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宇宙(とき)の果てまでこの愛を(BL注意)  作者: 鴉野 兄貴


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となりのてんさいくん

 ついたあだ名が『出木杉君』。漫画の登場人物としか思えない奴は実在する。


 拭けばシャクヤク座ればボタンだっけ?

 学のない自分にはわからないが一言でいうとなんかすごい。勉強とか余裕で出来るのだろう。本とか超詳しい。あと美形で性格が良い。背もほどほどに高くてスポーツ万能とくればまぁ漫画みたいだ。


 性格が良いとイイ性格は別だ。

 自分は後者である。


 温厚で生真面目、からかいやすい気質の彼と俺は妙に気が合うというか、妙に向こうの方が懐いている感じが否めないが何故かいつも一緒にいる自分たちは凸凹コンビとして認知されている。勿論自分が凹だ。くそったれ。


「というわけでお前の誕生日プレゼントを用意した」

「わぁ! ありがとう賀東!」


 ふふふ。絶対驚くぞ。


「男は大人になると責任を取らないといけない」

「う……うん」


 何どもっているのだろ。こいつ。

 あとあんまり期待するな。



「というわけで。コン〇ームセットだ」

「わ! LLだ! これはちょうどいいよ! ありがとう!」


 クソッタレェぇぇッ!!!

 さりげなくモテモテ自慢かよ!

 どうせ俺にはサイズ合わねえよ!

 リゾートバイト先で転売ヤーしようとしたらみんな爺さんばかりで断念して余ったんだよ!


「そういえば賀東。キミのお父さん」


 相変わらず在庫抱えている。

 うちの家業はコン〇ームの訪問販売だからな。

 息子も手伝わねば俺の大学費用が危ない。


「と、いうわけで、山田。家業に協力してくれ」

「いいよ? でも僕自身は多分ほとんど使わないかな」


 もったいねえなぁ。モテるのに。

 質は保証するぜ。0.001ミリでそうそうやぶれない。この間『海自の知人が息子の童貞卒業に一役買ったと喜んでくれていた』とか親父が抜かしていたし。

 みんなリア充で良いな! 俺なんか彼女いねえよ!


「そういえば水鏡って子とは」


 すいません。水鏡の奴は男だからな。誤解するな。俺も一瞬期待した。


 ついでに言うとその水鏡、件の知人の息子だ。


「あれ男の子なのか。てっきり君に春がと」


 いや、マジであいつ空手とかやっていてクソつええからな。余計な事言うなよ。あと笑うな。泣くぞ。


 冬の空を連れだって歩く俺達。この合皮の靴一週間で底が削れて滑るぞ。やばい。


「ほら、気を付けて」


 お、おう。思わず転びかけて奴に支えてもらう。

 何故自分がヒロインムーブしなければならない。


「え、あの人かっこいい」


 連れだって歩くと女の子の視線がすごいが、全て奴に集中していて俺は空気かガスか屁みたいなものだ。ぶう。


「ニンゲン、いつか晴れの日が来るよ」


 そう嘯く彼にこんちくしょうと悪態をつく俺。


「ところで、実はプレゼントはもう一つある!」


 今度こそこいつを怒らせてやるぞと俺は心に誓う。



 こいつは会った時から一度も怒ったことがない。

 思うに、こいつには怒るとかの感情が無いのではないかと悩むレベルだ。


「そういえば初めて会ったときってビックリ箱のプレゼントだったっけ」


 クリスマス会費とプレゼントを出せ、しかしお前に女の子は渡さんと言う酷い先輩に強要されてな。

 ムカついたからビックリ箱を仕掛けた。


「あれはすごかった。シュールストレミングだもの」


 全員がバタバタ倒れて悶えているのにお前は平然としていたけどな。


「クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーは断固粉砕する。それが非モテの意地なのだよ」

「面白かったよ」


 そうか。ならばいい。俺は出入り禁止喰らったが。


「でも鼻と咽喉が痛かったからね。服も全部買い替えたし、あれはちょっと困ったよ」


 そういってニコニコ笑っているこいつは少しおかしい。こいつがそれ以降付きまとい、気づいたら一緒にいる。どんな育ちしたのだろう。



「え。僕を教育した人? 優しかったよ」


 そうか。そこで『親』って出ないあたり、聞かないほうが良い気がする。


「両親は……まぁいろいろと。可愛がってくれたよ」


 陰のある表情がエロいというが、こいつ本当に何でも様になるのだから羨ましい。

 俺んちなんてコン〇ーム売っているんだぜ。


「立派な仕事だよ。避妊は大事だ」


 自信を持ってそこ言わなくて良いぞ。

 俺、子供のころから家業で虐められたからな。


「愛情は無くても性欲はあるからね」


 そうか。そういう親もいるだろうさ。

 うちはちょいと過剰に過ぎるが。


「ほら、転ぶよ。手を握って」


 断る。お前無駄に手が柔らかくて暖かいのも嫌だ。


「性欲……ぼくが気づいたのは小学生だったかな」

「あっそ。自分は家業が家業だし、おかんもアレだし黙っておこうとも思わんかったなぁ」



 なんせ、うちのオカンはかつて一世を風靡した巨乳系アイドルAV女優であることを公言している。

 というか、今でも人気あって美貌も衰えていない。むしろ凄みが増している。


「『禁断の童貞食い。実の親子で出演!』って企画が来ていたと聞いたときは泣いて土下座して許してもらったんだぞ。オカンはノリノリだったが」

「だって君、高校の時素行悪かったのだろう。万引きとかしてさ」


 流石に心を入れ替えて大学ではまともにしている。

 今度万引きしたら親子で出演とか嬉しそうに言い出す親だぞ。親父は激怒していたが。


「お父さんは流石に反対だったの」

「AVのNTRが好きなのと、実際に自分がなるのは別らしいぞ。俺にはわからん。というかあの変態両親がわからん」


 ああもう通販なんかで合皮靴買わなければよかった。見た目は良いけどツルツル滑る。


「ぼくも、ひとのことなんてわからない」


 なわけねえだろ。お前めっちゃ賢く相手の考え見抜く気遣い上手じゃないか。この間のテニスサークルの後輩の件、よかったぜ。



「知っているとか、学ぶのと理解できるのは違う」


 そういってマフラーを俺に差し出す。

 やめろ。俺は寒くないから。


「ぼくも寒いっていうのがわからない」


 みんな震えているのに短パン履いてたしな。昔のお前。マジでおかしいから俺がコーディネートした。お蔭でモテるようになっただろう。感謝しろよな。

 まぁうちは撮影関係の人が出入りするからだが。


「あ、僕も出演しないかって」


 いや、断れ。お前人気でそうだけどアレ大変な仕事だぞ。親父も若いころやっていたらしいが。


「一目ぼれで三秒後には脚本無視でヤリまくってそれがお互いデビュー作だったって伝説は本当なの」


 マジだよ。オカンは当日まで普通の仕事と思っていたらしい。それも親父は当時ただの出入り業者でな。本業じゃなかったのだが。

 試し食い待機していた大物とか男優さんとか完全無視でもう大変なことになったらしい。

 元々アイドル志望だったのにも関わらず歌が死ぬほど下手だからなうちのおかん。料理は親父が二〇年以上付き添った功績で最近毒料理作らなくなったが。



 なんかお前近いぞ。いや、本当に近い。

 何故マフラーのもう片方を自分に巻こうとする。首に絡まって苦しい。やめろ殺す気か。


 ぴたっと止まって微笑む奴。

「呼吸しにくいね」

 そういう問題かよ。気づけ。あとそういうのは彼女とやれ。おれはそんな趣味じゃない。


 講堂に向かって歩く俺。

 なぜかついてくるヤツ。

 おかしい。感づいたわけでもなかろうに。


 コツコツと奴の履く靴の音。

 時々滑って転びそうになる俺。

 もたついている間に追いつかれる。


「賀東。キミ、僕の靴箱を開けなかったかい」


 いや、知らん。

 お前の靴箱の中に女どもが大量の恋文を入れることについては俺とは関係ない。

 なんだよ。その探るような眼は。


「女かどうかどう気付くの」


「臭いだ。家業でな。男が出す特定の臭いには敏感なんだ。女の匂いもそこそこだが」



 例えば、お前がさっきマフラーで俺の首を絞めた時ちょっと興奮しているとか程度ならわかる。まぁ実害はあまりないから気にしないが。


「あと、刃物とか金属類もわかる」

「すごいね。賀東は本当にすごい。尊敬する」


 いくらこいつでも恋文の中に男の入れた剃刀入りの手紙とかあったらいい気はしない……だろう。多分。


「賀東。講堂は今日誰も使っていないはずだけど」

「実習の山岸教官が呼んでいるのさ。行ってくる」


 山岸が呼んでいるのは俺じゃなくてこいつ、山田だがな。剃刀といい、『特定の臭い』といい山田に関わらせる案件じゃなさそうだ。荒事なら俺のほうが慣れている。格闘技なら山田だが俺の方が体格も良い。


「おい。山田。ついてくるな」

「断る」


 ほほえみを崩さず奴は俺の袖をつかむ。


「山岸教官は僕に用があるのだろう。ならば僕が行くべきだ。キミは」


 そういって奴は俺を突き飛ばして講堂のドアを閉じた。おい! まて! やべえからやめろ!



 まったくもって世の中は不思議だ。

 痛いって何。

 苦しいって何だ。

 悲しいってどんな感情だ。


 愛ってなんだ。

 ためらわない事さ。

 多分違う。


 多少試してみたらあっさり壊れる。

 一つ分かったことはウサギや鶏は人間と少々違うということだ。


 人間の子供もウサギや鶏とあまり変わらない。

 叫んで逃げて泣きわめく。違うのは鶏と違って首を斬られて走ったりはしないことだ。あれは服が汚れて面倒だ。


 面倒なのはこの身体だ。

 愛とかはわからないが、こういうことをすると興奮するらしい。悪くはない。だが良いというのがわからない。


 あいつの手、温かいよな。

 あの日の血のように温かくて、最後はべとついて不愉快になるのかもしれない。


「ねえ。教官。ぼくに用かい」



 教官殿は鉄パイプを手にニコリと笑っている。


「やあやあ山田君。最近の調子はどうだね」


 古びたジャージに角ブチの眼鏡。

 止まっているように見えてするすると前進しているのは足の指の動きによるものだろう。


「なかなか楽しいかもです」


 その言葉と教官殿が鉄パイプを振り上げたのは同時だった。


「楽しいかね? 私は楽しいよ。家族を殺した君にまた会えた。最高だよ。ねえ相沢君。僕の子供もこうやって死んだのかねぇ。大人になったから責任とってよ」


 うん。痛いって言いながら死んだけど僕には痛みとかよくわからないのさ。ただ、嬉しいとも悲しいとも思わなかったけど彼らを切り刻むと僕の身体が。


『興奮したよ』


 うん。この身体は近いうちに壊れる。

 それはそれでいいかもしれない。

 僕を育てた施設の山田さんは悲しむかもしれないが。


 あ。そうだ。



 僕は後ろで激しく叩かれる鉄の扉を眺める。

 血のりで前が見えにくい。


 うん。悪くはない。

 こういうふうにキミをしてみたかったがこれはこれで悪くない。

 悪い子は退治されるならば僕は、かつての僕はきっと悪い子だったのだから悪くはない。

 キミを潰したら身体が興奮すると思う。なのに何故かできなかったよ賀東。責任を取るってなんだろうね。


 山田さん。愛情ってわからないけれど、あなたが優しく振舞うことを教えてくれたから僕は大人の振りができるようになった。感謝といえばいいのかもしれないが、多分僕はその意味をしらないのだろう。


 賀東のお父さんとお母さんなら、答えを教えてくれただろうか。一度会ってみたかったな。


 そして。

 こ ん な 風 に ぐ ち ゃ ぐ ち ゃ にし て。


 興奮しただろう。

 でもなぜかする気がしなかったのさ。

 本当に不思議なこともあるものだよ。


 あ、なんだよ。邪魔するなよ。



 気合一閃、鉄の扉の閂をぶっ飛ばした水鏡は入るが早いが山岸に一足飛びで近づき、軽く触れるようにした。


 ぽーん。

 交通事故かトラック転生なみに山岸が飛んだ。


 女にしか見えない水鏡だが空手の達人だ。

 騒ぎを聞きつけて駆けつけてくるが早いか、俺がカギをとってくることに気づいて戻ってくるより早く事件を解決に導いていた。


「おい、おい。大丈夫かよ」


 水鏡は山田を抱き上げると止血措置をしていく。


「救急車呼んでくれ。賀東」


「りょうかい! おい山田死ぬなよ!」


(……ああ。邪魔だ。

 水鏡。お前は邪魔だよ。

 本当に、本当に邪魔だ……)



 ……山田と言われた青年の意識は混濁していく。

 なぜだろう。邪魔ってなんだ。

 じゃまだから。ぼくの目的をじゃまする。



 いやおかしい。山賀を殺すのは後だ。

 だったら水鏡に感謝していい。

 取敢えず感謝という行動を取ればいい。問題ない。

 やりたくないのだ。


 ほら、血で足が滑る。

 ほら。骨が砕けて手が動かない。

 感謝なんて物理的に不可能だ。


 では僕は『心から感謝』できるか?

 できない。僕には他人が言う心がない。


 山賀を殺したくない。

 山賀の両親を殺すのはずっとずっと後だ。

 ウサギは死ぬ。鶏も壊れる。人は滅ぶ。

 だったら死ぬまで放置していいではないか。

 そうだ。僕以外ガ殺スノハ好クナイ。


 殺すのは、死ぬのはずっと後だ。

 いつ死んでもいい。いつ死んでもいいのに何故だ。


「ああ」


 僕はつぶやいた。


「教官殿も、こんな感じでしたか」


 多分違う。だがこれでもいい。さようなら。



 山賀。俺はお前のことが好きらしい。

 この身体が生き延びたら責任を取ってくれないかな。


 期待しておくよ。いや、これは希なる望み。希望っていうのだろうね。

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