第一話:召喚されて
第一章:異世界召喚
本編、スタート
見えない歯車が動き出す
「っつ……」
目が覚めたら、白装束の集団に、周りを囲まれていた。
降り注ぐ光のせいで反射もしているのか、余計に眩しい。
涙の方は、いつの間にか引っ込んでいたんだけど……目、赤くないよね?
「俺は付き合ったんだ。もういいだろ」
そう言いながら、白装束の集団のうちの一人にして、中心に居た青年が去ろうとする。
「ちょっ、殿下! 貴方の問題なのに、その張本人が居なくなるとか、何を考えてるんですか!!」
「勝手に付き合わせて、実行したのはお前たちだろうが」
「……」
何だろう。仲間内で話が違ったのかな。
というか、私は放置なんですね。
(それにしても……)
私の召喚理由は何だろうか。
ファンタジーの定番なら、勇者とか魔王とか巫女とかだけど、少しズレるなら……生贄、とか?
「あの、大丈夫ですか? 言葉は分かると思うんですが……」
「あ、はい。大丈夫です」
ミルクティーのような髪色に緑色(字的にはおそらく『碧』か『翠』)の目を持つどこかふわふわとした少年……いや、少女か。そんな見た目の子が声を掛けてくる。
「ところで、そろそろ説明してもらえるかな?」
「あ、はい。魔導師団長様!」
言葉が通じる件については、魔法陣に組み込まれているとか、私の付加能力とかだと思うことにしたので、スルーします。
「ああ、すまんな。無視してしまって」
「いえ、お気遣いなく……」
さっきの少女に呼ばれた、やや長めの髭が特徴のーーさっきのやりとりから察するにーー魔導師団長さんは、何というか文字で表せば『お爺さん』というよりも『おじいさん』の方が似合うような人だった。
確か、こういう人を好々爺って言うんだっけ。
「事情を説明したいところだが、ここでは詳しく話も出来んから、場所を移動しようかの」
「あ、はい」
そう返事をして、立ち上がろうとするのだがーー
「どうかしたかの?」
「……あの、すみません。申し訳ないのですが、手を貸してもらっていいですか?」
「ほっほ、こんなシワだらけの手で良ければどうぞ」
「いえ、そんなに気にしませんから」
魔導師団長さん(とりあえず、そう呼ぶことにした)に手を伸ばせば、いきなり横から伸びてきた手に掴まれ、そちらに引っ張られる。
「ったく……ルティ。お前が側にいながら、何故止めない」
「す、すみません!」
どうやら、この子は『ルティ』というらしい。愛称かもしれないけど。
「えっと……」
とりあえず、立つことは出来たから手を離してほしいけど、そもそもこの人は一体誰なのだろうか。
男の人で年上っぽいとしか分からないけど。
「あと、お前」
「は、はいっ!」
いきなり話しかけられたので、びっくりしてしまった。
「不用意に、この祖父さんに触れない方が良いぞ。隙あれば尻を触ろうとするからな」
えー……。
この人の言うことを信じて良いのか悪いのかは分からないけど、頭の片隅には残しておこう。
「全く、何も知らない子に嘘を吹き込むんじゃない」
「嘘じゃねぇだろ。騎士団や魔導師団の女連中から話は来てるんだよ」
うわぁ……そんな情報があるんだぁ。
思わず警戒して、彼を盾代わりにしたけど……うん、初対面だからね。この人にも気を付ける必要があるか。
「あの、手を離してもらっても良いですか?」
「ああ、悪かったな」
手の方はようやく解放されたけど、気を使ってくれていたのか、赤くはなっていなかった。
「にしても、あの王子にも困りもんだな。仮にも自分の婚約者になるっつーのに」
「ん?」
聞き捨てならない情報が聞こえた気がする。
「ちょ、ヴィードさん!」
ルティ……ちゃんが慌ててるけど、もしかして、まだ内緒のつもりだった?
そっと私の様子を見てくるルティちゃん(はっきりするまでは一応これで)に、聞いてなかったと察せさせるために首を傾げてみる。
それにしても、この人は『ヴィードさん』っていうんだ。まあ、この人もルティちゃんからそう呼ばれていたから、愛称的なものなんだろうけど。
「んあ? まだ話してなかったのか?」
「し、仕方ないじゃないですか。召喚が上手くいったと分かった途端に、殿下は出て行っちゃうし、他の人たちはこの人を置いて殿下を追いかけて行ったんですから。だから、この場に残っているのは我々魔導師団の者が大半なんですよ」
ルティちゃんがそう説明する。
「つまり、私は説明すらされずに放置されたんですね」
「え、いや、ですから、今から説明するために移動しようと説明したじゃないですかっ」
おろおろとするルティちゃんを見ていれば、どこからか視線を感じたけど、それも数秒だったのか、すぐに消えた。
「それで、どの部屋を使うんだ? 全部書類や実験道具で埋まっていた気がするんだが」
「そういえば、そうでしたね……」
ヴィードさんの言葉で思い出したのか、ルティちゃんががっくりと肩を落とす。
「私は説明してもらえるなら、どこでも構いませんよ?」
「けどのぉ。君は我らの客人だから、君が構わなくとも、こっちが気にするんじゃよ」
魔導師団長さんから、そう言われる。
「お気持ちは分かりますけど、場所が無いんですよね?」
「うぐっ」
分かりやすい反応だなぁ。
「仕方ない。客間に通すか」
「最初からそうしましょうよ……」
ルティちゃんが本気で疲れたのか、再度肩を落としていた。
後半は突っ込んでいたもんね。
「それじゃ、移動するか。えっと……」
そういえば、名乗ってませんでした。
「葛葉です。風霧葛葉。風霧が姓、葛葉が名前です」
当て字で『かずは』と呼ばれることもあったけど、この事は別に言わなくても良いでしょ。
それに、昔はこの名前が嫌いだったけど、今ではそんなこと思わなくなったし。
だから、彼らにそのことを言う必要はないのだ。
ルティとヴィードのフルネームは次回かそれ以降に
あと、ルティが男の子か女の子かは今のところ決まってませんので、決まるまでは読者さんたちの自己判断ということで