102ページ目 紅蓮の竜姫2
聖視点
死んだ。
ただそう思った。
だって当然でしょ?あんな化け物の一撃を防げるはずが無いもの。
周りの皆も呆然としている。
へたり込んでしまっている人もいる。
自分の運命を受け入れるかのように、きっと観客席に避難している生徒も死んでしまう。
私が不甲斐ないばっかりに・・・。
本当の事を言うと豪に期待していた。
私よりもずっと強い力を持っているのだから、彼が本気で攻撃すればどんな敵もなぎ倒せると思っていた。
しかし、神を名乗るルビア・ジェノ・バハムートには届かなかった。
ごめんなさい、私の所為で貴女達を巻き込んでしまって・・・・。
そんな後悔の念が私の中を渦巻く。
だから、気が付かなかった。
1人の少女の声に絶望が含まれていないことに。
使い魔に命令を出したようだけれど、要点も無く、この状況をどうにかできるとは思えなかった。
「【アイスウォール】!」
ムダな足掻きに聞こえた、さっきは3人がかりでようやくだった攻撃を1人でどうにかできるとは思わない。
今の攻撃はさっきよりもずっと強い攻撃なのだから。
氷の壁の上から業火の刃が進んで来るのが見える。
壁なんて無いかのように進んで来る死の刃。もうすぐ、終わる。
「うそ!?」
業火の刃が消えた。
私達よりも随分と前で完全に姿を消した。
周りの皆も信じられないというように前を凝視している。
私の視界の隅でへたり込んでいた人が動いた。
この人が今の凄い攻撃を防いだんだ!
一体どうやって?この人が・・・・
立ち上がって前へ進んで行ったのはクロちゃんだった。
こんなに小さな女の子が防いだっていうの?
クロちゃんも私達と同じ異世界人だし何か凄い力を隠していたのかしら?
クロちゃんが先頭まで移動すると私達を守っていた壁は役目を終えたとばかりに崩れ落ちた。
先に居たのは真剣な表情でコチラを・・・いえ、進み出たクロちゃんを睨んでいるルビア・ジェノ・バハムートだった。
「どうやってアレを防いだのかしら?」
「秘密ですよ、私は秘密がバレてしまうと途端に弱くなってしまいますので秘密です」
そう人差し指を唇の前まで持ってきて小さな子供にこっそり教えるように言うクロちゃんからは絶望の色は何も感じなかった。
「あの、すみません。ルビア様」
「この辺りで引いてはいただけませんか?」
「何故?」
「貴女の目的の勇者はもう使い物にならないくらいに傷付いています。なので目的は達成されたのではないですか?」
「そうね。でも、新しい目的が出来てしまったわ。貴女を殺すというね」
そう言って大斧に力を籠めるルビア。
威圧感が跳ね上がり、私は呼吸が荒くなってしまう。
そんな中、クロちゃんは何の問題も無いかの様に話し出す。
「そうですか。・・・では戦う前に聞きたいことがあるのですが」
「何を聞くつもりかしら?これから死ぬというのに」
「大したことでは無いのですが、どうして竜の姿で戦わないのかと思いまして」
何を聞いているの、そんなもの今は関係ないでしょう?
「人間は小さいから見失ってしまうのよ、それに私本来の姿なんて良い的でしょ?その点、人化すれば大きさも同じになるし力を凝縮出来てより力が出せるもの。他の竜は嫌うけれど私は良いと思っているわ。これで満足かしら?」
律儀に答えたルビアはどことなく楽しそうに見える。
これからの戦いを想像して、興奮しているのだろうか。
「はい。ありがとうございます。では、私は死にたくないので少し武装を変更しますね?」
武装?クロちゃんの今の服はメイド服に一般的な剣を1本、この戦いには恐ろしく不釣り合いだ。
そしていくら武装を追加したとしても結果は変わらない。
ルビアを倒すには最強装備で固めた最強の勇者が必要だ。
この大陸には居ない最強の勇者が・・・。
「装備の変更?なら終わるまで待っていてあげるわ。その方が楽しめそうだし、ごゆっくりどうぞ」
強者故の余裕でクロちゃんの行動を許すルビア。
今のままよりも装備を変えた後の方がずっと楽しめると確信できたようね。
「では、お言葉に甘えて・・・」
そう言いながら女性騎士、リッターさんの所へ歩いて行く。
「リッターさん、人化解除」
解除?彼女が何を解除するの?
そもそも彼女はティファの護衛じゃ無いの???
「ハ!」
彼女の声と共に魔力の渦が彼女を包む、渦が無くなって見えたその姿はこの大陸に住む者ならば絶対に見間違えることのない姿だった。
「【鎧】リッター・・・」
私が発した言葉だろうか、他の誰かだろうか?
とにかくその声はこの訓練中に響いた。
この大陸の人たちの仇敵、【鎧】リッター。
ルビアでさえ、驚きに目を見開いている。
「なるほど、【鎧】に戦わせようというの?」
ルビアは唇を舐めずり更に戦闘態勢に入る。
「リッターさん、大剣タイプで硬さを優先してください。折られても溶かされてても即時修復してください」
「承知」
「ゴートさん、貴方は防御行動、回復、バフ、デバフをお願いしますね。当然破損部分は即時修復してくださいね?」
「俺だけ多くね!?まあやるけどよ!」
メイド服からそんな声が聞こえたかと思うと腰のリボンの両端が伸び、尻尾の様にゆらゆらと動き出した。
私達の理解は追いつかない。
どうしてメイド服が話すのか?クロちゃんのメイド服は精霊か何かの宿った特殊な服なのかしら???
クロちゃんは【鎧】の背中に手を当て引き抜く。
「「「な!?」」」
【鎧】は鎧姿から大剣へと一瞬で変化した。
「さて、神様に挑むわけですがこの装備で足りるかどうか・・・」
完全に私たちは置いていかれた。
助っ人に来てくれた王族の方たちも呆然としている。
大陸魔王の剣!?
体から武具を出すのは知っていたけれど、全身を武器に?
しかもソレを装備!?
「へ、へぇ。面白そうじゃない。相手にとって不足は無いわ!」
さあ、戦おう!とルビアが呆けていた状態から構え直した時にはクロちゃんは既に私達の傍から消えていた。
真横からの重い一撃。
咄嗟に斧で防いだようだけれど勢いまでは殺せずそのまま吹き飛ぶ。
ガキン!!
追撃をかけたクロちゃんの攻撃を腕で普通に受け止め、はじき返す。
「硬いですね、何で出来ているのですか?その服」
「コレは私の紅殻よ。私の衣服は私の体の素材を変化させたものだもの!簡単には貫けないわよ?」
ルビアも反撃に移るけれど、2本のリボンが攻撃の邪魔をする。
攻撃をいなしたり、リボンを地面に突き刺してクロちゃんを引っ張ったりと中々に厄介そうだ。
そして剣はいくら破壊しても直ぐに元に戻ってしまう。
ルビアの攻撃は当たらないけれども、クロちゃんの攻撃はダメージを与えられない。
戦いは膠着状態になってしまった。
どういうことか聞こうとリーズの方を見ると既に王族の方たちが質問していた。
しかしリーズも
「私も初めて見たわ、さすがにクロも新しい札を切るしかなかったみたいね」
つまりは今まで主人にすら見せた事のない戦い方という事。
魔物を装備するなんてとんでもない発想ね、しかも装備しているのが元大陸魔王。
並みの魔物なら一瞬ね。
しかし相手は【ルビア・ジェノ・バハムート】一筋縄でいくはずもない。
「楽しいわね?人間!貴女は後どれくらい私を楽しませてくれるのかしら?」
戦闘を見ると、流れはルビアに傾きつつあった。
ダメージを受けても直ぐに回復して戦えるルビアとダメージを受けたまま戦い続けなくてはならないクロちゃん。
この結果は当然であり、ここからは差が開くだけしかなかった。
メイド服が頑張って回復等を行ってはいる様だが激しくなってきている攻撃に全て対応することは出来ていないようだった。
「くっ」
堪らずクロちゃんは後方へ距離を取ろうとするけれど、ルビアはソレを許さない。
「【アクアボール】!」
近づいてくるルビアにそんな初級の魔法でどうするのかと思ったら、かなり巨大な【アクアボール】を撃ち込んでいた。
【アクアボール】はルビアを呑み込み反対側の壁まで飛んで行った。
距離は取れたけれど、これからどうするつもりなのだろう?
「さすが存在がチートなだけありますね、リッターさんで切り付けてほとんどダメージ無しとか笑っちゃいますよね?」
「申し訳ございません、主様」
「で、実際どうするんだよ?防ぎきれって言われても限界があるぜ。何処かで逆転しねえとよ?」
やはり戦っているクロちゃんたちも分かっていたようです、相手にダメージを与えられていないことに。
仕方がない事です。相手は世界最強のドラゴン!私たち人間ではどうやっても太刀打ちできない存在、ここまで叩けただけでも奇跡の様なもの。
ルビアも体勢を整え、攻撃を再開しようとしています。
「リッターさん、ゴートさん。少しの間、時間稼ぎをお願いしますね?私、少し調べ物が・・・」
「は!?」
「あ、主殿!?」
2人?の講義を無視してクロは急にガクンとしてしまった。
体全体をカバーしているメイド服が慌てた様子で立て直していますが未だ混乱しているよう。
「ちょ!?どうするよ?」
「く、とにかく何が何でも主殿をお守りするしかあるまい!」
再度攻め入って来るルビアに対応しながら叫ぶ!
「どうしたの?急に動きが悪くなったわよ?あら?アナタたちのマスターは気絶してしまったの?これは残念ね」
「なら、目が覚めるまで待っててくれねぇか?」
「残念、それは出来ないわ」
「そうかよ!」
再び激しくぶつかり合う両者。
機動力を最大限に使って回避に徹して何とか防いでいる。
それでも次第に追い詰められていき、もう後が無いという所でクロちゃんの頭が動いた。
「あら?ようやくお目覚めの様ね。でもどうする?貴女、死にかけよ?」
「抗いますよ、本当に死んでしまうまで」
「良いわ!命乞いなんてされたらどうしようかと思ったもの。では、死になさい!」
斧を振り下ろされる一瞬に懐に潜り込んでお腹に剣の柄で一撃!
「【アクアボール】!」
先ほどと同じ要領で距離を取ろうとするも今度は対応されてそんなに距離は取れなかったみたいね。
そしてドヤ顔のクロちゃん。
「さて、決着を付けましょう!」
堂々とそんなことを言い張るクロちゃんに対して不敵に笑うルビア。
クロちゃんは片手で剣を水平に前に出し空いている手を何故か柄の上に置いている。
ルビアもそれが気になったのか攻め込まず様子を窺っている。
「リッターさん、少しむず痒いかもしれませんよ?」
「え?」
クロちゃんは柄の上の手を刃先に向けて滑らせる。
滑らせた手の後にはいくつかの魔法陣が輝いていた。
遅くなって申し訳ありません




