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死神になった僕の名前。  作者: はんぷてぃーだんぷてぃー
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第1話

『どうしてあの子が好きなの?』

そう聞かれると、答えに窮してしまう。


優しいから。

かっこいいから。

面白いから。


その人だからこその言葉と理由を、並べてみる。

でも、どんな言葉を並べてもその人を表すことはできない。

それはどこまでもただ一般的に言われるその人の姿であって、その人ではない。

何を言っても正解だし、何を言っても間違っているような気がする。


じゃあなにがその人を表すかなんて、そうだな、名前くらいしかなくなっちゃう。


自分の為に与えられたたった一つの固有名詞。


自分を指し、

自分の立場を指し、

そして自分そのものだ。



それをなくしたら、


自分が自分ではなくなってしまう。



なら僕は。


大切なそれをなくしてしまった僕は。


______いったい、なんなのだろう?







_________


「いやー、おめでとうおめでとう。お前は素晴らしく人生を全うしたってわけだ。」


……何を言っているんだろうか、この人は。

ニコニコ笑顔で槍を突きつけられながらそう言われても、むしろ僕の人生を終わらせようとしてるのはあなた様の方だよねぇ?

今、自分の身に何が起こっているのか全くもって訳わからないので現状を整理してみることにした。


目を開ければ、なんと、


周りの壁がチェス盤模様でした。

男の人が上から落ちてきていました。

僕も背中から下に向かって落ちているようです。

男の人は僕と向かい合って僕に槍を突きつけています。

そして男の割にロン毛です。



余計に訳が分からなくなった。



「……おーい、いきてるかー?」


ロン毛の男の人は呆然としている僕を見て面白そうに笑っている。


「このまま落ち続けたらいつか死ぬよね…?」

「この空間は仮想空間みたいなもんだから底はねぇよ?」

「じゃあ、その槍で刺されたら死ぬよね?」

「聞いてたか?人生を全うした(・・・・・・・)って言っただろ?つまりはお前、」

「…死んでるの?」

「そういうことだ」


しばしの沈黙。


「はぁあああああああっ!?」

「……っせ!!耳痛いっ!」


本当に、腹の底から声が出た。

男の人は耳に指を突っ込んでいる。


「う、うそでしょ…っ」

「残念ながら本当だ。で、さっさと『魂判定』に移らせてもらっていいか?」


意味不明な言葉が飛び出す。

何その厨二感満載なワードは…。


「たましい、はんてい?」

「受けてみればわかる。」


そう言って男の人は手に持った槍をくるっと回し、僕の胸のあたりに突きつける。

背丈ほどあるのに軽々しく回すなぁ…、と現実逃避してみる。


「さす、の…?」

「ああ。」

「ぼくのからだ、つつっ、つらぬいちゃうの…?」

「そうだな。ひと思いにやってやる。」


切っ先がすぐそこにある。

はんば泣きそうになりながら僕は震えていた。


「い、いたくない…?」


その問いに、目の前のその人は少し目を見張って、


「知らねぇな。俺は受けたことないから。」


ぐっと僕に迫ると、僕の胸を貫いた。








_______はずだった。


「っ、なっ!!」


ぱぁんっ、と弾けるような音がして、男の人の槍が向こうへすっ飛んで行った。


来ると身構えてた衝撃が全く来ず、僕は恐る恐る目を開いた。


「あれ…?刺されてない…」


胸のあたりをさすってみる。

傷も、血の一滴もない。

依然として僕は下へ落ち続けていて、男の人は槍をもう一度構えるとまた繰り出してくる、…ってちょっとちょっとたんまっ…!!


「……っ!!」


ぱぁんっ!きぃぃぃ…っ!


「なんだよ、これっ…!」


焦るような男の人の声。

よく見てみると、光の膜みたいなものが槍の一点に集まって、切っ先をすんでのところで抑えている。


鮮烈な光が発せられて、また槍が吹き飛ばされる。



それからも何回かやろうと男の人は試みたけれど、どうにも無理なようで、諦めることにしたらしい。


「……いったい、何者なんだ…お前…」


男の人がつぶやく。



________ばりーんっ!!



急に周りの壁が音を立てて割れる。

体の落ちるスピードが一気に加速する。


うそ、なにこれ…こわ、い…!!


「え、え、いやああああああっ!!」


力の限り絶叫する。

この世の終わりと言わんばかりに絶叫する。


「いやああああっ、やだ、あ、ああああっ!!」

「………けっ!!………ちつけ、」


なんか声が聞こえるけどどうでもいい、自由落下とか怖すぎる。

さっきまでの落ち具合とは区別にならないほどのスピードがとにかく恐ろしい。


「落ち着けっ!!」

「………へっ?」


ガクガクと肩を揺すられる。



………あれ?



いつのまにか足は地面をついて、まっすぐ立っていた。

男の人が僕の肩を掴んでいる。



「うわぁ…!!」



急に僕が肩越しに声を上げるので、男の人は振り返る。


「星!綺麗!!」

「あ…、ああ……。」


テレビとかで見るあの高性能のカメラにしか映らない星空がはっきりと見える。

満天の星空ってこういうのを言うんだなぁ、と1人で見とれる。

どうやら今は夜らしい。


「まぁ、確かに、あの星空は『狭間の世界』の名物かもな…」

「……?」


よく聞き取れなかった。

男の人は僕の肩から手を離すと、僕と向き直る。

黒いコート、白い腕章、槍はどこかにしまったのか持っていない。

銀色の長髪が月明かりによく映えた。


「お前、名前は?」

「………………、あれ?」


ど忘れしたみたいに出てこない。

というか、よくよく考えてみれば全く何も覚えてない。

コートとか、槍とか、世界の常識とか、知識みたいなのはあるけど、その他のことが全く思い出せない。


どこから来たのかとか、好きな食べ物はとか、


自分の名前、とか。



「自分の名前すら忘れたのかぁ?」


からかうみたいに笑いながら僕の顔を見た男の人は、口をつぐんだ。

あまりに僕が、深刻な顔をしていたから。

冗談ではないと分かったんだろう。


「本気で、思い出せないのか?」

「わから、ない」


口から出た声は自分でもびっくりするくらい弱々しかった。

思い出せない恐怖よりも、思い出す恐怖(・・・・・・)の方がなぜか強かった。


「おかしいな……転生でもしない限り現世の記憶は残るはずなんだが…」

「………、」

「でも、名前はないと何かと不便だからな」


うーん、と悩む仕草を見せる。


「ソラ……はどうだ?」

「………ソラ?」


ああ。と男の人は言う。


「俺は、ハイルだ。よろしくな」

「……僕は、ソラ。よろしく。」






名前をもらったこの瞬間、


初めて僕は、僕になれたのかもしれない。











一応ソラくん男の子です。

好きなゲームの主人公の名前です。

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