バランス栄養食
「究極のご飯ってなんだろうな」
なんせゲーム業界人はマトモな飯を食う機会が乏しい。団長が苦労しているのでだいぶ改善されたが、それでも修羅場のときは栄養ドリンク全開である。Lとしては思うことがあるらしい。
「プロテインだっ!」
ガチムキムキのHははそれでいいだろうが。余談だが全身をくまなく鍛えるボディビルダーは肩こりを知らないらしい。もっともHは脳みそも少々悩みと無縁なタイプだ。
「まぁ私はご飯、味噌汁、香の物しか普段は食わん」
団長は意外と質素な食生活だ。酒も呑めば強いが普段は呑まないらしい。最年長らしく減塩。肉類は食べない。香の物は発酵食品や漬物などの野菜類。
「それで大丈夫なの。だんちょなんか食べようよ」
Kが問うと、「江戸時代の飛脚もムキムキだっただろう」と爽やかに団長は言い切った。腸が長い日本人には余計な食事は不要だという考えらしい。そういえば緑川も団長のメニューの香の物のかわりに酢の物を加えて魚か納豆か夏場は豆腐である。
意外とこのメンバー、健康志向。
「やっぱ、某バランス栄養食かな」
唯一ジャンクフードとドリンク中心のLに代わって緑川が呟いた。
「アレ、バランス栄養食って言うけど全部の栄養素をぶち込んでも、元はクッキーだしそれほどバランス取れるわけでは無いよ~~。……なんだったら、僕がまいにち、緑川さんのご飯作ってあげようか」
「断る」
Kの見た目は美少女であるが、実のところ高専を出たばかりの年齢なので一応成人はしているらしい。ちなみに夜の彼は凶暴なガチホモのタチとして近隣のハッテン場を震撼させている。
『奴に喰われた奴は片手で数えきれない』
Kの評判である。
「報酬は少し掘るだけで」
「なおさら断る」
Lがいるだろう。何故俺に絡む。
緑川は呆れたがKは基本人見知りの癖にこういう時は積極的だ。
「じゃ、人体に一番必要な栄養がバランスよく備わった食い物ってなんだろうかな」
「人肉じゃない?」
Kは朗らかにそう答えた。
凶悪なタチである彼が言うとまったく冗談に感じない。辞めてほしい。
『怪人・緑川直哉の伝説』より




