねー・・・」
「で、皆が学園に居るうちに終わらせることが出来そうなものは協力して終わらせるの」
「なるほど!」
実はカグヤもその宿題を終わらせる為にクエストへ行っている。
私ではカグヤの役に立てないから、お留守番なんだけどね・・・。
各教室へ宿題の確認へ行く。
・指定された魔物討伐
・指定されたアイテム納品
・各授業から提出される問題集
要約するとこんな感じだった。
「普段とそんなに変わりませんね・・・」
「まあ、ね・・・」
普段の課題よりも少し難易度が上がっているだけだものね。
私が宿題の書き写しを見ていると、
「今回の宿題、討伐した物の素材が納品アイテムになっているのですね」
横からクロがそんなことを言うので改めて見直すと、その通りだった。
「これって・・・」
「パーティー前提の内容ですね・・・。リーズお嬢様、組んでくださる方いますか?」
クロの失礼な質問について考えてみる。
カグヤ クエスト中
サブリ達 ランクが違う(リーズ主観)
姉様 ランクが違う(リーズ主観)
ティファ様 ランクが違う+頼めるはずが無い
あれ?もしかしてソロ?
どうしようと考えていると、声をかけられた。
「おはようございます。リーズ、クロ」
「「おはようございます。ティファ様」」
声をかけてくれたのはティファ様だった。
この人普通に中等部にいるけどどうしたんだろう?
「ティファ様、どうされたのですか?」
「じ、実はですね。夏休みの宿題で5人以上の方とパーティーを組めというのがありましてですね・・・」
うわぁ、ボッチにはなんて難易度の高い宿題・・・。
「いつものお2人はダメなんですか?」
「はい・・・。2人は除外すると・・・」
シュンとされているティファ様。
厳しい、これは厳しい!
「それで、他にこんなこと頼めるのがリーズしか居なくてですね・・・」
「あの~、一ついいですか?」
「何ですか?クロ」
「討伐する、魔物の制限とかはありますか?」
「いいえ、パーティーを組むという事だけです」
「良かったですね。リーズお嬢様」
あ、そうか。これならティファ様にお願いできるわね。
「後、4人ですね」
「へ?後3人じゃないの?」
「私は人数に入れない方がいいかと・・・」
確かに、クロを入れてると駄目とか言われた時に大変ね。
「とりあえず、サブリ様たちにも聞いてみますか」
「え?でもサブリ達ってランクが違いすぎない?」
「違ったとしても、宿題の内容にはそこまで指定されていませんよ?」
「うーん、なら聞いてみる」
うん。早く宿題が終わったほうがいいし聞いてみよう。
サブリ視点
うーん、困った。
夏休みの宿題。
魔物討伐 問題ない
各問題集 少しずつやればできる
アイテム納品 作れない!、売ってない!
そう、納品系の宿題が終わる気がしない。
最高ランクのポイントをゲットしようと思うとそのランクのアイテムがゲットできない。
しかし、ランクを落として安易なアイテムの納品も嫌だ。
かといって生産職の知り合いもいない。
手詰まりだった。
「素材自体はそんなに難しいものでは無いのだけれど、調合が難しいな」
「そうよねー、魔物の討伐はヨユーなんだけどね!」
「私も・・・知り合いに聞いてみたら、同じ依頼でもう手一杯だって・・・」
ハァ・・・
優秀な生産職のヤツは同じ依頼で手一杯、しかも依頼料も高いと来たもんだ・・・
どうっすかなー・・・
「サブリ、居る?」
「ミューズさん」
落ち込んでいるとミューズがやってきた。
「どうしたんだよ、ミューズ。1人なんて珍しいな」
「きっとあなたと同じ理由よ」
「あー、宿題かー・・・」
「ええ」
「アンタは取り巻きいっぱいいるでしょ!何でコッチに来るのよ!」
「アイテム納品で最高ランクの納品をしたいって言ったら皆無理だって・・・」
「あ、ミューズもか、生産職に知り合いいないのか?」
「調合が簡単な依頼に流れているわね。宿題分の調合数も、お金も簡単に稼げるから」
だよなー、楽して金も宿題のポイントも貯まるならなら俺だってそうする。
どっかに居ねーかなー?
格安でアイテムの調合してくれる奴。
クロ視点
リーズお嬢様の宿題を達成させるべく、リーズお嬢様・ティファ様・私はサブリ様たちを探しています。
リーズお嬢様に確認したところ、「ランクが違いすぎてダメ」とおっしゃっていましたが、文面を再確認してもパーティーの制限などは一切ありませんでした。
さすがにこれだけの魔物を2人でというのは厳しいので、まずは聞いてみませんと・・・。
幸いなことにいつも集まって談笑している場所へ行くとサブリ様のパーティとミューズお嬢様がおられました。
「お姉様ー、サブリー」
お2人がコチラを確認された瞬間、物凄いスピードでコチラへ寄って来られ、両手を前で持たれて
「調合師ゲット」
と言われました。
理由を確認すると、魔物の討伐は問題ないけれど、アイテムの調合が出来ないとの事。
私たちは調合は出来るけれど、魔物の討伐が厳しい旨を伝えると、すぐにOKがもらえました。
ティファ様の件もこの間ご一緒したからか、問題なくOKでした。
リーズお嬢様・ティファ様・ミューズお嬢様とサブリ様。一石三鳥ですね。
魔物討伐はミーティングもクソも無く、今から出かけて出先でキャンプを張って出来るだけ早く終わらせるというのが普通なのだそうです。
「よし、アイテムを揃えて出発しよう!」
「テント、食料は各自で準備。その他必要なアイテムは街で補充しましょう」
淡々と指示をだすミューズお嬢様。恐らく普段からこういった役回りをされている為か、指示によどみがありません。
「ティファニール様」
「は、はい。何ですか?ミューズ・エラインさん」
「テントや食料は?」
「申し訳ありません、全部お城です」
「装備の方は?」
「問題ありません!」
「リーズ、あなたのテントに入れてあげて」
「ちょっと、クロはどうするのよ!?」
「クロは私の所に入れるわ!」
「ちょ・・・」
「じゃあ、解散!!」
ミューズお嬢様の勢いに負ける感じで解散してしまいました・・・。
ともかく準備です。
寮に戻って素早く準備を進めていきます。
といっても、リーズお嬢様は武具とテントやランプといったキャンプ用品の準備。
ティファ様はお客様状態なので立っているだけ。
私は回復アイテム類と食料+その他をアイテムBOXに入るだけ入れていきます。
遠征?なので何が起こるかわかりません。準備は万端にしないと・・・・。
結局、リーズお嬢様とティファ様にもアイテムを持っていただいて無事、準備完了です!
「皆、準備はいい?」
全員が頷くと私たちのパーティーは北に位置するエルフの住まう森。
ディヤガンドの森へ出発しました。
???
「ハァ、ハァ・・・」
私は今、森の中を逃げています。
一族の皆と共に森の恵みをもらいに来ていたのですが、急に何者かに襲われ、みんな散り散りになってしまいました。
何者かと言いましたが、アレはきっと人間です。
ゴブリンやオークがこれほど戦術的に動けるはずがありませんし、ごく短い単語でしたが聞こえたのは人間の言葉でした。
数百年も昔に和平が結ばれたはずなのにどうして・・・。
いえ、本当は皆、分かっているのです。
人間の王たちは和平を約束してくれました。
しかしそれは全ての人間が約束してくれた訳では無いことも。
人間の王もそんな者たちを取り締まる為に色々と施法してくれていることも。
また、野党の一部はその王の血族の指示で行われている事も私たちは承知していました。
だからこそ、深い森の中に結界を張って一部の腕の立つ者のみを外部との連絡役にしてきたのです。
慎重に自分たちを守りながら暮らしてきたのです。
今日はたまたま、本当にたまたまいつもより長い時間採取活動をしていました。
そして、急に襲われたのです。
人間の狙いは私たち、エルフの女性です。
稀に、男性を捕らえていくという話も聞きますが、ほとんどは女性です。
用途は・・・考えたくもありません!
護衛の皆は大乗でしょうか?
私付きの彼女は乱暴されていないでしょうか?
そんな事をグルグルと考えながら私は逃げ続けています。
いつもは庭のように感じるこの森が今はダンジョンの様に思えます。
まるで私を惑わしているかのように・・・。
「しまった!」
私はがむしゃらに逃げていて、高い岩に囲まれている袋小路へ逃げ込んでしまったようです。
「へへへ、追いつめたぜ!」
人間たちのゴブリンの様な下卑た笑いが私に一層の不快感と不安を与えます。
「こ、来ないで!!!」
咄嗟に魔法を発動して牽制しますが、ほとんど効果も見られず、むしろ相手の嗜虐心を煽る結果となってしまいました・・・。
それでも、私は最後の抵抗として魔法を放ち続けます。
私の魔力は残り少ないですが、それでも、最後まで・・・
ついに魔力も尽きて、本当の本当に私は追いつめられてしまいました。
「ったく、手間ぁ取らせやがって・・・」
「なあ、コイツ俺らで遊べねえのか?」
「バカ!殺されるぞ!あのおっさん、自分が最初じゃないと途端に癇癪起こすからな・・・」
「今回はメスが2匹も取れたんだ、報酬も期待できるぜ・・・」
ああ、私の運命はもう決まってしまったのでしょう。
これからは人間たちに道具の様に扱われて墜ちていくのですね・・・。
大人たちから散々習いました。
弱い者は搾取されると。
世の中には本人の望まない結果に満ちていると。
物語の様にはいかないと。
世界は厳しいと。
それでも、私は在りもしない奇跡に願いました。
どうか、私を助けて欲しいと・・・。
みんなー、戦闘準備は出来たかー?
大丈夫だ!奴らは1匹、1匹は大した問題じゃない!!
隊列を組ませるな!
少しずつでもいい!各個撃破するんだ!!!!
まとまると我らも飲まれるぞ!




