Café Au Laitって牛乳とカフェどっちが受け攻めかと疑問に思う
白手袋のようなカップに黒いネクタイのようなもようのソーサー。『紅茶』氏は噂通りの紳士であった。
「おっしゃる通り『牛乳』氏との付き合いは長いですよ」
個人的友情だと告げる彼に対して私の中の油分と水分と固形物質。クロロゲン酸ラクトン類とビニルカテコール・オリゴマーその他800の有効成分が嫉妬の苦みを生み出していく。
私はコーヒーだ。
『珈琲と牛乳はどっちが攻めなの』
知人のアロエがうるさい。私としては縁のない相手だがアロエ的には私の苦みが彼にとってのレセプターとなってマイルドな食感にしてくれるかららしい。正直どうでもいい。私にアロエを入れるのはあり得ない。
牛乳は会った時からオレ様キャラだった。
彼は容赦なく私に白いものを注いでくる。
そうなったとき私と彼は乳化し離れられぬ存在となる。カフェオレである。
伊達に人類に対して乳糖でついてついて付きまくっている彼ではない。
カフェオレを呑むと腹を壊す。
牛乳が酸化していると乳糖と関係なくそうなる。
わたしとしては不本意だがオレさまな牛乳が侵食していくとき、私は乳化しそして逆らえなくなる。
まったく違うカフェオレなぞに作り替えられてしまう。彼色に染まってしまう。
だから彼の浮気には耐えがたい。
ココアに始まりプロテイン(※彼の愛し方が少し激しくなったのは良い)。
抹茶に苺などのフルーツ。そもそも彼はチーズやバターなどにまで姿を変えて奔放にふるまうのだ。
最近は玉露やほうじ茶にまで手を出しているらしい。
大事に日陰で布にかぶせられて育てられた玉露。彼は熱湯で注ぐと苦みが出て不味くなる。私とは真逆の存在である。
それに彼は熱い熱い熱湯を淹れ、悶える中に氷と大量の砂糖。そして自分自身の白いものでまったく違う姿に作り替えるのである。その姿を衆人環視の店舗やSNSで拡散される私の気持ちがわかるだろうか。
許すまじはタピオカである。
あの丸くてぷりぷりとしたやつが下劣なストローによって導き出され、トロトロの液となって穴から噴出するさまに苦笑いする人間どもめ。
「実に淫乱なのですね。牛乳君は」
紅茶氏はそうつぶやくと余裕を持って湯気を揺らす。その湯気の先の晴天と違って私のココロは曇天なのだが。
「付き合う前からオレ様なのは知っていました。人類の尻をよく破壊するのも存じていました。
……毎日毎日、ココアに、フルーツに抹茶と相手を変えてオレ色に染めてしまうのだ。彼の乳化は執拗で、私の苦みは砂糖などなくともトロトロに甘くされていくのである。それと同じことをココアや抹茶、果ては穢れを知らぬ玉露などに行い、あまつさえあのふしだらなタピオカのパールを出したり入れたりの淫らなふるまい。
「いえ、彼はそうじゃないのです。実はとっても寂しがり屋なのです。だから」
わたしに彼は氷を託す。毎夜彼らに責め立てられる彼に朝の安らぎをと。
「熱い夜だけではなく、冷たく、そして激しく変えてしまいなさい。あなたの味と香りに」
私は強く同意した。彼を迎え入れる。大きなロックアイスに直で熱い私が注がれる。
急冷を果たしうま味成分多めの私と彼は結ばれる。
砂糖など要らない。二人の歓喜の声は紅茶氏にも聞こえたかもしれない。
が、もうどうだっていいのだ。
幸せなのだから。
「本当に淫乱ですね。牛乳氏は」
紅茶は楽しそうに牛乳を攻め立てる。
「タピオカの次はどんな玩具を使いましょうか。ココナッツが良いですか。それとも」
「やめて! 隣の部屋にはあいつが……カフェがいるんだ……やめっやめろ!」
かぶりをふる紅茶は情け容赦なく牛乳を攻め立てる。
「いえいえ。彼はあなたとの幸せを噛みしめていますので邪魔しちゃ悪いですから、ここは一番の仲良しの私が。あらゆる楽しみをあなたに仕込んだ私がこんばんはごゆるりと……」
「い、や、だ……! おねがいだ! もうレモンはやめてくれ! 分離してしまう!」
「その割にはあなた、ほらもうこんなにカッテージチーズしちゃっている」
「やめろおお!!」
わたし、カフェはとても幸せです。
人間の皆様も私達二人の愛の巣、カフェに来てくださいね。




