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ファーストゲーム セカンドライフ  作者: 竹輪ヒロ
序章〜平凡を奪われた少年〜
5/8

小鬼狩り~色別等級 緑~

ハンター

ハンター組合という組織の元、存在する職業。狩人の名の通り、人に害をなすモンスターを倒したり、捕獲したり、果てには生態調査などをする。基本的には、モンハンのハンターと変わらない。資格が必要な職業であり、毎年、夏と冬の二回に試験がある・・・あるのだが、ミズキたち、向こうの世界からやって来た人たちは何故か、総じてハンターである。

モンハン

アクションゲームの製作などで有名なゲーム会社カプコンのゲーム、モンスターハンターの略称。異形のモンスターを己の腕で戦うダイナミックなハンティングアクションで人気を博した。現在では、任天堂の3DSにて、モンスターハンターXが発売中。作者はやっていない。

向こうの世界

ミズキたちが元々いた世界。初め、ミズキが地球と呼称していたが、どことなく違和感を感じ、向こうの世界で落ち着いた。

ゴブリン

暗いところや汚いところを好む小さな人のような生物。肌が緑色で、耳もとがっていて、顔が醜いため、人のようとは言えないかも知れない。小鬼とも呼ばれる。いたずら好きで、よく人を困らせるため、ゴブリン退治の依頼が後を絶たない。その依頼を受け、新米ハンターが退治に行くのだが、大抵、帰ってこない。多勢に無勢。数の暴力で、殺されてしまっているのだろう。ちなみに、欲望の塊ともいえる生物であるため、捕まったのが女性の場合・・・後は、想像に任せたい

 色別等級というものが存在する。これは、モンスターの危険度を直感的に分かるように、色で表したものである。


 白:極めて温厚、または無害なモンスターに該当する。大抵、他生物の食料になる。


 緑:人に害をなすモンスターなどが該当する。ミズキたちが倒しに行くゴブリンやホルセなどが該当する。ただし、人に害をなすとあっても、ホルセのように調教すれば、利用できるモンスターも存在する。


 黄:ある程度強い力を持ったモンスター。デーモンやリザードマンなどが該当する。ここまで来ると、ある程度知能も高いモンスターも出てくる。


 赤:極めて危険なモンスター。ドラゴン、タイタン、各モンスターの最上位個体などが該当する(ただし、ゴブリンの最上位個体だけは該当しない)


 黒:測定不可能。伝説や、神話に登場するモンスターなどが該当する模様。ただ、分かることは、過去に人類が戦ったことがあるということと、いずれ、再び戦う存在であるだろうということだけである。


 多種多様なモンスターがこの世界に存在する以上、危険度を分けなくてはいけないということで作られた表であるが、ここで注意してほしいのは、これはあくまで「人を殺すモンスターの表」であるという点。危険度が低いからと言って、誰でも倒せる存在ではない。油断は死に直結する。色別等級 緑のゴブリンでさえ、人を殺すくらい、容易であるということを・・・


「ニルルク大平原ってここだったのか」


 ゴブリン退治のためにニルルク大平原へ徒歩でやってきたミズキ一行。その大平原は、ミズキがこの世界で初めて起きた場所である。見渡す限りの緑の床。空を仰げば広がるばかりの青色。額の汗を手で拭いつつも、見慣れぬ景色に感動していた。


 景色に感動し、足を止めているミズキをホンダが小突く。


「何をしている。俺たちは遠足に来たのではない。戦いに来たのだ」

「いいじゃないですか、ホンダさん。ミズキ君はこの世界に来たばかりなんだし、こういう景色に感動しちゃうのも無理はないですよ」

「アマハ。貴様もその平凡な思考を捨てろ。貴様らと何度も組んできたが、その緊張感に欠ける発言で毎回、気が緩む」

「いいじゃないですか。戦う前に、気を引き締めればいいんですよ」

「それは、貴様が能天気だからできることであって・・・」


 アマハとホンダの会話は止まる事を知らず、延々続いていく。ヒサコはそれを笑顔で見守る。止めようとしないあたり、定番になっているのだろう。


「(これ・・・本当に戦いに行くんだよな・・・俺たち・・・)」


 その光景を見て、ミズキの中で、この三人の役割がイメージされた。


 まず、アマハ。和ませ担当。特にぶっ飛んで明るいとか、天然なわけではないが、場の空気を和ませる。張り詰めた空気に持って来いなキャラ。

 次に、ヘルシング・・・もとい、ホンダ。パーティリーダー。中二病じみた性格こそしているものの、三人の中で最も、戦闘に強いキャラをしている。高圧的な態度だが。

 最後に、ヒサコ。仲裁兼まとめ役。二人が行き過ぎたり、会話をまとめている。影のリーダーとも思える。


「(・・・バランス良いな)」


 ミズキが脳内で三人の役割を分析しているとも知らずに、(知る由もないが)アマハたちは歩いていくが、ヒサコがあるものに気づき、アマハとホンダの二人を止める。


「ッ!静かに!」


 二人はヒサコの鋭い声で状況を察する。よく分かっていないのはミズキだけである。


「どうしたんですか?」


 ミズキがヒサコに問いかける。


「あれを・・・」

 ヒサコが指を指した方向は森。木も置く、日陰が濃いため、何があるのか分からないが、ヒサコが説明をしてくれるおかげで、ミズキにも何がいるのか分かった。


「ゴブリンが森を歩いています」

「馬鹿を言え。ゴブリンは群れを形成するモンスター。一体で行動するなどありえん」


 ゴブリンは基本、洞窟など薄暗いところを拠点に群れを形成し活動する、社会性生物である。この社会性生物の代表的な例であるアリやハチは、女王などの個体を中心に活動するが、一個体が群れから独立するというのはありえない。それは、ゴブリンにも言える事である。人間は、高い知能を持つため、個体によっては孤独を選ぶが、ゴブリンはそれほど高い知能を持たないため、本能の赴くままに生きる。

その本能には当然、「群れで生きる」という命令とも言えるものがある。


 では、ヒサコの言う森を歩くというゴブリンはなんなのか?それについて、ホンダが答えを出す。


「・・・監視役か」

「ゴブリンの中に監視役とかいるのか?」


 ミズキの質問に、少し苛立ちをこめてホンダが答える。


「・・・あぁ。道具を使う程度の知能があれば、簡単な命令をこなすことも出来なくはない。だが、ここまで来ると、このゴブリンの群れは、少々でかいかも知れん。監視役は、余裕のある群れだけがすることだからな」

「詳しいんだな」

「狩りの対象の情報ぐらい、集めるのは当然だ。しかし、面倒だな。ヒサコ」

「あれだと、森の入り口から30mはあるかと。ここからは150mはありますね」

「え、見えるの?」


 普通の人間でも、150m先に何があるかは「大体」分かるだろう。だが、それを具体的に。ましてや、森の中にあるものが「正確に」判別するなど、もはや人間の視力のなせる技ではない。


「ヒサコさんは弓兵のクラスだから、遠くにあるものが見えるんだよ。スキルって知らない?」

「スキル?」


 ミズキの疑問にアマハが答える。彼女曰く、スキルとは、ハンターたちのつけている腕輪・・・技量の証スキルライセンスという名前らしい・・・から、ハンターの技量に応じ、与えられる魔法的な補助のことを言う。

スキルは、クラスごとに違っていて、例えば、ヒサコが遠くを見れるというものはスキル 遠見の眼イーグルアイによるもの。狙撃を専門とする弓兵の基本スキルである。


当然、剣士であるアマハ。魔法使いであるホンダにも、それぞれクラスに応じたスキルが存在する。技量が洗練されれば、使えるスキルもまた増える。


「スキルって言うのは、俺にもあるのか?」

「もちろん。拳士系統は見たことないから、どんなのか分かんないけど、きっと、接近戦重視じゃないかな?」

「接近戦かぁ・・・」


 スキルの説明を聞き、自分の腕輪を見る。自分がスキルを持っているのかどうかすら分からない彼だが、スキルの存在を認識すると、体の中から何かがこみ上げてくるのを感じた。だが、それまでであり、それが何なのかは分からない。


「アマハ、移動するぞ」

「ホンダさん。どうしたんですか?」

「監視役がいる以上、正面からは進めん。かといって、ヒサコの弓が、奴らを仕留められるとも限らん。ここは、別のルートを行くのが利口だ」

「別のルートって・・・遠回りでもするのか?監視役って言ったら、拠点近くにいるもんだろ?」

「遠回りなどせん。手間はかかるがな」

「?」


 ミズキには、ホンダの言葉は理解できなかった。遠回りもせずに、どうやってゴブリンの眼を掻い潜り、巣となっているであろう洞窟に入るのか?


 ゴブリンがいた巣から少々、離れた場所から森に入り、崖まで移動する(崖といっても、それほど高くはなく、精々、10~12m程度しかないため、一本一本の平均が15~20mもある森で隠れてしまう)。

 ホンダは腰につけてあるポーチから二枚の紙とインクとペンを取り出す。


「何をする気なんだ?」

「黙ってみていろ」


 一枚の紙を地面に置き、インクを垂らしたあと、そこに手を乗せる。


「この世全てを観測する世界よ。その記録の一端を我に貸したまえ・・・記録の写し紙レコード・トレース!」


 ホンダが呪文のようなものを呟くと、紙にジッという電気の流れるような音と共に少量の煙が立ち上がる。手を離すと、紙に変化が起きているのが分かった。インクを垂らされただけの紙に地図らしきものが浮かび上がっている。


「これは・・・?」

「即席だが、魔法でこのあたりの地図を作った。これで、洞窟がどの辺りにあるのか分かる」


 ホンダの作った地図の中心には、○の中に×が書かれている記号がある。これは、ミズキたちの現在地を示している。地図は、北を上として作られている。地図を見る限り、崖を伝って西に歩くと、洞窟の入り口の着けるようだ。


「距離は大体100mか・・・ギリギリだな・・・」


 ホンダはまず、地図にペンで現在地と洞窟の入り口付近を崖の中を通るように繋ぐ。そして、二枚目の紙に何かの図形を描く。魔法についての知識がないミズキでも、それが魔法陣であるということは分かった。


「魔法陣ってやつか、それ」

「違うな。これは魔法式という」

「それって、どう違うんだ?」

「知るか。この世界では、そう呼ぶだけだろう」


 魔法陣改め、魔法式を描いたホンダは、地図の下に重ね、崖に付ける。


「世界を書き換える我が冒涜を許したまえ・・・繋ぎ連なる空間コネクト・トラクトゥス!」


 先ほどと同じように電気が走るような音が鳴り、紙が光りだす。紙は、段々とその形を変えていき、光り輝く円となる。光は次第に収まり、崖には穴が開いていた。


「ハァ・・・早くしろ」


 ホンダが、穴の中に入るよう促すと、ミズキ、アマハ、ヒサコの三人が入り、最後にホンダが入ると、穴は塞がっていく。


「ここは・・・洞窟の中?」


 穴の先は入り口付近ではあるが、そこは、洞窟の中だった。左側を見ると、太陽の光が見える。大して、右側を見ると、何も見えない闇一色だった。


「さっきの魔法で空間を繋げた・・・疲れるから、使用は避けたかったが、これのほうが、敵にバレずに素早く移動できる」


 ホンダは額の汗を自分の服の袖で拭く。あの魔法は少々疲れるらしい。


「少し手間はかかったが、洞窟内に入れたな」

「ホンダさん、大丈夫ですか?」


 手に水筒を持ち、ヒサコがホンダを心配する。


「問題はない。無計画に魔法を使ったわけではない。行くぞ。気を引き締めろ」


 しかし、ホンダはヒサコの心配を退け、洞窟へと歩き出す。


「皆を引っ張るリーダーって言うよりも、皆を指示するボスっぽい人。それが、ホンダさん。今は、少し丸くなったけど、初めてあったときは、すごく怖かった」


 ホンダの後姿を見つめ、アマハが語る。その眼と口には、哀れみの色が篭っていた。


「・・・あの人も、過去になんかあったのか」

「詳しいことは分かんない。でも、何かあったんだと思う」


 会話を適当に切り上げ、ホンダの後を追う。

 突き進んでいくと、次第に入り口が遠ざかり、光が見えなくなる。かつて、人が使っていたためか、地面は平らで安定しているが、何も見えないのでは戦いようもないので、アマハが松明を取り出し、火をつける。敵に場所を教えてしまうが、仕方ない。


 洞窟は、坂道を降りるようになっている。先は見えず、ここはモンスターの巣。ミズキは、地獄に下りていくのではないかと思った。


「・・・止まって!」


 アマハから松明を預かり、先頭を歩いていたヒサコが、立ち止まる。松明の音すらしなくなったところでやっと分かったが、スンスンと息を吸う音が聞こえる。視覚が使えなくなり、今度は、嗅覚で索敵していたのだ。

 初めは、ミズキにも分からなかったことだが、ヒサコに習い、勢い良く息を吸うと、匂いの変化が分かった。


「ッ!くっせ、なんだこれ!」

「ゴブリンだ!ゴブリンは、体なんて洗わないからいつも臭いんだよ。でも、これは・・・うえぇ・・・」


 想像以上にキツイらしく、アマハが顔をしかめる。


「匂いなので、具体的な距離は分かりませんが、20m以内だと思われます。それに、段々と声が・・・」


 矢をつがえつつ、ヒサコは索敵を続ける。アマハとホンダも構える。まだ、戦う覚悟の決まっていないミズキは立ちすくんでいる。


「ま、待ってくれ!俺はまだ、戦う準備が・・・」

「だったらそこで見ていろ。後ろにも気を配れ」


 ホンダが先端が渦を描くように丸まった杖を前にかざし、洞窟に入る前と同じく、魔法を詠唱する。


「黎明よ!地を照らせ!闇を嫌うものルウクス!」

 ホンダの杖から光の玉が射出され、数m進んだところで、強烈な光と共に弾ける。


「眼を塞いでいろ!」

「うおっ!」


 一瞬早く、ホンダがミズキの眼を塞いだおかげで、ミズキの眼は無事だったが、ヒサコの索敵が当たり、約20m先にいたゴブリンたちが手で眼を覆い、苦しんでいる。

ミズキ的には、予想通りの外見・・・緑色で、子供のように小さく、耳が長くて、しわだらけの醜い顔をしている・・・だったが、実際に見てみると、ゲームと違い、リアルであるため、余計に気持ち悪く見え、背筋にゾワッと悪寒が走った。


「今だ!行け!」


 ホンダの指示を受け、アマハとヒサコが動き出す。ヒサコは、矢をつがえた弓を引き絞り、狙いを定めて放つ。勢い良く放たれた矢は、空気を切り裂き、矢が放たれてから時間差もなく、ゴブリンの額に命中する。隣で同族が倒れた音を聞いて、やっと武器を取り出すが、すぐ目の前には剣と盾を構えた少女剣士が走りながら、剣を突き出している。防御すら間に合わず、胸を貫かれ、二体目のゴブリンはあえなく絶命した。


 アマハは、そこから間髪いれず、ゴブリンから剣を抜き、すぐ隣にいたゴブリンの体に袈裟切りを放ち、真っ二つにする。


「・・・」


 それをミズキは、ただ見ていた。いや、圧倒され何も出来ないというべきだろうか。自分と同い年の少女の戦いぶりを見て、目の前の殺し合いを見て。

 ふと、後ろで足音がした。焦って見ると、そこには今にも武器を振り下ろさんとするゴブリンがいた。ミズキはそれを、寸でのところで回避する。


「うおっ!?」

「チッ!監視役が戻ってきたのか!ミズキ!そいつを殺せ!」

「こ、殺すって・・・俺が!?」

「貴様もハンターの端くれだろう!一匹のゴブリンを殺せずして、何が狩人ハンターか!」


 しかし、ホンダの叱咤も空しく、ミズキは目の前の化け物に怯え、後ずさるばかり。ゴブリンが再び攻撃しようとしても、戦おうとしない。


「チィ!」


 それに見かねたホンダが、ゴブリンを蹴り飛ばし、倒れたところを口の中へ、杖を突き刺す。


「・・・」


 尻餅をついているミズキをホンダは、怒りをこめた眼で睨む。いや、彼にはむしろ、殺意が感じられたことだろう。なぜならその眼は、とてもとても冷たく、鋭い眼なのだから。


「これで・・・最後ぉ!」


 アマハの終了を告げる声が聞こえ、二人ともそちらを向く。松明はヒサコが持っていて、距離が少し離れているため、見えにくいが、ミズキたちの下に戻ってきたアマハの血にぬれた顔を見れば、どれだけ戦い、何があったのかは、概ね分かった。


「ここ一帯のゴブリンは狩ったな。耳を削ぐぞ」


 ホンダにそう言われ、アマハとヒサコはナイフを取り出し、目に付くゴブリンの死体の耳を削いでいく。


「・・・殺すことが出来なくとも、耳を削ぐくらい出来るだろう」


 ホンダにナイフを手渡され、理由が分からないまま、ミズキもゴブリンの耳を削ぐ。ナイフから伝わる感触が、これが現実であるということをミズキに知らせていた。

 生来、生き物を殺す(害虫を除く)なんてこととは縁が無かったミズキに、ゴブリンの死体というものは、精神的に重かったらしい。醜悪な顔に加え、苦悶に満ちた表情が尚、厳しくダメージを与えてくる。食事を腹八分目で済ましてよかった。そう、ミズキは思った。

 アマハの元まで歩み寄り、ミズキは聞いた。


「なぁ・・・なんでそんな平然とした顔で戦えるんだ?」

「・・・顔に出しちゃうと、皆の士気に関わるからね。我慢してるの。アタシだって、好きで戦ってない。怖いけど、仕方ないから・・・まぁ、やっと慣れてきたって言うのもあるけどね」


 少し、苦い笑顔で、アマハは答えた。


「ヒサコ。お前は何体取った」


 ホンダはヒサコに問う。ゴブリンの耳を何個取ったかで、自分達が何体倒したか数えるためだ。それにより、この巣の規模がどれくらいかも、大体分かる。それに、倒したモンスターの一部を街のハンター組合・・・要するに、受け付けに持っていくと、そのモンスターにより、ボーナスが貰える。


「私は、6体ですが・・・」

「俺は4体。アマハと・・・貴様は?」

「ちょっと、ホンダさん!名前で呼んで上げて下さい!アタシ達仲間じゃないですか!」

「ふん。そんな怯えてばかりのガキと仲間など、考えただけでも虫唾が走る」

「もーホンダさんは・・・私は4体ですけど・・・」

「俺は、1体・・・」

「・・・15体はいることになるぞ。明らかに異常だ。たかだか、巣の警備役で15体など・・・監視役がいた時点である程度予測できたが・・・」

「それじゃ、どうします?一度、街まで戻ってから・・・」

「いや、このまま戻って巣の警戒が強まりでもしたら、それこそ厄介だ。ここで叩くぞ」

「確かに、そっちのほうがまずいし・・・ヒサコさんとミズキ君はどうする?」

「私も、そちらで構いません」

「俺も、そっちでいい・・・」

「決まりだな。行くぞ」


 松明を持つ、ヒサコが先頭となり、四人が巣の中枢へと、歩き出す。歩きながら、ミズキは、拳を握り締め、静かに怒っていた。

 俺は情けない、と。


 中枢そのものの攻略はなぜか容易だった。ゴブリンは基本、暗いところでもある程度は見えるが、流石に、中枢の作業・・・主に、子ゴブリンに食事を与えたり、人から盗んだものの選別等は、光がないと辛いのか、至る所に松明が着いていた。

それに、あれ以降、警備役とも出会うことなく、中枢にたどり着いても、ゴブリンの数が7体と、何故か異常に少なかった。しかも、群れには必ずいるであろう、群れの長も。


 戦法は、先ほどと同じ、ホンダが眼くらましをし、その隙に、アマハとヒサコが倒す。戦いは、簡単に終わったが、ミズキはまたもや、戦う踏ん切りが付けられなかった。あの宿で戦う覚悟を決めたはずなのに。生きることを選んだのに。そして、それはよく分からないまま選んだ、だから自分は悪くないという、言い訳になっていた。子供だと理解していても、言い訳をせずにはいられない。彼は、本当の戦いを見て、怯えていた。


「・・・」


 下を俯き、拳を握り締めるミズキへと、ホンダが歩み寄る。


「さて、依頼は終わった。これは相談として扱わせてもらうが、こいつをどうする?」


 杖の下のほうの先端でホンダがミズキを指す。ミズキだけではなく、その言葉を聞いたアマハとヒサコも困惑していた。


「・・・ホンダさん。それ、どういう意味?」

「言葉通りの意味だ。こいつをどうするか。この戦いもしないで報酬を受け取ろうというハイエナをどうするかを聞いているんだ」

「ホンダさん!流石にそれはアタシも・・・」


 自分に詰め寄ろうとするアマハをホンダは、シンプルでいて、冷酷な言葉で制した。


「事実だろう?」

「ッ・・・!」


 その言葉に、特に感情はこめられていなかった。ホンダはただ、確認の意味をこめて、アマハに言い放ったのだ。


「俺も最初は、こいつには見込みがあると思っていた。お前らと同じだったよ。だが、実際はどうだ。いざ、戦いになるとガタガタ震えて何もしない。それなのに、今も生きて、報酬を受け取ろうとしている。これなら、荷物が増えたほうがまだマシだ。そこで、俺はお前達に相談している。意味が分からなかったか?こいつを殺すか、殺さないか。俺はそれを聞いているのだ」


 ホンダは、淡々と答えた。事実、ミズキは、彼らになんの貢献もしてない。このままでは、ホンダの言うようにハイエナとなるだろう。報酬は、基本的にパーティの数で等分され、受け取る。報酬を受け取り、一目散に逃げてしまえば、流石に手が出せなくなる。しかし、ミズキはそこまで悪人・・・というより、ひねくれてはいない。アマハは、そこを突いた。


「で、でも、ミズキ君はそんなことをする人じゃないと思う!それに、初めてのハンター活動なんだし、大目に見ても・・・」

「アマハ。お前はこいつの何を知っているんだ・・・・・・・・・?」

「え・・・?」

「今日会ったばかりの他人同然のこいつの何をお前は知っているんだ?向こうの世界で恋人だったか?それとも一目惚れでもしたか?どれにせよ、お前が抱いているこいつの評価はただの偏見・・だ。本当のこいつとは証明できない。分かるか?俺たちにとってミズキこいつは、何をしでかすかわからないモンスター同然なんだよ」

「そ、それでもアタシは・・・!」

「アマハ・・・お前は人として甘すぎる」


 その一言で、アマハは完全に黙った。ホンダの雰囲気に飲まれたからだ。とても冷たく、暗い雰囲気に。


 だが、ヒサコの表情は変わらなかった。いつもと違うしっかりとした眼で、ホンダを見据え、発言する。


「確かに、ホンダさんの言い分には最もです。しかし、ここで彼を殺すことは、私達にとってメリットなのでしょうか。あなたのしようとしていることは、メリットのない、感情で犯す殺人と何も変わらない。そして、ここは異形のモンスターが巣食う世界。彼らに餌付けをするようなものだと、私は思いますが」


 ヒサコの発言に多少、眉をひそめるホンダだが、食らい付いても意味がないと苛立ちを振り払い、一考する。


「・・・確かに、ここでこいつを殺しても意味が無い。だが、俺はこいつを認めない」

「ええ。分かっています。私としても、心苦しいですが、彼とはここで別れましょう」


 ヒサコのその言葉に、ミズキは特に目立った反応は見せなかった。彼も、自分で理解していたのだ。邪魔者以外の何者でもない。ここで別れたほうがいいと。戦いの恐怖が、彼の覚悟を押し潰していた。これは、彼がヘタレなのではない。戦いとは、相手が死ぬか、自分が死ぬかの二択である。ただの一般人が、そんな世界に放り込まれてすぐに戦えるのは、ただの異常者か、良く考えずに動く阿呆である。彼の反応は、正しいものと言えるだろう。

それに、彼は一度殺されかけた。それが、一番大きいだろう。


「ミズキ君・・・」

「・・・いいんだ。これでいい。結局、俺は戦えなかった。こんな世界に俺なんていちゃ、邪魔なだけだ」


 アマハは、何か言おうとしたが、ミズキの顔を見て、言葉を詰まらせる。「そんなことない」なんて言っても、彼を傷つけるだけ。今のミズキには、何も言わないほうが、彼のためになる。


「・・・ごめんなさい」


 ヒサコは、ミズキに謝罪の言葉を述べ、巣の中枢の出入口へと歩き出す。ホンダは、出口の前で、アマハとヒサコを待っていた。アマハは、ミズキを見つめ、その場から動こうとしない。だが、ミズキの俯く姿を見続け、罪悪感に苛まれたのか、もう一度、ミズキへ話しかけようとする。


「ミズキ君、やっぱり・・・」


 その時だった。洞窟が揺れたのは。天井から小石が降ってくるほど大きな揺れが。


「何、地震・・・?」

「いや、それにしては断続的じゃねぇか・・・?」


 そう。ミズキの言うとおり、揺れは一々、途切れて来ていた。言うまでも無いが、地震はある程度、数秒か揺れ続けるものだ。それが、断続的とあっては、地震ではない。


「・・・この揺れ、段々大きくなってきています!」


 地面に耳を付けたヒサコが叫ぶ。


「まさか、何かここへと来ているのか!?」

「そんな!ゴブリンの巣に、こんな揺れを起こせるモンスターが・・・!」


 そいつは、突然現れた。中枢の、ホンダ達のいるところとは違う、もう一つの出入口を豪快に。それこそ、ぶち壊すという表現が似合うほど荒々しく入ってきた。3mもあろうかという巨体と、岩の棍棒を持ち、ボロボロの布を腰に巻き、恐ろしい眼を見開き、そいつは突然現れた。その巨体の名は「オーガ」。ゴブリンが幼生体から豊富な栄養を摂取することにより、変異することがある、ゴブリンの亜種である。非常に凶暴で、筋力も、ゴブリンなど比較にならない。その色別等級は・・・




「黄」とされている。

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