【第一話】そして彼は、初めての冒険に出る。
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(村、か……。)
森を抜けた先には、家がポツポツと立っている風景が見えた。
中心に大きな川が流れており、木々に囲まれた自然豊かな村だ。
家の数からあまり大きな村とは感じないが、とても穏やかな雰囲気を漂わせている。
そういった穏やかな雰囲気から安心感を与えられ、
今までの蓄積された疲れがドッと来てしまった。
膝から落ち、倒れかけようとした瞬間、
こっちに向かって足音が近づいてきた。
「お、おい!兄ちゃん、大丈夫か!?」
この街の男性だろうか?かなり焦っているようだ。
この人の顔から伺うによほど俺はボロボロらしい。
服はボロボロ、持ち物は剣、顔は真っ青な状態で、
そんな奴が森から出てきたら、心配するどころかドン引きだろう。
「ここは……。」
やっとの思いで振り絞った声を出した。
とにかく、休める場所がほしい。休憩したい気持ちでいっぱいだった。
本来は挨拶などするのだろうが、している猶予は一刻もない。
「兄ちゃん、ここは【ハルフィード】って村だよ。それはともかく、
怪我がひどいな……。今、村長のところに連れて行ってやるからな!」
言葉を理解するに、どうやら助かるみたいだ。
絶望的なあの状況から本当によく助かったものだ。
自分の生命力にドン引きしながら今はこの人に身を任せよう。
正直、この人が盗賊だったらどうしようかと思ったが。
(今はこの人に身を委ねよう……。)
「しかし、兄ちゃん、なんだってあんな森から……。おまけに見ない顔だし……。
一体どこからやってきたんだ……。」
なにやら男性の声がするが、今はもう意識が飛んでいく感覚しかない。
静かに目を閉じ、後は任せよう。
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“あ――――!ふ――――。”
ここは一体、どこなんだ。
“どう――――。ふ――ざ――――!!”
君は一体、誰なんだ。
“どう――――そ――!!こた――て――――!!”
段々と声が鮮明になってくる……。
“――を――――覚ま――し――――よ。”
俺は、一体……。
“お願い!!”
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「はっ!?」
ここはどこだろうか。
知らない天井だ、というかベッドの上か。
あの男性に運ばれてきただろうか。
体の傷もほとんど癒えているところから見ると、大分寝ていたようだ。
何日間ぐらい寝ていたんだろうか。
(それより、さっきのは……。)
夢だろうか?しかし、かなりリアルな感覚だった。
誰か知っているような声、女性の声だ。
もしかしたら、俺の記憶の辿る手掛かりかもしれないが、
とにかく、今は起き上がり、現状を把握しておくか。
コンコン
「お目覚めかな?」
起き上がると同じタイミングでドアのノックの音と共に、ドアが開いた。
目をやると初老の男性が心配げな顔でこちらを見ている。
(誰だ……?いや、確かあの男性が村長のところって言っていたような。)
そうだとしたら、あの初老の男性が村長だろうか。
とりあえず、この人が助けてくれたことに変わりはない。
少し考えた後、お礼の言葉を言うことにした。
「……すみません、助けていただいて本当にありがとうございます。」
「ほっほっほ、よいのじゃ。困っているものがおったら助ける。
これは普通のことじゃろうて。」
「本当にありがとうございます。ところで、ここは?」
「ここは【ハルフィード】という田舎村じゃ。ワシはここの長をしておる。
お主が森から傷だらけで出てきたところを村のものが発見してのぅ。
それを保護したといった感じじゃ。」
どうやら、ぶっ倒れる前の記憶は本物らしい。
あの状況下で生存できているとは、実に自分の生命力が恐ろしく感じる。
いや、悪運が強いだけなのかもしれない。
とにかく、現状を把握するために村長にいろいろと聞いてみることにした。
「ところで――――。」
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「――――といったところじゃ。」
一旦村長の話を整理してみるとこうだ。
どうやらここは【インフィリア大陸】という巨大大陸の北西に位置している、
小さな田舎村で人口もそこまで多くなく、森に囲まれた豊かな村らしい。
確かにさっきから小鳥のさえずりと川の流れの音しか聞こえない。
さらには俺が森の途中で遭遇した獣は【魔モノ】という、人に害をなす存在らしい。
最近は森で隠れて生活していたが、
最近妙に人里に来ては積極的に人を襲うようになったのだそうだ。
「ところで、お主。森から出てきたというが、一体どこからやってきたんじゃ。」
それはなにより俺が聞きたい。
「自分は――――。」
自分が記憶喪失であるということ。
いつの間にか、気が付いたら森の奥で倒れていたこと。
自分もかなり魔モノに襲われたこと。
自分が目を覚ましてから村に行き着く過程を事細かに説明した。
「ふぅむ、自分の名すら覚えておらんとはな。それに魔モノがそんなにも……。」
村長は考え込んでいる。
「そういえば、自分が目覚めたときにこんな本を持っていました。」
自分が持っている本を村長に渡した。
村長は受け取るとまじまじと見ている。
「ふむ、見たこともない本じゃな。
中身は……空白じゃし、何かの手掛かりじゃろうか。」
そういうと、自分に本を返した。
「とにかくじゃ、お主の記憶のことなんじゃが、
もう一度、目覚めた場所に行ってみるというのはどうじゃろうか。
後ついでじゃが、お主は剣の腕が立つようじゃし、森の様子も見に行ってくれぬか。
お主の魔モノのことが本当なら何か原因があるのかもしれぬ。
このままじゃと、村の者たちも森に入れぬからな。」
村長が言う通り、あの魔モノの状態なら森に入るのもままならないだろう。
さらに森の奥に俺の記憶の手掛かりがあるかもしれない。
最初に目覚めた後はすぐにあの場所を去ってしまった。
俺があそこで目覚めた理由があるのかもといったところか。
しかし、今の俺であの魔モノたちに太刀打ちできるのだろうか。
「目覚めたばかりで辛いかもしれんが、
この村でボーっと時間を過ごすよりは幾分かマシじゃろ。」
完全に口車に乗せられている感はあるが、村長の言っていることは一理ある。
一番はこのまま村長然り、村の人たちに黙ってお世話になるのも申し訳ない。
もう一度、あの森に行くのは気が引けるが、
このまま村にいても何も変わらないといったところか。
「まぁ、ここにいる間は村の施設は自由に使うとよい。
次からは疲れた時は宿屋に泊まってもらうがの。」
じゃないと、ワシの寝床がなくての、と村長が笑いながら言った。
どうやら、長い間村長のベッドを占領していたようだ。
なんだか、余計に申し訳ない気持ちになりつつも立ち上がった。
とにかく、この村の施設で準備を整えてから再び森に向かうとしよう。
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(ふぅ、準備は整ったな。)
目が覚めてから数日が立ち、村の人とも親睦を深めながら、
少しずつ体調を整えたり、剣の扱いに慣れたりした。
体調良好、装備ばっちり、アイテム準備よし。
武器屋で防具も買い揃えた。次からは真っ当に戦える。
金は森の途中で倒した魔モノが落としていったものを拾っていたから、
特に問題はなかった。
(それよりも……。)
身支度をしているときに自分の容姿について気になったので鏡を見てみると、
白に近い銀髪をしていて、頬に大きな傷があるようだ。
瞳の色は黒く、それ以外は特に見受けられる特徴はない。
この頬の傷は一体、なんなのだろうか。
そう考えていると自分が最初に持っていた本が光り始めた――――。
「えっ!?」
いきなり光を放つ本に驚きを隠せない。
恐る恐る本を手に持ってみると微かにぬくもりを感じる。
最初のページをめくってみると、何もなかったところに文字が浮き出てきた。
“昔々あるところに、大きな王国がありました。”
「これは一体……?」
空白だったページの右隅に大きな文字があった。
書き綴られたのはこのページのこの文字だけでほかのページを見ても何もない。
なぜ今本が光り、この文字が浮かんできたのだろうか。
(まぁ今は考えていても仕方ないか。)
とにかく、記憶が戻れば全てがわかることだ。
今は目の前のことに集中しよう。
(さて、行くとしますか。)
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(なんとか、最初の場所にたどり着いたな。)
どうやら剣の腕も上がってきてみたいだ。以前と比べて獣を楽に処理できる。
しかも、今は危ないと思ったらすぐに村に帰って休むことができるからな。
(特に危険なことが起こらずにここまで来れたのはよいが……。)
道中、倒れている水色の長い髪の女性のことを思い出した。
その場所では本当に跡形もなくすべてがなくなっていた。
やはりあれは幻だったのだろうか。
(……。)
まぁ、いなくなってしまったのならしょうがない。
今は目の前のことに集中しよう。
とにかく手掛かりを探すとなるものは、と。
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「無駄足だったか。」
ふと、頭の中で思っていた言葉が口から出る。
10分ぐらいあたりを見渡し、草をかきわけ何かを探してみたが、
特に手掛かりというようなものもなかった。
それに、村長が言っていた魔モノの凶暴化についての原因も見当たらない。
こうなってしまっては手詰まりだ。
(さて、どうするか。)
これから先のことを考えてみる。
とにかく、村へ帰り村長に報告すべきだろう。
それとも、もっと別の場所を探してみるか。
そう悩んでいる瞬間――――
「!?」
なんだ、この寒気は。
これは以前にも感じたことがある、あの女性の時の感覚だ。
近づいたら八つ裂きにされるような禍々しいオーラを感じる。
一体何が――――。
“グルルルルルルゥゥゥ。”
「嘘だろ、おい……。」
来た方を振り返ってみてみると、そこには馬鹿でかい魔モノがいた。
首は三つあり、鋭い爪を持ち、黒い毛をなびかせながら、
四本足でこちらにゆっくりと向かってくる。
かなりの威圧感とオーラに足が竦んでしまう。
しかし、あの時と比べてなんだか威圧感が薄れている気がした。
自分が万全の状態になったからか、はたまた違う何かか。
(今の俺にこいつを倒せるのか?)
そう悩んだ瞬間、魔モノは戦闘態勢に入った。
それと同時に、自分も剣を抜き態勢を整える。
緊張して手が震え、剣がプルプル震えている。
(真っ向勝負はダメだな、爪や牙が危険すぎる。どうすれば――――。)
“ガォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!”
「なんとかなるだろ!やってやるさ!」
戦闘開始――――。
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魔モノの爪による攻撃が絶え間なく、繰り返される。
自分はとにかく避け、相手の隙を窺う。
しかし、魔モノを観察していると、なにか違和感を感じた。
(この魔モノ……動きがなんだか鈍くないか?)
もともとこういう種なのだろうかどうかはわからないが、
動きがかなりぎこちない様に感じる。
それに空を切る音を聞いてもかなり軽そうだ。
(ん?)
攻撃を避け続けると何やら魔モノの腹部が濡れているのが見れた。
黒い毛だからあれが血なのかは判別できないが、あそこを狙ってみることにした。
そうと決まれば、爪の攻撃を掻い潜り、懐に潜り込んだその時――――。
(マジ……?)
魔モノが3つの首をこちらに向けて大口を開けている。
そこからは微かに熱風を感じてしまった。
(あれは、やばい!)
即座に懐から逃げると同時に、
自分がいた場所に魔モノの口から炎が吐き出された。
もう少し撤退が遅かったら、ベーコンのようになっていただろう。
魔モノもかなり消耗しているのか離れたら近づいては来なくなった。
(次で……決める!)
そう考えた刹那、一瞬で懐に潜り込み、剣を腹に突き刺す。
魔モノは反応できずにただ突っ立って、苦しみの咆哮を上げる。
そしてそのまま首の方へ剣を流し込み、腹から首にかけ両断した。
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「な、何とか……。倒せたな……。」
長い激戦を終え、なんとかあの大きな魔モノを倒した。
かなりのダメージと体に負荷がかかってしまったが、倒せたことは大きい。
途中、まさかあの魔モノの口から火を放つとは思わなかった。
しかし、あれは紛れもなく自分とやりあう前に誰かにやられていただろう。
だとしたら、その人に感謝しなければならない。
おそらく、あの魔モノが万全の状態だったら勝ち目はなかっただろうから。
そんなことより、獣を倒したところに目をやってみると、
何かが光ったような感じがした。
「これは、ペンダントか……?」
かなり古いが、高価そうなペンダントが落ちていた。
自分の手に取って、じっくりと調べると、
天使の羽の付け根の部分に宝石が埋め込まれているような装飾だ。
その宝石は白く淡く儚げに光っている。
さっきの魔モノが落としたので間違いはないだろう。
(なぜあの魔モノがこんなもn――――!)
そんなことを考えていると、いきなりペンダントが光を放ち始めた。
かなりの眩しさに目を閉じてしまう。
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(....。)
光が収まったのを確認し、そっと目を開けてみる。
「!?」
そこには一人の純白の少女がたたずんでいた。
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