第三話:召喚されたこの世界は
部屋が用意されるまでの間、魔導師団が使っているという部屋で待たされることになったんだけど。
「……」
近くにいるハルヴィードさんは無言、ルティちゃんや他の魔導師さんたちは書類仕事や書類整理に掃除と、忙しそうだった。
私も手伝いたかったけど、不用意に触って、ルティちゃんたちの仕事を増やしたくはなかった。
「……」
そこで、ふと思った。
「あの、ハルヴィードさん」
「何だ?」
話し掛ければ、目を向けてくる。
「私、いろいろと確認してなかったと思いまして」
「まあ、俺で分かることなら答えるが」
そう言ってくれたので、聞いてみた。
「私、元の世界へ帰れるんですか?」
「それは祖父さんに聞いてくれ。まあ、帰っていった奴も居るみたいだから、帰れるんじゃないのか?」
どうやら、私の前にも召喚された人は居たらしく、その人がどんな世界から来たのかは分からないけど、最後には帰っていったらしい(なお、故郷に繋がっていたかどうかは不明とのこと)。
「そうなんですか」
「やっぱり、帰りたいか?」
「親や友人のことを考えると、戻りたい気もするんですが……」
けど、元の世界には『彼女』がいる。
そして、あの魔法陣に巻き込んでいなければ、『彼』もーー……
「今は……このままでいいです。戻れることが分かっただけでも、良かったですから」
「そうか」
ハルヴィードさんは何も聞いてこなかったけど、察してはくれたらしい。
「次の質問なんですがーー」
「部屋、確保したぞ」
私が口を開けば、フォーレストさんが入ってくる。
「あ、はい」
「じゃあ、行くか。ルティ!」
ハルヴィードさんがルティちゃんを呼び寄せる。
「何ですか?」
「こいつの部屋に行くから、お前も一緒に来い」
「分かりました」
というわけで、ルティちゃんも同行することになりました。
☆★☆
「い、意外と広いですね」
城の中だとは聞いていたから、予想はしてたけど、やっぱりというか何というか。
(部屋が広い! しかも、天蓋付きベッドとか!)
その他にも、机や椅子、ソファーまでありましたよ。
さすがに、風呂やトイレは隣の部屋だったけど、元の世界で言う高級ホテルにでも来たみたいで、何か価値観がいろいろと違うっていうか。
とにもかくにも、ここでの生活に慣れなくては。
「きっと何とかなる! つか、する!」
うん、と気合いを入れれば、後ろから「何とかするのは無理だろ」という声が聞こえてきたが無視だ。
「とにかく、君の召喚理由とこの世界や国について教えたいから、一度席に着いてもらえるかな」
いつの間にフォーレストさんの後ろに居たのか、見慣れない男の人がそう言った。
「えっと……分かりました」
一応、警戒しながら、席に着く。
「俺たちは?」
「どちらでも。ですが、彼女の様子を見ていると……居てくれると助かります」
「そうか?」
いや、こっちに確認されても困るんだけどなぁ。
「儂は同席させてもらうぞ。本来の担当者が不在じゃから、代役をさせてもらう」
「構いませんよ。どちらにせよ、貴方には同席してもらわなければなりませんが」
もしかして、フォーレストさんって、私が思っている以上に、偉い人なんじゃ……
「そんなに力を入れなくても良いぞ? 陛下と謁見できるまでは、もう少し時間が掛かりそうだし、その間に召喚した理由とこの世界について、教えておこうかと思ってな」
何やら不安を煽るような言葉が聞こえた気がする。
けれど、この世界について知ることの出来る機会だろうから、聞けるだけ聞いておかないと。
「分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。宰相補佐のレイズンと申します」
「風霧葛葉です」
互いに自己紹介をする。
それにしても、宰相補佐……?
「文字通り、この国の宰相を補佐する立場の人だな」
「レイズンさんのお兄さんは、騎士団所属の騎士なんですよ」
ハルヴィードさんとルティちゃんが説明してくれる。
「補佐といえども、お忙しいのでは?」
「大丈夫ですよ。宰相直々の命ですから」
「なら、よろしいんですが……」
本当は忙しいのに、私のために時間を割いているのだとすれば、申し訳なくなる。
「それでは、そろそろ本題に入りましょうか」
そこから、レイズンさんを主に、私へのこの世界についての講義が始まった。
この世界ーークオーツレットは、八方に位置する八つの大陸があるらしく、現在、私たちが居る国は東の大陸にあるのだとか。
「『クオーツレット』とは言っていますが、その名前は遺跡で見つかった文字から導き出したものであって、正式名称ではありません。なので、『クオーツレット』というのも、見つかった時からずっと仮称扱いなのです」
「そうなんですか」
けれど、覚えておいて損はないだろう。
そして、大陸名は『イーストレット』。……まさか、『クオーツレット』の『東』にあるから『イーストレット』じゃないよね?
そんなイーストレットにあるこの国こと『レティサーディス』は、ダンジョンへ通じる迷宮都市も擁する自然と産業の国。四季は存在しないわけではないが、春なら春とはっきりしているわけではないらしい。
「とりあえず、国についてはお話ししましたから、次は貴女の召喚理由について話しましょうか」
「お願いします」
これだけは絶対に、知らないといけない。
「召喚理由は単純明快。貴女には、失恋してしまった第二王子殿下の新たな恋人となり、婚約者になってもらいたいのです」
……はい?