第四話:召喚に至るまでの(簡単な)経緯
「……失恋した、第二王子の婚約者になるんですか? 私が?」
思わず、聞き返した私は悪くないはずだ。
「ええ、そうです」
特に間を置くこともなく、レイズンさんに肯定される。
「今回の召喚はその意図がメインだ。まあ、肝心の殿下はあんな反応だったけどな」
「……」
確かに、召喚直後にーー顔を見たかは分からないけどーー彼は、あの部屋を出て行った。
「大丈夫、ですかね。いろいろと」
「まあ、貴女の召喚は強行的な部分もありましたから、殿下の機嫌を考えると、二~三日待った方が良いでしょうね」
誰だって、人の機嫌が悪いときに手を出したくはない。
「でも何故、婚約者を召喚で喚ぶことになったんですか? 王子というのなら、それに釣り合う位の人ぐらい居ると思うんですが」
「ああ、そのことですか。殿下の相手として、釣り合う令嬢が居ないわけではないのですが、殿下の想い人が想い人でしたから。下手な貴族令嬢は宛がえないんですよ」
「何せ、殿下の想い人は隣国の王女。そんな彼女が、異世界から召喚した者に夢中みたいじゃからなぁ」
え、それだけで失恋?
今まで、その王女様が王子に脈ありだったのかは分からないけど、それだけで失恋って……
「何らかのアタックをしていたのならともかく、していなかったのなら、振り向いてもらうのは無理では?」
私自身にも思いっきりブーメランだけど。
「それは否定せんが、隣国の王女も王女で、召喚した者相手に何やら苦戦中みたいでな」
「というと?」
「その者には、すでに想い人が居るみたいでな。相手にされてないみたいなんじゃよ」
えー……聞いた情報だけだと、もうすでに(恋の)多角形状態じゃん。
「そこで、殿下の失恋は時と新しい恋で癒そうと、上層部は召喚を実行したんだよ」
「そしたら、私が現れた、と」
要するに、私は(恋の)多角形に強制参加させられたわけか。
「まあ、そういうことだな」
私の隣に座っていたハルヴィードさんが肯定する。
「あの、その王女様の想い人の名前って、分かってるんですか?」
「ええ、分かってますよ」
ルティちゃんの問いに、レイズンさんが頷く。
「名前はーー」
「あの、その人の名前の前に、第二王子の名前を教えてもらっても良いですか?」
とっさにそう聞いたのは、今、隣国の王女様が夢中らしい相手の名前を聞いたら駄目だと思ったからだ。
「ああ、教えていませんでしたね。これから貴女がお相手をするのは、この国の第二王子、ウィルフォード殿下です。これから何かと大変だと思いますが、こちらも召喚した責任として、出来る限りサポートしますので、よろしくお願いします」
「あ、いや、こちらこそお願いします」
互いに頭を下げ合う。
「とりあえず、この子の協力が得られては良かったのぉ」
「まあ、そうですね。我々の身勝手で喚んでしまったのは事実ですから」
フォーレストさんとレイズンさんがそう話し合う。
「ハル、ルティ。お前たちが、その子に他のことをいろいろと教えてやってくれ。特に、王城内についてをな」
「言いたいことは分かるが、魔導師団での仕事はどうすればいい。もし、俺たちが抜けたら、今以上の阿鼻叫喚になるぞ」
フォーレストさんの指示に、ハルヴィードさんがそう返すけど……問題はあの書類の山かぁ。
「それは、こちらで分けて片付けておくから気にするな」
「そういうことなら、分かったよ。ルティも、それで良いか?」
「はい。でも、合間を見て、片付けに行きますから」
ハルヴィードさんの確認に、ルティちゃんがそう返す。
「というわけで、何か分からないことがあったら、そこの二人に遠慮なく聞いてやればいいから」
「は、はぁ……」
とりあえず、今後の方針は決まったと言っても良いのかな?
「それでは、カザギリさん。殿下のこともよろしくお願いしますね」
「あ、はい。私も出来る限りのことはさせてもらいますが、あまり期待しないでください。ご期待に添えず、がっかりさせることになるかもしれませんから」
期待させておいて、落胆はさせたくないから。
「で? こいつに付くの、俺たち魔導師団からだけじゃなくて、騎士団の奴らも一緒なんだろ?」
「もちろん。まあ、兄の隊の者になると思いますが」
「レイヴンさんの、ですか?」
ハルヴィードさんの確認に、レイズンさんが答え、ルティちゃんが聞き返す。
どうやら、レイズンさんのお兄さんは『レイヴン』さんというらしい。
「あと、カザギリさん。敵と味方については、ちゃんと自分の目で見極めてください。我々にとっては味方でも、貴女にとっては敵になるかもしれませんし、その逆もありますから」
「……そう、ですね」
私の性格上、権謀術数をすると中途半端になりそうだからなぁ。
「ま、その辺も追い追いで良いだろ」
「それもそうですね。すみません、カザギリさん」
「あ、いえ、気にしないでください。それに、これからのための忠告なんですよね?」
「ええ」
「それなら、良いんです。私はちゃんと、自分の目で見極めますから」
たとえ、その相手が敵だろうが味方だろうが、私は私の目を信じるつもりだから。
「だから、大丈夫だと思います」
ただーー第二王子を敵だと判断したときが、一番マズいとは思うけど。