聞くはじめ
一月二日に初めて風俗に行くことを姫はじめ。
そして初めて掘ることを菊はじめって言うらしい。
これ豆な。
そういって少々人に言えない愛の行為を終わらせた俺たち。栗きんとんを食いながらおせち料理に舌鼓。
そういえば、おせちって女性の負担を減らすためもあるけど正月の間は男性が家事をして働けって意味だったっけ。
「俺らには関係ないだろ」
「そうだな」
正直、この時期のテレビはまったくもってみる価値が無い。それならヤッているほうがマシ。
しかしそれではちっともくつろげないくらいには忙しい。一昨日まで掃除、今汚し放題。
「困ったな。ゴミ出しいかないと臭すぎる」
「マジか。ちゃんとジップしておけよ」
元は食料を突っ込む為のグラノーラの袋だが、こういうゴミ出しにはきわめて便利だ。
「な」
「あん?! って意味違うからな」
頬を染める俺に。にやりと笑うヤツ。
「まだ満足してないかと思った」
「このド阿呆」
呆れて小突きあうおれたち。
しっかし。目の前の現実にあきれる。
家事は分担なので二人とも妙に料理は得意だ。
にしたってこれはない。目の前にあるのは大量の卵。
「なんでお前の実家の伊達巻作っていかねばならん」
「そんなこというなって、一人で作るのって案外大変なんだぜ」
子だくさんな親戚がいると一気に伊達巻がなくなる。
子供たちにとっちゃアレはケーキだ。一部大人にも。
ふんわりと甘いだし汁の香りの傍で早速試作品を試し食いしている奴に苦笑い。
「もふ?」
「お前、責任もってもう一個作れよ」
地味に伊達巻って一本千円くらいするから、自作するのは悪くない。
「まずはんぺんふたつ」
「あいさ」
はんぺんはちぎってミキサーするが、別に高野豆腐ふたつをすりおろしてもイイらしい。
「意外と安上がりだな」
「まったくだ」
おっと。先にまきすを用意しておかないと。
クルクル回して巻くアレな。手にとって。
「さては南京玉すだれ♪」
「遊ぶなバカ」
稚気あふれる程度に俺たちは若い。
「卵は四個」
「あいあい」
「さとう大さじ3」
「え? スプーンのデカい奴?」
お前は何を言っている。
計量スプーンに決まっている。100均で買えるだろ。
「みりん大さじ1」
「おう。材料を混ぜるぜ」
全部ミキサーしろよ!
たまご焼き器に油をひいて、焦げ付かないように注意しつつ弱火で蓋してコトコトっと……。
「おい。甘くて好い匂いがしてきたじゃね? お前みたいに」
「あほか。しっかり焦げないように見てろよ」
二人で卵焼き器を操るのでどうしても身体が触れ合う。
「舐めるな。ばか。集中しろ」
「え、集中しているけど」
お前の集中しているところが違う。
俺も人のこと言えないが。
15分くらいが目安だけどちゃんと火が通っていないとケーキ生地みたいにならないよな。
「出汁入れたり、ニンジンやきくらげの細切れ入れたりする家庭もあるんだ」
「へえ」
完成した卵をくるっとひっくり返し、焼き色の部分を上にして、軽くおりやすくなるように上に切り込みを少しいれて巻く。っと。
「あ。子供が食うんだからな。変な匂いつけるなよ」
「それくらいわかっているわ!」
毎年毎年、友人と一緒に帰る俺に家族は相変わらずの態度であり、いつものように友人は子供の相手、俺は力仕事に駆り出される。
「年越しの大掃除って年越し前にやるもんだろ」
「そういうなら、彼女でも連れて年越し前に帰ってきな!」
そういって笑うおふくろに俺たちは苦笑いするのだった。




