プロローグ
もし、まるで『乙女ゲーム』のような出来事が実際にあったらーー
「ねぇ、聞いた? 雨宮さん、また呼び出しだって」
目の前で繰り広げられているような光景が『乙女ゲーム』の世界だと、そんな一言で説明されたのならーー
「あれ、ついに行くの?」
「うん」
「頑張れ」
どんなに良かったことか。
ことの発端は、一人の少女だった。
学校中から注目を集める彼女、雨宮彩葉さんは、毎日場所を変えたりしながら、誰かから告白をされている。
戸惑いながらも断る彼女を、同性の友人や先輩、後輩がどのように思っていたのかなど、ずっと見てれば分かってしまえるぐらい『嫉妬』や『羨望』という感情が分かりやすかった。
「大丈夫。言っても、答えなんて決まってるんだから」
扉の前で、自分に暗示を掛ける。
これから行くのは、校内の告白スポット上位にも上げられる屋上庭園である。
もしかすれば、来てくれない可能性もあるのだが、もし来てくれたのならーー少ししかない勇気を振り絞り、告げるのだ。
貴方が好きです、と。
意を決し、屋上庭園に足を踏み入れた私は、すでにその場にいた人物に向かい合って、きちんと自分の想いを告げた。
「貴方が好きです」
それと同時に、相手の目が見開かれたのが分かった。
そして、少しばかり戸惑った後ーー
「あー……えっと、ごめん」
ほら、予想通り。
「振った理由は雨宮さん?」
「……悪い。だが、俺は雨宮が好きだから……」
歯切れの悪い彼の言葉に、ほらね、とも思う。
結局、何をしたって、あの子には勝てないのだ。
「ごめんね。雨宮さんを好きなのは知ってたけど、けじめって言うのかな。そういうのを整理したくて」
嘘だけど、言えてすっきりした自分がいる。
「だからさ。卒業までにまた会ったときはよろしくね。相良君」
そのまま屋上庭園を出て行く。
当初の目的は達成したのだ。
後は、この無性に溢れてくる悲しみをどうにかしなくてはいけない。
「あーあ……この後、どうすればいいんだろう?」
「ーー風霧っ!」
考え始めようとした矢先に、名前を呼ばれた。
立ち止まって振り返れば、申し訳なさそうな表情の相良君がいた。
申し訳ないと思っているのなら、呼び止めないでほしかった。
平気な顔をしていられているのか、分からないじゃん。
「何、かな?」
「その……っつ!? 風霧!」
尋ねれば、口を開こうとした相良君が何かに気づいたように、手を伸ばしてくる。
一体、彼はどうしたのか、と見ていれば、ふと気づく。
私の足元にあった魔法陣に。
「早く手を貸せっ!」
相良君はそう言ってくるけど、もう遅い気がする。
彼の姿が遠ざかる瞬間、彼の足元にも魔法陣のようなものが見えたから。