出航する新たな狩人
ホルセ
ワニのような皮膚を持った馬のような動物。我々が知っている馬よりも強い筋力を持ち、重労働などで重宝される家畜である。肉食で、凶暴であるため、二、三ヶ月近く調教する必要がある。また、その強い筋力と、硬い皮膚から、軍馬に使われることも。ちなみに、皮膚が硬いため、ホルセに乗ると、尻が痛くなる。尻に負担がかからないように、柔らかい素材で作られた器具を取り付けてから、乗る。これまたちなみにだが、基本食べるものは、草食動物である。蹴り飛ばしてから、捕食する。牙を持っているため、肉を噛みちぎる事が可能。
プラファーレス。民主主義国家バルゴに属する市街地。敷地面積およそ88km2。人口60032人。主な収入源は農業とハンターの活躍である。ハンターがよく集まる酒場や宿が多く存在するため、ハンターになったばかりのものが来るのにうってつけの場所でもある。
その中でも、ひときわ有名な場所がある。店の名前は「デパルチュア」。出発、出航を意味する言葉の宿屋である。依頼の受付を備えており、三階建て。最大収容可能人数は一階で約130人。二階と三階はそれぞれ30人。基本、相部屋である。これは、ハンターが一人で活動するより、複数人・・・要するに、パーティを組んだ方が生存確率が上がるためである。相部屋にし、となりの人物がハンターである場合、同業者と会話の一つや二つくらいするであろう。
そうでなくても、何かしらの縁はできるはずだ。そのきっかけでパーティを組ませる。仮に、そうならなくともここは酒場でもある。人が多く訪れ、会話の機会など、そこら中に転がっているものだ。あるものはただの雑談。あるものは自分の仕留めた獲物の自慢話。また、あるものは作戦会議。
人の活気であふれるこの場所は、ハンターにとっての出航地なのだ。
・・・少々、酒臭いことに目を瞑ればいいところではある。
「飲むか?」
一人の黒いマントを纏った男が、目の前の少女に酒を勧める。
「飲みません!アタシまだ未成年ですよ?いい加減、お酒勧めるのやめてください!」
少女は酒ではなく、こっちの方が良いと言わんばかりに、コップに入っている柑橘系のジュースを飲み干す。
「フッ、それだから子供なのだ、貴様は。酒の味を知らずして、大人になれると思うなよ」
「そんな知った様なセリフばかり言って・・・知ってるんですからね!ホンダさん!お酒弱いから、度数低いやつしか飲まないってこと!」
「ッ・・・!ゲホッ!ウェッホッ!」
ホンダと呼ばれた男が、清々しいまでに勢い良くむせる。それに対し少女は、してやったりとしたり顔を浮かべる。
「貴様・・・!どこでそれを!」
「受付のおねえさんからです。度数低いからって飲みすぎは良くないって言ってましたよ」
「あやつめ・・・もっと釘を刺しておくべきだったか・・・ん?おい、あの男・・・」
口元を吹きつつ、後悔を口にしているホンダは、受付の方である人間を見つける。周りのハンターは鎧やら武器やらを装備しているものだが、その人物だけはなにも装備していない。あえていうなら、制服である。
「はぁ・・・」
カウンター席にて、水城 正一はため息をつく。プラファーレスに着いてからというもの散々であった。道は間違える。服装のせいで不審者扱いされて、警備兵に突き出されそうになる(腕輪を提示して事なきを得た)。
着いたら着いたで情報収集。主に、ここはどこなのか、ハンターと何かという情報についてだが、情報収集には成功したが、わけがわからないという事が分かっただけであった。
「・・・帰りたい・・・というか死にたい」
頭の中にわけのわからない情報が詰め込まれ、それを処理するために脳をフル稼働し続けた結果がこれである。彼は内心、「こんなことになるなら死ぬほうを選択しても良かったかもしれない」と考えているだろう。
はっきり言って、この世界と彼のいた世界は全くの別物。自分の常識で物事を図るのはやめた方がいいかもしれない。
「・・・やっぱ死にたくない」
そしてこのヘタレぶりである。何も彼は、諦めることを知らない勇者でもなければ、不可能を可能にする英雄でもない。そこらへんにいる、いたって普通の元男子高校生である。くじけるな、と言うほうが無理がある。
「クソ・・・なんだって俺が死んで・・・いや、死んだのかどうかすら分からねぇけど、こんなところにいるんだよ・・・持ち物は全部無くなるわ、ここがどこだか結局分からねぇわ、挙句の果てにハンターなんて職業に就かされるわ、散々だ」
ストレスのたまった社会人が酒をあおるように、水城 正一はコップに入っている水を一気に飲み、勢いよく、コップを置く。
「・・・情報集めたはいいけど、よく日本語が通じたな・・・見るからに日本じゃないのに・・・そういえば、あのボードに張ってある紙。あれ、英語で書かれてるように見えたけど・・・よく意味が分かったな、俺。モンスター退治。場所はニルルク大平原って。英語なんてその日に覚えてその日に忘れる系の人間なんだが・・・」
水城 正一はこの世界の言語に違和感を抱きつつも、これ以上考え事を増やしても仕方ないと思い、とりあえず、その違和感を胸の奥底にしまう。
この世界に彼の今まで培ってきた常識は、一切通用しない。きっと、彼の知らない常識がこの世界にあるのだろう。
「はぁ・・・これからどうすんだよ・・・」
現状の理解できていない水城 正一はうなだれる。
「ねぇ。君、もしかして日本から来た?」
「・・・え?」
そこへ、三人の男女が水城 正一に近寄り、その中の胸当てをした少女(といっても、年齢的には水城 正一を同じだが)が話しかける。我々の常識から大きく逸脱した服装をした三人組が、自分に話しかけたことにも驚くが、彼が一番驚いたのはそこではない。少女が、「日本」という地名を口にしたことに一番驚いた。
「あんたら・・・一体・・・」
「アタシは天羽 朱音。多分、君と同じで、向こうの世界からやって来たんだよ」
とりあえず、彼女達のいたテーブルに案内された水城 正一は彼女達と話をすることにした。
「俺は、水城 正一・・・天羽 朱音って言ったな。お前、向こうの世界からやってきたって言ったけど、それって・・・なんて言えばいいんだ?えっと・・・ああもう、地球でいいや。地球からこっちの世界に来たって事か?」
「うん。アタシたちは、ハンターをやってて、その依頼報告でここにきたとき、たまたま君を見つけたって訳。ハンターってなんだか分かる?」
「あぁ。さっき適当な人に聞いたからな。ハンターってのは人の依頼を元にモンスター倒したり、捕獲したり、人にっては生態調査とかする・・・モンハンのハンターみてぇなもんだろ?」
「アタシ、モンハン知らないからそこは頷けないけど、それで合ってるよ。アタシたちはパーティ組んで依頼をこなしてるんだ。こっちが、弓兵の峰岸 久子さん」
弓矢を携えた女性が座りながらお辞儀をする。黒い長髪は一つに纏められており、清楚なイメージを連想させる。
「初めまして。峰岸 久子と申します。ヒサコとお呼び下さい」
「あ、あぁ、どうも・・・」
その上品な振る舞いに反射的に水城 正一もお辞儀を返す。どことなく、母性のあふれ出る人なのか、少し緊張している。
「で、こっちが・・・」
「他人から紹介されるほど、俺も落ちぶれてはいない」
黒衣の男がアマハを手で制する。そして、勢いよく立ち上がり、高らかに語りだした。
「我こそは、この修羅が蔓延る異界に呼ばれし、破滅の賢者!その名は世界の最果てまで轟き!その力は万象を滅ぼす!あらゆる並行世界が存在しようと、我を語れる言葉は無い!我を語りたくばその名を声にしろ!その伝説を紙に記せ!我が名はヘルシング!ヴィルムルド・デ・パウラ・レメディオス・ヘルシング!如何に世界を滅ぼす災厄が来ようと、我が名を脅かすには至らぬであろう!」
「「「・・・」」」
水城 正一は口をあけて絶句。アマハは呆れ顔。ヒサコは苦笑い。そして、周りの人も彼らと同じような反応をしていた。
「ホンダさん、それ毎回やらないとだめ?」
「だめに決まっているだろう。あと、私はホンダではない。ヴィルムルド・デ・パウラ・・・」
「だー!もー、いいから!でも、名前長いし!ホンダさんでいいじゃないですか!」
「貴様、何度言えば・・・いや、よく考えてみろ。我が名を堂々と公に語るのは、俺を狙う輩に、俺こそがヴィルムルド・デ・パウラ・レメディオス・ヘルシングとばらしているということだ。ここは、仮の名を名乗ったほうが安全というもの・・・」
ヘルシング・・・もとい、ホンダと呼ばれた男はしばらく考えた後、「ホンダでいい」との結論に至った。
「ふむ。そのほうがやはり良いな。改めて自己紹介をしよう。俺の名は本田 忠利。アマハが言う様に、ホンダで構わん。念を押すようだが、これは仮の名だ」
「あ、あぁ・・・」
「ごめんね。ホンダさん、こんな性格しているから・・・」
「何?俺に落ち度があるというのか?バカを抜かせ。万象を知り尽くした俺に、失敗など・・・」
「そこですよ!そこ!ホンダさんに落ち度があるとしたら失敗してるって自覚してないところですよ!」
「それこそバカを抜かせと言えるな!仮に失敗を犯してるとしてもだ!それを自覚しないなどありえん!ましてや、この俺だ!」
ホンダとアマハの二人が騒いでいるのを横目にヒサコは水城 正一へ話しかける。
「ごめんなさいね。騒がしいの嫌いかしら?」
「いや・・・嫌いじゃないです・・・」
むしろ、彼は安心していた。よく分からない事尽くしのこの世界でやっと、自分の知っている日常的光景が見れたのだ。水城 正一は、彼女達を見て、少し笑った。
「・・・どうしたの?」
「いや、なんかさ。やっと俺の知ってるものが見れたって思ってな。俺の常識がまるで通用しないから、新しい知識を得るたびに疲れちまって。そんなときにアマハたちが俺の前に現れて。そして、今があって・・・安心したんだ」
「ミズキ君の気持ち、アタシも分かるよ。アタシも、最初はそうだった。よくわかんないうちにこの世界に来て、ある出来事があったんだけど・・・ヒサコさんが助けてくれたんだ。ヒサコさんのおかげで、今の私があるんだよ」
アマハの言葉に、ヒサコは口元を手で隠す。
「私は、そんな大したことはしてないわ。あなたが困ってたから、私に出来ることをしたのよ」
「・・・お前とヒサコ・・・さん、の関係については分かったんだけどよ。ホンダとは、どういう関係なんだ?」
水城 正一の言葉にホンダが反応する。腕を組んだまま、水城 正一を鋭くにらむ。
「お前、見るからに高校生だが・・・歳はいくつだ?」
「え?17だけど・・・」
「あ、アタシと同い年だね」
「アマハはどうでもいいとしてだ。俺は23だ。言っている意味が分かるか?」
水城 正一は少し考えた後、否定の言葉とともに首を横に振る。
「年上は敬うべきだと思わんか?」
若干、声を篭らせて威圧的に言う。だが、水城 正一には通用しなかった。
「敬うような人にも見えないしなぁ・・・」
「なっ!貴様・・・!」
水城 正一のまさかの返答にホンダは驚く。普通ならここですいませんなどの謝罪の言葉とともに自らの過ちを正そうというところだが、この水城 正一という男。俗に言うひねくれた人間であり、自分がそうだと思うものは、たとえ、それが間違った認識でも正そうとしない。
この場面なら、ホンダに対して「敬語」を使うところだが、それに対し水城 正一はホンダを「敬うべき人間」ではないと認識しているため、「敬語は使うべきではない」と判断している。
ちなみにだが、水城 正一は自分の間違いを認識できないわけではない。
「・・・ふん。まぁいい。貴様程度の矮小な人間に一々、気を立てていては、奴らとは戦えんからな」
「奴ら?」
水城 正一の疑問にアマハが答える。
「モンスターのことだよ。さっき、ミズキ君が言ってたけど、ハンターって言うのは、モンスターを倒すのがメインの仕事。モンスターっていう凶暴な存在と戦う以上、短気じゃいられないんだよ。冷静でいられなくなるしね。それに、パーティも組んでるし、熱くなっちゃうと、和を乱しちゃうし。あぁ、そうだ!ミズキ君に話しかけた一番の目的を忘れてたよ!」
「目的?なんだよそれ」
水城 正一に話し掛ける前にアマハはヒサコとホンダに話をする。二人が頷いた後、咳払いをし、水城 正一に手を伸ばし、頭の中の言葉を声にする。
「アタシたちとパーティを組まない?」
「・・・なんだって?」
「おい、アマハ。単刀直入すぎるだろう。見ろ、こいつを。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている」
「そうですよ、アマハさん。事情も説明しないで結論を先に言うのは良くないわ」
二人に間違いを指摘され、アマハは申し訳なさそうに右手を後頭部に添える。水城 正一はと言うと、言われたことを理解できず、呆然としている。
「ハンターはね、一人で活動することを勧めていないんだよ。報酬金を独り占めできるってメリットがあるけど、それ以上に危険のほうが大きいからね。四人なら、一人当たりの報酬金は減るけど、死ぬ確率が減る。死んだら元も子もないから、ほとんどのハンターはパーティを組んでるの」
「俺もこの世界に来た当初は一人で戦っていたが、こいつらと出会ってからはパーティを組んでいる。今思えば、偶然の出会いといえど、いい選択だったな」
アマネの言葉にかぶせるようにホンダが話す。ただの偶然だと聞き、水城 正一は少し意外だと思った。アマハとヒサコのようになんらかのドラマがあるかと思ったら、ただの偶然だとホンダは語るのだ。
「それに、パーティは四人が一番効率がいいって言われてるし。ほら、アタシたちって、三人パーティじゃん。あと一人枠があるから、たまたま見つけた君を誘おうってわけ」
「話はなんとなく分かったけどよ。一つ質問しても良いか?お前たちって、その・・・戦いに慣れてるのか?だって、お前らだって、元はただの戦いに縁がなかった一般人だろ?それなのに、なんで戦うことに決めたんだ?」
水城 正一の言葉にアマハは表情を曇らせる。本人にとって、あまり良くない話なのだろう。だが、水城 正一の言い分も分からなくもない。普通の人間なら戦うことなど、選ぶ筈もない。
しかし、こうして、アマハたちはハンターとして戦っている。それは、何故なのか。
短いようで、長くも感じた沈黙を破ったのは、アマハ本人だった。
「そりゃ、アタシだって、最初は嫌だったよ。誰かと戦ったことなんてないし、喧嘩すらしたことない。でもね。アタシは戦わなくちゃならなくなったんだ」
「・・・どういう意味だよ、それ」
「あたしは、一人でここに来たわけじゃない。友達と一緒に来たんだ。デパートで遊んでるとき、おっきな火事があって、それでアタシたちは死んだ。それで、白い部屋からこの町にやってきたんだけど・・・最初は、ハンターなんてやるつもりもなかった。でも、なぜかやめることが出来ない。他に仕事なんて出来なかったし、友達がハンターとしての仕事に行ったんだ。アタシは怖くていけなかったけど・・・ずっと、ここで待ってたんだ。でも、何時まで経っても帰ってこなかった。後で、他のハンターの人が受付の人にこう言ったのが聞こえた。「コバトというハンターの死体を見つけた」って」
「それって・・・!」
「うん。アタシの友達の名前。この腕輪には名前が彫られてるから、誰の持ち物なのか分かるんだ」
そう言って、アマハは自分の右腕に着いている腕輪を水城 正一に見せる。そこには、「AMAHA」と名前が彫られていた。
「アタシは、友達を見殺しにしたんだ。そのあと、一人で死ぬほど後悔して、喉がつぶれるほど謝った。そんな時、ヒサコさんがアタシに話しかけてくれたの。落ち着かせてくれた後、話を聞いてもらった。いっぱい後悔を言ったあとに、こう言ってくれたんだ。「本当に申し訳ないと思うのなら、その友達のために祈りなさい。生きて生きて、友達のことを想うのよ」って。本当に、アタシはその言葉に助けられたんだ」
アマハは本当に救われたような表情で話す。それに対し、ヒサコは恥ずかしそうに手で口を隠す。
「アマハさん、その話はそこまで話す必要はありませんよ」
「あぁ、ごめんなさい。そんなことがあって、アタシはまず、ヒサコさんにご飯を奢ってもらって、お金を稼ぐためにハンターとしての活動をしてるわけ」
「・・・いや、なんかびっくりしたよ。思ったより、重い話だったから」
アマハの話を聞き、水城 正一は考えた。
アマハは、友達の死を切っ掛けにその迷いを断ち切った。ならば、自分もそうするべきではないか?現状を受け入れることは出来ずとも、生きることは、誰にだって出来る。そういえば、あの白い部屋で、言われた。
――――――死を恐れろ。生きることを勝ち取れ。
「生きることを勝ち取れ・・・か・・・」
天井を見上げ、独り言をつぶやく。それは、あの白い部屋で空気のようなものに言われた言葉だった。深い意味は分からない。
だが、言葉通りの意味なら理解できる。彼は、自分で生きることを選んだのだ。それが、よく意味が分からないものだったとしても。選択はもう変えられない。なら、子供のように駄々をこねず、その選択に・・・生きることに殉じるべきだ。
「なぁ・・・本当に俺で良いのか?俺は、この世界に来たばかりで、戦う力も、経験もない。はっきり言って、他のやつに頼んだほうが・・・」
水城 正一は不安げに問う。確かに、パーティに誘われたことは嬉しい。だが、それ以上に彼女達の足を引っ張るのではないかという不安が、水城 正一の嬉しいという感情を押しつぶす。
「大丈夫だよ。能力はもう持ってるはずだし、経験は、クラスが何とかしてくれるから」
「クラス・・・?」
ここにきて、またしても聞きなれない単語が出てきた。いや、正確には、意味の予測できない単語というべきだろう。学校などにおいて、生徒を割り振るためにクラスという枠がある。それは、誰しも聞きなれた言葉であり、当然、水城 正一も例外ではない。
しかし、この状況においては決して、そのような意味を持たないということは水城 正一は反射的に察した。
「あ、クラスっていうのは、ハンターひとりひとりに割り振られた・・・職業みたいなものかな?たとえば、アタシのこれ」
アマハは、テーブルに立てかけている剣と盾を見せる。少し、傷ついており、戦いの雰囲気を醸し出しているようにすら感じる。
「アタシは、剣と盾を使って戦う剣士。ヒサコさんは弓を使う弓兵。ホンダさんは魔法を使う魔法使いって感じに割り振られてるの。なんでかは知らないけど、アタシ、剣使ったことないのに剣が上手く扱えてるの。多分、そのクラスの戦い方なら、本人が未経験でも得意になってるんじゃないかな。なんか文章おかしいけど」
「でもよ、俺には、そのクラスってのがなんなのか分からねぇ。確かめる方法も同じだ」
「あぁ、それなら、カードに描いてあるよ。多分、ポケットかどこかに入ってると思うけど」
「カード?」
心当たりのある水城 正一はポケットからオーラのようなものを纏っている挌闘家が描かれているカードを取り出し、アマハに見せる。
「これのことか?」
「うん、それ。え~っと~・・・なにこれ、分かんない」
「いや、分かんないってお前・・・!」
「おい、俺に見せてみろ」
アマハが分からないということで、ホンダにカードを見せる。少し見て、早くも答えを出す。
「恐らく、魔拳士だろう。オーラは恐らく魔力によるオーラ。そして、素手で構えを取っていることから拳士の系統だろう」
「魔拳士・・・?それって、呪われた武器かなんか持ってる、ゲームとかでおなじみの・・・」
「いや、全然違う。魔拳士の魔は魔法のことだ。つまりお前は、魔法が使える挌闘家というわけだ」
「魔法が・・・俺が?」
「受け入れろ。この世界に来た時点でお前は、ただの人間ではなくなった。お前は、魔法の扱える人間となったのだ」
魔法が扱える。その言葉を認識すると、彼の中で確かに、今まで感じたことのない力が湧き出てくるのが実感として現れた。
「ほら。大丈夫でしょ。装備とかは、安いものでよければ、私が用意するけど・・・どうする?」
水城 正一は改めて、自分の頭を整理する。
自分は一度死んだ。だけど、なぜか、生き返ることが出来た。代わりに、戦いにその身を置くことで。なら、自分に戦う以外の選択肢はない。だったら・・・
「・・・悪いな。用意してくれるか?」
「まっかせて!と、その前に、どの依頼にするか、決めてくるから!」
アマハは、スキップをするかのように軽やかに依頼板へ歩く。
「・・・なんか、楽しそうだな」
アマハの後姿を見送り、水城 正一がつぶやくように言う。
「ええ。仲間が増えたもの」
「だが、子供じみた行動をするのはどうかと思うがな」
「これに決めた!」
依頼板から、依頼書を持ってきたアマハは、それをテーブルに置く。
「ニルルク大平原の洞窟でゴブリン退治か・・・確かに、ゴブリンは新米向けだが、場所が場所だ。少々、酷ではないか?」
ホンダが不安げに言うが、それをアマハは吹き飛ばすようにしゃべる。
「大丈夫!アタシたちがサポートすれば問題ないって!ね、ヒサコさん!」
「そうね。そうすれば、ミズキ君も勉強になると思うし、一石二鳥ね」
「でしょ~!あ、ミズキ君の装備はこれね」
アマハは、荷物袋に入れてある道具を取り出す。拳士のメイン武器である、グローブとスティールグローブ。そして、鎧より着易く、それでいて軽い鎖帷子。
グローブが二つあるのには理由がある。拳士は、武器をよほどのことでもない限り使うことがない。そのため、相手を殴ったダメージがそのまま自分の拳に伝わるわけである。それを防ぐため、メインのグローブの下にクッションとなるグローブをつけるのだ。ボクサーがグローブをつけるようなものである(ボクサーは、相手を傷つけすぎないようにするための物だが)。
「よし。これで、ミズキ君の装備は揃ったね。ところで、ミズキ君は、お腹空いてない?最初のころのアタシがそうだったから不安なんだけど」
「腹か?そうだな・・・すいてn」
空いてないと言おうと思っていたようだが、言葉よりも先に腹が返事をしてしまった。三人に良く聞こえるいい音でなり、水城 正一の顔はたちまち赤くなった。
「・・・」
「じゃあ、なにか食べてから出発しようか。大丈夫。今回は、アタシのおごりだから!」
「・・・悪いな」
お言葉に甘え、食事を済ませる。食いすぎて動けなくなっても問題なので、腹八分目で食事を終わらせた。
「それじゃ、装備を確認してっと・・・」
「俺のほうは問題ない。ヒサコはどうだ」
「私も大丈夫ね。いつでも行けるわ」
「よし。それじゃ、ミズキ君のパーティ加入を記念して、ゴブリン退治にぃ・・・出発!」
アマハの元気な掛け声とともに一同は歩き出す。グローブと鎖帷子を装備し、水城 正一は・・・いや、ハンターとして、ミズキは歩き出す。
腕輪
ハンターとしての証。正式な名称は存在するが、多くのハンターは腕輪と呼称する。非常に硬く、壊れにくいというよりも、むしろ壊れない材質で出来ている。取り外すための金具が存在しないため、魔法 装備装着と装備着脱で着脱する。わざわざこの魔法を使うように設計されているのは、盗難防止としてである。壊れないという特性から、緊急の防御手段として使うハンターもいるが、その衝撃は腕に伝わるため、骨が折れることがある。実際に折ったハンター曰く、「死ななきゃ安い」とのこと