苺大福。
僕が国会議員になってもう一年半が過ぎた。
その時間は中途半端だと思う。
僕は親友の昌平と一緒に散歩をしていた。
ゆっくりと変わる風景。
僕が知っていた店がなくなっていたり、新しい店が建っていた。
大学と大学院は県外で暮らしていた。
議員になるために戻ってきてからは、休みなんて全く無かった。
気がついた時には、僕の知っている町は、どこかへいっていた。
自分の少年時代を懐かしんでいた時、昌平はぽつりと言った。
「変わっただろう。この町も。」
「ああ。僕のいない間に変わっていたんだね。」
「そりゃ、そうだろう。変わらないものなんて無いさ。」
「……そうだね。」
また、無言で歩いていく。
僕は一点を見つめて立ち止まった。
「和菓子屋か?」
「ああ、正確には大福屋だよ。」
此処は僕の初恋の場所だった。
僕は小学生から中学生の間、
この店の看板娘、伊予さんに恋をしていた。
初恋だった。
あの頃僕は月に一度、お小遣いで苺大福を買っていた。
二つ買って、伊予さんと一緒に近くの公園で食べた。
僕達はそれを食べ終わるまで、いろんな話をした。
それはただの他愛も無い日常の会話だったけど、僕はその時間が幸せだった。
次第に、僕達は仲良くなっていった。
でも、「彼氏と彼女」という関係にはなれなかった。
彼女が僕の知らない人と付き合い始めたのだ。
僕の初恋は物語のようには、ならなかった。
僕は店の前へ行った。
「すいません。」
あの時はおばさんと伊予さんが出てきてくれた。
「はーい。今行きます。」
出てきたのは、きれいになった伊予さんだった。
「あ、久しぶりだね。」
にこりと笑った顔は、あの時と同じ笑顔だった。
僕も返すように微笑んだ。
「うん。苺大福を、二つ。」
「はい。じゃあ、四百円です。」
お金を渡して、大福をもらった。
昌平は後ろで待っていると思ったが、いなかった。
知らない間に、メールがきていた。
『先に帰るよ』
昌平からだった。察してくれたのだろうか。
「公園で、これ、一緒に食べない?」
彼女は嬉しそうに、頷いた。
彼女の左薬指に、指輪はなかった。
「うん。」
どうやら、僕の初恋は続いているようだ。
みなさん、いかがでしたでしょうか。
今回はファミ通文庫「文学少女」の三題噺に挑戦してみました。
文学少女を知っている人なら聞いたことのあるお題、「初恋」「苺大福」「国会議員」です。
…最後の「国会議員」は文学少女では「国会議事堂」でしたが、それだと書けないという理由で変更しました。