107ページ目 観光クエスト お約束
街を出発して数時間。
私達は馬車に揺られながら移動しています。
場所は変わっても気候にそれほどの違いはありません。
つまり、外の風景もコスカートとそれほど大差ないのです。
街に関してはその地域毎に違いがあり、見ていて飽きないのですが外の風景はそうでもありません。
確かに絶景と言うべき場所はあるのですが、やはり一部だけです。
強引に例えるなら船の旅と同じです、パッと見てほとんど同じ風景です。
他の慣れた方からすればそれは大きな間違いなのかもしれませんが、私からすれば同じに見えるのです。
当然ながらこの世界には携帯もゲーム機もありませんし、揺れが酷いんで多分酔います。
なので暇をつぶす手段は寝る、外を見る、話すくらいなのです。
私は暇を持て余して御者をされている冒険者の方の隣で御者のやり方や冒険者にとって必要な事や体験談を聞いています。
リーズお嬢様達は絶賛お話し中です。
女が3つで姦しいと読みますが、話が途切れません。
それにリアルで年頃の女の子の会話には見た目だけ女の子の私は入っていけません。
随分と盛り上がっているようですが・・・。
仲間内だけでなく、乗り合いになった方とも話しておられるようなので情報収集の一環と見ておきましょう。
「貴女たちは会話に入らなくていいの?」
御者をされている冒険者の方がそんなことを聞いてくださいます。
ちなみに「たち」というのは隣にルビアさんが座っているからです。
「アハハ、私は会話についていけなくて・・・。彼女は人と話すのが少し苦手なので・・・」
ルビアさんが何か言いたげな顔でコチラを見ていますが人とほとんど話したことが無いのは事実です。
「それで?私の話は少しは為になった?」
「はい、意外な事も多くて助かりました!」
「そう言えば今日は魔物を見かけないけど、どうしてかしら?」
恐らくルビアさんの影響でしょう。
基本的にルビアさんは隠すという事をされません。
なので、魔物にはルビアさんの気配が丸分かりなので寄って来ないという事です。
ちなみに人には大きすぎて相応の実力者でないと分からないとか何とか、うーんファンタジーですね。
河原近くで開けた場所で休憩をすることになりました。
主に馬の為の休憩です、私たちは馬車に乗っているだけですし、徒歩で付いてきている方もいないので。
馬車数台を止めると少し手狭になりますが、それも十分なスペースはあります。
休憩を開始して少しすると商人さんがやってきました、お話の内容は今日はココで野営との事です。
この先は野営できるような場所がないので、勿体ないけれど今日はココで野営をするとの事。
時間は夕方少し前、確かに野営をするには少し早い時間ですが見通しの悪い場所での野営よりはずっと良いです。
まあ、コチラから見通しが良いこの場所は向こうからも良く見えるわけですが・・・。
「ひひ~ん!!」
野営の準備に入って少しした時でした、急に馬の悲鳴が聞こえたのです。
確認に向かうと少し離れた所に繋いでいた馬たちが全て矢で射殺されていました。
どうやら向こうさんは私たちがここで野営をするのが確認できたので足を封じにきたようです。
これから暗くなる森を走って抜けるのは困難ですし、何よりたくさんの荷物があります。
特に商人の方たちにとってこの荷物は大事な商品です、置いていくという選択肢はありません。
「敵襲!各自、奇襲に備えろ!」
判断の早い冒険者の一人が声をあげ、私たちも奇襲に備えて配置に着きます。
「まさかボーナスのクエストでこんなことに巻き込まれるなんてね!」
「そう仰られても、リーズお嬢様。野盗も魔物の様なものですし、仕方ありませんよ」
「クロ、貴女知っていたんじゃないの?辺りに野盗が居ること」
「はい、ミューズお嬢様。しかし皆さん警戒しようともされなかったので黙っていました」
「何で!?」
「ここ数日少し気が抜けている様に見えましたので、ボーナスであれ何であれやることはしっかりとやっていただかないと。本番で困りますよ?」
「今がその本番よ!」
お嬢様達はようやく普段と同じくらいには切り替えることが出来たようです。
さて、勇者たちは・・・
「豪、どうしよう?」
「落ち着け、上級の冒険者だっているんだ。俺たちはフォローに回ればいい。とりあえず、一般客の護衛だ」
「「「うん!」」」
意外と冷静な勇者、そう言えば以前にも盗賊団を壊滅させたとか言っていましたね。
イベントをこなしているだけあって少しは慣れているのでしょう。
商人さんと一般の方は一塊になってその周りを私達、そしてさらにその外側に上級冒険者という布陣になっています。
出来れば何処か1か所でも攻めてこられない場所を作りたいですが、この地形では無理ですね。
川もそこまで広く深いわけではないので対岸から弓矢で攻撃される可能性もあります。
「来る・・・」
カグヤお嬢様が仰られるのと同じくらいのタイミングで森の中から野盗がゾロゾロと現れました。
ハッキリ言って上級冒険者4人、駆け出し冒険者・メイド10数名で凌ぐには厳しいです。
例に漏れず、野盗達の顔は欲望に歪み切っています。
野盗の1人1人が武器をちらつかせ私達を威嚇してきます。
この数ではグループというよりも団体です、私も周辺の治安云々は出発前に陛下からお聞きしていましたが、ここまで大所帯の野盗が居るとは聞いていませんでした。
冒険者の方たちも苦い顔をしています。
素人にもこの状況はマズイと直ぐに判断できる状況です。
そして野盗達が私たちの包囲を完成させた頃、1人の男が出てきました。
「なあ、お前等死にたくはないだろう?取引をしよう」
「取引?」
冒険者のリーダーが答えます。
「ああ、そうだ。その中にある食料と装備品、後は女を数人置いていけ。それで見逃してやる」
「何だと!?」
「男は殺して女は使うとしてもこの人数だ、邪魔にしかならねぇ。だから食いモンと武器・防具、後は・・・そこの学生とメイドだな。ソイツ等を差し出せば見逃してやる、当然移動用に最低限食いモンは持たせてやるさ、どうだ?いい取引だろ?」
「ふざけるな!彼女たちを差し出せだと!?」
「ボウズ、黙れ!お前には話していない」
勇者はまるで相手にされない事に怒りを覚えているようですが野盗の頭?は気にも留めていません。
それに、癇癪を起こして相手に突っ込んでも数の暴力で負けてしまいます。
何とか数を減らし少しでも私たちが有利になる様に持って行かなくては。
リーダーの方は苦渋の顔をされているのでしょう。
ここから安全に逃げ出す為には野盗の言う事を聞くしかない、しかしソレは絶対に許されることではない。
この2つに板挟みにされているのです。
そんな緊張が張り詰めた中、1人の少女が前へ歩み出ました。
野盗達も私達も驚いています。
品のある綺麗な赤いドレス、綺麗な肌と艶のある綺麗な髪をした貴族の様な少女が護衛も付けずに自分たちの前に堂々と歩み出たのですから当然かもしれません。
はい、その少女とはルビアさんです。
バッチリ美少女です、貴族と言われても普通に信じられます。
「何だ?小娘」
「貴方達は私の敵ですか?」
「? ああ、そうだな。だが安心しろ、お前の様な良い所の娘には手は出さないさ。精鋭の討伐隊を寄こされても面倒だからな」
「そう、敵なのね」
そう言ってルビアさんはアイテムボックスから何かを引き抜きます。
「ルビアさん!殺しては」
ガスン!と激しい音がして野盗の頭は木を数本なぎ倒しながら飛んでいき、ようやく止まった先でグッタリとしています。
「殺してはいないわよ?マスター」
え、うん。ソウデスネ。でもアレは死んだ方がマシなのでは???
自力では動けませんよ?アレ。
誰も声を出せません、少女の手には身の丈以上の大斧。
ソレを軽々と振り回し野盗の頭を一撃で戦闘不能にしたのですから。
「それで?周りのお仲間さんたちも同じで良いのよね?」
質問を投げかけられた冒険者のリーダーは、
「あ?ああ」
と生返事しかできません。
「それじゃ、ちゃっちゃと済ませましょ?ずっと座りっぱなしで体をほぐしたかったのよねー」
ルビアさんの発言に逃げ出す野盗達ですが、戦意が完全に挫かれ瓦解した野盗達など脅威ではありません。
ルビアさんと冒険者さんを主軸にドンドン捕らえていきます。
遠くへ逃げようとする者は荷馬車の上からカグヤお嬢様が弓で容赦なく足を射抜き、ほとんど制圧が出来たその時です。
「オマエ等!そこまでだ!」
1人の野盗が大声を出しました。
見るとルビアさんの首にナイフを突きつけています。
「この女を殺されたくなかったら動くな!オマエも死にたくないだろう?早く命乞いをしろよ!」
必死にわめく野盗。
冒険者の方はこの発言で動きを止めてしまいますが、私たちはルビアさんの中身を知っています。
今、首元に付きつけている刃こぼれのあるナイフでどうにかなるような存在ではありません。
伝説の剣を用意してようやくトントンです。
なので、私たちはわめく野盗を無視して捕縛を続けます。
逃げ逃れている野盗や冒険者の方は驚いて
「動くのを止めろ!」とか「コイツの命がいらねえのか!」とか口々に言いますがそのまま続けます。
あまりにうるさいので、私は捕縛した野盗の持っていた剣をルビアさん目掛けて投げつけました。
「ヒッ!?」
脅していた野盗は急いで逃げますが、ルビアさんはそのまま立っています。
周りから「逃げて!」とか言われていますが興味なさそうに棒立ちで、そのままおでこに剣がぶつかります。
ガキン!と硬い物と硬い物がぶつかった音がして剣が地面に落ちます。
もちろんルビアさんは無傷ですが、少し機嫌が悪そうに
「マスター?これはどういうことかしら?」
「周りがあまりに騒がしいので、後、ルビアさん。遊んでいないでサッサと捕縛してください、逃げられたり他の方で貴女と同じことをされると厄介です」
ルビアさんははぁとため息を吐いて
「さて、死にたくなかったら大人しく捕まりなさい?少しでも抵抗したり逃げたりすると手元が狂ってしまうかも?」
ルビアさんのお前等大人しくしないと●宣言で野盗は全員大人しく捕まりました。
情報もベラベラと話してくれ、どうしてこんな人数になったのかもわかりました。
で、問題はこの野盗をどうするか?と私たちはこれからどうやって移動するか?という2点になりました。
野盗は出来れば街の憲兵へ突き出す方針に。
ですが、どちらにしろ移動させる為の馬が無いのです。
これでは今は大人しい野盗達もいずれまた暴れ出してしまいそうです。
折角被害が少なく出来たのですから何とかしたいものです、あまりやりたくはありませんが、ここは私が何とかするしかないでしょう。
使い魔で馬をお持ちの方がいらしたらお早めにお出しください。
まあ、いないでしょうが。いてもさっき殺された馬が使い魔でしょうけど・・・。
などと考えていると皆さんが私達を見ています。
私とルビアさんをです。
「どうされました?」
「いや、その・・・大丈夫なのかと・・・」
「何がですか?」
「その、我々も襲われないかと・・・」
その不安は他の方からも感じられます。
仕方がありません、野盗達をまるでゴミの様に吹き飛ばして制圧しましたし、剣をぶつけても怪我一つしないのですからこの状況は納得できますがお嬢様方?何故貴女方はソチラに居られるのですか?
貴女達はルビアさんの事をして言いますよね?
どうして今初めて知りました。みたいな反応なのですか?
「ええ、心配ありませんよ。彼女は私の使い魔ですので。皆さんに攻撃するようなことはしません」
「しかし首輪が・・・」
「ああ、隷従の首輪ですか?このネックレスがそうです。一般に出回っているのは見た目がよろしくないで特注品を用意しました」
なるほど、と皆さんルビアさんに関しては納得してくれました。
さて、では次は足の問題です。
「しかし、馬はどうする?野盗を引き渡すのも、荷物を運ぶのも馬が居ないとどうにもならないぞ?」
「誰かが走って借りに行くか?」
「バカ!どれだけ距離があると思っているんだよ?行く方も残る方も危険だ!」
やはり難航します。
このままでは埒が明かないので、私が爆弾を投下します。
「あの、皆さん」
「ん?何だ、何かいい方法でも思いついたのか?」
「ええ。できれば皆さんには秘密にしていただきたいことなのですが・・・」
「おう、大丈夫だ、秘密は守るぜ!」と商人さん達。
「何か方法があるなら教えてくれ、秘密は守る!」と一般の方達。
「一応、同業者のお願いだ。これから言う秘密は守るよ」と冒険者の方達。
ではと少し前置きをして集まりから少し離れます。
何をするのかと見ている皆さんの前で私の影の中から「ブルルル!」と次々にシャドウホースが現れます。
とりあえず、荷馬車の台数と野盗押し込めように追加で1頭で良いでしょう。
力も強いですからねこの子達。
当然、これを見た皆さんは驚かれます。が、口には出されません。
出ないだけかもしれませんが。
「その馬?はなんだ?いえ、それ以前に貴女は何者?」
ようやく冒険者の方から聞かれます。
私は一応、身だしなみを整えてから答えます。
「私はクロ。最近【冥土】の2つ名を頂きましたこの大陸の大陸魔王です」
ほとんどの方が固まってしまい、冒険者の方は武器に手が伸びますが、ルビアさんが大斧の柄で地面をドスンと突く動作でピタリと止まりました。
うん、脅し100%です。
「では、リーズお嬢様。お嬢様も自己紹介を」
「なんで!?なんで私もなの!?」
え?私のご主人様ですよね?使い魔が挨拶したら主人もしますよね?
「リ、リーズ・エラインよ。クロのマスターをしているわ。怖いかもしれないけど、変な事をしなければ手を出したりは絶対にしないわ」
それだけいうとそそくさと他のお嬢様の中へ戻ってしまわれました。
他のお嬢様達、凄く迷惑そうな顔してますよ?どうして戻ってきたの!?みたいな。
「話を進めましょう。この【シャドウホース】は私の使い魔でお解かりとは思いますが普通の馬の何十倍も力があり、早く走れます。当然、私の命令には忠実に従ってくれます。なのでこの【シャドウホース】で荷馬車と野盗を運ぼうと思います」
「野盗も一緒にか?」
「いいえ、野盗は王都に送ってしまい、私たちはこのまま進もうかと思っています。申し訳ないですが、どなたか野盗を王都まで運んでいただきたいのですが」
訳の分からない魔物と野盗達と一緒とか無理があるかなと思っていましたが、意外と早く声が上がりました。
「私が行こう」
「いいのか?」
「ああ、私は弓兵だからな、この中では装備が一番軽い。それに考えたくはないが野盗が逃げた時には身軽な私が一番対処しやすいだろう」
この会話は当然野盗達に聞かれており、所々ニヤリとする野党もいるのですが、
「大丈夫ですよ、この【シャドウホース】は下手な魔人より強いと思いますので。野盗が檻から逃げ出してしまったら仕方がないですから好きにしていいですよ」
ブルル!と軽く泣いて地面をスタンプ。
ドスン!!と結構な振動を起こしてやる気をアピールしてくれます。
野盗達は青くなって私が顔を向けると無言で激しく上下に顔を振りました。
善は急げという事で野盗は日の落ち始めていますが、今から移動させることになりました。
大丈夫!夜だろうが昼だろうがチャンと走ってくれますよ?少し揺れが強いかもですが死にはしないですよ、人間クッションが一杯ですからね!
檻の荷馬車も錬金術で錬☆成!
某アニメを彷彿とさせる万能感、私の選択に間違いは無かった!
野盗を押し込んでいざ出荷!ドナドナされてください野盗さん。いくら悲しそうな瞳で見られても誰も同情しませんよ?行き先は王都の牢獄で。
野盗を見送った後。
「アイツ等可哀そうになぁ、どう転んでも良くはならないだろう?」
「でも街に着けば牢に入れてもらえるのよ?私はあの魔物と一緒にいる方が怖いわ・・・」
「自業自得だが、同情するようなぁ・・・」
意外と同情されている野盗達、解せぬ・・・。
人質とは脅される側にとって守る価値のある者でなくてはならない。
なので、傷つける為に世界最高戦力を必要とするルビアさんはいくら頑張っても人質になれません。
また、人質を連れて移動する為には五体満足の状態でなければ逆に足手まとい以外の何物でもありません。
体は子供、頭脳は大人な小学生もそうやってお姉さんを助けていましたね。
でもリアルにマネして助けちゃうと色んな所からフルボッコされて
助けたのに一緒に牢屋に入れられちゃうかもだから良い子はマネしないように。




