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ファーストゲーム セカンドライフ  作者: 竹輪ヒロ
第一章〜神の冒涜者〜
7/8

新天地、神子の御座す所へ

スキル

スキルそのものの説明は以前したため、省かせてもらう。

スキルには、習得ランクが設定されており、技量がそこまで高まると、習得となる。あまりに高ランクのスキルが低い技量で使用されると、使用者の体に危険が及ぶため、このような処置がなされている。ランクはEからSまで存在する。

合理的な殺人(ウィーク・スタッブ)

ランクE-の拳士のスキル。敵の脆い部分。弱所が視覚的に判別できる。一発の威力が弱い拳士には、集中して弱点を狙わなくては、効率的なダメージが与えにくい。

一打二撃(サクセーション)

ランクCの拳士のスキル。攻撃した箇所にほぼ同時に追撃を与える。このスキルの目的は、敵の防御を崩すという点にある。一撃目で敵の防御を崩し、二撃目で直接ダメージを与える。ほぼ同時という所がポイント。本来、ミズキの技量はランクD+相当なのだが、一時的に肉体の限界が外れたため、ランクCのスキルが使えた。

勇者の証(ブレイブソウル)

ランクDのスキル。敵に近づくほど、自分の筋力をアップさせ、恐怖値を下げる。これは、拳士だけでなく、近接系クラスなら備わっている。

無駄無しの弓(フェイルノート)

ランクCの弓兵のスキル。ロックした箇所に矢が高速で飛んでいく。狙った場所に確実に当たるのが強み。速度補正もかかるため、叩き落とされる事はそうそうないが、体力が多く消耗されるため、多くの弓兵はここぞという時にしか使わない。


「・・・朝・・・か」


 ヒサコと会話をした後、ミズキは部屋を取り、睡眠を取った。窓から日差しが入ってきて、それが目覚めの合図となる。つい先日まで、時計に頼っていた生活を送っていたせいか、寝ぼけながら携帯電話を探す。


「・・・ケータイ・・・ねぇんだ」


 ベットの横にある棚に置かれているコップを手に取って、やっと気付く。携帯電話こそは無いが、時計はあるが、非常に高価なため、一介のハンター、ないし、一般人は持っていない。そのため、時刻は大体で把握するしかない。

 ミズキはコップを置き、とりあえずボーっとする。


「・・・眠い」


 そして、今までの生活習慣に従い、二度寝を決め込もうとする。この男、実に平凡である。しかし、その眠りは一人の少女が邪魔をする。


「ミズキ君!朝だよ!」


 アマハが扉を勢い良く開け、目覚まし時計のアラームのような大声を出す。昨日の傷などどこ吹く風。朝から飛ばしていくのがこのアマハという少女である。


「うるせぇな・・・今日は学校休みだろ・・・」

「ちょ、ミズキ君!現実見て!もう学校行かないんだよ!」

「何言ってんだ・・・今日はどよ・・・」


 今日は土曜と言いかけたところで、ミズキは言葉を止める。アマハの言葉で頭が覚醒したのか、徐々に自己を認識していく。

 ベッドから起きて、アマハの顔を見て、ミズキは完全に起きた。


「・・・そうだ。学校行かねぇな」



 時刻は早朝なのだろうが、宿は人で一杯だった。朝食を食べる人。依頼を受ける人。依頼から帰ってくる人。ハンターの朝は早いのだろう。それは、アマハたちも例外ではないようだ。


「ホンダさん!ヒサコさん!」


 アマハが階段から、ホンダとヒサコに左手を振る。ヒサコは手を振って。ホンダは鼻を鳴らして返した。


「ていうか、アマハ。大丈夫なのか?」

「何が?」

「何がって、傷だ、傷。あの戦いで、ボロボロになったじゃねぇか」


 アマハは昨日のオーガとの戦闘の際、攻撃を受け、左腕が折れてしまっている。それに、左腕だけでなく、他の箇所も骨折していることだろう。明らかな重傷が、一夜のうちに完治してしまっているのだ。ミズキでなくとも疑問を持つ。


 そんなミズキの疑問をぶち壊すかのようにアマハは左腕をぶんぶん振る。


「大丈夫だよ。魔法ってほんとすごいね!完全に折れてた骨があっという間にくっ付いたんだもん!」

「え、魔法?薬とかじゃなくて?」

「うん。薬とかは魔法が使えないときくらいしか使わないらしいよ。魔力が回復すれば何回でも使えるし。あーあー、アタシも魔法使ってみたいなー」

「・・・そうか」


 よく分からないショックを受けたミズキだった。ミズキがイメージしてたのは、もう少し難しいシステムだった。ゲームなら、回復魔法を使えば一瞬で傷は癒えるが、ここは死ねば復活などありえない現実。薬や魔法を使って、科学の医療のように直すのかと思っていたが、魔法さえあればたいていは事足りていた。


「(魔法万能すぎだろ・・・)」


 ホンダたちのいるテーブルに座り、朝食を注文する。人が多いため、少し時間がかかるとのこと。その間、ミズキたちは昨日のことと今日のことを話すことにした。


「いやー、昨日は死ぬかと思ったね」

「全くだ」


 昨日の件の主な負傷者であるホンダとアマハが喋る。確かに昨日は死に掛けたのだが、ホンダは相変わらずの態度。アマハに至ってはこの通り、何事も無かったかのように振舞っている。「本当にすごいのは魔法じゃなくて、こいつの神経の図太さじゃないのか?」とミズキは静かに思った。


「でも、それよりもびっくりしたのはミズキ君だよ。あのオーガを倒しちゃうんだもんね」

「倒せたから良かったが、あんなのはまぐれだ。二度目は無い。事実、お前にあのオーガを倒せる自信があるか?」


 ホンダに問われてミズキは少し考える。


「・・・いや、俺には倒せない。あれは偶然だ」

「ミズキ君欲が無いなー。『あれは俺の実力だ』って自慢しても良いんだよ?」

「あれは、ほぼ無意識だった。もう一度あの動きをしろって言われたら無理だ」


 そうミズキは語る。これは、ミズキ自身が気づいていないことだが、実はオーガと拳士のクラスは相性がいい。オーガが人間じみた動きをするといっても、それは人間の域には到達できない。格闘の達人からしてみれば、素人の喧嘩に見えるだろう。対して拳士は、剣士と違って、受けるのではなく避ける戦闘を得意とする。フットワークに関して言えば、腕輪によるクラス補正がかかり、戦い始めたばかりのミズキでさえ、一流アスリートと遜色ないだろう。パワーは負けているがスピードは互角。そして、技量では圧勝。では、あとはどうすればいいか?急所を突くだけである。バンダイナムコが送るテイルズシリーズを例に出すと分かりやすいだろうか。レベルが低くても、プレイヤーの技量が良ければ敵に勝てるということだ。


 だが、ミズキにそんなことは分からない。分かろうとも思えないだろう。先ほどの生活習慣同様、頭が完全にこの世界に慣れていないのだ。戦闘考察など、出来はしないだろう。


「なら、強くなるしかないな。一つ確認しておこう。ミズキ。お前はもう逃げないか?」

「・・・あぁ。もう俺は、今までの弱い俺じゃない。あんなみっともない姿は、もう二度とさらさない」

「・・・そうか。拠点を移すぞ」

「え!?ホンダさん、急すぎない!?」


 アマハが立ち上がり抗議する。


「拠点を移すって言ったって、どこに行くの!?ていうか、アタシここ以外の街に行ったこと無いんだけど!?」

「お前の意見は聞いていない。予定は組み上げていた。場所はロマーナだ」

「ロマーナ・・・?」


 アマハの疑問にヒサコが答える。


「ロマーナは、神聖帝国とも言われ、とても綺麗で平和な国だと聞きます。なんでも、ある騎士団がいるため、どこも戦いを挑まないとか。ここ、プラファーレスもそのロマーナの領土内なんですよ。それに、神子と崇められる人がいるとか・・・」

「へぇ~、さすがヒサコさん。物知りですね!」

「お前が何も知らないだけだ」

「ホンダさんはいつでも馬鹿にしますよね!!」


 昨日見た光景のようにホンダとアマハが口喧嘩(?)をする。昨日の話はどこに行ったのか。死の恐怖など彼らにとっては慣れた感覚なのだろう。ミズキはそこに違和感を感じるが、すぐにそれを払う。


「それがハンターってやつなら、俺もそれにならなくちゃな・・・」


 ミズキはハンターとして認識を改める。いつまでも『理解できないから仕方ない』ではいけないのだ。『理解できないのなら理解できるようにする』ようにしなければ、自分を変えたことにはならないのだから。


「いっつもホンダさんはアタシを馬鹿にするんだから!なんですか!そうでもしないとキャラの維持が出来ないんですか!?」

「(アマハ、それタブー・・・!)」


 誰しもが気にしながら口にしてこなかったこと。ホンダの言葉遣いとキャラ付け。そこにアマハが切り込んだ。それにより、ホンダは柄にもなく、むきになる。


「なっ・・・!キャラ付けとは聞き捨てならんな!これが俺だ!偽りなど無い、真実の俺だ!」

「嘘ですね!キャラじゃなければ苦手なお酒なんて、誰もわざわざ飲みません!」

「それを言うなあああああああああ!!!!!!!」


 惨状。そう言えるほどひどい、一方的な攻撃がそこにあった。アマハの言葉(刃)がホンダのキャラ(傷口)を抉る。


「それ、どうみてもキャラですよね!?」


 抉る。


「じゃあ、なんですか!?キャラでアタシのこと馬鹿にしてるんですか!?」


 抉る。


「それただのめんどくさい人ですよ!クールでもなんでもない、た!だ!の!めんどくさい人です!!!」


 ひたすらに抉りにいく。先ほど、攻撃と表させてもらったが、訂正させてもらいたい。これはもはや、蹂躙である。殲滅である。虐殺である。これはひどい。ホンダ・・・もとい、ヴィルムルド・デ・パウラ・レメディオス・ヘルシングという人間キャラクターを殺しているようなものである。


「キャ、キャラではないッッ!!!あ、あれは・・・そう!克服だ!俺に!この破滅の賢者に苦手なものがあってはならない!それを克服するために俺は酒を飲んでいるのだ!」


 顔を赤くし、必死に反論するがそれでは『好き嫌いを失くそうとしている子供』と特に変わらない。返って、自分のキャラを崖っぷちに追いやっているだけだ。しかも、それはそれで新しいキャラ、『好き嫌いを失くそうとしている子供』が立ち上がってしまう。


 この蹂躙を止めるべく、ミズキが足を踏み入れようとするが、足がすくんでしまう。怯えているのだ。今、ミズキはオーガを初めて見たときと同じ恐怖を感じていた。入ったが最後、彼は無残な結末を迎えるだろう。特にこの争いに巻き込まれる形で。


 助け舟を出そうとミズキがヒサコを横目で見るが、ヒサコは既に行動していた。


「そんなムキになってるって事はキャra!?」

「あッ・・・!!?」


何をやっても止まらない。暴走状態だった二人が一斉に大人しくなる。原因はヒサコだ。ヒサコが二人の頭に指を食い込ませている。


「い、いた、痛い!痛い痛い痛い!!!やめて!ヒサコさんやめくださ・・・いったぁ!?」


慌てるように早口でヒサコを止めるように、アマハが許しを請う。しかし、ヒサコは力を緩めない。依然、鈍い痛みがアマハを襲う。


 そして、ホンダにも同じ痛みが・・・いや、心なしか、ホンダのほうが痛そうに見える。


「ま、待て・・・!俺に非はない!原因はアマ・・・~~~~~~!!!」


 痛みで声も出ないのだろうか。苦しそうな顔で静かに悶えている。


「騒がないでください、とは言いませんが、騒ぎすぎはよくありませんよ?」


 いつもと変わらないトーンでヒサコが言った。


「ごめんなさい!もうしません!しませんから!!!」

「わ、分かった!悪かった!これからは抑える!だから手を放せ!頼む!」


 アマハが先に了解を示し、ホンダも柄になく早口で答える。


「お願いしますね?」


 ヒサコが指を放し、二人は痛みから解放された。二人ともうめき声を上げ、頭をさする。あの、ホンダですらこれである。


「(・・・あんまり、調子に乗らないようにしよう)」


 二人を見て、心に固く誓ったミズキだった。


「お待たせしました。朝食をお持ち・・・いかがされましたか?」


 ミズキたちのテーブルに料理を運んできた青年が、不思議そうに二人を見る。


「いいえ、なんでもありません」

「そうですか・・・」


 ヒサコが笑顔であしらった。

 朝食はシンプルなハムエッグとパンとサラダ。ヨーロッパかアメリカでよく見そうな朝食である。この朝食はこの宿では決まったものだが、頼めばハムエッグ以外も出してもらえる(ただし、頼んだメニューのお金を払うことになる)。それに、飲み物も水ではなく、果実を絞ったジュースや酒も頼めるが、これについてはあまり、頼む人はいない。甘いものを頼む人はそうそういないし(いてもアマハくらい)、仕事前に酒を飲む人もそうそういない(いても度数の低いもの)。


「このハム、焦げてるじゃねぇか・・・」


 しかも、頼む人が多いため、同時に何品も作るせいか、料理が焦げたりするなど、質が粗雑になったりする。味は悪くないが、良いというわけでもない。安いから、必要以上に良い料理を求める必要はないため、多少のことは我慢して、この宿を利用するのだ。ハンターは色々と過酷なのだ。大きい意味でも。そして、小さい意味でも。


「ロマーナに行くって言ってたけど、アタシ、まだ納得してないんですけど。別にプラファーレスでもいいじゃないですか」

「プラファーレスではモンスターのレベルが低い。お前はスライムを狩り続けてレベルを上げようというのか?」

「そういうわけじゃないですけど・・・」

「ロマーナはここよりは人口が多い。それだけ厄介事が多いというわけだ。ならば、俺たちハンターの出番だ。それに、いつまでも現状を保ち続けても、面倒でしかないだろう。昨日のオーガのように、いつ緊急事態に巻き込まれるか分からん。俺たちがこの世界で生きていくには、強くなるしかない」

「・・・」


 ホンダの言葉を聞き、ミズキのフォークを持つ手が止まる。あの一件からミズキは「強さ」と「生きる」という言葉に敏感になっている。負い目を感じているからだ。


 オーガとの戦闘で最初から俺がいれば、誰も傷付くことは無かったんじゃないか?少なくとも、アマハ一人で戦うよりは、マシになったはずだ。俺が弱いから。俺が臆病者だから。アマハは傷付いた。


 なにもアマハに恋愛的好意を抱いているわけではない。ミズキは捻くれているが、悪人ではない。誰かが眼の前で傷付くところなど、見たくないのだ。そして、それが自分のせいだと思うと、余計に腹が立ってくる。


「俺たちは強くなる必要がある。そのために、ロマーナ行きを計画していたわけだ。異論はあるか、アマハ」


 ホンダが眼を細めて、アマハに問いかける。


「・・・いいえ、ありませんよ。アタシは、理由が分からなかっただけだし、強くなるっていう目的は、アタシも賛成です」

「・・・そうか。それで、お前はどうする?ミズキ」


 ミズキは、問いかけられても、すぐに答えなかった。


 もう逃げない。

 その決断を確認し。


 俺は戦う。

 その覚悟を決め。


 俺はこの世界で生き抜く。

 その選択が揺らがないものとした。そして、ミズキは真っ直ぐと向き合い、答えた。


「俺はもう逃げない。俺は戦うことを決めた。眼の前が茨で覆われようと、俺は突き進む。生きることを決めたんだ」

「・・・そうか。一応聞くが、ヒサコはどうする?」

「異論はありません」

「よし、荷物をまとめるぞ。まとめ次第、出発だ。集合場所は、この宿の入り口だ」

「え!?今日ですか?」

「行動は早いほど良い。善は急げという言葉を知らんのか?」


 ホンダが鼻を鳴らしつつ、アマハを馬鹿にするようにいつもの調子を振るう。その、すぐ後ろでヒサコが眼を光らせているとも知らずに。


「ホンダさん・・・」

「ッ・・・!と、とにかくだ!今日、出発する。急げよ」


 食事を切り上げ、各々が散らばっていく。ホンダとヒサコは街に買い物へ。アマハとミズキは宿で荷物をまとめる。


「まとめるっつっても、俺、特になんも持ってねぇよ・・・」


 自室にて荷物をまとめようとしたとき、特に何も持っていないことに気づいた。向こうの世界からこの世界に来る際、制服以外の全ての私物がどこかに消えてしまった。この街で何か買い物したわけでもなし。強いて言うなら、拳士の装備と腕輪、カード、制服の四つくらいである。カードはポケットに入れられ、その他は全て、身につけられる。強いて言っても、荷物かどうか怪しいものだ。


「ミズキ君、荷物整理終わった?」

「いや、終わるっつうか、やる必要がないんだよ・・・って、早くねぇか?」

「え?何が?」

「アマハ、お前のことだ。俺と違って、お前は何日もハンターやってんだろ?だったら、荷物整理に時間を食うはずじゃ・・・」

「アタシは、荷物って言ったらこの剣と盾くらいしかないし。ポーチの中の道具だって全然使ってないよ?」

「・・・あっそ」


 肩透かしを食らったように、ミズキは力無く応える。アマハには緊張感が無いように思える。


「ところでさ、ミズキ君気づいてる?」

「何にだよ?」


 ベッドに腰を掛け、アマハの話を聞く。


「ホンダさんがミズキ君を呼ぶとき、貴様じゃなくてお前になってること」

「・・・は?」

「ホンダさんも、ミズキ君も名前で呼ぶときが結構あったけど、基本的には貴様だったんだよ?」

「・・・いや、知らねぇ」

「それに、ミズキ君、アタシと喋るときとホンダさんと喋るときも、口調が違うの。アタシと喋るときはたまに言葉伸ばすのに、ホンダさんだと途端に伸ばさなくなるの」

「いや、それも知らねぇ・・・」

「ほら、今伸ばした」

「・・・!」


 アマハの指摘でミズキは驚く。確かに今、彼は言葉を伸ばしていた。


「・・・意識してなかったからな。そんなの分からねぇけど・・・大した記憶力だな」

「アタシ、そういう違和感には敏感なんだ。ちなみに、ホンダさんが、人のことをお前って呼ぶときは、その人のことを認めたってことなんだよ?」

「そうなのか?」

「アタシの経験談だけどね」


 「フフン!」と胸を張ってアマハは自慢気な態度を取る。特に胸を張れることではないのだが、本人が楽しそうということで、ミズキは黙っておく。


「ホンダがね・・・」


 ベッドに寝そべり、天井を見つめ、何かを考える。今まで、ホンダに対して、敬うような態度は取ってこなかった。しかし、嫌ってはいるものの、ミズキを助けたという恩がある。助けてもらっておいて、何もしないというのは、失礼ではないだろうか。散々、失礼な態度を取っておいてあれだが。


「ホンダさんたち、行動早いし、そろそろ行こ」

「・・・あぁ」


 ベッドから起き上がり、数時間だけ世話になった部屋を出る。



 アマハの言うとおり、ホンダとヒサコは既に入り口にいた。ホンダの不機嫌そうな顔を見る限りでは、結構前から来ていたようだ。


「遅いぞ。準備に五分もかける馬鹿がいるか」


 あくまで、見る限りではの話だが。


「五分なんて誤差じゃないですか」


 アマハがむすっとした表情で返す。またしても、にらめっこからの口論に発展しそうだが、ヒサコが腕をピクリと動かしただけで、二人はにらめっこをやめた。あのアイアンクローを食らうのはもう嫌なのだろう。


「それで、移動方法はどうするんだ?」


 ミズキが問いかける。また、昨日のように徒歩はごめんということで、質問したのだ。


「途中まではホルセ車を使うが、基本的には徒歩だ。無駄遣いなど、阿呆のすることはしたくないのでな」

「基本は徒歩か・・・はぁ・・・」

「疲れなど一時的なものだ。数分経てば回復する」

「この世界に来てから歩いてばっかだな・・・」


 一度、ホルセ車(荷台)に乗せてもらったこともあるが、それに比べると徒歩のほうが圧倒的に多い。腕輪から力(クラス補正)が送られるようになったとはいえ、精神にまでその効果は発揮されない。


「ちなみに、ホルセ車ってどれくらい使う予定?」


 ダメ元で聞いてみるが、ロクな答えが返ってくるとは、とても思っていない。精々、総移動距離の半分程度だろうかと、予測をする。


「大体、二割だ」

「・・・」


 やっぱり、敬える男じゃない。そう思ったミズキだった。


「ホルセ車を使っても、三日はかかるだろう。食料の状態に気をつけろ」

「はい」


 大きなリュックサックを背負ったヒサコが返事をする。弓兵といえども、決して非力ではないが・・・少々、大きすぎる気もする。これから登山にでも行くのではと思わせるような大きさだ。


「あの・・・その中に全部入ってるんですか?」


 質問したのは、もちろんミズキだ。アマハは大きいと思っただけで、疑問すら抱いてないだろう。


「ええ。食料、水、野宿用の敷き布団をそれぞれ人数分」

「(それを一人で背負うか・・・恐るべし、峰岸 久子・・・)」

「よし、そろそろ出発するぞ」


 ホンダが歩き始めたのを皮切りにミズキたちも歩き出す。ホルセ車による旅客輸送サービス・・・分かりやすく言うと、タクシーのようなものを使い、プラファーレスから数キロ離れた街、「リムリッカ」を目指す。そこで、降ろしてもらい、そこからは徒歩でロマーナを目指す。より、多く戦い、強くなるために、神の国家へと進む。そこで、良からぬ事が起きてるとも知らずに・・・






「ハァ・・・ハァ・・・」


 神聖帝国ロマーナの路地裏。そこを、一人の筋肉質な男が走る。その顔には汗が滴り、恐怖で包まれていた。躓きながらも、必死で路地裏を駆ける。喉が焼けるほど痛いだろう。足が疲労を訴えているだろう。それでも走るのをやめない。明らかに、何かを恐れている。


「チクショウ・・・!何で俺たちが・・・!」


 右腕の装飾品が鈍く光る。銀の腕輪。この男は、ハンターなのだ。しかし、ハンターといえば、モンスターを狩るために街から離れるはず。逃げるとしたら、森や洞窟などそのモンスターのいる場所だ。それが、何故か、ロマーナの中で逃げ回っている。


「ハァ・・・ハァ・・・ッ!?」


 突如、男の足が崩れ、こける。男は、とうとう足の限界が来たかと思ったがそうではない。

 無いのだ。男の右足が膝から無くなっている。


「ウ、ウワアアアアアアアア!!!!???」


 無くなった右足の断面は切れているようだった。当然、切れるどころか、脚が自然に千切れるはずが無い。誰かが男を攻撃したのだ。


「クソ・・・クソォ!!!」


 呪うように叫ぶが、状況が一転するわけも無い。男を攻撃した誰かは、闇から姿を現すように、音も無く歩く。


「クソ・・・足がなくても、俺はハンターだ・・・!戦うことくらい・・・!」


 片足だけになりながらも、眼に殺意を宿らせ、立ち上がる。剣を引き抜き、眼の前の「誰か」を攻撃しようとするが、剣を握ったまま、右手が落ちた。「誰か」が、手を払ったのと同時に、手が落ちたのだ。


「ッアアアアアアアアアアア!!!!」


 痛みのあまり、うめき、うずくまる。右腕を握り、右手が落ちたこと現実を受け入れられていない。


「右手が・・・俺の右手が・・・!」


 血が噴水のように溢れ、男の命を奪おうとする。このまま放っておいても、死は確実だが、「誰か」は攻撃をやめようとしない。


「お前は・・・お前は誰なんだァ!!!」


 男は力の限り叫ぶ。そして、「誰か」の顔をやっと見たが、仮面を被っており、誰かなのはおろか、性別すら分からない。


 「誰か」は手を振上げ、言葉を発する。


「・・・オレは、誰かであることを捨てたんだよ」


 その言葉を最後に、男の意識は永遠に閉ざされた。


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