37ページ目 初めてのダンジョン
昨日の晩は大変でした。
まさか、出先の宿で夕食を作る羽目になるとは・・・
料理は好評だったようで、宿代・料理代は無料にしていただけ、別途報酬もいただけました。
で、今ですが私は朝方限定で朝食を作っています。
黒パンを適度にスライスしてミルクに浸して溶いた卵に浸して焼く。
後は軽く砂糖なりハチミツなりを付けるだけの簡単なフレンチトーストです。
後はサラダとコーヒーです。
今回の件で調味料がかなり減ってしまったので、また作らないといけません。
朝の原因もリーズお嬢様です。
食堂に皆様が集まった時に
「今日の朝食は何?」
といつもの調子で聞いてこられたのです。
当然。サブリ様たちも興味を示され、昨日私たちの対応をしてくださったウエイトレスさんにも聞かれていたので、速攻で私が朝食を作ると言いに行ってしまい、今ひたすらパンを処理していきます。
サラダは他の方にお任せです。
私、完全に部外者なのですが・・・・
「ようやく終わりました」
なんかもう、冒険の前にヘトヘトです。
「お疲れ様」
「うう、ありがとうございます。カグヤお嬢様」
「リーズ!あなたたちもしかして毎食あの料理を食べているの?」
「いいでしょう」
勝ち誇ったようにいうリーズお嬢様。
何であなたが勝ち誇っているのですか・・・。
その後も何やら口論をされていますがじゃれ合っているだけの様ですし、放っておきましょう。
私たちは同業者から見れば、少し遅めの重役出勤でダンジョンまでやってきました。
「じゃあ、ダンジョンへ入ろうか」
「さっさとボス倒して帰りましょう」
「ボスを倒すことが目的じゃないよ、サファちゃん」
「ちょっと!私の目的もあるんだけど!」
「ダンジョンって普通の洞窟なんですね」
「・・・・」
皆バラバラに意見を言いながらダンジョンを進んで行きます。
前衛には剣士のサブリ様、槍使いのサファ様。
中衛にはリーズお嬢様と私。
後衛には魔法使いのキャンディス様と弓使いのカグヤお嬢様。
構成としてはしっかりとしているように見えますが、私とリーズお嬢様は初ダンジョン探索であり荷物持ちの様な状態なので、実質は前衛と後衛だけの状態です。
「魔物も出てきませんし、こうしてみると本当にただの洞窟の様ですね」
横幅は人が3人歩いて通れるくらいです。
武器をふるうなら1人が限界ですか?
前衛の方は大変ですね。
「定期的に魔物が現れる場所を広義的にダンジョンと呼んでいるだけだから元々は普通の洞窟の方が多いわ。魔人が拠点として新しく作ったところでもない限りどこもこんな感じよ」
「魔人、ですか?」
「ええ、魔物のランク分け。といえば分かりやすいかしら?」
「魔物、魔人、それ以上の魔族?といった感じですか?」
「ええ。この大陸には魔人クラスまでしか見つけ出せていないけれど、魔人以上は相手にしたくないわね」
「てか、魔人でも十分キツイって!」
「そうそう。正式な騎士や上級冒険者でも複数パーティーが基本だし。魔人以上とやり合えるのなんて勇者くらいさ」
あ、この世界にも勇者とか居るんですね。
メンドウ事になりそうですし、会いたくないですね。
「勇者様ってどんな方なんですか?」
「自称勇者から今までの功績からそう呼ばれる人まで色々居るから一言では言えないわね」
「たくさんいるんですね」
「ええ。半分くらいは自称で、役に立たないけどね」
ええー。何か嫌ですね、そんな勇者様・・・・。
「ストップ。魔物だ。」
「あ、スライムね。ほらリーズ、さっさと倒しちゃってよね!」
「分かってるわよ。核を破壊すればいいんでしょ!」
そう言ってリーズお嬢様は剣を構えながらスライムに走っていき掛け声とともに切りつけました。
「いやぁー!」
振り下ろされた剣は核に触れること無くプルプルのスライムボディを切り裂いただけでした。
「もう1回!」
そう言いながら何度も振るわれるお嬢様の剣はスライムの核に触れることは出来ませんでした。
「悪いリーズ、新手が来た。そこまでだ」
「クッ」
リーズお嬢様もここではワガママを言わず直ぐに中衛の位置まで下がって来られます。
熱くなりやすいリーズお嬢様ですが、状況の把握はしっかり出来ているようです。
「カグヤ、後ろは大丈夫か?」
「ええ、問題無いわ」
「分かった。サファ、1匹目は俺がやる。お前は次を頼む、後はその繰り返しで。カグヤ・キャンディスは補助を頼む」
「「「分かったわ」」」
4人は危なげなく魔物を処理していきます。
その間、私たちはただ見ているだけでした。
「ねえ、クロ。何であの2人はスライムの核をちゃんと破壊できるのかしら」
リーズお嬢様は呟くように、とても悔しそうに私に話しかけてきました。
「クロは分かっていたの?私には無理だって」
「可能性としては考えていましたよ。でも、ゴブリンとかホーンラビットとか、そういった魔物はちゃんと倒せると思います」
「じゃあ、何でスライムは倒せないのよ。最底辺の魔物でしょ!」
「スライムは本能で体を流動させて核への攻撃をずらすと本に書いてありました。しっかりと核に攻撃を当てようと思うと、流れを読んで攻撃するか流れを無視して当てるだけの威力を出すかしないと駄目ですね」
「流れなんて読めないし、そんなに強い攻撃を連続してたら後が続かないわ」
「そうですね、ソコがリーズお嬢様と他の方との”差”なのでしょうね」
そんな話をしていると魔物を倒し終えてサブリ様とサファ様が戻ってこられました。
「アイテムの回収頼む」
「はい」
「リーズ見た?私たちの実力を?」
「どうやったの?」
「へ?」
「どうやったらあんな風にスライムに攻撃を当てられるのって聞いてるの!」
「ちょっと落ち着きなさいよ!カグヤ!アンタこの娘のお世話係でしょ?何とかしてよ!」
「リーズ、落ち着きなさい」
「カグヤ・・・だって・・・・」
「気持ちは分からなくはないけど・・・」
「! クロさん!危ない!!!」
リーズお嬢様たちの方を見ながらアイテムを回収していた私に魔物の死体に潜んでいたスライムが襲い掛かってきました。
が、
ビシャ!!
私の索敵の範囲内に居たので問題なく対処していきます。
スライムの核。
何かに使えるのでしょうか?初めてのアイテムですし、持っておきますか。
新アイテムは必ず確保しておきたいですね、できれば予備も欲しいところです。
「「「・・・・・」」」
私がアイテムを拾い終えて戻ってくると皆様、無言で迎えてくれました。
何でしょうね、何か変な者を見るような目で見られています。
「ちょっとクロ!今のどうやったの?」
「今のと言いますと?」
「スライムの核だけ拾ったでしょ。アレよアレ」
「ああ、スライムの周りのゼリー?を斬っただけですよ?スライムは核だけでは何もできませんから」
「そうだけど!あのスピード!」
「? 私はステータスをスピードに極振りしているのでそのおかげですよ」
「それで、何でスライムの核なんて拾ったの?」
「興味本位ですよ?何かに使えないかと思って」
「使用用途は無いわね」
「そうですか」
シュン。残念です。
「リーズ。アンタ、使い魔より使えなくない?」
「言わないで!!!!それはよく分かってるからそれだけは言わないで!!!」
リーズお嬢様は耳を押さえながら頭をぶんぶん振りがら叫んでいます。
「あ、うん。ゴメン。」
「とにかく、先へ進もう」
それから更に進んで行く扉の前に複数のパーティーが集まっていました。
「どうしたんだ?」
「お、昨日のメイドじゃねえか。本当にダンジョンに潜ってんだな」
どうやら昨日の宿に居た冒険者の方の様です。
しかし何故、私なのですか。私何も言ってませんよ?話しかけたのサブリ様ですよ?
メイド姿が目立つからですか?目印ですか?
「誰かがボスを先にヤッたみたいでな。開かねんだ、休眠中だ。」
「休眠?ですか」
「ああ、ここのボスはほっとけば復活するからな。疲れを癒すために眠る。だから休眠って俺たちは言ってる」
「あーあ、今日は儲け殆ど無しかー。もう宿に戻って飲もうぜ!」
「バカヤロウ!儲けが無いのにそんなことできるか!外の魔物でも借りに行くぞ」
そう言って前のパーティーは来た道を戻っていきました。
「じゃあ、俺たちも帰るか」
「ボスがいないんじゃ、しょうがないわよね!楽でよかったけど!」
「なら、帰りにまた挑戦させて。今度はクロみたいに周りを斬ってみるわ」
「アイテム的にも、時間的にも余裕があるしいいだろ」
皆様、もうお帰りムードの所悪いですが、
「さっきあった脇道は調べないのですか?」
「へ?脇道なんて無かったわよ?」
「いえいえ、岩があって少し見えにくかったですけど、在りましたよ?脇道」
「俺たちが買ったMAPには載ってないぞ?」
「私が昨日買ったMAPにもありませんでしたが、さっき通った時はありました。構造が変わったのでしょうか?」
「とりあえず行ってみるか」
その脇道は岩のおかげで死角になり、更にダンジョンに不自然に灯っている明かりがその先にはなかったので皆様、気が付かれなかったようです。
「どうする。進むか?」
「地図に載ってないってことは、未到達の領域ってことでしょう?行ってみましょうよ!」
「大丈夫でしょうか」
「へぇ、ココってずっと前からあるダンジョンって聞いていたけどこんなこともあるのね」
「・・・・クロ、あなたはどう思う?」
皆様が探索へ進もうとする中、カグヤお嬢様だけが私に聞いてこられました。
「カグヤさん!何でワザワザ使い魔に聞くのよ?」
「私たちはこのダンジョンを初心者向けの簡単なダンジョンと思って油断して探索しているわ」
「でも、新しい道を見つけたら気を引き締めて行くわよ!」
「そうね。でも、何処かに油断があるはず。だから何の準備も無いのに新しい道を探索しようなんて言っている」
「それは・・・」
「クロ、あなたの意見はどうなの?出来るだけ、本心を言って欲しいわ。あなたはいつも私たちを立てるから」
カグヤお嬢様からこうも真剣に問いただされては答えないわけにはいけませんね。
「いくつか質問してもよろしいですか?」
「何?」
「まずはサブリ様、大盾はお持ちですか?」
「いや、持っていないな」
「では、松明はどなたか持っていますか?」
「持ってないけど、火の魔法じゃダメなの?」
「魔法ですと、別の魔法を使うときに一時的に光源を失うことになりますし、魔力を定期的に失っていくのでよろしくないです」
「盾は?」
「この道は今までの道よりも一回り狭いです。そんな中多数の魔物に襲われた時の為に壁になる大盾はあった方が良いと思います。何より、この先からはほんの少しですが死臭します。
私たちと同じように気が付いた冒険者が踏み込んで死んでしまった可能性が高いです。
なので、ここは一旦引き上げて準備を整えてから再度挑戦することをお勧めします」
「それじゃあ、誰かが踏破しちゃうかもしれないじゃない!!」
「そうですね。少なくとも、今私たちの話を盗み聞きしているパーティーは入っていくでしょう」
「聞かれているのか!?」
「ええ。出てきてはどうですか?」
そういうと少し離れた岩陰から数人の冒険者が現れました。
「へへ、さてオタクらどうする?先に行くってんならここでヤリ合う事になるぜ?」
向こうは既にもうヤル気満々の様です。
「・・・・分かった。俺たちは今日はもう引き上げる。通してくれないか?」
「お?ずいぶんとあっさり引き下がるじゃないか」
「ああ、今の話を聞いていたらとても踏破できる気がしないからな」
「そうかいそうかい。ま、本来なら周りの嬢ちゃんたちも置いていけと言う所だが今回は見逃してやるさ。何せ、新しいルートに行けるんだからな。前のヤツのも含めてどんなお宝があるか楽しみだ」
「じゃあ、俺たちはこれで」
「ああ、俺たちのおこぼれで良ければ後日漁りに来るんだな」
そう言って冒険者たちは道の奥へ進んで行きました。
「どうして譲ったのよ!?」
「アイツらと戦っても勝つのは相当厳しそうだし、何よりクロの言う通り準備不足だと思った。俺はこのパーティーのリーダーだ。皆を危険な目に会わせるわけにはいかない」
「サブリ!!!」
「サブリさん!!!」
「サブリ。ありがとう」
「ありがと、サブリ」
「礼ならクロに言えよ。クロが言わなかったら俺も突っ込んでた」
「そうね、ありがとうクロ」
「いえいえ、リーズお嬢様のサポートが私の本分ですから」
「じゃあ、今日はもう帰りましょか」
「そうだな、帰って手分けしてアイテムを揃えよう」
サブリ様がそう締め括ってその日の探索は終了しました。
その後は街へ帰ってアイテムを揃えて明日の打ち合わせをしました。
夜はまた当然の様に私が1品作ることになりました。
その日の終わりに、もう調味料が無いので作れないというと皆様も宿の主人も一様に沈んでおられました。
しょうがないじゃないですか。食堂で数日分調理すような量、普通持ち歩かないですよ。
朝のパンだけでガマンして下さい。




