第二話:自己紹介
「くずは、クズハ……葛葉、な」
ヴィードさんが、私の名前を復唱する。
どうやら、私の言い方に近く、言いやすいイントネーションを探していたらしい。
「俺は、ハルヴィード・グランド。そのままだと長いから、ハルかヴィードでいい」
だから、『ヴィードさん』なんだ。納得。
「はい、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
この先ずっと、お世話になるかどうかは分からないけど、第一印象は大事だからね。
「あ、申し遅れました。ボクはルティベルと言います。あ、ルティで良いですよ。皆さん、そう呼んでますから」
だから、『ルティ』か。一人称は『ボク』だけど、判断しにくいなぁ。
服や建物を見た感じはファンタジーな方だから、実は年上かもしれないけど、私の感覚としては多分年下だと思う。
「うん、よろしく」
さっきは、お世話になるかどうかは分からないって言ったけど、今になってずっと関わりそうな気がしてきた。
ルティちゃんやヴィードさんと、ではなく、魔導師団と、という意味で。
「儂はフォーレストじゃ。魔導師団長であり、こいつも言っていたが、実の祖父じゃ。よろしくの」
「あ、はい。風霧葛葉です。よろしくお願いします」
にこにこと笑みを浮かべる魔導師団長さんことフォーレストさん。
どうやら、本当に血縁者だったらしい。
「それじゃ、自己紹介も済んだことだし、今度こそ移動するぞ」
「あ、はい」
ハルヴィードさんの先導で、ルティちゃんたちと歩き始める。
迷子にならないように、ちゃんと付いていかないと。
「そんなに角を曲がったりしませんから、大丈夫ですよ」
近くに居たからか、ルティちゃんに『迷子になりそうだ』という、心配していたことを見破られてしまった。
「それなら、良いんだけど……」
方向音痴じゃないから大丈夫だとは思うけどーー塔のような召喚された場所を出て、城のある敷地がもの凄く広いことにびっくりした。
けど、迷ったら、本当にヤバそうだ。少し見回して見たけど、遊園地とかみたいに案内図が無いみたいだし。
まあ、『城』という場所柄、安全を考えれば、無いのは当たり前なのも理解はしているし、特に文句を言うつもりはないけど。
「ほら、着いたぞ」
ハルヴィードさんにそう言われるが、そんなに歩いても、時間が経ってもない気がする。
実は、あの塔から距離的に近かったのかな?
「着いたぞって……魔導師団に、じゃないですか!」
ルティちゃんが突っ込む。
雰囲気から分かってたけど、やっぱり客間じゃないのね。
「誰も伝令しに行ってないだろうが。第一、どこの客間使えばいいのかなんて、俺は知らないし」
「ハル、何のための儂じゃよ」
溜め息混じりにフォーレストさんが言う。
「すぐにでも手配しよう。それまではここに居れば良い」
「すみません。何から何まで……」
「気にするでない。それに、もし気になるなら、これから少しずつ返してくれればいい。君は今、我らのお客様なのじゃから」
「はい」
情報が少ない今、あまり自分から動くべきではないんだと思う。
だから、フォーレストさんの言う通り、少しずつ返していけばいい。
返すべき、その時が来たときに。




