44ページ目 王女の帰還
この間の調味料事件も落ち着き、またいつもの日常が戻ってきました。
リーズお嬢様はダンジョンの探索へは行かれるものの、深く潜ることはせず、ご自分の剣の腕を確かめるように1戦1戦丁寧に戦い、数回の戦闘で探索は切り上げて学園で剣の訓練に励んでおられます。
そのおかげか剣の腕は上がり、スキルもいくつか習得されたようです。
私もダンジョンへ行くのではないのでそばに居なくてもいいとのことで今はお夕飯の買い出しに来ています。
基礎能力を上げる為の訓練に異議は無いのですが、少し寂しいです。
自分はリーズお嬢様の母親か!?
と、そんな事を思いながら歩いていると街がいつもより騒がしい事に気が付きます。
「おじさん、こんにちわ」
「おう、クロちゃん。らっしゃい、何にする?」
「コレと、ソレください」
「はいよ」
すっかり常連になってしまった市で必要な物を買い足していきます。
「あの、今日は妙に賑やかですが、何かあるのですか?」
「お、そういえばクロちゃんはコッチに来たばっかりだって言ってたな。今日、この国の姫様、ティファニール様が遠征から帰ってこられるんだ。」
王女様がダンジョン攻略とはとんでもないですね。
いえ、あの国王様のご息女なら当然なのでしょうか・・・?
「ティファニー様は学生の身で既に城勤めの並みの騎士よりお強いからな!学園と王家の鍛錬の賜物だよ」
そう、自分の娘の事を語る様に自慢げに王女様の事を話すおじさんと少しお話をして、私は学園へ戻りました。
「おい、貴様!何をしている!」
街を抜けて学園への一本道を歩いていると後ろから声をかけられたので足を止めて振り向きます。
そこには数名の兵士さんと馬に騎乗した女子が1人と男子が2人いました。
直ぐにその女子がおじさんの言っていた王女様だと分ったのですが、呼び止められた理由が分かりませんでした。
それなりに広い一本道ですが、馬車などもよく行き来するので私は道の端っこを歩いていたのですが何故か呼び止められました。
「貴様!姫様に対して無礼であろう!」
そう言われて初めて何故呼び止められたのか分かりました。
要するに姫様の進行上にいるのに姫様を無視して歩いていたのがいけなかったと。
後ろから来ましたよね?そんなの無理ですよ。人は後ろに目は付いていませんよ?
邪魔にならないように端っこを歩いていましたよ?
とはいえ、面倒事はゴメンなのでさっさと謝ろうと思っていると
「何を言っているのです、彼女は歩いていただけではないですか」
よく通る声が兵士を叱咤しました。
「し、しかし・・・」
「しかしではありません。彼女は何かを言われることはありません」
そう言って女性は馬から降りて、私の前まで来ると頭を下げて謝ってこられました。
「付き人が無礼を働き、申し訳ありません」
「え?あ、いえいえいえいえいえいえ、とんでもないです。あ、頭を上げて下さい」
え?王女様ってこんなに簡単に頭下げていいの???
「私はティファニール・パトリシア・コスカートと言います。あなたは?」
「わ、私はクロと言います。ティファニール様」
「クロ、ですか。分かりました。では、私の事は”ティファ”と呼んでください」
「いやいやいやいや、そんな事出来ないですよ!」
「呼んでください」
無言の圧力。流石はあの変態国王の娘というわけか、威圧感が凄いです。
いえ、威圧ではない別の圧力を感じます。
「あの、大変失礼ですが、どうかされましたか?」
「あ、いえ、その、特に他意はないですよ?王族だからお友達が少ないとか、周りが男の人ばかりだから落ち着かないとかそういう事は決してないですよ。
ただ・・・そう!私は学園のメイドと話す機会が無かったのでこの機会に少し話てみたいと思っただけなのです!ホウントウですよ?」
一気にまくし立てて、墓穴を掘っていくティファニール様。
自分たちをそんな風に感じていたのかと少し落ち込んで見える男性陣。
そもそも名前の文字数もそんなに変わらないのに短くいう意味とは???
「わ、わかりました。分かりましたから”ティファ”様!」
そう言ってティファ様を見ると胸の前で両手を合わせ、顔をパァっと明るくさせて
「はい!」
と、嬉しそうに返してこられました・・・。
これ、後で怒られたりしないですよね?
王女様直々の命令なんですから何も問題ないですよね???
それに私、あなたが落ち着かないといった男なんですよ・・・。
それからティファ様が学園に帰るのなら一緒に帰りましょうとおっしゃったので、一緒に歩いて帰ることになりました。
やめて!お隣を一緒に歩くとかヤメテ!出会い頭にフラグの弾幕攻撃とかほんとヤメテ!!!
せめてティファ様は馬に乗って下々の意見を聞いているみたいな絵面にして!
そんな親しい友人みたいなことしないで!私のライフはゼロよ!!!
ティファ様が馬から降りて歩きだしてしまったのでパーティーメンバーの2人も馬から降りて歩き出し、兵士さんもその後に続くという変な行列ができてしまいました。
兵士さん!さっきみたいにビシっと「こんな者に構う事はありません」的な事を言ってください!
そう思いながら見るとさっきの兵士さんは項垂れ、他の方は同じ轍は踏まないとしっかり整列して歩いています。
その間にもティファ様は色々と尋ねてこられます。
まるで、今まで我慢していた分を取り戻すかの様です。
そして私は何気なく
「次はティファ様の事を聞かせて下さい」
といった瞬間、ピシッと世界が凍ったような音がした気がします。
ティファ様は固まってしまい、他の方はヤッちまった。みたいな感じの顔をしています。
明らかに地雷を踏んだ者を見る目でコチラを見られています。
「あの、ヒメサマ。まさかボ・・・」
「私はボッチではありません!女生徒は私が勇気を出して話しかけてもぎこちない笑みを浮かべて遠ざかりますし、男子は、その・・・自意識過剰なだけかもしれませんが、私の胸やお尻ばかり見てくるのであまり話したくないだけです。なので決して私は友達のいないボッチではないのです!」
そう涙目になりながら力説するティファニール様。
悲報。
私が呼び出された異世界のお姫様はよくある絶対的なカリスマを持つ王族などでは無く、ガラスハートのボッチ姫でした・・・。
まあ、いきなり王族の方に話しかけられては相手も焦るでしょうし、下手な事を言って首チョンとかになったら嫌ですもんね。
男子の方は自意識過剰でも何でもなく、そのまんまだと思いますよ?
とても素晴らしいプロポーションです。
同じ男子としてお近づきになりたい。とか胸やお尻に目が行ってしまうのは仕方のない事だと思います。
それを本人がどう思っていようが・・・・
実際私の目もその辺りに釘付けです。
「なので、私はボッチではありません。城へ帰れば他の者と話もしますので決してボッチではありません!」
大事な事なので複数回言われました。
涙目で・・・・
「分かりました。あの、ティファ様、物凄く不敬になってしまうのですが」
「何ですか?」
「私のお友達になっていただけませんか?私はコチラに来たばかりでお友達と言える方がまだ居ないのです」
「! ほ、本当ですか!?ソレはいけません!是非!私がお友達になって差し上げます。クロ、私たちは今から親友です!!」
私の手を取って勢いよく上下に振りながらそう言われました。
えっ?ホントに他にお友達いなかったのですか?貴族のご令嬢とか、他国のお姫様とか・・・
マジで言ってんの?みたいな顔で後ろの皆様を見ると一様に目を逸らされる皆様・・・・
まあ、王族ですし仕様がない事なんですよね?そうですよね?
「あの、ティファ様」
「何ですか?クロ」
「もうそろそろ学園が見えますので、私は離れた方が良いのでは・・・」
「なぜ、そんな悲しい事を言うのですか。安心してください、あなたに何かするような輩は私が切り伏せます。あなたは何も気にすることは無いのです!」
そう、ハッキリ排他宣言されるティファ様・・・
これ、下手したらヤンデレコースですか!?
とにかく何とかして早くお友達を量産しないと大変なことに・・・・
結局、頼み込んでティファ様のパーティーの直ぐ後ろを歩くことで何とか納得していただけました。
学園内はティファ様歓待モードでかなり盛り上がっており、最後尾に私がいることに気が付いた方にとても不快な顔をされました。
この人ごみに紛れて逃げようかとも考えたのですが、ティファ様が周りに応える振りをして私がちゃんと付いてきているか確認するので逃げることは出来ませんでした。
結局、学園長室までご一緒しています。
「おお、ティファ君。よく無事で帰ってきたね。どうだった、遠征は?」
「はい、とても大きなものを得ることが出来る遠征でした!」
「そうかそうか。君たちはどうだった?」
他の2人も同じ様な事を言い、学園長は大変満足そうです。
私にも笑顔を向けてくれます。
その笑顔には、何でお前がココにいるんだい?まったく関係がないだろう?と書いてあります。
私もティファ様を一瞬見て、すぐに退席したいので適当な理由を下さい。という笑顔を帰します。
学園長は笑顔で頷き、
「すまないね、ティファ君。本来なら私が城まで送って行くところだが、今は手が離せなくてね。ソコのメイドを付き人として一緒に行かせるので我慢してくれないか?」
「はい!分かりました。」
このロリ、押 し 付 け やがった!!
くそぅ、良い笑顔ですね。二人とも。
片方は純粋に嬉しそうに、片方はしてやったりと・・・・
「道中は・・・まあ、君たちなら問題無いだろう。私も、コレが片付いたら向かおう。国王様にヨロシク!」
ちゃっかり夕食は集る気ですか!
しかし、今の私にはジト目を向けるくらいしかできませんでした。
「それでは、お城へ向かいましょうか」
「今すぐですか?」
「そうですが、どうかしましたか?」
どうかしましたか?ではありません、私にはお夕食の準備があるのです。
でも、そんな事言えないですし、結局国王様に呼び出されて作りに行く羽目になりそうです。
とりあえず、お嬢様方に報告してお夕飯を遅くしてもらうしかないですかね?
そろそろリーズお嬢様が怒りだしそうな気もしますが、仕様が無いですよね?相手は王女様ですし。
「寮に居るお嬢様方に連絡をしないと心配されますので・・・」
一応、私は逃げ出した。
「そうですか、それでは皆で報告へ行った後にお城へ向かいましょう」
しかし、回り込まれてしまった・・・。
学園長室を出て少し移動すると待ってましたと他の生徒が集まってきました。
その集団をのまま寮の前までやってきました。来てしまいました・・・・。
生徒たちはここに何の用があるのかと各々にヒソヒソ話しています。
バン!と扉を開けて
「誰や!さっきから!戸の前で!うるさいわ!!!」
大声をあげながら出てこられたのはメイサお嬢様でした。
数が数ですのでヒソヒソでもそれなりにうるさいのです。
他のお嬢様ももう帰っていたのか後から様子見に出てこられました。
怒気をはらんで出てこられたメイサお嬢様ですが、いきなり王女様が目の前にいらっしゃったのでオロオロとされています。
「すみません」
「は、はい!」
「クロはこの寮のメイドで間違いないですか?」
「は、はい。間違いありません」
「そうですか。申しわけないのですが、少しお借りしてもよろしいですか?」
「へ?は、はい?」
状況が呑み込めず、何とか返事をされるメイサお嬢様。
後ろでも「まさか」とか「そんな」否定的な声が聞こえてきます。
そんなに文句があるのなら直接言ってください、私も被害者なんです。
「クロー、帰ったのー?」
いつも通りの声をかけながら中からリーズお嬢様が出てこられて、ティファ様と私を見られた瞬間に
バチン!と何かが弾けたような感じがしました。
リーズお嬢様とティファ様が見つめ合い微動だにせず、時間だけが過ぎていきます。
付いて来ていた生徒たちも初めはヤジを飛ばしていましたが次第にお2人の雰囲気に呑まれたのか、黙ってしまいました。
へ?何ですかこの修羅場シーン・・・
とりあえず
「リーズお嬢様。お夕食、遅くなってしまいますが構いませんか?」
「・・・・仕方ないわね。分かったわ」
それだけ言うと寮へ戻って行ってしまわれました。
他の生徒も安堵を着きそれぞれ散って行かれました。
ティファ様は中に入られたリーズお嬢様の方をいつまでも見ておられました。




